ルシール・ベルヌイユと名前を教えて貰い、彼女の介抱を受けながら私達はキュベロンへと戻って来ました。既に「しろがね」の人達は場所を変えて、次の戦いに備えるために行動しているそうです。
「ほら、私に掴まりなさい」
「す、すみません、ケホッ」
フラフラと覚束ない足並みで歩く私の手を握り、肩を抱いて支えてくれるルシールおばあさんは私の大好きなお婆様と同じ匂いがして落ち着きます。
あまり人様の体臭を嗅ぐのは良くないことですが、安心できるのは良いことだとお母様も言っていました。お医者さんのお母様が言うのですから事実です。
「座りな」
「ありがとうございます」
壊れていない椅子に座らせて貰い、私は阿紫花のお兄さん、レッシュさんや鳴海お兄さん、ルシールおばあさんが作業する間、静かにお薬を飲んで心臓の痛みに耐えるように胸に手を添える。
『癒やしの力』は自分には使えず、他人を癒やす事しか出来ない。そういう制約を課す事によって効果を高めているとお母様は推察していたけれど。
私達の血の中を巡る『異能』と『癒やしの力』は反発し合っているという可能性も有り得ます。ゆっくりと吸入器をシャカシャカと振り、咥えてお薬を飲む。
「…ふぅ…」
大分、痛みが治まってきた事に安堵の息を吐いて部屋の中を見渡そうとしたその時、私の真横に真っ白な衣服に赤色の装飾を施し、帽子を被った男の人がいた。
いえ、人間とは違う。
────人形、私の隣に立つ彼は人形だ。
緩やかにリュートを奏で始める彼に全員の視線が向き、レッシュさんとルシールおばあさんは警戒心を高め、阿紫花のお兄さんは私の手を掴み、そのまま自分の腕の中に私の事を抱き寄せた。
ボロロン…
「お初にお目に掛かる。私は最も古くフランシーヌ様にお仕えする、アルレッキーノと申す者。そちらにおわす糸色の姫君を譲り受けに来た」
「ソイツはどういう意味ですかい」
「百年前、フランシーヌ様のために
「な、なにを言ってるんだ?」
「鳴海お兄さん、今のは俳句の一種ですよ」
「流石は聡明な姫君だ。フランシーヌ様にお前をお会わせすれば必ずや……」
私の事を抱き締める阿紫花のお兄さんの手を軽く叩き、みんなの後ろの方に移動する。リュートを持っているということは音楽を武器にするのでしょうか?
でも彼が近くにいたとき、少し煤けた臭いがした。