奇天烈斎様の発明品『キャンピングハット』を利用して一泊した私達は「しろがね」の生まれたというキュベロンにやって来ました。
無造作に置かれた朽ちかけの十字架達に手を合わせ、その奥に聳えるお城のような屋敷を見上げる。しろがね。その名前を聞いたとき、しろがねさんの事を思い出したけれど。鳴海お兄さんは驚きも焦りもしなかった。
レッシュさんの言っていた記憶喪失は大部分は戻っているものの、やっぱり特定の記憶、大事な想い出の一部は欠けてしまっているようです。
「お嬢さん、お手を」
「ありがとうございます」
「阿紫花、変な事するなよ」
「失礼ですぜ、兄さん。
そう言って注意する鳴海お兄さんに笑い、阿紫花のお兄さんは私が子供だから悪いことはしないと言うので思わず、ムッとしてしまう。
「私の高祖母様は十五歳で結婚して、十七歳の時に出産しましたよ!私だって立派な大人のつもりなのですが、それでもダメですか?」
「兄さんのせいですぜ」
「ワリいな」
「お喋りするのは構わないが足元には気を付けろ。一応、侵入者用の罠は此処彼処に仕掛けてあるはずなんだが、既に発動した形跡ばかりだ」
その言葉に天井を見ると何体もの人形が槍や矢、大きな刃物に突き刺さって動かなくなっている光景があり、ポタポタと水銀のような体液、
ふと私の足元を歩く忠臣倉の制止を受け、私は立ち止まった瞬間、ものすごい勢いで私の目の前をギザギザとした側面の円盤が通り抜ける。
「ありがとう、忠臣倉」
そうお礼を伝えると忠臣倉は頷きつつ、また私の事を先導するように歩き始める。阿紫花のお兄さん達は無警戒に進まず、周囲を警戒しているけど。
「お嬢さん、ストップ」
「はい?」
ぐいっと肩を抱かれて困惑する私を他所に三人は扉を睨み付けている。なにか居るのかと不安になりながら鳴海お兄さんが扉を蹴破った刹那、銀色の髪と目をしたお婆さんが倒れているのが見えた。
「オイ!しっかりしろ!!」
「マリー、まさか襲撃を受けたのですか」
慌てて駆け寄った鳴海お兄さんに続き、レッシュさんが彼女の手を握り締める。私もおばあさんに近づき、『癒やしの力』を使って傷を治そうとするとレッシュさんが静かに首を横に振った。
どうして、まだ助かるかも知れないのに……。
「お嬢さん、此方に行っていやしょう」
「でもっ……いえ、分かりました」
私の『癒やしの力』はお母様のモノに比べると劣り、この弱い身体も『癒やしの力』の負荷に耐えることは出来ません。もしも、あのおばあさんに使えば私は血を吐き、そのまま倒れてしまうかも知れない。