あれから数時間ほど巓ちゃんにお説教を受け、家庭菜園する場所はまた確保するなら新しく用意しておくように言われ、虎のおじ様には二度と贈り物をしないようにと釘を刺されてしまった。
そんな楽しくも大変な事を思い出していたとき、私の寝室にやって来た勝君としろがねさんの言葉に思わず、困惑して二人の事を見上げてしまう。
「出ていく?」
「うん。此処にいたらまた命さんやみんなを巻き込んじゃうかも知れないからさ。それにもうすぐ夏休みだから、どこか別の場所に行こうと思うんだ」
みんなとの楽しくて幸せな夕食を終えて、ここ数日ほど取り掛かっていた『四次元ポケット』の製作を止め、私は勝君としろがねさんを見つめる。
どうして、いきなり出ていくなんていうの?
「私達と過ごすのは辛い?」
「違う!僕は命さんやおじさん、おばさんに良くして貰っているし。本当の家族みたいに愛して貰えているのは分かってるけど。ずっと襲われる度、みんなに守られるのはもう嫌なんだ!」
「行く宛はあるの?」
「ご心配ありません。昨晩、ミコトと一緒に手助けをしてくれた方々のサーカスに籍を置かせてもらえることが決まりました」
その言葉に唇を噛む。
ああ、本当に二人は出ていくつもりなんだ。それなら私だって家出しても良いんですね?私が知らない男の人のお家に転がり込んじゃいますよ?!
そう言ってひき止めても無駄なんだよね。
「……勝君、これをあげる」
「ガム?」
私の差し出したものに首を傾げる勝君。本当はもっと沢山の物を渡して安心したいけど。二人は今すぐにでも出ていきたいという雰囲気だ。
「それは『シャラガム』って言う発明品でね。どんなに辛くて怖い事でも決心して、ガムシャラに頑張る事の出来る道具なんだ。どうしても怖くなったら、我慢せずにそれを食べてね?」
「ありがとう。お姉ちゃん」
ぎゅっとチューインガムの箱を握り締めた勝君に、はじめて「お姉ちゃん」と呼ばれた嬉しさと会えなくなるかも知れない悲しさに二人の事を抱き締める。
「行かないで、傍にいて欲しい…!」
「僕も傍にいたいよ。でもね、僕は鳴海兄ちゃんに教えてもらったんだ、やりたいことは最後まで突き通さないといけないんだ」
「ミコト、貴女に会えて良かったわ。ありがとう、私を数ヶ月とはいえ本当の姉のように慕ってくれて、とても幸せだった」
そう言うと二人は寝室を出ていき、私はたった一人になってしまった部屋の中で静かに泣いて、二人を見送ることも引き留めることも出来なかった。