【完結】からくりと踊り謡う薄命の花   作:SUN'S

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サーカスの妖狐 破

仲町サーカスの奴らが荷物を運び終えた日の夜。私の出資金を受け取った糟共は騒々しく喜び、サーカス公演のために一層励む姿を一瞥し、私は夜の見慣れた闇を見上げて道を歩く。

 

「オイ、おいって!!」

 

「囀ずるな。何なんだ、お前は」

 

そんな私の事を無駄に追い掛けてくる黒賀平助を睨み付け、髪の毛を操って首を締め上げる。だが、黒賀平助はミシミシと歪な鈍い音を立てているというのに、ごく当たり前のように私に近付いてきた。

 

「貴様ッ、縊り殺すぞ」

 

「いい加減にしろよ、クソガキ」

 

髪の毛に力を込めた刹那、黒賀平助の発する気合いで妖気を纏った私の髪がザンバラに弾け、左手首に何かが締まる感覚と一緒に妖気が、私の力が消失した。

 

「がっ、ぐうぅッ……!?」

 

この喪失感は、御鬼輪かッ…!

 

どこぞの僧侶が妖怪を操る腕輪を作ったと聞いた覚えがあるが、まさか妖怪本人に使えば妖気を抑え込み、無抵抗な状態に出来る霊能道具だとはな。

 

気がつけば両手を頭の上で掴まれ、袖が落ちる。薙刀は振るえるが妖気で補強していたため、愛する秋葉妙(かあさま)より細い腕が月明かりに曝される。

 

「不埒者め」

 

「俺は女に手荒な真似をしたくないし、お前を傷付けたい訳じゃないんだよ。巓、頼むから少しは俺の話も聴いてくれねえか?」

 

「本来なら自分より強い筈の女をか弱い女に貶めて押さえつけ、僅かに見える白魚の様な肌に欲情している貴様に言われたくないな」

 

「ぐむッ」

 

「私のはだけた着物から覗き見える白魚の肌に唾液を飲み、いやらしい想像をした男の分際で、よくもまあ偉そうに言えたな」

 

私の言葉に手の締め付けが緩んだ瞬間、跳び跳ねて黒賀平助の顎先に頭突きを打ち込み、尻もちを突いている糟に左手の御鬼輪を外して投げつける。

 

「二千年近く人間を見ていた我に敵うものか……いや、今はもう十七年ほどだったな。まあ、そんな年下の女に言葉で負けるような男がお前だ」

 

「……おまえはッ、本当に懲りないヤツだ」

 

「クク、私を騙して拐かすつもりなら相応の覚悟を決めることだ。お前の話していた過去に、その十指に誓えるなら信じてやるさ」

 

そう言って白さを取り戻した髪をゆらす。

 

すると、黒賀平助は黒い革製の手袋を嵌めた右手を拳にし、左手は指を伸ばした平手で右手を包み込むように胸の前で合わせるように構えた。

 

「───誓おう。洪家拳が拳士、黒賀平助はこの双拳をお前という独りの女のために振るう。我が身、我が心、我が神髄の総てを俺は君に捧げるよ」

 

「……フン、御為ごかしだろう」

 

そうヤツの言葉を否定するが、不思議と悪い気はしない。高揚感。いわゆる感情の起伏に激しい乱れを感じるが心地好くもある。

 

 

 

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