一番奥の部屋。
ここだ、此処に勝君がいる。
ゆっくりと深呼吸を繰り返して、コンコンコンと木の扉をノックするも返事はなく、鍵穴も付いていないドアノブを捻り、恐る恐る扉を開ける。
「勝君?……え、あ、ど、どうし、こんな酷いッ」
私は部屋の真ん中に倒れていた傷だらけで服も血が滲み、切り傷や打撲傷まみれの勝君に駆け寄り、彼の身体を優しく傷付けないように抱き締め、全身から蛍火色の光を放って勝君の怪我を癒やす。
「ゴホッ、ゴホッ゛……おぇ゛っ」
───けれど。
彼の傷を癒やすに連れて私の心臓は痛みを訴え、これ以上はもう能力の使用を止めるように身体が拒否反応を起こし、ベチャッ…!と傷んで濁ったような赤い血を吐き出してしまう。
でも、私はお姉ちゃんになるんだ。
大事な弟の怪我も治せずに『癒やしの力』を持っていても意味はない。ゆっくりと深く空気を吸い込み、全身全霊の力を込めて勝君の身体に『癒やしの力』を与え続け、五分、十分かも知れない。
多分、それぐらい時間を掛けて傷を癒やした。
「…あ゛ッ、えへ、良かったあ……」
ほうっと安堵の吐息をこぼしながら、自分の顔を袖で拭い、口だけじゃなくて鼻や目からも血を流していた事に気づき、まだ目を覚ます気配の無い勝君を背負い、フラフラと情けない足取りで部屋を出る。
大丈夫。お姉ちゃんが守るからね。
ふらつき、掠れる視界を頼りに廊下を歩いていると騒々しくて地響きを起こす外を見下ろす。さっきの黒い長袍を着た黒賀さんが鳴海お兄さんに戦っていた。
なんだかカンフー映画みたい───。
「…んッ、あれ…?」
「……おきたんだ、よかった…」
「みことさん?ッ、どうしたの!?まさか僕とおんなじで兄さんや姉さんから殴られてッ?!」
「ちが、これは、転んだだけだから」
「転んでも目からは血はでないよ!!」
うっ、そう言われると言い返せないです。
「降ろして、大丈夫だから!」
そう言われるがままに勝君を降ろす途中、彼の視線は窓の外に向いた。鳴海お兄さん。黒賀さんと互角以上に渡り合い、むしろ圧倒すらしている。
「鳴海兄ちゃん、すごいなあ」
「はい。とても強くて、うらやましい」
私もあんな風に動けたら良いのにな。
そう思っていたその時、薙刀を構える着物姿の一人の女の子が現れ、周囲の大人を吹き飛ばし、斬り伏せ、鳴海お兄さんと戦っていた黒賀さんを殴り飛ばした。
白と黒の髪の毛。
「助けに来てくれたんだ、巓ちゃん」
私と同じ糸色としての血を継ぐ従姉妹が乱戦状態の中庭に現れた事に嬉しさが汲み上げてくる。
「何勝手に出歩いてんだ!」
「ゲぅッ、ごほっ?!」
「命さん!な、なにするんだっ、女の人を殴るなんて最低だよ!それに命さんは身体が弱いんだ、殴ったりなんかしたら死んじゃうよ!!」
「知るかよ。本命はお前なんだよ、勝」
───次の瞬間、私は真横まで近付いていた人に気付かず、力任せに殴られ、ガンッ!と花瓶置きに背中と頭をぶつけ、あまりの痛さに呻くことしか出来なくなる。
「(痛いッ、痛い痛い痛い痛い痛いッ…!殴られるのって、こんなに痛いんだ。それなのに巓ちゃんっ、巓ちゃんはいっつもこんな痛いことにも負けないの?)」
な、なら、私だって…!
「ま、勝君をいじめるなぁ!!」
「命さんに近付くなぁ!!」
「ばっ、やめ?!」
ガシャンッ…と窓ガラスの割れる音と一緒に木の枝が折れる音が一緒に聴こえてきた。お、落としちゃった。い、生きてる?良かった、木の枝に引っ掛かってるけど。ちゃんと死なずに生きてた……。
「あ、ありがとう、勝君」
「僕もありがとう、命さん」
そう言って私達はぎこちなく笑った。