灰色の壁に消えてしまったツカサ君に驚く間もなく鳴海お兄さんの踏み込みで地面が揺れ、ツカサ君と戦わずに残っていた
いつもと変わらない筈なのに、鳴海お兄さんの背中にモヤのようなものが見える。怒りすぎて体温が高まり続けているせいなのかと思うも違う。
「ルシールおばあさん……」
「心配しなくても大丈夫だよ。ナルミは冷静さを失っていない」
「ミコトが心配するのも無理はない。あれだけ激しく動いて殴り合えば致命傷を負うだろうし、今のナルミの動きは大雑把に見える」
そう言って話すルシールおばあさんとレッシュさんの会話を聴きつつ、私は不安になる。あんなに泣いているのに、誰にも気づいて貰えないのは辛いです。
「人間の分際でええぇ!!」
「ゆるさねえ…!てめぇらは絶対に俺の拳で砕き、ブッ壊してやる!!」
発勁を受けて爆ぜる人形の疑似体液を浴びながら鳴海お兄さんは更に深く踏み込み、
「命オォォッ!!」
「は、はい!」
「あれを貸せ!」
その言葉に慌てて四次元ポケットを漁り、真っ黒な棒の両端を金色に装飾した棍棒を取り出して、鳴海お兄さんに投げ渡す。真っ黒な棒───『如意スティック』を受け取った鳴海お兄さんは剣や鎌、楽器を出して迫り来る
「あの棒も発明品かい?」
「はい。ずっと素手と剣だけで戦うのは疲れると思ったので用意したものです」
『如意スティック』
西遊記に登場する孫悟空の持つ伸縮自在の棍棒を模造して使った発明品です。伸縮する以外にも携帯性を高めるために小型化したり、三節棍のように分裂したりする能力を搭載しています。
「ただの棒切れごときにぃー!!!」
「棒切れじゃねえ、コイツは俺の一部だ」
パウルマンの頭を叩き落とし、パペットの事を貫いた鳴海お兄さんは静かに佇んでいる。髪の毛は疑似体液を浴びて、銀色に染まり、ルシールおばあさんやレッシュさん、ラローシュさんのようにしろがねに見えた。
でも、やっぱり彼は悲しそうだった。
「鳴海お兄さん、お疲れ様です…」
「……ああ、すまねえな…」
「良いんです、みんな笑ってますから」
「そうか、そうだよな」
私の言葉に安堵する鳴海お兄さんを抱き止め、ることも出来ずに地面に倒れそうになったそのとき、レッシュさんが私の代わりにお兄さんを受け止めてくれた。