【完結】からくりと踊り謡う薄命の花   作:SUN'S

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サーカスの妖狐 急

どうやら黒賀平助は私の事が好きな様だ。

 

確かに愛する秋葉妙(かあさま)と糸色景の面影を持つ私は絶世の美女だろうが、よもや身近な存在に此処までの恋情を持つ男が現れるとは予想外だった。

 

しかし、まあ、悪い気はしない。

 

「テン、どうかしましたか」

 

「……問題ない、あそこの不埒な男の所為(しょい)だ」

 

「そうか。やはりクロガが何かしたのか」

 

「しているなあ。夜道でか弱い私を」

 

私の言葉にサーカスの芸を練習していた糟共の耳が動き、赤らんだ顔を此方に向けてきた。全く、これだから人間は騙されやすく馬鹿な存在だと百年も生きていない矮小な妖怪に馬鹿にされるのだ。

 

そも私の美貌に惹かれるのは仕方ない。が、節操なしにチラチラと私としろがねを見比べ、見つめるのは些か不躾な物だと思っている。

 

「おう!お嬢さん方に卑猥な視線向けんな!」

 

「ばっ、何言ってんだよオヤジ!」

 

「そ、そうだぜ、なあ!?」

 

ぎゃいぎゃいと騒ぐ男達に少し呆れながら、スンと鼻を鳴らすように臭いを嗅ぐ。血の臭いだ。濃厚で濃密な汚れに汚れた血の香り、後悔と懺悔の感情に諦めの感情も混ざった心地好い悪感情を感じ取る。

 

「テンサン、どこに行きマスか?」

 

「大した用事じゃない。少し見に行くだけだ」

 

そう洗濯物を運んでいるタランダ・リーゼロッテ・橘、才賀勝にほんの少し恋慕を向ける少女の穏和な言葉に耳を傾ける。他の奴らと違って、敵愾心もなければ悪感情もない。

 

糸色景とは違うが、心地好い存在だろう。

 

私にとって大事なのは愛する秋葉妙(かあさま)と糸色景の二人だけだ。まあ、命や才賀類も位は下がるものの、大事にしてやってもいい。

 

ただしナガレ(とうさま)、お前ははダメだ。

 

一度裏切って白面の者(わたし)の配下に成り下がった分際で糸色景の血筋を誑かしたのは許せない。愛する秋葉妙(かあさま)何故(なにゆえ)あの様なナナフシみたいな男を好いているのだ。

 

ふと、血の臭いが濃くなった。

 

黒い帽子の女と、黒い胴着の男だ。

 

「(短刀、魏のところに居た殺戮の民か?)」

 

確かアレは戮家(ルゥ・ジァ)と呼ばれていたが、どうにも気配と独特の臭いがしない。おそらく別種の存在だろうかな。何処にでも似た者はいる。

 

「……不破?そうか、あの時の一人だったな…」

 

百年前の夜の森の出来事を思い出す。かつて白面の者の分身を相手取り、妖怪の力も借りずに打破した傑物の中に胴着の男に似た者がいた。

 

「クク、退屈しなさそうだ」

 

おそらくあれは黒賀平助より強い男だろう。

 

 

 

 

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