マリーというおばあさんの話は想像も出来なかった事ばかりで、夢か幻なんじゃないかと思うような恐ろしいことを静かに私は聞いていることしか出来なかった。
二百年間、ずっと戦い続けてきた彼女の辛さも苦しさも怖さも私には分からない。分かるのはレッシュさんだけ、「しろがね」の彼だけだろう。
「……行こう。書き置きの場所に行けば他のしろがねに会えるだろう。そう言うわけだ、アシハナ。お前は逃げるか、僕達に付き合うのか自由に決めろ」
阿紫花のお兄さんにそう言葉を告げ、真っ白なウェディングドレスの様な綺麗な衣装を纏った人形を動かし、準備を始めるレッシュさんから私はお兄さんに視線を移し、彼の手を握り締める。
「貴方は私の我が儘に付き合ってフランスにやって来てくれただけで、元々お兄さんは無関係でしたよね。日本に帰って下さい、そうすれば…」
そうすれば、こんな怖くて恐ろしい現実を忘れて生きていける筈です。───それに、どうして私がお兄さんとフランスに行く言い出したとき、お母様が止めなかったのかも良く分かりました。
昔、本家にいたお爺様の仰っていた言葉を思い出す。
「糸色の血筋は世界の均衡を崩す存在と出会い、その者と運命付けられたように戦う事になる」と、おそらく私と巓ちゃんは数多の
とても、とても恐ろしく怖い話です。
私に人を倒す力は無く、身体も強くない。
「お嬢さん、あたしはまだお代を貰ってませんぜ」
「え?」
「お嬢さんの全部をくれるんでしょう?」
その言葉に顔が熱くなり、心臓が高鳴る。
「はいっ」
「と言うわけでさ。あたしは降りやせん」
ハッキリと彼の頷く私の頭を優しく撫でた阿紫花のお兄さんにレッシュさんは呆れ、鳴海お兄さんは「ロリコンってヤツかテメエは」という言葉を口にした。
ろりこん?
そういえば前にも言われたような気がしますけど。どういう意味なのでしょうか?とお兄さんを見上げると次郎丸を操り、私の事を抱き上げる。
よく分からないけど。いい言葉の筈ですね。
「ちなみに彼女の話す高祖母の糸色景と僕は面識もある。年上を敬うのは日本人の礼儀だろう?チャンマゲイノシシ、僕を敬って良いぞ」
「誰が敬うかよ」
ペンダントを奪おうとする鳴海お兄さんを落ち着かせて、私は高祖母様に出会ったと話すレッシュさんの事を見上げ、皺や年相応の振る舞いを行わない彼の事を本当に敬うべきなのかと真剣に悩む。