加藤鳴海お兄さん。
あの電車事故の時に出会った大きくて優しいお兄さん。私の『癒やしの力』を受けて、その特異な能力に驚いたり怖がったりしなかった人で、私の大切な家族の勝君を死んでも守ってくれた恩人だ。
ここ数ヶ月もの間、ずっと塞ぎ込まずに頑張っていた勝君としろがねさんの二人に生きていた事を伝えたいけれど。私が帰ってきてほしいためにウソを吐いていると思われるかも知れない。
それほどまでに二人の中で鳴海お兄さんは大きな存在になっていて、私もまた会えて嬉しい筈なんですが、あの左腕はどう説明して貰えるのでしょうか。
「えーっと、お前はアシハナだったか?」
「へえ、あたしのことも覚えてるんですね」
「いや、ちょっと思い出しただけだ」
「私の事は覚えているんですよね」
「あ、ああ、まだ忘れてることもあるが…」
そう言うとベンチに座る鳴海お兄さんはピエロのマスクを拾って何かを考え込み始めていたその時、銀色の綺麗な目と髪の毛をした男の人が私の手を握った。
「東方の美しいお嬢さん、どうか憐れな僕に貴女の名前を呼ぶ権利をくれないだろうか?」
「ひうっ」
いきなり知らない男の人に手を握られたことにビックリしながら阿紫花のお兄さんに引き寄せられ、手の甲にキ、キスをしようとしていた男の人から優しく怪我をさせないように助けてくれた。
「色男の兄さん、あたしの連れにちょっかい掛けるのは止めてくれや。折角の綺麗な顔を鉛玉でぐちゃぐちゃにされるのはお宅も嫌でしょう?」
「ママン、テナガザルが僕を虐めるよ。ママン…」
「手長って、アンタ…」
「また始まりやがった」
阿紫花のお兄さんはおさるさんには見えませんよ?と思いながらもロケットペンダントを見つめて涙を流す銀髪のお兄さんにオロオロとしてしまう。
「え、えと、よしよし、怖くないですよぉ?」
「…………」
ゆっくりと彼の頭を抱き締めて優しく撫でてあげると目を見開いて私の方を見つめてきた。怖いときは悲しいときはこうしてハグすると落ち着くとお母様が言っていたんですけど。
「お嬢さん、今のはウソ泣きですぜ」
「え?うそ、とは?」
「成る程、糸色の血筋は情深いと聴いていたが初対面の男を慰めるためにハグをしてしまうほど優しいという訳だな。ウン、それに懐かしい香りがする…」
嬉しそうに笑う銀髪のお兄さんの顔をペチンと叩いて、鳴海お兄さんと阿紫花のお兄さんの二人の傍に戻り、名残惜しそうな手を伸ばす彼を警戒する。
フランスで私が糸色だって知っているのは阿紫花のお兄さんだけなんですけど。いったい、どうして私の母方の血筋を知っているのでしょうか。