「オイ。どうした、顔が煩いぞ」
「俺はアイツに負けた。お前が中断しなかったら確実に拳士として終わるダメージを負っていたか、下手したらあの蹴りを受けて死んでいた」
そう己の拳を見下ろして悔しげに顔を歪める黒賀平助。確かに不破の男は強いだろう。しかし、私の分身が戦った不破信二には遠く及ばない相手だ。
あれは
「私は武術を修めた拳士ではないし、お前の様に負けた事は無い。そも磨いた技術に偽りなど出来ないだろう、痴れ者は痴れ者らしく愚直に動け」
「ハハ、巓はマジで嘘を言わねえよな。ありがとう、お前のそういうところは本当に大好きだぜ」
「んッ……勝手に頭を撫でるな!?」
クシャリと優しく私の頭を撫でてきた男にされるがまま何秒か分からないが、素直に撫でられていたという事実に顔が赤くなり、髪の毛を跳ね上げて怒鳴り付ける。
ああ、本当にどうしてしまったんだ。私の意思とは関係なく黒賀平助の事を好ましく想ってしまう。まさかこれが愛する
「イテテッ、悪かったよ。女の子だもんな」
「ッ、そうだ。私は女の子だぞ…」
私は白面の者ではない、普通の女なのだ。
こうして男の事を好いてしまうのは過ちや偽りというわけではない。普通の人間である筈の秋葉巓としては、別に問題ない事なんだが……。
「(……どうすればコイツは私を好くんだ?)」
「無視しないでくれ」
チラリと黒賀平助を見上げる。
命もこういう風に男を見上げていたが、存外こういう淡い感情も悪くはないのだろうな。しかし、私はどうやって進めば良いんだ?
「…く、くろが」
「なんだ?」
「……歩き疲れた、おぶれ」
「は?いや、着物だったか……」
私の履き物を見て納得した黒賀平助は私の足元に背を向けてしゃがみ、大きな背中を差し出してきた。フン、最初からそうしていれば良いんだ。
そう思いながら身体を押し付ける。こうすれば男は喜ぶとか
ジッと黒賀平助の事を見つめていると耳が赤く染まり、動悸の音がいつも以上に激しく鳴っている。ゆっくりと全身に髪の毛を巻き付けてやる。
「クク、助兵衛め」
「う、うるせぇ!」
なんだろうか、心が面白い程に高鳴る。
こういうのも、まあ、悪くはない。