かとうなるみお兄さん。
藤を加えるに、海が鳴ると書いて、加藤鳴海という漢字だと教えて貰った彼の事を追い掛け、勝君の事を知りたかったけれど。野次馬も集まってきてしまい、更に雨も降り始めると私を置き去りに彼は行ってしまった。
顔は怖かったけど、優しいお兄さん。
勝君の事を本当に心配してくれて、私の病気の事も深くは聞かずに咳が治まるまで待ってくれたあの人は無事に勝君に会えたのかな?
「命、雨に当たりすぎだ!」
「あ、お父様…」
「今日はもう帰りなさい。勝を迎えに行くのは私だけにするよ。母さんの力を使ったんだろう?熱が出てしまっている」
「ごめん、なさい……でも、勝君を知っているお兄さんに会えたんです。もしかしたら勝君も雨に降られているかも知れないんです……」
「……はあ、全くお前の優しさは美徳であり悪徳だな。私と類はお前に長く生きて欲しいのに、お前は人の心配ばかりしているね。人を慈しめるのは良いことだが、自分を省みずに力を行使するのは止めなさい」
そう言って私の身体をお姫様抱っこで抱き上げ、車に運んでくれるお父様の大きな身体に身を任せて、ゆっくりと目を瞑って勝君の安全を願う。
ふと、掠れる視界の端に誰かが見えた。
「……お父様、誰か見てます……」
あれは、叔父様の人形なのでしょうか。
「───ッ。なんだ、お前達は!?」
「お父様ッ、逃げて下さい…!」
「馬鹿者ッ!!実の娘を見捨てて逃げるなどこの私がすると思っているのか!運転手、私の事は良いから命を屋敷まで守ってくれ!」
「そのお願いにはお応えしかねます。この人形のお相手を務める必要もございますのでね!」
私の事を預けようとするお父様の真横をすり抜け、雨に濡れてイビツな駆動音を起こす人形達を軽やかに薙ぎ払い、その首を正確に切り落とした。
「十年間、お隠していた御無礼をお許し下さい。私の本当の名前は四乃森、命様を陰ながらにお守りするように糸色本家の御当主様の密命を受けておりました」
「……そうか、類の実家からか」
「善治様、秘匿の訳は言わずとも」
「分かっている。私も経験している」
二人の言葉に戸惑いながらも何か大変な事が起こり始めているということだけは熱に侵される頭でも理解することは出来ました。
ただ、刀を振るうのは如何なものかと思います。
「お父様…」
「ああ、心配する必要はない。今日はお父さんと一緒に帰ろう、勝は明日迎えに行ってあげれば良い。勿論、お前も一緒に行ってくれるね?」
「……はい、早く会いたいです…」
私はそうお父様の言葉に頷き、きっと鳴海お兄さんが合流してくれていることを願いつつ、濡れた身体で車の後部座席に座り、吐き気と気分の悪さを増してしまう。行きは我慢できましたけど、やっぱり辛いです。