ウルトラマンゼロ~絆と零の使い魔~   作:???second

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盗賊-フーケ-/騒動の後

その戦いは、目を離せないものだった。

 

モット伯爵を菓子のように貪った悍ましい姿の怪獣。その怪獣に立ち向かう、銀色の巨人。

 

悍ましいネズミ型の怪獣…ノスフェルは銀色の巨人に敵意を向け、ゼロの方には目もくれなくなり、左手の詰めを破壊された報復をしてやろうと、銀色のウルトラマンに向かっていった。

 

最初の一撃目は頭上からの大きな一振り。続いては振り下ろした右腕のかぎ爪を今度は上に切り上げ、銀色の巨人を切り裂こうとする。さらに立て続けにノスフェルは片腕の爪を武器に攻撃を仕掛けていくも、銀色の巨人は背中をそらす、横に一歩だけ移動する、身をかがめる…そんなわずかな挙動だけでノスフェルの攻撃を避け続けた。

やがて次第に、回避の間際に銀色の巨人は刺すような俊敏さで拳や蹴りを叩き入れ、ノスフェルを怯ませていった。

 

全く当たらない、それどころか自分ばかりが一方的に攻撃を食らい続ける。それに苛立ったノスフェルは今度は口の中から触手を伸ばしてきた。狙いを定めた場所は、銀色の巨人の首元。喉元を締め上げて動きを封じる魂胆だった。

しかし、銀色の巨人は最初からそれをわかっていたかのように、その触手を自ら両手で掴みかかる。わざと両腕に絡みつかせた状態で掴むと、彼は力強くノスフェルを、ハンマー投げの鉄球のようにぶん回し始めた。

 

その豪快なスイングに…無意識下で変身を解いていたサイトも、それに気づかず銀色の巨人と怪獣の戦いに注目するルイズたちも、目が離せなかった。

 

ノスフェルを振り回し続けた銀色の巨人は、その最中に自分の両肘についているもののうち、右肘の刃で触手を千切り、ノスフェルは強い遠心力によって伯爵の屋敷よりさらに遠くの平原に落下した。

 

(す、すげぇ…!)

(っち…)

 

サイトはただ感嘆した。以前、初めてメビウスが世間に姿を現し、ディノゾールと戦ったあの頃のような感動が、彼の中で蘇る。

その一方で、ゼロは気に入らず、舌打ちしていた。自分の活躍の場がサイトのせいでダメになり、その直後に…知らないウルトラマンの横槍が入る。彼にとって、自分以外の光の戦士が自分よりも目立つことが不愉快だった。

 

これでは…光の国の連中に自分の力を見せつけられない。

 

 

嫉妬…これについて、ルイズも同じ感情を抱いた。

トリステイン貴族として、怪獣から国を守れるメイジでありたい。だが、自分は系統魔法もコモンマジックもろくに使えない。あのような生理的な嫌悪感すら抱く醜い化け物の良い様にされる、自分の無力さを呪った。

 

 

そんな感嘆と嫉妬の感情など察することもなく、銀色の巨人は自分の左の腕輪を胸のY字型のカラータイマーらしき器官の前に添える。一瞬だけ青白く腕輪が煌めき、腕を下ろすと、巨人の体がさらに強い青白い光に包まれていく。

 

銀と黒の模様が、変わった。血のような、それとも炎のような真っ赤な深紅の色だ。

 

(変わった…?メビウスと同じ能力なのか!?)

 

メビウスも時折体の模様…形態を変えて戦う、それまでのウルトラマンにはなかった特異体質を持つウルトラマンだった。サイトの中で、メビウスとあのウルトラマンの姿が重なって見えた。

 

 謎のウルトラマンはさらに新たな挙動を見せる。両腕の腕輪を十字に重ねると、彼の右拳がまた青白く光り、ノスフェルの方へと付きだす。ウルトラマンおなじみの光線技、それも怪獣に止めを刺す威力抜群のそれだろうか?サイトはそう推測したが、外れた。

光線はノスフェルの眼前からぶわっと広がり、その悍ましい姿を覆い尽くす。オレンジ色の光のドームが出来上がると、謎のウルトラマンはその光の中へ自ら突っ込んでいった。

ノスフェルとウルトラマン…その二体の巨大な存在を包み込んだ光のドームは、やがて天井から消失、その中にいるはずのノスフェルとウルトラマンの姿は…影も形もなかった。

 

「消えた…!?」

 

目を凝らしても、目をこすっても、透明になったようにも見えなかった。

 

サイトの困惑した声が、月明かりの夜の風の中に溶けて行った。

 

 

 

 

 

ルイズたちとその後合流したサイト。とりあえずゼロに助けられたと適当に無事だった理由をつけると、目を覚ましたシエスタはサイトに飛びつき、彼の胸の中で泣きわめき、ルイズはその姿を見て心なしか目くじらを立てた。

 

「また勝手にいなくなって…いったいいつになったら使い魔としての自覚を持つのよ、あんたは」

 

 学院から戻ってくると、馬小屋の前でルイズから説教された。

 

「それとシエスタ、今夜の伯爵家で起きたことなんだけど、多分後であなたにも先生方から事情を訊かれると思うわ。落ち着いて正直に答えるようにしておきなさい。下手に嘘ついたり誤魔化そうとすると怪しまれるわ」

「なんで?シエスタは何も悪いことしてないだろ!」

 

間違ったことはしていないはずの自分に注意を入れるばかりか、完全に被害者であるシエスタにも指摘を入れてくるルイズに、サイトは抗議した。

 

「あの時、屋敷に怪獣が現れたことは私たち以外に知っている人はいない。伯爵の屋敷を破壊し暗殺した疑いをかけられる可能性があるのよ」

「そんな…そんなことできっこないのにどうして!」

「それだけのことをしたのよ。あんたの行いは。だから今後は、勝手な行動は慎むこと。いい!?」

「だったらシエスタを見捨ててしまえばよかったっていうのか!?」

 

納得がいかない様子でサイトはルイズに反論する。

 

「そこは『はい、すみませんでしたご主人様』でしょ!なんでわからないのよ!」

「別にいいじゃないの。寧ろ女の子のピンチを救いに行く男の子、すごく勇敢でかっこいいじゃない。ダーリンにますます惚れ惚れしちゃうわ」

 

理解を示そうとしないサイトに、苛立ったルイズが憤慨すると、キュルケが茶々を入れてくる。

 

「あのねぇ。使い魔を甘やかさないでもらえる?あんたがそうやって…」

「そこまで」

 

キュルケに黙るように言おうとしたルイズ。そこでタバサがすっと、ルイズに身の丈ほどのスタッフの先を出して制した。そして今度はサイトの方にも向き直る。

 

「ギーシュとの決闘も、あなたが感情を抑えきれなかったことが発端でもある。

言葉を選ぶことを忘れたら、貴族のほんのちょっとした気まぐれで殺されることもある。下手をすれば、あなたもシエスタも伯爵に殺された可能性があった。現にあなたは、身分の差も弁えず、伯爵の逆鱗に触れた」

「タバサ………」

「あなたがどこから、どんな国から来たのかはわからない。でもこの国では、そんなことも起こる。シエスタや、ルイズを想うなら、ルイズの言う通りにする」

 

 自分はともかく、シエスタにも命の危険が及ぶ。ルイズにも今後の彼女の生活に支障をきたす事態が起こりうる。それも、同じ人間の手で。

 タバサがそう伝えたことで、ようやくサイトは理解した。

 

「…ごめん」

 

自分は、冷静さを欠くあまり、自分の起こした行動で周りにどんな影響が出るかを失念していた。

 

(俺は…なんてザマだよ)

 

これでは…周りの犠牲を顧みなかったゼロと全く変わらないではないか…。

キュルケが用意してくれたせっかくの家宝(エロ本だが)も無駄になってしまったし、タバサにはわざわざ使い魔の風竜を使わせてもらったり、ルイズに心配をかけた。

しまいには変身してもあの様だった。あの怪獣との戦いで己の意思と無関係に、本来のサイズと比べて一回り小さいサイズのゼロに変身してしまったのだ。そんなちっぽけな体で怪獣と真正面から渡り合うことなんてできないのに。俺は全く歯が立たなかった。

 自分は結局、大して何もできていなかった。しかもゼロによると、自分とゼロが一緒に戦うことを拒否しているせいだと言った。正直ゼロの周囲を顧みない戦い方は気に障る。だからかもしれない。でも、結局それが原因で変身しても役立たずに終わったのだ。あの時現れた、銀色のウルトラマンがいなかったら…。そう思うと悔しくて仕方ない。

 

「ねえダーリン。ダーリンってウルトラマンに詳しいでしょ?あの銀色の巨人とか、怪獣は見たことないの?」

 

 キュルケからそう言われると、サイトの脳裏に、モット伯爵の屋敷周辺で遭遇したあの銀色のウルトラマンの姿が浮かぶ。

 

『ゼロ、今はわだかまりなしで訊くぞ。あの銀色の巨人は誰なんだ?』

 

あれから一つできるようになったことがあった。直接口に出さず、サイトとゼロが互いに言葉を交わす、つまり同化している者同士のテレパシーができるようになった。気づくのが遅かったが、正体を隠しつつ怪獣や星人と戦う道を選んだ者にとって結構便利な能力だ。

 

『知るかよ。あんな姿のウルトラマンなんか見たこともない。あの枝分かれした形のデカいカラータイマーみたいなのもそうだったし、宇宙警備隊にもあんな姿の奴、いたら目立ちすぎるぜ』

『じゃあ、あの怪獣のことも?』

『あいつもあいつで、気色悪すぎて嫌でも記憶に残るだろ』

 

 そうか…完全未確認の、新種のウルトラマンと怪獣ということなのだろう。そう結論付けたサイトはキュルケに向かって首を横に振った。

 

「わからない。俺も初めて見る奴らだった」

 

 あんな姿のウルトラマンは直接見たら一生忘れることはない。それだけ変わった姿をしていた。ゼロも語ったことだが、怪獣に至ってもそうだ。

 

また、会えるだろうか?銀色の巨人に思いを馳せるように、遠い空を眺めた。

 

「ふぅん…」

 

キュルケはすぐに興味を失ったのか、それ以上は尋ねてこなかった。と言うより、それ以上に関心を寄せる人物に気を惹かれていた。

 入れ替わるように、シエスタがサイトの前にやって来た。

 

「サイトさん。本当にありがとうございました!」

「シエスタ。い、いや…俺は何も…」

「あの時、伯爵や怪物になったばあやたちから、私を守ってくれたじゃないですか!やっぱりサイトさんは、私たち平民の希望の星です!」

「え?」

 

 シエスタの話に、サイトは首を傾げた。

 

「怪物になったばあやって、なんのこと?」

 

 そうだ。そのばあやとやらのことをサイトは知らない。シエスタを助けに来たときは、すでに何もなかった。ただ一人、タオル一枚だけのシエスタしかいなかった。全く心当たりがない。

 

「またご謙遜を。サイトさんがいなければ、きっと私、あのおばあさんの怪物に…その後にも現れた怪獣に食べられていました」

 

しかしシエスタは気づかない。

 

「で、でも…俺結局何もしてないよ。ルイズたちにも迷惑かけちゃったし…」

 

先ほどルイズやタバサから受けた指摘を思い返し、結局自分が今回いいところが何もなかったことを自覚し謙遜するサイト。

シエスタはいいえ、と首を横に振る。

 

「サイトさん、私を助けてくれたのはウルトラマンではありません。サイトさん…あなたなんです」

 

 そう言った直後、シエスタは彼にすっと歩み寄り、自分の顔をサイトのそれに寄せる。 

一瞬のことだった。サイトは自分の頬にしっとりとしていて柔らかい感触が触れているのを感じた。

 

「へ?」

 

その正体を知った途端、彼の表情は朱色に染まる。シエスタが、サイトへの感謝の印に、彼の頬に口づけしたのだ。

それを目にしたルイズは唖然、キュルケはまぁ!と声が漏れつつ面白そうに見ていた。

 

「じ、じゃあお休みなさい!」

 

 恥ずかしげに唇を離したシエスタは、そのまま寄宿舎へ戻って行った。口づけされた頬に触れたまま、サイトはその場で呆然と立ち尽くしていた。

 

「ちょ…どど、どういうことよ!」

 

ルイズは走り去るシエスタと、突っ立ったままのサイトを交互に見返しながら動揺を隠せずにいた。

 

「あらあら、あのメイドったら…あたしの前でダーリンにあんなことするなんて、なかなかやるじゃないの」

 

キュルケは動揺など欠片も見せず、心の中でより一層恋の炎が燃え上がっていた。

 

「へへ、なんでい相棒。役得じゃねえか」

『けっ…人の気も知らないで女といちゃつくとは、いい気なもんだぜ』

 

 デルフのからかいも、ゼロの悪態をつくような言葉も、その時の彼の耳を突き通っただけだった。

 

いいところがない。そう思っていたサイトが、今回のシエスタと救いたいと思って動いたことが、色んな意味で後悔していないと思ったのは、それからしばらくしてからだった。

 

 

 

 地球…。

 ハルナはその日、学校の予習も兼ねて図書館に来ていた。そして一つの本を見つけて手に取って題名を読む。題名は『異世界説』。胡散臭い本、といつもの彼女なら思う。だが、彼女は机に座ってその本を読み始めた。好奇心からなのか藁にもすがる想いなのか。

 内容は43年も前に空中パトロールで空を飛んでいた二機の対怪獣飛行兵器の内の一機が、日食の中に消えると言う奇妙な内容だった。

 

『私と彼が日食の光の先に見えた奇妙な穴に飲み込まれた時に見たのは、見たこともない大地だった。建物のつくりはとても私たちの国のモノとは様式が違っていた。上空から見た花畑、あれは私が見たこともなかった美しい花々だった。

そして何より驚いたのは、竜だった。偶然私の隣に、小さな竜が興味深そうに私たちの顔を覗き込みながら横に並んで飛んでいたのだ。日本の屏風に描かれたものというより、西洋人の考えた想像上のドラゴンに近かったが、それでも私は確かに見たのだ!この世の生き物であるはずがなかった、竜を!怪獣というにはとても大人しいものだった。

私は思った。我々は、あの日食の先を行き、異世界にたどり着いたのだと!』

 

 ハルナは、無意識に呟いた。

 

「異世界…」

 

 文章には、あまりにもファンタジックな単語が使われていたのだ。

 公式には任務中で殉職したとされていた。だが、この本を記した人物は、戦友があの日食の中で死んだことを否定していた。引き返す直前に、この本の執筆者はこう記していた。

 

『できればあの竜と触れ合ってみたかったが、このとき日食が終わろうとしていた。

あの日食が終われば、私たちは帰れなくなる。そう予感した私はすぐ相棒にハンドシグナルで、あの日食に向けてもう一度戻るように知らせ、彼も同じように予感したのか頷いた。

 だがそれが私と彼の最後の対話となったとは夢にも思わなかった。日食の光の向こうへ着いたとき、日食は終わっていた。私は戦友の姿を確かめようと明るくなった周囲の空を見渡してみた。だが、彼の姿はどこにもなかった。通信を行ってみても応答はない。

 私は絶望した。あいつ一人だけ取り残されてしまったのだ』

 

 この本を記した人物の機体はすぐに引き返してきたらしいが、もう一機は行方不明だと言う。いなくなったパイロットの名はどうしてか破かれていた。マナーの悪い客もいたものだ。

 

『私は死ぬその時まで、必ずあいつのいる異世界への道を突き止めてみせる。そして、もう一度あいつに故郷の大地を踏ませてやりたい。きっと一人孤独に異世界の空気を吸って故郷を恋しがっているだろうからな。

 もし眉唾物臭いこの話を信じてくれる者がいたら、どうか…どうか私と共に、もし私が死した後ならばこの意思を受け継いで彼を故郷へ連れ戻してほしい。故郷を愛するために戦い続けてきたあいつを。かつてゴース星人に誘拐された私を救ってくれた誇り高き戦友「ウルトラセブン」のように…。

 

元ウルトラ警備隊 アマギ』

 

 文章はそこで終わっていた。

 SF臭い上にファンタジックさ溢れる果てしない話だったのだが、ハルナは決して悪い気持ちにさせられなかった。寧ろ、彼女の心に希望が芽生えてきたのだ。

 

(もしこれが本当なら平賀君は…!)

 

 生きている!それも、異世界でだ!

 しかし、いかに調べたとてサイトが本当に異世界で生きているかどうか定かになったわけではない。証拠もないままなのだから。だんだん彼女はこの異世界説に興味を沸かせた。サイトを一途に思うその想いは完全独奏、止まることを知らなかった。彼女はとにかく、異世界につながるものは何かないか、調べ上げていった。

 そうすると、次に面白い話を発見した。

 内容は、『宇宙で生まれ、宇宙に殉じた英雄』という約5年前の記事。記事を読み上げていくハルナだが、後悔した。今度の記事は、残酷な内容を孕んでいたのだ。

 

『バン・ヒロト。

享年18歳(推定)。火星で再出される資源『スペシウム』回収プロジェクトの参加者にして、プロジェクト責任者兼宇宙船『アランダス』の船長を務めた惑星地質学者「バン・テツロウ」の子。

 突如発生したウルトラゾーンの誘引力によってアランダスが飲み込まれそうになった際、スペシウムを積んだ貨物へたった一人乗り込み、貨物船とアランダスと切り離し、貨物共々ウルトラゾーンへ消えた。その後、GUYSのウルトラゾーン調査によって遺品が発見。遺体は見つからなかったが、発見された辺境の星がレッサーボガールの巣窟であったため、遺体は捕食された可能性が高い。

火星で生まれ、地球の大地を踏めなかった悲劇の英雄。

 ウルトラマンメビウスは地球来訪直前、この場に居合わせていたが、バン・ヒロト救出に間に合わなかった。それを悔いた彼は地球人「ヒビノミライ」として留まるために彼の姿を借りたと言う』

 

 なんてことだろうか。異世界かどうかはわからないが、ウルトラゾーンという穴に飲み込まれたこのバン・ヒロトという青年は生きて帰ることが叶わなかったという。

 よくよく考えれば、二機の飛行兵器の一方のみが帰ってきた、その記録の筆者が戦友を見つけたという記述はどこにも見当たらない。つまり、たとえ異世界が存在していると言う確証が持つことができても、それがサイトを連れ戻すための手段になるわけではないし、保証が付く訳ではないのだ。

 この残酷な記事の著者を、ハルナは恨みたくなった。

 またしても途方に暮れるしかなくなった。一体ここからどうすればいい?どうしたらもう一度サイトに会えるのだろうか。アンヌを安心させてあげたい、サイトにもう一度自分の目の前で笑って話をしたい。一途に思いを強めていく

 もう夕方だ。家に帰らないと、両親の雇ったハウスワーカーの人が心配する。彼女は図書館を出て、一人寂しく帰り道を辿って家へ戻っていく。

 

「平賀…君…どこへ行ったの…?」

 

 顔を見たい、声を聴きたい。言葉を交わしたい。

 もう一度、触れたい…。夕日に照らされた彼女の頬を滴り風に溶けて行った涙は、黄金色に輝いていた。

 

 

 

 

 先日の一件で、ゼロはサイトへの評価を著しく下げていた。自分の意思とサイトの心が全く釣り合わず、よりにもよってたったの5m程度の大きさにしか変身できず、ノスフェルに全く歯が立たなかったことに不平を漏らさずにはいられなかった。

 

『ったく、お前のせいでこの前の戦いは散々だったぜ』

 

 そろそろその日の授業が全て終わり、教室を後にするルイズを迎えに行くサイト。その日はずっと他のメイジたちが使役する使い魔たちが待機している中庭や、シエスタたちのいる厨房に行ったり来たりの繰り返し。それ以外は、ゼロと会話の時間だった。人目にある場所が多い上にサイトが一人でいられる時間も限られているので、ゼロとの会話は互いの不満が降り積もる状況下だと、ずっと言わずにいた鬱憤晴らしを互いに吐き散らす時間になりつつあった。

 

「なんで俺だけ責めるんだよ」

 

 実際あのチビトラマン状態の原因の一端はゼロ自身にもあるのに、それをゼロは認めようとしていない。納得しかねるとサイトは、左腕に装備されたブレスレッド状のテクターギアを通してゼロに言いかえす。

 

『お前は黙って、俺に体を貸しておけばそれでよかったんだよ。だってのに、余計なことしやがって!』

 

 その自分勝手な言い分にサイトは苛立ちを覚える。

 

「あのな!お前らウルトラマンは地球とかじゃその姿を長く保てないんだろ?つまり俺というアパートの提供者で、お前は家賃を払いながら住まわせてもらってる住人。屋根の下ではそこの規則に従うのが筋ってもんだろうが」

『うるせえ!!わけのわからねえことをごたごた抜かしてんじゃねえよ!お前だって地球でクール星人に襲われた時は俺のおかげで助かったようなもんじゃねえか!』

 

 とても同じ体を共有している者同士とは思えない。完全な喧嘩状態だった。

 

「…出てけ…!!」

 

 ついに我慢ならなくなったサイトはついに、ウルトラマンと同化している人間が最も言うべきことではなかった言葉を言い放った。

 

『へ?』

「お前とは正直そりが合わない。今すぐ俺の体から出てけ!!」

 

それを聞いてゼロもわざと鼻で笑い飛ばすように吐き捨てた。

 

『ああ、そうかよ!だったら言われた通り出て行ってやんぜ!後で後悔して吠え面かくんじゃねえぞ!!』

 

 ここまで来てしまったのならもうこいつと同化する意味はない。こいつの望み通り今すぐ分離してやる!サイトの精神内のゼロは頭上を見上げ、すぐに飛び立つ姿勢に入り、空高く飛び上がろうとした。その時、偶然にもサイトの左手のルーンがきらりと青く光った。

 

 しかし、一分後………。

 

二分後……。

 

三分後……。

 

「…おい、ゼロ」

『…あ?』

 

 しばらくの沈黙を、サイトが破った。

 

「なんでまだテクターギアが俺の左腕に巻かれたまんまなんだよ。なんでまだお前が俺の中に居やがるんだよ?」

『知らねえよ!出たくても出られねぇんだよ!お前の体から!』

「なんで出られねぇんだよ!」

『俺が訊きてえよ!』

 

 これはどうしたことか。サイトとの分離を試みたゼロなのだが、どういうわけか未だサイトと一体化しているままだった。一体なぜ?原因のわからない現象に疑問を募らせる二人。すると、サイトの背中に背負われていたデルフが鞘から顔を出してきた。

 

「あ~相棒。もう一人の相棒とは同化してるって言ってたよな?もしかして娘っ子と契約する前に同化しちまったのか?」

「あ、ああ…」

 

頷くサイト。

 

「多分そのせいだな。娘っ子と使い魔の契約を交わした時に、もう一人の相棒も同じ体を共有していたことで、あの娘っ子の使い魔としてもう一人の相棒もカウントされちまったんだ。ルーンが楔になって、二人が分離するのを邪魔しちまってんだよ」

 

 さっきどうしてかルーンが光っていたのはそのせいだった。サイトの持つ使い魔のルーンが、二人を繋ぎとめる、決して絶つことのできない鎖となって二人の分離を邪魔していたのだと言う。

 

『んだそれ!!俺があんな生意気なチビ女の下に着いたってことなのかよ!?っざけんなっての!!俺は死んでも嫌だっつーの!んな厄介な役割は全部サイトの役目だろうが!』

 

 ゼロとしては、ルイズの下僕として彼女に一生仕えたままの人生なんてまっぴら御免のようだ。

 

「だーーーーもう!人の頭の中でギャーギャー喚いてんじゃねえよ!!」

 

 頭の中で絶望の喚き声を上げるゼロに、サイトもまた喚いて黙らせようとすると、サイトは急に後頭部を叩かれた。

 

「痛!?」

「あんたこそ神聖な学び舎で何をそんなに喚き散らしているのよ!!うるさいったらないわ!」

 

 振り向くと、授業を終えてきたルイズ・キュルケ・タバサの三人がそこにいた。

 

それからしばらく、サイトはルイズからねちねちと説教されていた。他の生徒の迷惑になるからギャーギャー喚くなとか、邪魔になるような場所をうろつくなとか、女子生徒のスカートを覗くような真似をするなとか、関係のないことについても厳しく叱りつけてきた。主人というよりもまるでどこか母親臭い内容だった。実際キレたルイズもうるさすぎて敵わないが…。

 

「全く、使い魔やっている以上はちゃんとそれらしく様になるようにしておきなさいよね。

昨日のメイドから…その、きき…キスをされて浮かれてんじゃないの」

「そ、そんなんじゃねーよ!」

 

 ふんと不機嫌そうにふんぞり返るルイズを見て、サイトは頭の後ろを掻く。そんな二人を見てクスクスと笑いながらキュルケはサイトを見る。

 

「やぁねヴァリエール。そんなにヒステリックになってちゃダーリンが怖がって萎縮しちゃうわよ?」

「外野は黙ってなさい」

 

鬱陶しそうにルイズが言い返すが、キュルケは無視した。

 

「そうだわダーリン、そんなことよりももっといいものがあるのよ。ちょっとついてらっしゃい」

「え、おい、おいキュルケ!」

「ちょっとキュルケ!人の使い魔をどこに連れて行くつもりよ!待ちなさいってば!!」

 

 急にサイトを引っ張り出すキュルケ。そんな彼女を、いつものような不機嫌顔でルイズはキュルケを追いかけて行った。

 

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