黒い胴着の男が私の視線に気づき、直ぐにまた視線を戻し掛けたところで視線を私の後ろに立つ黒賀平助に向け、静かに笑みを深めた。
「喜べ、平助。お前の相手だ」
そう後ろに立つ黒賀平助に話し掛ける。
しかし、いつものような言葉は返ってこず、胴着の男と同じく黒い長袍に早着替えをした黒賀平助に私は思わず呆れてしまった。
強いヤツと戦いたいなら妖逆門に参加して、妖怪になれば良いだろう。もっとも向こうで敗れれば紙切れに封印され、格下に好きなように使われるがな。
「ヴィルマ、白黒女の方は任せる。俺は中華服の男と戦ってみたい」
「アンタと組んでから相手するのは強いヤツばかりだ。いつも通り、アンタの報酬の七割は貰うよ」
「ああ、好きにしろ」
全くこの私が慈悲深く仕方なく仲町サーカスの公演会場を探している最中にやって来るとは面倒な奴らだ。それに、あの不破の男はかなり強いな。
チラリと黒い女を見る。
「糸色巓、悪いね。あたしも仕事なんだ」
「小柄使い」
「こづか?ああ、ナイフの事だね。如何にもあたしも武器はこのナイフさ、温室でぬくぬくと育ったお嬢様には弾丸より速いナイフが見えるかい?」
「クク、クククククッ、囀ずるなよ?我を斯様な児戯で殺すことが出来ると本気で思っているのか。己の髪を見る度、朽縄の如く恐怖させてやろう」
「……おい、難しい言葉を使うな。あたしは来日して日が浅いんだよ!」
私の言葉に怒りをぶつけるように小柄、ナイフを投げ放つ女の所作には確かな美を感じる。が、私の知っている本物の美には遠く及ばない代物だ。
髪の毛を束ねてナイフを掴み、スンと鼻を鳴らす。
毒も何も塗っていない。今まで……いや、かつて白面の者だった頃にナイフを使っていた人間を見てきたが、総じて猛毒を塗り込んでいた。
「あたしのナイフを受けるか、流石は糸色だね」
「フン、私はまだ秋葉だ。貴様の言っている糸色は害虫……まあ、生物としてなら私の叔父に当たる男だ。家督を継いだら私も糸色だ」
私は、そう言ってやる。
「チッ。あたしとアイツを騙したってわけね」
「知らん。私を狙うヤツは万と居る」
もっとも人間に生まれ変わるとき、私を倒せるものなど千は存在していた。忌々しい獣の槍は消え失せた筈なのに、羽虫が余計な事を仕出かしているがなッ…!
アイツさえいなければ楽なものを。
「あたしはヴィルマ、ヴィルマ・ソーンだ。アンタの彼氏には悪いかも知らないが、あたしのSteadyのサンドバッグになってもらうよ」
「かれし?フン、あれは飼い犬だ」
そんなこと、あるわけもないだろう。