読んでいた方は申し訳無いです。
お兄さんとはぐれないように手を繋ぎ、一緒に歩いている途中、真っ黒な衣装とピエロのマスクを被った男の人がボウリングのピンのような棒を動かし、お手玉のように回しているのが見えた。
ただ、不器用なのか良く棒を落としてしまう。
「アレはジャグリング。日本だとお手玉ですぜ、ピエロの良くやる演劇の一つですが、あのピエロは芸を習い始めて数日かそこらでさあ」
「博識ですね、お兄さん」
そう言ってお兄さんを見上げた刹那、ピエロの人から凄い視線を感じた。どこかで感じた雰囲気に似ているけど、誰だったかな?
フラフラと何故か私のいるほうに向かって近付いてくるピエロの人にビクリと身体を強張らせ、お兄さんの腕に抱きつき、身体を少しだけ震えさせてしまう。
べつに怖くないけど、ピエロのマスクが怖いです。
このままだと襲われると思った次の瞬間、悲鳴と激しい衝突音が聴こえ、暴走した車が子供を狙って走っているのが見えてしまった。
────その次の瞬間、ピエロが車を殴り倒した。
「ありゃあ、崩拳でさ。あの兄さんが使っているところを一度見やしたが、今のは兄さんがやってた崩拳より破壊力もデカさも桁外れだった」
鳴海お兄さん以上のパンチですか?
そう思いながら仮面の砕けたピエロがゆっくりと私達の方を振り返ったその時、私はあまりにも非現実的なピエロの正体に思わず、大きく口を開けて困惑し、戸惑ってしまうのだった。有り得ない、だってあの人は勝君を守るために倒壊する屋敷の中で死んでしまった。
その鳴海お兄さんがフランスにいた。
「なるっ」
生きていた彼の事を呼ぼうとした瞬間、阿紫花のお兄さんが人差し指を私の口許に添えながら「静かに、いきなり生きていました。旅行先で再会しましたなんざ、おとぎ話でもあり得ませんぜ」と言ってくれた。
……確かに、そうだ。
あの人は片腕を残して燃えてしまったとお父様に聞いている。───だけど、今目の前にいる加藤鳴海はしっかりと両腕を持っているのだ。
「今はまだ離れて調べましょうや」
「はい」
その言葉に頷いて大通りを離れる刹那、微かに私の事を呼んでくれた気がした。生きているならそれだけで幸せです。でも、あんな風になるまで戦ってくれた鳴海お兄さんを見捨てるのは、辛い。
「待ってくれ!お前は、俺を知っているよな!」
「兄さん、あたしの連れ合いを誘うのはやめてくれ」
肩を掴まれたと思えば阿紫花のお兄さんに抱き寄せられ、ドキドキと心臓の鼓動が高鳴ってしまう。それに、鳴海お兄さんの匂いがする。
悲しそうに、どこか助けを求める彼の頭をゆっくりと抱き締めるように手を伸ばし、少し乱れた髪の毛を整えるように頭を優しく撫でてあげる。
勿論、これに『癒やしの力』は使っていない。
「
「……ッ、みこと?そうだ、才賀命!」
「オイオイ。マジですかい、お嬢さん」
「本物、いえ、どうしてフランスに?」
私の問いかけに日本で死んだ筈の加藤鳴海お兄さんは「フランスの医者に助けられたんだよ」と素直に答えてくれたものの、やっぱり彼は一部の記憶を失い、僅かに見覚えのある私を頼る程に酷い記憶障害を起こしている。