「んッ…」
もぞりとお腹に違和感を感じて四次元ポケットを少し開くと手が見える。どうやら阿紫花のお兄さんに預けていた四次元ポケットのスペアを通して無事に私のお薬を届けてくれたようです。
そのまま帰ってきても良いのに、四次元ポケットに入るのは流石のお兄さんでも怖いようです。私は確かめるために何度か入っていますし、本棚や食器棚、道具類は丁寧に保管しているので問題ないのに。
綺麗に掃除しておいた吸入器にお薬のボトルをセットしてシャカシャカと振っていると私の部屋の扉を開けて、ローエンシュタイン大公国の公女様がルシールおばあさんと一緒に部屋に入ってきた。
私のスカートとシャツを着ていますけど。
やっぱり背丈や体格も違うので窮屈そうです。
「ミコト、お前にもお礼を言いたいそうでね」
「お礼、ですか?」
ルシールおばあさんの言葉に思わず、小首を傾げてしまう。私は公女様にお礼を言われるような事をした記憶はないのですが、公女様を助けたのは誰よりも早く動いていた鳴海お兄さんです。
「お礼の相手を間違えていませんか?」
「ange」
そう言えば『ほんやくコンニャク』を食べていなかった事を思い出して、一口サイズに切り分けていたものを食べる。やっぱりフランス語もルシールおばあさんに習わないとダメですね。
「初めまして、才賀命と申します。一応、公女様とは似たような立場なので畏まることも無理に強がる必要もないですよ」
「そう、日本のお姫様ということね」
ちょっと、違いますけど。
糸色家は旧家なのでお姫様ではありますね。
「改めてお礼を。ありがとう、黒髪の天使さん」
「天使、ですか?」
「えぇ、頭に天使の輪を持っているでしょう?」
アレは天使の輪ではなく発明品『空中浮輪』という歴とした科学なんですが、お父様は「浪漫という物は追い求める日々こそ美しい」と言って、お母様と一緒に微笑んでいました。
きっと、そういうものなのでしょう。
「ルシールおばあさん、私ってどういう風に伝わっているんですか?」
「おや、まだ新聞を読んでいないのかい?」
「公女様は読んだんですか?」
「えぇ、随分と面白い事を書いていたわね」
二人の言葉に興味を惹かれて新聞を受け取った瞬間、私はあることに気がついてしまいました。私、『ほんやくコンニャク』で意志疎通は出来ますけど。
まだ、フランス語の読み書きは出来ません。
どうしましょうか?と考えながら新聞をルシールおばあさんにお返しして、電光丸の充電を確かめる。充電式のため、充電器の鞘に納めていない間は直ぐに電池は切れてしまいます。