公演を行える広場を離れた雑木林の中、私の隣に立って背中を樹木に預けるヴィルマ・ソーンと名乗った女はサングラスを外し、鈍く重い音を奏でて殴り合う黒賀平助と不破の男を見詰めている。
「クハッ、見掛け倒しの奴らと違うな!」
「映画と現実を混同するなよなァ!」
虎の爪を模した左掌打を繰り出し、十字交差に構えた防御を崩す。だが、不破は黒賀平助が攻撃のために繰り出していた左掌打の伸びきった瞬間を狙い、掴み、黒賀平助を捻り落とそうとした。
しかし、その程度の力では倒れない。
関節の向きを捻り砕けそうになっているというのに、アイツは馬鹿みたいに踏み出し、そのまま二度目の左掌打を不破の胸部に撃ち込み、大きく後ろに弾き飛ばす。
わざと黒賀平助の一撃を受けていたが、様子見をするというよりも技を食らって確かめている様だ。おそらく相手の力量を直に感じて推し量るためだろう。
そういう馬鹿な武芸者は何度か見たことがある。
「オイ。負けるな」
「……
いきなり訳の分からないことを言う黒賀平助に呆れ、不破の男を見る。不破信二より異様な気配は感じないが、アレも不破の血筋だ。
「負けるな、か。生憎と不破五百年の歴史に敗北の二字は無い。俺は強い相手と戦えれば問題ないが、負けるつもりはない!」
「ふわ?お前、圓明流かよッ…!」
なんだ、知っていたのか?と小首を傾げる私を見据えて舌なめずりをヴィルマを睨み付ける。命と違って、私は人間の感情に敏感だ。
あまり、そういう感情を向けるな。
「陸奥と違って、派手に動いたつもりはないぞ」
「いや、その前に名乗ってくれ」
「
「不破政虎、俺も改めて名乗る。
……その言い方だと私には手加減したというわけか。
本来なら、いつものように怒って怒りをぶつける筈なんだが黒賀平助に普通の生娘のごとく扱われていると思うだけで胸の奥が熱くなる。
「クハッ、良いぜ。相手してやる」
「この出会いに感謝するぞ!」
そう言うと黒賀平助と不破政虎は同時に駆け出し、殴打による攻撃を交わし合う。しかし、一撃の間合いでお互いの蹴りと拳を躱して、蹴りを防ぎ、拳を往なす。派手さを徹底的に削ぎ、強さを増す動きだ。
荒々しく彼らを中心に熱が吹き荒れる。
非常に不愉快だが、善き男に見えてしまった。