ウルトラマンゼロ~絆と零の使い魔~   作:???second

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もう一人の巨人

「学院の門弟も落ちたものだ!オールド・オスマンに厳罰を要請せねばならん!」

 

 再び伯爵の家をモット邸の応接間に、不機嫌極まりないとばかりの伯爵の声が響く。

 

「急を要したもので、許可なくお屋敷に侵入したことはお詫びいたします。そして、使い魔の不始末は、主人であるこのルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの不始末。どのような罰でもお受けいたします」

「ル、ルイズ…」

 

 片膝を着き、今回の件について深々と詫びるルイズ。そんな主の姿に、サイトの心には申し訳なさと同時に複雑な心境が芽生えていた。俺がシエスタを助けたいという思いは、結局俺個人の身勝手な思い上がりだったのか?

 

「王宮の官吏に剣を向けたことは重罪に値する。公爵家に影響が及ぶことも覚悟しておくのだね」

「待てよ!悪いのは俺だ!」

 

 事は、自分とルイズだけの問題では済みそうになくなっている。焦ったサイトが抗議するが、キュルケがそこで一歩前に出てきた。

 

「モット伯爵、これで手を打ちませんこと?伯爵は、コレをいたくご所望とか」

 

 そう言って彼女が取り出したのは、1冊の本。伯爵がずっと求めていたと言う例のゲルマニアの書物だ。

 

「ほう、君は?」

「申し遅れました。私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・ツェルプストーと申します」

「ツェルプストー!じゃあそれはもしや…!」

 

 彼女が名乗った名前を聞くや否や、書物の正体を察したようだ。ガタンと、座っていたイスから立ち上がる。

 

「はい、我がツェルプストー家の家宝『召喚されし書物』です」

 

 目当ての代物が唐突に手に入ったことで、伯爵は飛び上がるほど喜んだ。しかも内容は好色家である彼の趣向にピッタリ。どうやら満足のようだ。

 

「おお!これがあの…よかろう、今回の件については不問とする。帰ってよいぞ」

 

 よかったと、胸をなでおろす一同。キュルケが念のためにと、本を持って来たのが功を奏したようだ。

 

「伯爵、お言葉ですが一つお尋ねしたいことが…」

 

 そうだ。忘れてはならないことがある。キュルケは家宝の書物を手渡す前に、伯爵に尋ねなければならないことを聞いてみる。

 

「この屋敷の門前で見張っていたあの兵たちはなんだったのかお聞きしてよろしいですか?」

「門前の兵だと?」

 

 次に、ルイズが質問の詳細を告げる。

 

「恐れ多いことをお尋ねしているかもしれませんが、私の使い魔はあなた様からシエスタ返却の条件を付けられここを出ようとしたとき、ここの兵士たちに襲われたと言っています」

「何を言うのだ?ヴァリエール嬢。それではまるで、私がこやつとも約束を最初から守る気がなかったと言うことではないかね?」

 

 何のことかわからないと、伯爵はとぼけた様子を見せる。よくもぬけぬけと…とサイトは思っていたに違いない。兵たちが命令でサイトを暗殺しようとしていたじゃないか。最初からシエスタを返そうと思ってもいなかった何よりの証だ。しかし気になるのはその資格に送った兵のことだ。ゼロやタバサの話だと、あの兵士たちは戦う前からすでに死んでいたじゃないか。この伯爵、何か隠していたのか?それとも自分の兵がおかしかったことに気づいてもいなかったのか?

 

「もしかしたら、あの兵たちは私が雇ったメイドたちが次々消えていく現状に苛立っていたのかもしれんな。何せ仕事仲間だ。急に何も言わず姿を消して心配してるだけだろう。まあ、私の前ではそんな野蛮な姿を見せんがね」

 

 しかし意外。伯爵は何か奇妙な情報を与えてきた。噂になっていた、伯爵家の使用人の失踪。ただの噂話ではなかったようだ。

 

「まあ、我が兵のことはこちらでなんとかしておこう」

 

 この流れだと、後者…つまり自分の塀の異変に気づいていなかったと考えるべきかもしれない。…だったらもうこんな危険何かが潜んでいそうな土地にシエスタを置いていけない。

 正直この伯爵にはもっと言ってやりたいのだが、それだと目的がずれてしまう。自分たちはこの男の風上にも置けない奴と言い争うに来たのではないのだから。

 

「これで、シエスタを返してもらえるんですよね」

 

 彼が書物を受け取った以上、これで取引は成立だ。約束はいつ果たされるのかと、サイトは問いかける。だが、当の伯爵は、すっとぼけた返事を返してきた。

 

「ん?なんの話だ?」

 

これにはもう我慢ならない。サイトは怒りで顔を赤く染めて伯爵に怒鳴った。

 

「オイ!話が違うぞ!その本を持ってくれば、帰してくれるって言ってただろーが!!」

「平民ごときと交わした口約束など知らんな。第一、そんな口をきいてよいのか?貴様の大事な主人にも、迷惑がかかるのだぞ?貴様の無礼を不問にしてやると言っておるのだ。ありがたく思え!最近、どういうわけかわが家のメイドが不足気味でな。一人であろうが手放すわけにはかんのだよ」

「て、てめえ…!ふざけやがって…!!」

 

 不法侵入を盾に約束を破るつもりのようだ。それに何が手放すわけにはいかないだ。自分たちの勝手な我儘のために一人の少女の意思をどこまでも無視すると言うのか。しかも、達成率0%に近い条件を突き付け、それを奇跡的に達しても返さないなんて、どこまでこいつは腐っているんだ。サイトの目には、憤怒の炎が渦を巻いている。今すぐにでも、殴りかかってしまいそうな勢いだ。

ブチっと血管を膨れさせ、唇をかみしめるサイト。

その感情はサイトだけでなく…

 

 

――――このクソスケベおやじ…もう許さねぇ!!

 

 

彼の目を通して見ていたゼロの心でもあった。

 

「サイト、帰りましょう。あんたはよくや…」

「ぐぼ!!?」

 

 ルイズが、シエスタを取り戻せなかった彼の心情を察知しつつも、どうしようもない現実を認めてもらおうと優しく声をかけた途端、サイトはついに怒って伯爵を思い切り殴り飛ばした。殴られた伯爵は、椅子から転げ落ち、口と鼻から血を流している。

 

「だ、ダーリン!いくらなんでもやりすぎよ!」

 

 こうなるともうサイトの死罪は確定。トリステインの法律で定まっているわけではないだろうが、平民を格下に見るトリステイン貴族の大半からすれば万死に値する行為として見られていた。

 

「貴様…平民の分際でよくもこの私の顔に傷を!!」

「うっせえ!!貴族以前に人として当たり前のことを平気で踏みにじったてめえに、人間を名乗る資格なんざねえ!!」

 

 サイトは伯爵を指さして、堂々と言い放った。

 

「な…!!」

 

 確かにサイトの怒りも言い分も間違ってない。だが、それが権力持ちで自分たちこそが正しいと思い込む伯爵のような貴族相手にはただの暴言にしか聞こえないのだ。

 

「この私が獣と同然というのか!この平民め!!もう我慢ならん!その首を刎ねて…」

 

 しかし、その時だった。

 

「きゃあああああああああああああ!!!!」

 

 女の子の、悲鳴が聞こえてきた。今の声に聞き覚えがある。

 

「っ、シエスタ!」

 

 サイトはすぐさま踵を返し、扉を出て悲鳴の元へと急行した。

 

「ち、ちょっと!サイト待ちなさい!」

「ダーリン待って!」

「貴様!逃げるのか!!待て!」

 

 ルイズとキュルケ、タバサ…そしてサイトに復讐しようとする伯爵は彼を追って行った。

 

 

 

 

 その頃の風呂場では、あともう少しのところでグロテスクアニメ顔負けの惨事が起ころうとしていた。たった一枚しかなかったタオルを体に巻いて裸体を隠したシエスタが、風呂桶に風呂の湯を入れると、その湯を飛ばして何かを追い払おうとしている。

 

「来ないで!来ないでください!」

 

 バシャバシャとお湯をかけられた相手は、モット伯爵に仕えているばあやだった。

 

 シエスタがなぜ老婆相手にここまで恐れおののいているのか。理由は、ばあやの右腕がすでに異形のモノとなっていたことと、それに伴って彼女の様子がまるで血に飢えた獣のように豹変していたことに他ならない。何センチも爪が伸びきっていて皮膚のない筋肉の膨れ上がった腕。これを化け物と呼ばずして何と呼べばいいのかもわからない。

どうして?さっきまで自分の現状に哀れみを寄せる優しい老婆だったはずなのに…

 

「あぁ、みずみずしい若い娘の肢体…うまそうですじゃ…この体が、あの下衆な伯爵に食われるなど…可哀想じゃて…」

「ひ…!」

 

 ただひたすらシエスタは水をかけ、化け物となったばあやを追い払おうとする。時に洗面器を投げつけて反撃を謀ろうともした。しかしたかがかけ水ごときに怯むはずもなく、ばあやは涎を垂らしながらシエスタに迫ろうとしている。さらにシエスタによってばあやに向けて投げつけられた洗面器はあっさり避けられてしまい、風呂の窓ガラスをバリィイイン!!!とかち割ってしまう。シエスタは風呂場の端へと下がって一秒でも長く生き延びようとするも、いつまでも逃げ切れるはずもなかった。

 

「純潔を穢され、食い荒らされる前に…その美しい身のまま食わねばのう…

 

食いたいのう…食わせておくれ…

 

食わせろおおおおおおおお!!」

 

「きゃああああああああああ!!」

 

 ばあやはもはや人間としての心を失っていた。飛び掛かってきた途端、シエスタは身をかがめ、目を閉じて頭を覆った。

 ああ、自分は伯爵に穢される前に、ここで殺されてしまうのか。最後に浮かんだのは、王都で働く従妹と叔父、故郷であるタルブ村の家族、そして…。

 

(サイトさん…!!)

 

 だがその時、ばあやに向かってどこからか飛んできた青白い光弾が直撃、

 

「うぎゃああああああ!!」

 

怪物化したばあやは、小さな爆発音を立てて跡形もなく消滅した。

 

「…え?」

 

 シエスタは前をタオルで隠しながらも恐る恐る立ち上がる。あのばあやはどこへ行ってしまったのだろう。

 

(…サイトさんが助けてくれたのかしら)

 

 さっきサイトが自分を連れ帰るために伯爵相手に交渉しに来たためか、彼女は勝手にサイトに助けられたのだと思い込んでいた。ともあれ、早くここから上がろう。すぐに脱衣所に上がったシエスタだったが、そこで思わぬアクシデントが起こる。

 

「シエスタ!!」「へ!?」

 

 脱衣所に向かおうとしたところで、サイトたちが風呂場に現れてしまったのだ。彼の思わぬ登場に、驚いたシエスタは言葉を発することもできず前を隠していたタオルを落としてしまう。彼女の裸体を唯一隠していたタオル落とした…つまり…

 

「ぶぶう!!!?」

 

 思春期真っ盛り少年のサイトを悩殺してしまうこととなった。お父さんお母さん、僕を生んでくれてありがとう。そんな煩悩満載な感謝の言葉を心の中で贈ったのだった。

 キュルケはあらあらと呑気そうに呟き、タバサはいつもの無表情。見られてしまったシエスタはというと「きゃあ!」と悲鳴を上げて顔を真っ赤にし、身をかがめ湯あみで綺麗になったそのみずみずしい肢体を隠す。そして、同時にルイズから閻魔さまもガクブルなオーラが放たれる。

 

「サイトー」

 

 声が優しい、が…全然優しさを感じない。

 

「ふがふが……な、なんでございましょう…」

 

 やばい、ルイズを直視できない。どこからか取り出したティッシュで鼻血を抑えるサイトは冷や汗を滝のように流れ落としていた。その時のルイズは、表情自体は笑っている。だが、目は全くと言っていいほど笑っていなかった。

 

「ここは伯爵様のお屋敷だから大目に見てあげる…け・ど………学院に戻ったらわかってるわよねえ…?」

「き、貴様ら!!私を無視するでない!!」

 

 蚊帳の外だった伯爵は怒鳴りながら、シエスタの方へズカズカ歩み寄って、彼女に向かって手を伸ばす。それに対して、気を取り直したサイトが鼻を押さえたままシエスタの前に立ってデルフを構えた。

 

「どけ平民!いい加減私の気を損ねる無礼な真似を続けるならば、そこのメイドの前でその首を切り落とすぞ!」

 

「やってみろよすけべオヤジ!女を欲望のはけ口にしか思ってねぇテメェなんかに、俺は負けねぇ!」

「鼻血を垂らしながら言ってもかっこつかねぇぜ、相棒…」

 

 デルフが茶々を入れてきて、サイトは「ほっとけ!」と怒鳴る。

 

「平民の分際で、貴族であるこの私をどこまでもコケにしおって…!!」

 

 貴族である自分を前に、緊張感のない会話を交わす目の前の平民に、ますますもっと伯爵は自分がナメられているのだと受け取る。もう遠慮はすまい。モット伯爵は呪文を唱えようとした。

 

「伯爵!」

 

いくらサイトが無礼を働いたとしても、使い魔を見捨てるわけにいかない。それを阻止しようとルイズたちも動き出す。

 

「サイトさんダメ!逃げて!」

 

シエスタもサイトに逃げるよう呼びかける。

 

しかし、

 

「グルルルル…」

 

何かが聞こえてきたサイトたちは一斉に動きを止めた。

 

「!」

 

 猛獣の鳴き声? 

 伯爵は眉を顰める。この伯爵たる自分に手を出すとは、これだから獣は嫌いだ。波動と称された自慢の水魔法の詠唱にかかる伯爵。

 すると、頭上から生臭い水がどろりと彼の頭にかかる。

 

「う…臭!?しかも…粘り気が…おのれ!!!誰の仕業だ!?貴様らか!?」

 

 これは、まぎれもなく動物の涎だ。すさまじく鼻を突くように臭くて汚らしい。忌々しげに伯爵は顔を歪める。どうやら獣は頭上にいるようだ。屋敷の屋根の上にでもこちらを待ち構えていたのだろう。

 頭上を見上げるモット伯爵。だが、ここに来て伯爵は自分が、相手をどれだけ侮っていたのかようやく思い知ったのだった。

 

 すでに、シエスタが投げ飛ばした洗面器でガラスが割れてしまった窓から、巨大な影が彼らを見下ろしていた。

 

体表が内臓器官のように悍ましく、全身がべたつくようなぬめりのある液体で塗りたくられたような、

 

巨大なネズミの怪物が彼らを見下ろしていたのだ。

 

「か、怪獣!?」

「ひ、ひいい!!」

 

 ルイズが不気味なその怪獣の姿を見上げ青ざめる。それはキュルケも同様で、さすがのタバサもポーカーフェイスを危機感で歪めた。モット伯爵に至っては言葉にならない悲鳴を漏らしながら腰を抜かしていた。

 

 それは紛れもなく怪獣だった。それもただの怪獣ではない。Χニュートリノが生物と融合して誕生する『Χスペースビースト』の一種

 

フィンディッシュタイプビースト・ノスフェル』だった。

 

 ノスフェルは伯爵の配下を密かに殺害し、自分の肉人形に変えて、人間を食らった自分の肉人形そのものを人知れず食らい続けていたのだ。主にモット伯爵が見初めたたくさんのメイドの女性を次々と。ルイズが、伯爵の配下が木屑を食べていると言う噂を聞いたのは、ノスフェルの肉人形となった人間の奇行によるものだったのだ。

 その矛先は、サイトたちの下にまで及ぼうとしていた。ノスフェルは口の中から長い触手を伸ばし、真っ先にモット伯爵を捕まえた。

 

「や、やめろ!汚らわしい獣め!私を誰だと思って…あ…ああ…ああああああああああ!!!」

 

 自分は貴族だ!逆らえば命はないぞと、あからさまな虚勢を張る伯爵。怪獣相手に貴族の称号など意味がない。伯爵は完全に怯えきって覇気が全くなくなってしまっている。 

 さっきまでサイトに威張っていた偉そうな態度は面影もなかった。ノスフェルは触手にしっかり伯爵を巻きつけると、彼をそのまま口の中に放り込んでしまった。直後、もぐもぐとノスフェルは口の中を噛み始めた。

 

「き、きゃああああああああああああ!!!」

 

 ノスフェルの口から血が落ちたのを見たシエスタは鼓膜が破れそうなほどの悲鳴を上げ、ショックのあまり気絶してしまった。吐き気を催すほどのショックを与える光景に、ルイズとキュルケも思わず口を塞ぐ。

 シエスタの露わになった体をレビテーションの魔法で浮かせたタオルで巻きつけたタバサは、彼女を浮かせたまま屋敷の入り口を指さす。もうここから脱出するべきだ。

 

「急いで出ましょう!」

 

 ルイズが叫ぶと、サイトたちは直ちに屋敷の入り口へ急いだ。

 目の前の獲物を無視するはずもない。彼らを捕まえようとノスフェルは触手を伸ばしてきた。伯爵の屋敷の被害などお構いなし。屋敷は触手のパワーに圧倒され、天井や壁が見事に破壊されていった。土のメイジが自身にさえも耐えうるほど頑丈に作った屋敷も、怪獣相手ではひとたまりもなかった。

 

 屋敷の外に最初に出たのはルイズ、続いてキュルケ、そしてシエスタを浮かせたタバサだった、だが、サイトはあと一歩のところで屋敷の入り口を崩されて脱出不可能となってしまう。

 

「うわ!!?」

「サイト!!」

 

 ルイズはサイトの元へ駆け寄ろうと瓦礫に埋まった屋敷の入り口の方へ向かおうとしたが、キュルケがそれを差し止めた。

 

「だめよルイズ!怪獣はいつでも私たちを捕まえられるわ!シルフィードに乗せてもらって、一秒でも早く脱出するのよ!」

 

 シルフィードの背中に乗せてもらうキュルケとタバサと、そして意識のないシエスタ。

 

「でもサイトを放っておくことなんてできない!」

「………」

 

 だがルイズは乗るのを拒否した。そうだ、使い魔を見捨てることなんてできない。見捨てたらその時点でご主人様失格だ。…というのもあるが、根は優しくもあるルイズはサイトのことを個人的にも無視できなかった。何とか助けたい。でも、あの巨大ネズミの怪物がいるのでは不可能に近い。

 このまま地上に留まっては危険だ、やむを得ずキュルケはレビテーションの魔法でルイズはシルフィードの背中に乗せると、それを見計らってタバサはシルフィードにはばたくように命じ、シルフィードは夜空へ飛び立つ。

 間一髪、ルイズたちに触手を叩きつけようとしたノスフェルの一撃が、ルイズがついさっきまで立っていた場所の地面をひっくり返した。

 その時、伯爵家の瓦礫から光があふれ出した。あまりに眩しくてルイズたちは思わず目を伏せる。

 

「待たせたな!!」

 

 その光の正体は、この世界のヒーローになりつつあった、遥か彼方の宇宙より現れた戦士、テクターギア・ゼロだった。瓦礫で姿が見えなくなったところで、ゼロがほぼ強制的に表に出てきて変身したのだ。 地面の土をひっくり返しながらズシンと着地。我ながら力強くかっこいい登場シーンができたとゼロは自負していた。

 

「ウルトラマン!!来てくれたのね!!」

 

 キュルケが歓喜に満ちた声を上げる。しかしルイズはゼロの姿を見て目を細める。

 

「で、でも…なんか変じゃない?」

 

 そう、何かがおかしい。見るからに何かがおかしいのだ。キュルケもそれに気が付いてあら?と声を漏らした。

 

 

 

「…小さい」

 

 

 そう、本来40〜50メイルを誇るはずのゼロの体が、たったの5メイル程度のサイズになっていたのだ。

 

 

「へへ…ってあれ!!?

 

小っさ!!

 

なんでこんな中途半端なサイズに…!?」

 

 タバサの一言で、自分の体が本来のサイズから見るからに小さくなっていることに気が付いたゼロ自身も激しく動揺していた。

 どうも自分の意思ではないらしい。もし自分の意思によるものだったら愚か極まりない。なんたってノスフェルのサイズは50メイル(メートル)近くもあるのだから、そんな巨体相手に小型サイズで戦えるわけがない。

 

「そうかサイト!てめえが俺と一緒に戦うことを拒否しているせいだ!!」

 

 ゼロは八つ当たり気味な口調で言い放つが、実際彼の言う通りだった。サイトとゼロ、同じ体を共有するウルトラ戦士と人間が完全な状態で戦うには、エネルギーを十分に保有していることの他に、互いの心を一つにする、または同じ目的意識を強く持つことも重要だった。だが、悪いことに二人の心はキャッチボールを交わせるだけのものじゃなかった。

 

『街壊しといて…子供の命を知ったことじゃねえなんてほざく奴と、誰が一緒に戦いたがるってんだ!!』

 

 トリスタニアで逃げ遅れた子供を見捨てようとした上に、偉大なウルトラマンの先人たちを侮辱するゼロを、サイトは未だ許し難く思っていた。街を壊してでも怪獣を速攻で倒すことを優先するゼロ、また敵を倒すこと以上に目の前の逃げ遅れた命も含めた人命救助を最優先とすべしとするサイト。この二人は戦いに対する意思が相反する状態にあった。だからこんな中途半端なサイズに変身する結果を招いたのかもしれない。

 

「そうかわかったよ…だったらこのままやるしかねえな!!」

 

 もうサイトは当てにならない。若干自棄になったゼロは走りこんで、自分の8倍以上もの巨体のノスフェルに真正面から突進した。

 

「俺の中でよく見ておくんだなサイト!この程度のハンデなんかものともしねえ、このウルトラマンゼロの戦いっぷりをな!

 ってうお!!?おわ!!うおおおおああああ!!?」

 

 しかし、途端に彼はノスフェルの触手に足をからみつかれ、そのまま風車のように振り回された。

 

『のわああああ!!目が回るうううううう!!!』

「ちょ…あいだだだだぁ!痛痛痛痛痛痛痛痛!!!」

 

 そして回転状態を保ったままガスガス!と地面に何度もこすり付けられてしまう。

 さっきまでのシリアスな空気はどこへやら…。

 

 なんて間抜けな光景だろう。ルイズたち三人は口を開けたまま呆然とゼロのアホ丸出しな姿に呆然と立ち尽くしていた。意識を手放しているシエスタはともかく、彼女を背中に乗せて戦いを見守っていたシルフィードも目を伏せて呆れ返っている。風竜というのはなかなか知能が高いためか、どうもこの状況にどうリアクションしたらいいのか理解できるらしい。それだけに風竜からも呆れられるこの時のゼロは、宇宙一情けないウルトラ戦士だった。

 

「『うわあああああああああああ!!!?』」

 

 ポイと投げ捨てられたゴミのようにゼロは空中へ放り出される。屋敷に頭から思い切り突っ込んでしまった。

 

「くっそ…サイト!てめえ真面目にやりやがれ!!」

 

 屋敷の瓦礫を払いながらゼロはサイトに文句を言う。だが、サイトはゼロの中から彼に言い放つ。

 

『るせええ!!俺だって真面目にやってんだよ!』

「なんでお前みたいなのと合体しまったんだ!!ウルトラマンゼロ一生の不覚だぜ!!」

 

 空中へ飛び出し、ノスフェルの頭に蹴りを入れたゼロ。だが、小さすぎて威力もまた小さい。話にならなかった。

 

『何が「ウルトラマンゼロ一生の不覚」だ!てめえみたいな奴、俺は絶対にウルトラマンとして認めないからな!気安くウルトラマンを語ってんじゃねえよ!!』

「この野郎…せめてこの邪魔くさいテクターギアさえなかったら…!!」

 

 ノスフェルの尾を掴んで投げ飛ばそうとしたゼロだが、尾の力が強すぎて、デコピンを受けるように逆にバチンと弾き飛ばされてしまう。

 ただでさえ間抜けな光景に、ルイズたちにもしこの会話が聞こえていたらより一層呆れられていたに違いない。終いには外せないテクターギアに当たるゼロ。正直これがもしここで外すことができたにせよ、二人の意思が同調していない以上巨大化もできないだろうから状況も覆らない。未だにそりが合わない二人であった…。

 

「ちょっとあんた!何度も同じ事やってんじゃないわよ!でないとその『ゼロ』ってふざけた名前、改名させてもらうんだからね!」

「ルイズ、あなた最後のは関係ないんじゃない?」

 

 戦いが激しくなったのでシルフィードを遠い場所まで飛ばしたタバサ。ルイズはというと、あまりに情けない状態のゼロに対して激しく罵倒した。ついでに、自分の不名誉な二つ名と被るからって理不尽なことまで仰る。

 

「サイト!お前のおかげで!」

 

 しかし意外にもその小さな体にも力が残っていたのか、それともど根性から来たのか、ゼロはなんと、小さい体をものともしない力を発揮、真下からノスフェルを持ち上げた。

 

「ぐぅうう…俺までぇぇ…馬鹿呼ばわりだあああ!!」

 

そして、10メートル先の地点まで投げ飛ばして見せたのだ。

 

「すご…あのサイズでもやるじゃない!」

 

 キュルケは根性を見せたゼロを見て歓喜したが、タバサは言う。

 

「いつまでも、根性は保てない」

 

 その通りだった。いかにゼロが将来性の大きなウルトラマンだったとしても、蟻が恐竜に勝てる確率が皆無であるように、小さいサイズのまま巨大な敵に長くは戦えない。それもテクターギアを装備しているせいでウルトラ戦士に特徴的な必殺の光線技が使えない。流石に限界に達し、膝を着いた。ノスフェルはそんなゼロをサッカーボールのように蹴り飛ばした。

 

「ウグァ!!?」

 

 再び瓦礫という名のゴールへシュートされたゼロはふらつきながらも、勝負を諦めまいと立ち上がる。あのテクターギアの下にあるカラータイマーは、きっと赤く点滅している頃に違いない。

 

「チビトラマン状態じゃ歯が立たないじゃない!一体どうしたって言うのよ…」

 

 なぜ本来のサイズに戻らないのか?疑問を抱くルイズたち。しかし今は巨大したくてもできないのだ。肝心のサイトとゼロの意思が全く持ってそりが合わない以上、ずっとこのサイズのままなのだ。根性で立ち上がってはみるが、小さな体に強い衝撃というのは凄まじく応えた。

 それでも諦めないと、ゼロは立ち上がろうとしても、さすがにダメージが蓄積しすぎていた。そんな彼に、ノスフェルはその鋭く鋭利なかぎ爪を振り上げてきた。

 

次の瞬間だった!

 

「グゴアアアアアアアア!!!!?」

 

 ノスフェルはどこからか放たれた朱色の閃光に爪を破壊され、悲鳴を上げながら後ずさる。

 

 

(な、なんだ…?)

 

一体何が起こったのだろう?

 

 ゼロは立ち上がって光線の発射された方を見る。同じようにルイズたちもゼロが何を見ようとしているのか確かめるべく、そして何が起こったのかを知るために彼と同じ方へ眼をやる。

 

彼ら全員衝撃的なものを目にした。

 

「「「「!!?」」」」

 

夜の闇の向こうに、

 

 

白く輝く眼を持ち胸にはY字型の赤いクリスタルを埋め込み、体中に黒い模様を刻み込んだ

 

 

『銀色の巨人』の姿があった。

 

 

 

あの姿、かなり変わっている外見な上に見たこともない個体だが、間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――もう一人の、ウルトラマン…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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