「ミコト、少し良いだろうか」
「はい。なんですか?」
治療用施設の院長を務めるレイフ・バンハート博士の呼び掛けに応えつつ、彼の傍に寄ると肩を掴まれながら「すまない。君の血を分けて欲しい」と言われ、戸惑いと困惑に身体を強張らせる。
「君の家系はゾナハ病を発症しない特殊な抗体を持っている可能性があるんだ。どうか、子供達を助けるために君の血を分けて欲しいッ…!!」
そう言って頭を下げるバンハート博士。
私よりもずっと年上で子供のために頑張っている大人が知り合って数日も経っていない子供に頭を下げるなんて相当の想いがなければ出来ない事だ。
「博士、私の血で良ければ使って下さい」
「……すまないっ」
嗚咽を漏らす彼の事を優しく抱き締めて上げ、私は『癒やしの力』を行使する。私自身が血を吐かず、心肺に負担を掛けない程度に威力は抑えているけれど。
私の『癒やしの力』は肉体的損傷を癒やす。
病気は治せないけど、疲労感や倦怠感を和らげる程度の事は可能です。それでも、お母様は広範囲に及ぶ『癒やしの力』を使える。
───でも、私は其処まで強い力は使えない。
「…おお、
「お、お母さんじゃないですね」
ちょっと可笑しくなるのは何故なのかしら?と小首を傾げつつ、バンハート博士の後ろを着いて歩いているとルシールおばあさんに「手伝うのは構わないが、身体は弱いから気を付けるんだよ」と心配して貰えた。
フフ、なんだか本当のおばあさんみたいですね。お婆様は優しいですけど、猫可愛がり?というのか小さな頃から頭を撫でてくれることが多くて、褒めて貰ったら頭を撫でるのは癖になってしまっています。
昔の事を思い出しながら、血を抜くために左袖を捲って細い腕を出すと「ちゃんと食事は取っているのか」と逆に困らせてしまった。
「大丈夫です!ご飯は食べていますよ」
「それなら良いのだが…チクッとするぞ」
「はい」
血管に注射器の針を刺されて、ゆっくりと血を抜かれる。アルコール消毒を受け、傷口が広がらないように血止めの絆創膏を貼って貰う。
「ありがとう、ミコト」
「フフ、子供を思う気持ちは一緒ですから♪︎」
そう言うとみんなが笑ってくれる。
鳴海お兄さんやルシールおばあさん、レッシュさんに怖い顔を向けるけど。どうして、みんな私には優しいんでしょうか?
そう考えながら寝台を降りて、部屋を出ると鳴海お兄さんが壁に背中を預けて立っていた。
「おっ。話しは終わったか?」
「鳴海お兄さんも心配してくれたんですね」
「まあな。お前は何だか妹みてえでな」
「フフ、なんですか、そ…れ……あれ?…」
どさりと私は前のめりに地面に倒れて、ポタポタと鼻血を垂らしてしまう。やばい、ずっと子供達が我慢していたときに『癒やしの力』を使ったから、バンハート博士に使った今ので反動が来ちゃったんだ……。
「命!?おい、しっかりしろ!!」
「だ、大丈夫です…休めばゲホッ、ゴホッ!」
「ルシール!命がやべえっ!!」
「叫ばなくても聴こえているよ。全く無茶をするなと伝えていたのに馬鹿な子だね、博士達にはあたしが伝えておくから部屋に戻ってなさい」
「す、すみません」
けほっ、けほっ、と血を含んだ咳を繰り返す私は職員棟の一室に入り、鳴海お兄さんに吸入器を使ってもらい、静かに深呼吸を繰り返す。
うぅ、なんだか赤ちゃんみたいです。
「けほっ、もう大丈夫ですよ」
「ほ、本当だろうな」
「本当ですよ、お兄さん」
「……分かった。信じてやる」
そう言うと鳴海お兄さんは私の頭を撫でてくれた。
フフ、やっぱりお兄ちゃんみたいですね♪︎