ルイズたちが授業を受けている間のこと…。
学院長室でロングビルはデスクワークを一通り終えると、オスマンの方を向く。
机に伏せて眠りこけていた。すると、彼女はまるで物語に登場する悪役の女性のような、妖艶で不敵な笑みを浮かべだす。周囲の音を消す『サイレント』の魔法をかけ、学院長を出る。
今の時間は生徒は廊下を通らない。その上教師は授業に当たるものや職員室に篭っている。侵入者対策に、平民の衛兵とは別に教師による見回り当番を設けているのだが、どうせ賊など来ないし大した相手でもないと言う慢心と油断が大きな隙を見せていた。
先日のクール星人の襲撃の件で警備を強化する案が出たものの、あれだけのことができる脅威がそう何度も来るはずが無いとたかを括っていた。
今、ロングビルがこうして宝物庫の前に立っているように。
「扉にかけられし戒めを解き放て」
彼女は宝物庫の錠を杖で軽く叩いて見せた。アンロックの魔法である。しかし何も起こらない。いや、まさかこんな重要なものを隠してそうな扉にコモンマジックが通じるはずもないか。なら、自分のような土のメイジが得意とする『錬金』ならどうだろう。宝物庫の分厚い扉に向けて杖を振った。魔法が扉に届きはしたが結局それだけで、待ってみても扉に変化はない。
どういうことか、彼女は宝物庫を開けたがっていた。
「スクウェアクラスのメイジが『固定化』をかけていたってことね。全く手間ばかりかかるねぇ。何かいい手段はないかしら…?」
メガネを掛け直したロングビル。自分は土の魔法に関してエキスパートだと自負しているが、得意の錬金を全く受け付けないとなると扉を開けるのは困難だ。
「そこで何をしているのですか!?」
見つかった!?ロングビルは驚きはしたが、すぐに振り向こうとはせず、冷静にゆっくり背後を振り返ってみる。そこにいたのは、ルイズたち二年生の春の使い魔召喚の儀式に付き合っていた、同じくこの学院に努めている中年の男性教師、コルベールだった。
「おや、ミス・ロングビル。なぜここに?」
てっきり狼藉者かと思っていた彼は目を丸くしている。ロングビルは愛想のいい笑みを見せて言った。
「ミスタ・コルベールでしたか。いきなり話しかけられたので驚きました。宝物庫の目録を作ろうと思ってきたのですが、うっかりオールド・オスマンから鍵をお借りするのを忘れてしまって…」
「なるほど。ここの宝物庫はひとつずつ見て回っても一日以上はかかりますぞ。ガラクタもひっくるめて所狭しと並んでおりますから」
「あ、そういえば学院長は今眠ってしまわれてたのを忘れてましたわ。あの方は一度寝るとなかなか起きませんのに困りましたわ…」
「やれやれ…あの学院長は…後で私も伺うとしましょうか」
「助かります」
宝物庫の鍵のことは後にしよう、そう決めたロングビルはコルベールと横に並んでこの場を後にしていった。ふと、彼女はコルベールに尋ねてみた。
「ミスタは宝物庫の中にお入りになったことは?」
「ええ、まあ」
「では、『破壊の杖』のことはご存じ?」
「ああ、あの破壊の杖ですか。あれは杖というには奇妙な形をしておりましたよ。説明のしようがございません」
「そうですか…。それにしても宝物庫のつくりは立派ですわね。どのようなメイジでやっと開けられることやら」
「そうですな、メイジでは開けることは不可能と聞いております。ですが私はあの扉に弱点があると考えております」
「そ、それはなんですの?」
思わず飛び跳ねるような声を上げかけたロングビル。その弱点に興味を抱いていた。
「物理的な力ですな」
「物理的な力、ですか?」
「ええ、巨大なゴーレムとかでしょうか。まあ、最も物理的な力といっても、頑丈な作りとなっておりますからな。そう簡単には開けられますまい。敢えて言えば…」
ふむ、と顎に手を当てて考え込むコルベール。真を終えると彼はこう答えた。
「そう、最近あの平民の少年が名を広めたと言う『ウルトラマンゼロ』。彼ほどの腕力が必要かもしれませんな。何せ、学院を襲撃してきた円盤だけじゃない。城下にも出現した怪獣に強烈な打撃を与えましたからな」
「はぁ…」
ウルトラマン並のパワー。そう聞いてロングビルは悩んだような表情を浮かべた。
(ウルトラマンねえ…
『あいつ』がゼロって巨人の話を聞いたらどんな顔してただろうね)
ちょうど廊下の窓の前に差し掛かったところで、ロングビルは外の夕日の景色を眺めたのだった。
夜。ルイズの部屋ではもめごとが起こった。
「どう、ダーリン?この黄金の剣、ゲルマニアのシュペー卿が鍛えたと言う業物よ」
キュルケが、あのトリスタニアでディノゾールがゼロに倒された後、店を壊された武器屋の主人へのささやかな援助を兼ねて、彼が最も高く売りさばいていた黄金に輝く剣を買ってきたのである。ちなみに色仕掛けで500エキューにまけてもらっていた。せっかく高い値段で売ろうと思っていたのに、キュルケの色香に惑わされた武器屋の親父は援助金というにははした金額でしか無い賃金で、後悔のあまり酒にありついているだろう。
すでにデルフをサイトに与えた…それ以前にヴァリエール家の娘であるルイズとしては非常にいい気分ではない。
こんな騒ぎの中、キュルケと一緒に来ていたタバサは部屋の椅子に座って本を静かに呼んで我関せずと言った様子だ。
「あ、あの…」
答えにくそうに言葉を詰まらせるサイト。それも
そのはず、この剣は業物というには程遠いなまくらだとゼロが判断したものだ。気に入らない奴だが、要らない嘘をつくような奴じゃないと思う。それにルイズがいかにも機嫌を悪くしているため、素直に受け取り辛い。が、キュルケはこの剣がなまくらだと知らず、あくまで自分へ好意的にプレゼントしてくれているから突っ返すというのも気が引ける。
「キュルケ、サイトが困ってるじゃない。そんな剣をもらったところで、もう剣は間に合ってるの。ねえサイト?」
「あ、うん…」
「ダーリンだってあの剣が欲しかったんじゃない?ルイズの買ったぼろ剣よりも役に立つはずよ」
「あ、うん…」
どうしよう。二人の女性から贈り物をされたシチュエーションにどこか喜びもあったサイトだが、彼のようなごく最近までモテもしなかった男はこの対処法について考えないままなのが大変なな話だ。
『おいサイト、そんな役に立たねえ剣捨てとけばいいだろ?』
きっぱり容赦なく捨てろと催促する、サイトと同化しているゼロ。容赦ない宇宙人だ。
『そうもいかないだろ。女の子がくれたものをポイ捨てするってのはさ…』
いかに外見・精神共に大人びて見えるキュルケでも、自分の与えたものを捨てられたりしたらいい気分でないのは目に見えているし、何よりサイト自身の良心が痛む。
『バーカ、あれはお前の気を引くための餌でしかねーだろ。どうせ別の男が現れたら、すぐにお前から乗り換えるに決まってる』
ゼロからすれば、どうせサイトとも遊びでしかないし、冷たくしたところでたいしたダメージにもならないと判断していた。
『それはわかるよ!それは。でも…もらわなかったらそれはそれで…なんかキュルケがかわいそうだろ?もしかしたら…その、本気かもしれないし』
『ちっ。甘い奴だな』
優柔不断で助平な宿主に、ゼロは呆れる。といっても、これはゼロ自身現在の状況について全くの無関係な第三者だからできることである。
「まったく、嫉妬はみっともないわよヴァリエール」
キュルケは勝ち誇った様子で言うと、ルイズはムキになって反論する。
「嫉妬ですって?誰がよ!」
「だってそうでしょ。サイトが欲しがってた剣を手に入れてプレゼントしたのが私だから嫉妬してるんじゃなくて?」
「だ…誰がよ!やめなさいよね!ツェルプストーからは豆の一粒だって恵んでもらいたくないだけだから!」
ヒートアップする不倶戴天の敵同士の二人の言い争い。サイトはどうしたらこの状況を抜け出せるのか悩む。ふと、キュルケがくれた剣とルイズが買ってくれたデルフを見る。
どうしよう…。黄金の剣をこのまま黙ってもらうことにルイズは間違いなく癇癪を起す。かといってキュルケが庭付きの屋敷を買えるほど高い金を払ってまで買ってくれた(実際はたったの500エキューだが)この剣を突っ返すことも気が重い。
「ほら、ごらんなさいな。サイトは私の剣を気に入ってるみたいよ」
二つの剣を見て悩んでいるサイトを見て、キュルケは勝手に彼が名残惜しげに黄金の剣を見ていると判断した。
「これだからトリステインの女ってお堅いのよ。ヒステリーでプライドばかり高くってどうしようもないわ」
ルイズはぐっとキュルケを睨んだが、ひるまず彼女もキュルケに言い返す。
「ふ、ふんだ!あんただってゲルマニアで男を漁りすぎて相手にされなくなっただけでしょ!だからトリステインにわざわざ留学までして、色ボケの癖にご苦労なことね」
すると、余裕の笑みを浮かべていたキュルケの目つきが変わる。
「へえ…魔法も胸も女としてもゼロのあんたが、言ってくれるじゃない」
「だ、だだだ誰が胸がゼロですって!だいたいあんたの男癖の悪さは本当のことでしょう!」
バチバチバチと、二人の視線上に火花が走り出す。すると、会話に一度も入ってこなかったタバサが本から目を放して、ルイズとキュルケに一つ提案を出した。
「本人に選ばせる」
「え!?」
俺に振るの!?できればこのままほとぼりが冷めるのを願っていたサイトだったが、それも叶わぬ望みとなる。
「そうね。あんたの剣のことで揉めてるんだから。サイト、選びなさい」
「どっちがいい、ダーリン?」
サイトは必死に考え込む。この選択はいうなれば、ルイズかキュルケ、付き合うならどっちだ!?と尋ねられているようなものだ。
ルイズは、容姿はサイト好みで、素直じゃない上に癇癪持ちで短気だが、モット伯爵へ自分が独断で向かった時は見捨てようともせず自分を助けようとする優しい一面がある。だがキュルケは目の覚める大人の美人女性といった感じ。彼女のような美人に好かれることは一生あるか無いか。
『なあゼロ、助けてくれよ…』
どうしようもないからって、ゼロに助けを求めてしまうサイト。男としてちょっと情けなく見える。
『あのな、お前がとっととあのデルフってのを選ばないから悪いだろうが。どうせ俺がキュルケの剣を捨てろとか言っても聞かないだろ?だったらお前が選べ』
案の定あっさりと一蹴されるサイト。タバサもこの選択の提示者だし、あの子はサイトを助ける義理もないから当てにできない。さあこれで後がない。サイトは考える。
―――どうする?どうするんだ地球人平賀才人!!
1.ルイズの買ってくれたデルフ
2.キュルケの買ってきた黄金の剣
カチッ、カチッ、カチッ、カチッ…。
時間と共に悩むことのできる時間が短くなっていく。すると、サイトはグワ!!と目が飛び出るほど刮目した。
(こうなったら、奥の手だ!)
奥の手、この危機的状況で聞くほどかなり魅力的なものに聞こえるだろう。しかし…。
「両方ともって、だめ?」
結局優柔不断なサイトだった。てへっとかわいく言うが全然かわいくない。両方という曖昧な選択を聞くや否や、ルイズはともかくキュルケまで怖い目つきでサイトを睨むと、二人同時に、とても対立する者同士とは思えないほど息ぴったりな、ウルトラゼロキック・またはある獅子の名を持つ戦士顔負けの強烈な蹴りをサイトの顔面にお見舞いし、サイトは床に転がった。
最近トリスタニアで噂される、トライアングルクラスの泥棒メイジ、『土くれのフーケ』。
彼女は主に貴族の屋敷、それも相当の成金や権力に縋る豚のような貴族の屋敷に忍び込み、そこの宝石・財宝・マジックアイテムを盗み出すことを生業としている。
彼女は主に錬金の魔法で屋敷の壁・扉・床を二つ名の通り砂や粘土に変えてしまい、保管されている財宝を奪い取っていく。捕まえようにも神出鬼没な上に、いざ戦闘に入って捕まえようとしても、彼女は巨大ゴーレムを作り出し、複数のメイジをあっさりと蹴散らしてしまう。だからここではすでに女性であることを明かしてはいるが、フーケの名を聞いたことのある者さえ、男性か女性なのかさえわかっていない。
土のトライアングルクラスのメイジ、そして盗みを終えると『○○、確かに領収しました。土くれのフーケ』と明らかに相手を馬鹿にしているようなふざけたサインを残すのだ。
そんなフーケだが、今夜の双月に照らされている魔法学院の中央の本塔の外壁を登っていた。長い新緑色の髪をなびかせ悠然とたたずむ姿は、まさに国を恐れさせる怪盗の風格を漂わせている。
「物理攻撃が弱点とか言う割に、やはり頑丈にできているね。固定化以外の魔法をかけてないみたいだけど、私のゴーレムじゃ穴をあけられないか…」
錬金もゴーレムの攻撃でも宝物庫の突破は不可。歯噛みするフーケ。
(だからってここで『破壊の杖』を諦めるわけにはいかないね。あれだけのお宝は滅多に聞きもしない。珍しいものほど高く売れる。村で待ってる『あの子たち』のためにも必ず…)
薄汚い私利私欲ではない、使命感を帯びたような目で彼女は宝物庫の壁を見下ろす。
ふと、フーケは近くの塔で何か奇妙なことが起きているのを目にした。地上を見ると、見覚えのある生徒が三人、そしてもう一人黒髪の少年がメガネの少女の乗る竜から、ロープでぐるぐる巻きにされている状態でレビテーションの魔法で浮かされた後に塔から吊るされていた。
(あいつらは、確か…ゼロって呼ばれているヴァリエールの御嬢さんたちか。例の使い魔君もいるね。私が言うのもなんだけど、こんな時間に何しているんだい?)
あそこはちょうど宝物庫の壁だ。あまり目につくと怪しまれる。見られないように彼女は、サイトたちに見られないよう物陰から覗き見る。
「悪かったよ二人とも…ちゃんと選ぶから、下ろしてくれよ…」
吊るされているサイトは懇願するが、ルイズとキュルケは聞いていない。
「悪かったのは私たちの方よ。最初からこうすればよかったわ。ねえヴァリエール」
「そうねぇ、このやり方の方が一番はっきりするもの」
「いいこと、ルイズ。あのロープを切ってダーリンを地面に落としたほうが勝ち。勝った方の剣をサイトが使う。これでいいわね」
「いいわ。貴族に二言はないわよ」
なんとも馬鹿な決闘の形である。サイトのせいもあるが、この決闘は奇妙さの塊だった。勝手に話をトントン拍子に決められていく様に、完全に決闘の生贄にされたサイトは「馬鹿!鬼!」と二人に罵声を浴びせたが一切聞かれなかった。
「なあゼロ~、同じ体を共有する男の危機だぜ。なんとかしてくれよ…」
同化しているゼロに助けを求めるサイトだが、ゼロは澄ました声でサイトに言う。
『あのな、こんな高さから落ちて死ぬわけねーだろ』
「それはお前が宇宙人だからだろ!俺たち地球人は死んじゃうの!!」
『俺と同化してるから肉体強化はされてるだろ。だったら今の体の頑丈さを知ることができてよかったじゃん?』
「この野郎…!!なんで俺はこんな奴と合体したんだろ…平賀才人一生の不覚…」
『な、なんだと!!!?』
以前サイトに言ってやったセリフを返されたゼロは納得しかねる様子で声を荒げた。
その時にはすでにルイズの杖に光が灯っていた。
「サイト、避けるんじゃないわよ!いいわね!」
「え、あ、ちょっと…うおおおおお!!?」
サイトの断りを入れる間も与えず、ルイズは火球を出す魔法『ファイヤーボール』を出す。…が、やはりただの爆発。それもサイトのすぐ後ろの壁付近で爆発が起こる。まるで自分の至近距離でダイナマイトをぶっ放されたような感覚に、サイトは恐怖する。
「こ、殺す気か!!」
「あはは!さすがゼロのルイズね」
しかしルイズはサイトの心配をしていない。せめて爆風でロープが切れてくれたらと思っていたが、残念ながらそうはならなかたようだ。悔しくて顔が自然と歪む。
だが、このときフーケにとって思いもよらないことが起こる。なんと、たいていの魔法でも物理攻撃でも破れないであろう宝物庫の壁に、根深いヒビが入ったのだ。
(な…壁が!?)
正直落ちこぼれ扱いされているルイズの魔法だから、ルイズ曰くちょっとした失敗で教室一つを吹っ飛ばす威力はあっても、宝物庫の壁にヒビを入れるなんてことが起きるわけないとなめきっていた。
b信じられないものを目にしたが、これはこれでチャンスだ。ヒビさえ入っていれば、あとは自分一人でもどうにかできそうだ。
すると、ルイズとキュルケの闘いは、今度はキュルケのターンに回っていた。彼女は日のトライアングルメイジ。ファイヤーボールなどお茶の子さいさい。すぐに詠唱を終えて火球を放つと、あっさりとサイトのロープに当たり、焼き切れたことによってサイトが落ちてきた。
「んぶおおおおお!!?」
悲鳴を上げて落ちていくが、タバサがあらかじめ詠唱していたレビテーションのおかげでたいした怪我はなく、ロープもすぐに解いてもらった。結局ルイズの負けが確定し、彼女は勝利を喜ぶキュルケとは裏腹に、悔しそうに草をむしり取った。
すると、突如ズシンと重みのある地鳴りが響く。巨大な何かの気配。サイトたちはその気配を目で追うと、そこにはどこからか現れた、推定30メートルほどの土のゴーレムがこちらに向けて歩いてきていた。
「きゃああああ!!」
キュルケは悲鳴を上げて逃げ出す。タバサはすぐシルフィードを滑空させ、彼女を乗せる。後はルイズとサイトだけだが、自分たちとサイトたちの間に割って入る形でゴーレムが割り込んでいる。彼らの脱出の邪魔になっていた。
「く!」
不味いことに今のサイトは武器を持っていない。素手で戦うか?今ならゼロと同化している影響でなんとか行けるかもしれない。
『サイト、ルイズの奴一人で出やがったぞ!』
「え!?」
サイトはゼロから言われるや否やルイズを探す。すると、彼女は杖を構えサイトをかばうように彼の前に立ってゴーレムを対峙していたのだ。
「サイト、逃げなさい!」
「ルイズ何言ってんだ!」
「今のあんたは丸腰じゃない!そんな状態でゴーレムと戦うこともできないわ!」
「そう言うお前だってまともに攻撃魔法とか使えないだろ!!」
「う、うるさいわね!やってみなくちゃわからないじゃない!」
図星を突かれてルイズはぐ…と憤りをこらえたが、こちらを襲ってくるのではと考えているルイズたちの予想とは裏腹に、ゴーレムはルイズたちに目もくれていない。巨大な拳を振り上げ、ゴーレムはその拳を宝物庫の壁を殴りつけると、ルイズの魔法で入れられた亀裂がさらに広がり、絶対に破られないはずの宝物庫の壁が、ついに粉々に打ち砕かれたのである。
すると、ゴーレムの背中から、そしてむき出しの宝物庫の中へ飛び込む人影が見えた。フーケである。
彼女は宝物庫の中にある、手持ちサイズの宝石をほんの少しローブの下にしまい、壁に掛けられた一つの1メイルほどの箱に目を付ける。珍しい鉄製の箱。それを開くと、とても魔法の杖には見えない鉄製の筒が入っていた。これが『破壊の杖』らしい。これは結構重かったが、運べないほどの重量ではない。彼女は破壊の杖を箱にしまいこむと、壁にいつものメッセージカードを残してから、ゴーレムに飛び乗る。
「感謝するよ!」
勝ち誇るようにフーケが地上のサイトたちに言い放つと、ゴーレムは彼女を乗せながら学院の外へズシンズシンと歩き去って行った。深追いするべきではない、タバサはそう判断して敢えてフーケを追わなかった。キュルケたちのことも心配なので地上に降りた。
サイトは、去って行ったゴーレムの方角を見る。
「あいつ、一体何を…?」
「宝物庫を破ってた」
タバサが一言だけ説明を入れた。宝物庫?その響きだけですぐに何をしたか読み取った。
「泥棒ってわけか、にしてもずいぶん派手な盗みっぷりだな…。ルハ○ンもびっくりかも」
宝物庫から出てきた時に入った時には持ってなかった荷物を抱えていたから、間違いなくあの人物が盗みを働いたことがわかる。しかし二次元でしか見たことのないような泥棒をこの目で見るとは思いもしなかった。
「?」
サイトの言っていたルハ○ンと言う単語に首を傾げるタバサ。
ルイズとキュルケの二人がサイトとタバサの下に駆け寄ってきた。怪我はなさそうだった。
ところで、あの黒ローブはどこへ行ったのだろうか。
追いかけよう。ローブの人物…フーケを追おうと、サイトは校門から校外へ出て姿を目で追う。
だが、黒ローブの人物の姿は、もう影も形もなくなっていた。
遠い空の山の間から、太陽の光が差し込んでくる。
魔法学院からの追っ手を警戒したフーケは、犯行に使ったゴーレムを二つ名の通り土くれにして破棄した後、あらかじめ用意した馬で遠くまで逃亡、さらにはその馬もまた適当に野に放って逃がし、その後は〈フライ〉の魔法で飛行し、自分の足跡が地面に残さないように逃走した。馬の足跡も消そうか考えたが、〈ディテクトマジック〉の魔法で、魔法を使った痕跡を辿られるから無意味だろうと予想してやめた。
破壊の杖の入手に成功したフーケは、学院が辛うじて見えるくらいの山岳地帯まで逃走していた。
山の斜面に開いていた洞穴に身を隠し、早速箱の中身を探る。やはり杖と言うには変わった形をしている。大きな鉄の筒にしか見えない。
試しに呪文を唱えて簡単なコモンマジックを使ってみる。だが、何も起こらない。〈ディテクトマジック〉で確かめてみても、魔力は一切感じられなかった。
「破壊の杖、なんて名を打たれてるくせに、マジックアイテムですらない?
偽物でも掴まされたってのかい?」
破壊の杖を盗もうとしたが、実際には全く違うものを盗んでしまった、名を馳せた盗賊としては恥ずかしいドジを踏んだのではと思い始めるも、それはないだろうとフーケは思い直した。
「ったく、手に入れたのはいいけど、使い方がわからないんじゃあねえ…」
どうすれば使い方を知ることができるのか。フーケは思案する。
(適当に学院の生徒を人質にして、学院長の爺を脅して、使い方を吐かせるか?あの爺は呆れるほどのスケベだが、生徒想いの人格者だ。効果はあるだろ………
いや、ダメだ。貴族の連中は確かにいけ好かないが、だからってこのやり方はあたしとしても気分が良くないし、他の教師連中の頭数を考えれば、最終的に数で押されちまう)
人質を取る手段を思いついたが、即座に却下した。人質は向こう側に苦痛を与えるのに有効な手段だが、裏を返せば自分の身を守るための盾であり、同時に足枷にもなりうる。
だが他に、破壊の杖の使用方法がわかる手段は……無い、と悟りかけた彼女だが、ふと一つ…ある人物に可能性を見出した。
ギーシュの決闘にて、彼に実質勝利したサイトである。
(学院長の爺の話によれば、あの子はあらゆる武器を使うことができるって話だ。
実際、メイジに勝てっこないはずのド素人の坊やが、ボンボンとはいえそのメイジに剣一本で勝っていた。
なら…ちょっと賭けてみるか。このまま使い方も知らないままじゃ、売りさばいても高い金を期待できそうにないし)
もうこの時点で、いや…その前からすでにお気づきになっている人もいるだろう。フーケは頭を包んでいたローブを脱ぐ。月光に照らされたその緑色の髪と、美貌溢れる顔…。
それはオスマンの秘書、ロングビルだったのである。
そんな彼女の耳に…
『GULLLLLLL…』
猛獣の鳴き声のような、そんな音が聞こえてきた。
何の鳴き声だろう。以前下見をした時は、野生動物の気配は一切無かったはずのだが…今日ここを利用するまでの間に住人が住み着いたのだろうか。
音を遮断する魔法〈サイレント〉をかけ、念のため忍び足でフーケは洞穴の奥の方へ赴いた。
そこでフーケは、あるものを目にした。
あまりにも予想外のものを。
(な、なんだ…こいつは!?)
唖然とした。
この『生き物』、ドラゴンやトロル鬼の比じゃない…一目見ただけで何メイルもある。ハルケギニア各地へ旅に出て窃盗行為を繰り返しただけに知見も広いフーケだが、こんな姿で何より巨大な魔物は見たこともなかった。
こんな生き物が、トリステインに…いや、ハルケギニアに生息していたというのか。
こいつも、もしやこの前王都に現れたという奴と同じ?
(待てよ…もしかしたらこいつ…)
危険な賭けになることに変わりないが、人質作戦より確実で、使えるかもしれない。
フーケの作戦は決まった。