【完結】からくりと踊り謡う薄命の花   作:SUN'S

8 / 255
拐かしの夜 破

肌寒さといつもと違う布団の柔らかさに目尻を擦って起き上がる。……そうだ、わたし。お父様に逃げるように言われたのに、人形に捕まったんだ。

 

「ケホッ、ケホッ…」

 

喉の痛みに咳き込み、セーラー服のポケットに手を入れるもお薬は見つからず、頭を動かして部屋の中を探していると私のお薬ケースやコンパクト、吸入器が綺麗にテーブルの上に置かれていた。

 

寝るときに邪魔にならないように外してくれたかな?と思いながらシャカシャカと吸入器を少し振り、噴射口を噛むようにお薬を飲む。

 

喉と肺の痛みはこれで少し和らぐものの。その、誘拐されて着替えもしていないし……多分、お風呂にも入っていないから余り人に会いたくないです。

 

「……よし、脱出しよう!」

 

フンスと胸を張って深呼吸をして、部屋の扉を開ける。見張りや監視はいなくて、ほうっと安堵の吐息をこぼす。私を誘拐した人は「私の力を欲しがる人がいる」と言っていたけれど。

 

この『癒やしの力』を知っているのは、私がお父様の制止や注意も聞かず、怪我をしている人達に力を使って助けた人達、それから……勝君を狙う人達だ。

 

ゆっくりと廊下の曲がり角で頭を出した瞬間、どこか雰囲気と目付きの悪い中華服。確か長袍(チャンパオ)という武術を習う人が着る服を着た男の子が手袋を伸ばして、廊下の壁にもたれ掛かっていた。

 

「あ?」

 

「ひっ」

 

彼の低い声にビクリと身体を強張らせて、ペタンとその場にへたり込んでしまう。に、逃げ出してまだ十分も立っていないのに見つかっちゃった。

 

逃げないといけないのに鋭い目に睨ませて動けず、お父様を呼びたくても此処にいるのかも分からないお父様の事は呼べず、私は怖い目に身体を震わせる。

 

「へうっ、な、殴らないで…!」

 

「殴らねえよ。ってか、おまえ誰だ?」

 

「さ、才賀命です…えと、あなたは?」

 

「さいがみこと?……あー、何と無く理解した。とりあえず、お前を殴ったりしない。オレは黒賀平助(くろが へいすけ)、こういうことを言っちゃ悪いと思うがお前を拐った奴らの身内ではある」

 

「くろが、へいすけさん」

 

「黒色に、才賀の賀で、黒賀。平等に助けると書いて、平助だ。まあ、オレみたいな悪者が平等に助けるなんて言ったところで信用できないだろ?」

 

そう言いながらガジガジと頭を掻き毟り、深い溜め息を吐いた黒賀さんは「来い。一応、お前も一緒に居た方が安全面は保証できる」と言われ、コクコクと頷いて彼の後を追いかけようとしたその時、窓の外から爆発音と怒鳴るような声が聴こえてきた。

 

「チッ。もう始まったか。才賀勝は真っ直ぐ歩いていった部屋に監禁されてる。お前なら治せるんだろ?だったら、早く行ってやれよ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「……ドクトルの言った通りだな」

 

最後の言葉の意味は分からなかったけれど。彼は悪い人ではないのかも知れないと思いつつ、廊下を走って彼の教えてくれた部屋に向かう。

 

待っててね、勝君!

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。