フランス西北部、カルナック。
私は次郎丸の跳躍の度に揺れる人形の身体に口許を押さえながら、もうダメだと思って発明品の一つを四次元ポケットから引っ張り出す。
この発明品は『空中浮輪』と言います。
見た目は金色に輝く天使の輪。
蛍光色の淡い発光を繰り返す輪っかを頭に添えた瞬間、私の身体は次郎丸の起こす揺れの衝撃に嗚咽を漏らす事は無くなり、フワフワと緩やかに浮き始める。
「ははあ、まるで天使みたいでさ」
「こ、これなら揺れる心配はありませんから」
そう言って私は次郎丸の肩に手を添えて、次郎丸は屈伸するように屈んだ刹那、一気に飛び上がる動きに身を任せて跳ね上がる。
鳴海お兄さんもビックリしているけど。もうすぐレッシュさんを呼び出した目的地だから、私に注目している暇はないですし、もうお巡りさんも集まっている。
「オッサン、そこを退けェ!!」
───刹那、怒声を張り上げた鳴海お兄さんは凄まじい勢いで落下し、銃弾の出ない拳銃を構えるスーツ姿のおじさんを飛び越え、鳥の三本の爪足を模造した異形の頭を力任せに蹴り飛ばし、踏み砕いた。
「ほーら、ナルミは口では『戦わない』と言ってても目の前で死にそうな人を見れば動かずには居られない。本当に面倒臭い性格をしている」
「チィッ!やっちまったよ、クソったれ!こうなりゃ仕方ねえ、命はまだ息のある警察を血を吐かない程度に介抱してやってくれ!阿紫花、お前は命を守ってろ!」
「は、はい!お巡りさん、怪我を見せて下さい」
「ソイツは任してくだせえ」
「ギイ、お前は手伝えよ!」
「分かっているさ。刑事さん、下がってるんだ」
ゆっくりと前に出る鳴海お兄さんとレッシュさんの二人に意識を向ける
「ange…?」
「はい?」
『ほんやくコンニャク』の効果が切れてしまったのか。何を言っているのか分からず、お巡りさんを安心させるために私は精一杯の笑顔を彼らに向ける。
「ケホッ、ケホッ…!」
大丈夫、まだ心臓は痛くない。
あとは病院で見て貰えれば直ぐに治る程度に傷を癒やし、私もカプセル剤のお薬を飲み込み、シャカシャカと吸入器を軽く振り、ゆっくりと口の中にお薬を噴射して吸い込んでいく。
まだ予備のお薬はありますけど。
お父様とお母様に預けているお薬の予備も貰っておけば良かったです。いえ、こういうときこそ淑女たる者、気丈に振る舞うのです!