私達は拳打の応酬を見据える。
喧騒とした周囲の音に混ざり、荒々しく爆ぜる肉の音。かつて喰らい、聴いた甘美な音色には程遠いが心地好い音に耳を傾けていると不破の男が動いた。
飛び蹴りから、掬い上げの回し蹴りに変わる。
「今のは旋っていう技よ」
「敵に塩を送るのか?」
「しお?ああ、Saltね。あたしとしては無駄に暴れるアイツを止めるのが役目だし、何より良い男っていうのは捕まえておかないといけないのよ」
良い男。その言葉に少しだけムッとしてしまったが、愛する
「(……待て、今何を考えた?!)」
自分の考えに顔が熱くなる。
なんだ、なにを考えていた。馬鹿な、私は白面の者、あの様な男に絆されてしまうわけがない。いや、そもそも私がアイツに惹かれている等という妄言を信じるわけがないだろう。
そうだ、何かの間違いだ。
「目がぐるぐるしてるわね」
「う、うるさい」
ゆっくりと呼吸を整えて二人の戦いを見届けるために前を向けば余計な事を考えてしまう。大体、あれだけ手酷く扱っていた相手をアイツが好きになるのか?
……フン、ならないだろうな。
「チッ。人様の顔や首を狙いやがって!」
「殺しの業にご不満か!」
「あるわきゃねえだろ!」
二人の蹴りがぶつかり合い、木の葉が舞う。人としての極致に辿り着いている。そんな男が私の髪や手酷い仕打ちを受けていたのだ。
もしも本気のヤツと戦えば……。
妖気で強めている身体は簡単に吹き飛び、想像を絶するダメージを受けるだろう。そして、今までの仕返しをされてしまうかも知れないな。
「クク、クククククッ…!」
「え、どうしたの?顔こわっ」
私は黒賀平助と不破の男の身体に髪の毛を巻き付け、無理やり戦いを止める。あんなものを見続けていたら私まで戦いたくなってしまうからな。
「巓、どういうつもりだ」
「女を殴る趣味はないぞ」
「囀ずるな。そろそろ私達は戻る時間だ」
そう言って空を指差す、ちょうど正午の時間だ。抜け出していたせいか、私の名前や黒賀平助の事を呼ぶ声が聴こえてきている。
全く命に似てお節介なヤツになってきた。そういうものは好いた女にすればいいものを。本当に才賀の男は馬鹿みたいに鬱陶しくて仕方ない。