ウルトラマンゼロ~絆と零の使い魔~   作:???second

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盗賊を追え

 翌朝、魔法学院では大騒ぎが起きた。

 決して破られないはずの宝物庫から、破壊の杖が盗まれた。それもゴーレムによる目立つ上に豪快な攻撃によってだ。

 学校中の教師たちは全員それを聞いて唖然とした。あの後フーケ捜索部隊を編成してフーケを探しに向かわせたのだが、残念なことにフーケを見つけ出せず、見つかったのはゴーレムだったと思われる土の山だけ。

 

―――破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ。

 

 残されたメッセージを思い出し、教師の一人が憤りを見せる。

 

「学院にまで入り込むとは、土くれのフーケめ、許せん!それにしても衛兵たちは何をしていたんだ!」

「衛兵だと?所詮は平民だ!当てになるものか!それより今日の当直は誰だったのです!?」

 

 当直は誰なのかと聞かれた途端、女性教諭のシュヴルーズの顔が青くなる。

 

「ミセス・シュヴルーズ!あなたが当直でしたよね!なのに、当直をさぼられるとは!破壊の杖のことをどう償うのですか!」

「申し訳ありません…」

 

 フーケが宝物庫の破壊の杖を強奪した時、当直だったはずのシュヴルーズは、どうせこの学院に賊など入らないだろうと高を括り、自室で眠りこけていたのである。

 

「静まりたまえ!」

 

 オスマンが一喝を入れて、ようやく教師たちは黙った。

 

「まずはフーケを見た者を確認しよう。彼女たちで間違いないかね?」

 

 オスマンに尋ねられたコルベールは「はい」と答える。この時呼び出されたのは、昨日フーケの犯行現場に居合わせていたサイト・ルイズ・キュルケ・タバサの四人。

 

「君たちはフーケを見たかね?」

「はい、フーケは黒いローブを身にまとったメイジで、巨大なゴーレムを用いて宝物庫の壁を破壊し、破壊の杖を強奪して学院から逃亡しました」

 

 学院長からの問いにルイズが答えた。間違っても、自分とキュルケの馬鹿らしい決闘で壁にひびを入れてしまったなんて言えなかった。自分の罪状を誤魔化しているようで情けないが。

 ふむ…とオスマンは髭を撫でる。手がかりと言えそうなものは何もなかった。

 

「こんな時にミス・ロングビルはどこに…?」

 

 コルベールは学院長室中を見渡すが、この時ロングビルだけは何故かいなかった。それもそのはず、彼女こそフーケの正体だったのだから。昨日そうだったように、破壊の杖を売るために使い方を知る、そのために策謀を巡らせている。

 

「すみません!遅くなりました!」

 

 ちょうどその時、ロングビルが学院長室に入って来た。何かしらの策を思いついたのだろうか。

 

「どこに行ってたのです!?こんな時に!」

「申し訳ありません、ミスタ・コルベール。実は今朝から調査していたのです。フーケの居所がわかりました」

 

 それを聞いて、教師たちからおお!と感嘆の声が上がる。すでにこの時、フーケの掌に踊らされていると知らずに。

 

「仕事が早いの」

「近くの山の方へ、黒ずくめのローブを纏った不審な『男』が逃げて行ったそうです。おそらく…」

「黒ずくめのローブ…間違いありません!黒いローブに身を包んだ…フーケです!」

 

 キュルケが声を上げる。一部偽りの情報が混じっているが、誰も気づかない。

 

「では早速王室に報告しましょう!王宮衛士隊に頼んで兵隊を差し向けてもらわなくては!」

 

 シュヴルーズが言うが、オスマンは机を叩いてそれを拒否した。

 

「馬鹿者!王室に知らせてる間にフーケに逃げられてしまうわい!!

それにこれは我々の落ち度!身にかかる火の粉を己で振り払えんで何が貴族じゃ!学院で起きた問題ならば我々の手で解決する!

我と思う者は杖を掲げよ!」

 

 ロングビルはそれを聞いてほくそ笑む。ここまで計画通りだ、後はサイト…または彼の主であるルイズが杖を掲げれば自分の作戦が成功したも同然だ。

 だが誰も掲げなかった。フーケが怖くてただ顔を見合わせるだけだった。

 

「どうした?フーケを捕らえて名を上げようとする貴族はおらぬのか?」

「ミス・シュヴルーズ、あなたがあの時の当直だったでしょう!あなたが行くべきでは!」

「そ、そうですが…そもそもミスタ・ギトーも真面目にやっておられましたか!?」

 

 ついには責任の擦り付け合いを始めてしまう。オスマンは頭痛に悩まされたかのように肩を落とす。普段は魔法の力や権力を傘に強気でいる癖に、いざ我が身に脅威が降りかかるとこれだ。貴族はいつからこんな情けない姿になってしまったのか。

 

(だめだこりゃ…盗まれた『破壊の杖』は彼からもらった大切なものだというのに…)

 

 するとその時、杖を掲げた者がいた。ルイズだった。

 

「ミス・ヴァリエール!あなたは生徒ではありませんか!ここは教師に任せて…」

「お言葉ですが、誰がフーケを捕まえに行くのですか!?先生方は誰一人杖を掲げていない…つまり誰も行く気がないってことじゃないですか!誰かが行かなくちゃならないというのに!だったら私が捕まえて見せますわ!」

「お、おい…ルイズ!無茶だ!」

 

 大丈夫なのか?サイトは正直先日のルイズの言葉に眩しいものがあったのを覚えていた。でも、冷静に考えたら危険だ。彼女は魔法がロクに使えないのだから。

 

「サイト、あんたは黙って着いてくるの!これは私が決めたことなんだから!」

 

 ンな無茶苦茶な…サイトは頭を抱えた。

 

(こ…こいつ、馬鹿なのか?相手の力量もろくに測れてねぇのか?)

 

 サイトの中で話を聞いていたゼロも、昨日ゴーレムを目の当たりにしたはずなのに、力不足な自分を顧みずに立候補したルイズが信じられなかった。

 

「しかたないわね…私も志願します。ヴァリエールには負けられませんわ」

 

 そんなサイトを見かね、キュルケも対抗意識もあってか杖を揚げ捜索隊へ志願する。

 

「あんたなんかに着いて来て欲しくないわよ」

「あなた一人じゃ、無理やり危険なところに立たされたダーリンが危ないじゃない」

 

 ルイズは同行を拒否するが、逆にキュルケも反論した。

 すると、タバサまでも身の丈ほどの杖を掲げだした。志願するつもりだろうか。

 

「タバサ、あなたはいいのよ?付き合わなくても」

「心配だから」

「タバサ、ありがとう!」

 

 それを聞いてキュルケはタバサに抱きつく。ルイズも口には出してないが、彼女の気遣いに素直に嬉しく思った。

 

「私は反対です!生徒を危険にさらすなど…」

 

 シュヴルーズは反発した。まだこんな子供達に、無慈悲な盗賊の相手など危険すぎる。

 

「ならば君が行くかね?」

「それは…私は体調がすぐれないので…」

 

 オスマンの言葉に彼女は何も言わなくなった。

 

「彼女たちならやってくれるかもしれん。それにミス・タバサは『シュヴァリエ』の称号を持っている。その若さで得られた彼女の実力は、確かなものじゃ」

「そうだったの!?」

 

 驚きの事実にキュルケの質問にタバサはコクッと頷いた。

王室から与えられる爵位シュヴァリエ。その称号は最下級だが、タバサのわずか15歳という年齢でそれをいただいたことは驚くべきもの。それにこの称号は男爵・子爵といった称号とは違って実力を認められた証でもある。

 

「ミス・ツェルプストーはゲルマニアの優秀な軍人を輩出した家系の出、そしてミス・ヴァリエールはミスタ・グラモンを圧倒した使い魔を召喚した。彼の実力を持ってすれば、フーケに遅れを取るまい」

 

 キュルケは鼻が高そうにしていたが、ルイズは自分ではなく正確には使い魔であるサイトが誉められたのが少し不満だった。自分が褒められる番だと誇らしげに胸を張った自分が恥ずかしい。

 

「そうですぞ!!なんたって彼は伝説のガンダー…もが!」

(内密にしろと言ったじゃろ!)

 

 オスマンは、思わずあることを口走りかけたコルベールの口を慌てて押さえ黙らせた。

 

「で、では諸君の義務に期待する。決して死なぬように」

「「「杖にかけて!」」」

 

 張り切って高らかに唱和する三人。

 サイトは大丈夫だろうかと不安になる。

 

 一方で、ロングビルことフーケは、完全に策が成功に向かっていることに満足げな笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 さて、フーケの思惑通りサイト・ルイズ・キュルケ・タバサの四名はロングビルが手綱を引く馬車に乗ってフーケの潜伏先と言われている山に続く森へ向かった。

 

「見えましたわ。目撃者によると、フーケが逃走した山はあそこです」

「思った以上に遠くまで来てますわね、ミス・ロングビル。よくフーケがあそこに逃げたって、たった一夜で看破なさるなんて、仕事が手早いのですね」

「フーケの逃走した痕跡がたまたま残ってたのを見つけたのですよ。運が良かっただけですわ」

 

仕事が早いことを褒めたキュルケに、ロングビルは…表面だけの謙遜を示す。

 

今日のサイトは結局、ルイズとキュルケの二人から貰った剣を二本とも持参している。もちろんこの判断に二人は目くじらを立てたが、サイトが「折れてしまった時の予備」という理由を付けたことで、渋々ながらも納得してもらった。頭の中で「んななまくら、持って来たって邪魔なだけだろ」とゼロが冷やかしてきたり、デルフが「俺が折れるなんてあるわきゃねぇだろ」と錆だらけの自分を棚に上げてぶー垂れていたが無視した。

 

「ミス・ロングビル。オールド・オスマンの秘書であるあなたが手綱なんて。付き人に頼めばよかったじゃないんですか?」

 

ルイズがそう言うと、気にしないでほしいとロングビルは彼女に言う。

 

「フーケの情報を集めた私が案内した方がよいかと思いましたので…それに私は、貴族の名をなくした身ですから」

 

 その表情は、どこか寂しげなものだった。だからそれ以上は聞くべきじゃないと思ったのだが、キュルケが大いに興味を示した。

 

「興味あるわ。お聞かせ下さいません?」

「よしなさいよ。この恥知らず!」

 

ルイズがキュルケに注意を入れる。

 

「いいじゃない!おしゃべりしたいんだから。ったく…何が悲しくて泥棒退治なんか…」

 

 キュルケは現場に行くまでの退屈しのぎを潰されてため息をつくと、嫌味ったらしく呟く。

 

「何言ってんのよ、自分から志願しておいて」

「だから言ったでしょう?あなた一人じゃダーリンが危ないもの。いくらギーシュを圧倒したからって、あんな大きなゴーレム相手じゃどうなるかわかったものじゃないもの。そしてあなたはサイトを戦わせて高みの見物に違いないし」

「だ、誰が逃げるもんですか!私の魔法でフーケなんかやっつけてやるわよ!」

「魔法?誰が?笑わせないで」

「おい、ケンカすんなよ」

『ったく…めんどくさい奴らだぜ』

 

 またしてもいらない火花を散らす二人。サイトは間に入ってとりなした。サイトの中のゼロもまた、サイトの目を通してこの一部始終を見て呆れていた。

 

「…今更なんだけど、ルイズ」

「何?」

 

 ふと、サイトがルイズに言葉をかけてきた。

 

「あのフーケって奴は相当強いメイジなんだろ?太刀打ちできないのにどうして志願したんだよ?」

 

 地球にいた頃、地球防衛軍はみっちりとした武装を保有しているから、自分たち以上に力の優れた怪獣や星人と戦えたことをサイトは知っている。だが、ルイズはどうだろう。彼女には悪いが正直戦力的に心配ばかり残る。

 

「オールド・オスマンがおっしゃられていたけど、これは魔法学院の問題なの。私たちの手でフーケを捕まえることに意味があるの。それに貴族に舐めた真似したフーケを許せない。あいつが元々どんな貴族でメイジだったか知らないけど、私たち貴族の誇りを見せつけなきゃ」

 

 ルイズのこの姿勢は、眩しいもぼだ。確かに、戦う覚悟がなくちゃ、たとえどんなにすごい武器や力を持っていても意味がない。

 でも、出会って間もないが、ルイズのことだ。無茶をしでかすのではと思った。その節はこれまで見てきたり話を聞いたりで覚えている。懲罰覚悟で男子生徒からシエスタを助けたり、クール星人の円盤に果敢に立ち向かって行ったり、崩れ落ちたモット伯爵の屋敷の瓦礫に埋もれているのではと思って逃げるのを拒否したり…。

 誇り高いのは嫌いじゃない。でも、だからって無茶をしていいとも思えない。だからサイトは言った。

 

「無茶すんなよ。俺も戦えるんだから、その分は俺も背負う」

 

 急に真剣な男の顔で自分を頼れと告げたサイト。逆にルイズも一瞬呆気に取られると、朱色に染めた顔を隠すようにそっぽを向く。

 

「な、何よ急に…あ、当たり前でしょ?あんたは私の使い魔なんだから!」

 

 すると、ここでキュルケが面白くなく感じてサイトにわざとらしく抱きついてきた。

 

「ダーリン、ルイズばかりじゃなくて私も守ってよ~。ここなんだか暗くても怖いもの~」

「あ、あんまりくっつくなよ!っていうか、全然怖がってないだろ!」

 

 じゃれる二人とは反対方向を向いていたルイズのこのときの顔は、なんともまあすぐにでも爆発を起こしたい衝動に駆られた恐ろしい顔になっていた。

 

(その舐めた真似をさせてくれた状況を作ったのは、まぎれもなくあんたたち貴族共じゃないか。私腹を肥やしてばっかの癖に自分たちのこと棚に上げやがって…

私だって好きでこんな稼業やってるわけじゃないんだよ!)

 

 一方で、先ほどのルイズの言い分に、ロングビルことフーケは内心でこう思っていた。破壊の杖の使い方がわからなくて苦労しているイライラと、キュルケのいらない詮索をされたイライラによって、苛立ち数割増しと言った胸中だ。

 

 

 

 

 

 山に入り込んだ時には、普段ならすでに午前の授業も終わりかける頃の時間帯になっていた。

 しばらくすると、ロングビルの馬車で学院南の山の間の盆地に広がる森に入り込んだ一行は、開けた場所に出てきた。森の中の空地。そして向こうに見える廃屋。誰かがここで暮らしていた跡なのだろうか。

 

 ロングビルが馬車を止めると、サイトたちは一斉に馬車から降りる。

 

「到着しましたわ。フーケはここで、逃走に使った馬を捨て、フライの魔法で逃げた様です」

 

ロングビルは土が剥き出しになっている地面の一角を指差す。土に刻まれていた馬の足跡が、なぜかそこで反対側…魔法学院の方に引き返していた。フーケによって逃がされた馬が、山ではなく開けた草原が広がる魔法学院の周辺を好んだのだろうか。

 

「なぁ、なんでフーケは最初から魔法で飛んで逃げなかったんだ?」

 

魔法で空が飛べるのに、どうして馬で逃げたのだろう。疑問に思ってサイトは自分以外の皆に質問する。

 

「そう言えば、あなたは魔法のことをよくご存知ないのでしたわね」

「まぁ、はい」

 

ロングビルからの指摘に頷くサイトを見て、ルイズは恥いる気持ちを抱いてロングビルに詫びを入れた。

 

「申し訳ありません、ミス・ロングビル。この使い魔、どうも常識に欠けてる様でして」

「うるせぇな。こっち来たばっかだから知りようもないだろ」

「何よ、ご主人様に向けてまたそんな口きいて!」

 

 不満げに唇を尖らせるサイトにルイズはカチンと来た。

 これでは話を自然な流れにできない。ロングビルは二人の始まりかけた口喧嘩を遮ろうと、まぁまぁと強引に話を戻した。

 

「いかにメイジが平民と違い、魔法という神の恩恵を授かった身とは言え、限界がございます。私たちメイジは各魔法に定められた呪文を唱え、自身の精神力を消費することで魔法を行使できるのです。つまり精神力を切らしてしまえば、休息をとって精神力を回復しない限り、たとえ杖を持っていたとしても魔法を使うことができませんの」

「…あぁ、なるほど。ウルトラマンの太陽エネルギーとか、RPGで言うMPみたいなもんか」

 

 他の例に置き換えてそう解釈するサイト。後ろでえむぴぃ?とルイズたちが首を傾げている。

 

「じゃあ、いくら魔法使いが凄くても、そのエネルギー切れを狙えば、やっつけられるってことですよね?」

「理屈から言えば、その通りです」

「なるほど、だったら意外となんとかなりそうじゃね?」

 

息切れしたところを狙うことで、事態の収集が容易くこなせそうだと期待するサイトに、ルイズは呆れた。

 

「馬鹿ね、そんな簡単に行くわけないじゃない」

「なんで?」

「メイジなら誰でも知ってること」

 

 次に言葉を紡いだのはタバサ。さらにキュルケもまた同意する。

 

「そ、自分の精神力の限界、魔法を行使できるクラスと習得した魔法、その範囲でできることを把握することはメイジにとって基礎なの。それを疎かにすると、いくらクラスが高くても、一流のメイジとは言えないの。

フーケも国を騒がせる盗賊である以上、自分の精神力切れの隙を突かれないように気をつけてると考えるべきね」

 

「要するに、精神力の節約のために一時的に馬を利用したのよ。わかった?

頭の悪そうなあんたのために説明してあげたんだから感謝しなさいよ」

 

最後にその気を損なうような念押しをするルイズ。

 

『途中で馬を逃がして空を飛んじまえば、人によっちゃフーケが馬に乗ったままこの森から引き返して、別の場所へ逃げたように見せかけることもできるし、自分の足跡もつかない。攪乱作戦としちゃ一石二鳥ってこった』

「なるほどな。まぁ、そりゃそうだよな…」

 

 自分の中にいるゼロからも第二の推察込みの理由も伝えられ、そんな簡単には行かないか、とサイトは自省した。

考えてみればルイズたちの言う通りだ。

エネルギー切れ狙いによる勝利は、これまで地球を襲ってきた侵略宇宙人たちがウルトラマンに対して行ったことがある作戦だ。

母から何度も聞かされていた、ウルトラ兄弟3番目の戦士であるあの真紅のヒーロー『ウルトラセブン』も、エネルギー切れを誘導されて敗北を喫したことがある。

この世界のメイジも似たようなものだろう。自分たちの弱点を知って克服できる手段を講じてきたからこそ、貴族と平民という身分社会による支配体制を築くことができたのだ。

 

「まぁでも、プライドだけ高くて実力に見合わない任務を請け負う、身の程知らずな子もいるんだけどね」

「だ、誰のことを言ってるのかしらね?」

 

肩をすくめるキュルケをルイズが睨む。

 

「少なくともあなただって言ってないわよ?」

「じ、じじじゃあ…誰に言ってるのか教えてもらおうじゃないの」

「それをあなたに教えてあげる義理もないでしょう、ヴァリエール?」

 

言わないとわかんないの?こんな簡単なクイズに。

暗にそう告げてくるキュルケに、ルイズはぐぎぎ…と歯軋りする。

 

これではさっきの繰り返しだ。すっとタバサが二人の間に割って入る。

 

「早くフーケを見つける」

「そうですわね。早く事態を収集しなければ、フーケから破壊の杖を取り戻せませんから」

 

盗賊である自分としたことが、まともに仲を深めたわけでもない平民の少年相手に真面目に教授するとは、と思いつつも、ロングビルがタバサに表面上の同意を示したことで、ルイズは悔しそうにしながらもキュルケから視線を逸らし、キュルケは気のない声で「はーい」と返事する。

こんなので大丈夫だろうか。チームワークに欠けてる感が否めず、サイトははぁ…とため息を漏らした。

 

 

 

 

一行は山の麓道を歩きながら、フーケを探した。

木々がより広範囲に生い茂り、道も道らしく整備されなくなり、木の葉に埋もれ荒れた獣道となっていく。馬車が通るには無理があった。

空を飛んで森の上からフーケの捜索を、という案もあったが、この広大な範囲でたった一人の人間を見つけることは困難を極め、たとえタバサの使い魔であるシルフィードを使ってもそれは変わらないので、こうして自分たちの足だけで捜索している。

 

「行けば行くほど鬱蒼としてるわね。こんなところに隠れてまで破壊の杖が欲しいのかしら」

 

キュルケが、毎日念入りに手入れしている髪が枝に引っかからないように気を配りながら呟く。

 

「さあな。泥棒の考えることなんてわかんないさ」

 

サイトがそのように答える。ニュース番組でたまに窃盗事件のことを聞くことはあるが、共感しがたい動機で動いた容疑者の話ばかりだ。侵略目的の異星人も、地球を奪い取ろうなんて考えている奴らしかおらず、考えてみればある意味泥棒だ。

 

「わかんなくたっていいわよ。どうせ酒とか女とか、自分の欲のままに浪費することくらいじゃない。汚い手段を使ってでもお金を欲しがる奴なんて」

 

ルイズが、悪は悪でしかないのだと言わんばかりに吐き捨てる。貴族としての強固なプライドもあるが、フーケもメイジであることから元は貴族なのだろう。そうでありながら汚い家業に身を走らせ、大勢の貴族から金品を強奪する…貴族の誇りを穢し嘲笑っているであろうフーケへの義憤を募らせていた。

 

「ミス・ロングビルもそう思いませんか?」

「…」

 

声をかけられたロングビルは、一時無言だった。手綱を握る手が、一瞬だけ強くなっていた。

 

「ミス?どうかなさいまして?」

 

自分を慮るルイズの言葉に、ロングビルは我に返る。

 

「い、いえ。もうじきフーケと相対すると思うと少し緊張しまして。何せ相手は、国を荒らす名の知れた盗賊なのですし」

 

そう言って平静を装うロングビル…フーケ本人だが、ルイズの発言に対して…彼女も怒りを隠していた。

 

(貴族の世間知らずのガキは、これだから頭に来るんだよ…人の気も知らないでさ)

 

 

 

 

 

 やがて一行は、開けた場所へ辿り着いた。中央には、木こりが暮らしていたであろう一軒の廃屋と、山道へ続く一本道が続いている。

 

「廃屋と山道へ続く道…どっちかにフーケがいるってことかな」

「どうかしら。フーケも追っ手が来てることくらい察してるはずよ。山道の方に向かったんじゃないかしら」

 

 山道を遠い山を眺めるように見やるサイトとルイズに、「それも考えにくい」タバサが否定する。

その理由としてロングビルが代わりに明かした。

 

「この先の山道は月明かりのない夜で無い限り、夜は完全に闇に包まれて視界が非常に悪いのです。

加えて、フーケの精神力の量をトライアングルクラスと仮定しても、一日中空を飛んだりゴーレムを操ったり、なんてことを続けた後で山道を越えるのは体力的に無理がありますわ。恐らくそこの廃屋で休息をとっていたと見るべきかと」

 

 これは事実だ。逃走と偽造工作のために馬を利用しても、フーケはここまでの地点と魔法学院を往復するだけでも、結構な精神力と体力を使っていた。破壊の杖を抱えて山道を越えて逃亡することも考えていなかったわけでは無いが、精神力切れのまま視界の悪い夜の山を越えるのは危険が大きすぎることもあって、今も『ロングビル』を演じている。

 

「でも、近くにいることは確かね?あるいは今も、あの廃屋の中にいるとか」

 

キュルケの問いにえぇ、とロングビルは頷いた。

 

「しかし、本当に山道へ向かった可能性も考えられますわ。

念のため、私は山道の方に怪しいところがないか偵察に行きます。他にどんな危険があるかわかりませんので」

 

 そう言うと、彼女は山道へ姿を消した。

 

「お一人で大丈夫かしら。ミス・ロングビル」

「気にしなくていいと思うわ。彼女もうちの学院のメイジなんだし。それより人の心配より自分の心配したら?」

 

見送りながらロングビルを案じるルイズに、キュルケは肩をすくめながら言う。

 

「とにかく、作戦を立てようぜ。まずはあの廃屋に偵察を…」

 

 偵察の派遣を提案したサイトだが、タバサがそれについて案を出した。

 

「その偵察役が廃屋の中にフーケの姿を見つけたら、挑発しおびき出し、魔法を使わせないうちに一気に叩く。だから偵察には…すばしっこいのが適任」

 

 すばしっこいの。それを聞いてルイズたち三人は一斉に、サイトの方に注目した。

 

「…あなたが適任」

 

 この空気、まるで拒否権を剥奪されたような展開にサイトは気まずそうに顔を歪める。確かに、一番早く動けそうなのは自分。…が、なんか使い勝手のいいパシリにされてる気がする。

 仕方なくサイトはまずキュルケからもらった剣を握って廃屋に向かう。

 

「そりゃ、女の子を危ない目に合わせないのが男の役目とも言うけど…」

『なんでお前が危ない役をやってんだよ…あいつらから志願してきたってのに。ま、同情しとくよ』

「同化している時点で、お前も他人事じゃねえんだぞ…」

 

 とりあえず廃屋の中を窓から覗き込んでみた。中は暗かったが、誰もいなかった。蜘蛛の巣だらけで窓ガラスはひび割れ、中にあるテーブルには埃だらけの酒瓶が残っている。

 サイトの目が、無意識のうちからかギラギラと光った。透視能力…ウルトラマンが人間の姿の際に使う超能力だ。これは自分以外の超常的なものを見極めることができる。だがいくら凝視してみても、やはり暗闇の奥にも人がいる様子はない。

 

「誰もいないぞ!」

 

 手を振って合図を送るとルイズたちが駆けつけてくる。タバサが念のためディテクトマジックで調べても、魔法を使った罠はないらしい。彼女から先に入り、続いてサイト、キュルケと侵入する。

 

「鍵すらかかってないじゃない」

 

 キュルケは不思議そうに言った。

 

「まぁいいわ。ルイズ、あなたは外で待機してなさい。魔法が使えないあなたでも、見張りくらいならできるでしょう?」

 

言い返したそうにしながらも、ルイズは不服そうに「わかったわよ…」と言い残して、入り口付近で待機した。

 小屋の中はひどく埃っぽくなっていた。手分けして三人は破壊の杖を探す。

 すると、タバサは一つ気になる箇所を発見した。

 布に被せられている何か直方体の物体がある。その布はほとんど埃被っていない。彼女はそれをまくると、予想した通り目的のモノを見つけた。

 タバサはそれをサイトとキュルケに見せた。

 

「破壊の杖」

「え、嘘!?もう見つかったの!?」

 

それはなんと、フーケに盗まれたはずの『破壊の杖』だった。

 

「あっけないわねぇ。

まあいいわ。フーケが来る前に早く出ましょ。こいつを持っておけば、フーケも向こうから来るでしょうし」

 

 拍子抜けたようにキュルケはため息を着いた。フーケの盗品を、当人がいない間に確保できたのだ。これを餌に、獲物を取り戻そうとしてくるであろうフーケを捕まえれば解決できる。その時に派手に暴れられることを期待しよう。

 

(破壊の杖?こいつが?)

 

 一方、サイトは破壊の杖の箱を見たとき、目を細めた。木箱でも石造りの箱でもない。箱の材質に既視感があった。

深い緑色に塗られた、重厚な金属の箱…。

 

「なあタバサ。俺に見せてくれないか?」

 

 不思議に思いながらも、タバサはサイトに『破壊の杖』の箱を渡した。

 それを見た瞬間、彼は驚愕せざるを得なかった。なぜなら、その箱にはサイトに見覚えのあるシンボルマークが描かれていたのだ。

 

「どうしたの?」

 

 タバサは興味深そうにサイトを見た。

 

「これ…は…!!!」

『なんだよサイト?お前それに見覚えがあるのか?』

 

 一部始終を見ていたゼロも気になったのか、サイトの目を通してその箱を確認すると…

 

『嘘…だろ…この破壊の杖ってのは…!!』

 

彼もまた驚いていた。なぜ…こんなものがこの世界に?

 

 

 

 一方で、サイトたちのいる廃屋とは別方向の山道ルートを辿るロングビルことフーケ。彼女は、昨夜も利用した洞穴の奥へと入り込み、そのまま奥へと潜って行く。奥へ奥へ…そして穴の外へ出る。

出口の先の盆地に昨日も見かけた、ドラゴンやトロル鬼よりもさらに巨大な『それ』が、大いびきをかいて眠っていた。

デカい図体して間抜けそうなツラだ、と思いつつも、こいつがまだここにいることは好都合だとフーケは笑った。

 

小屋の中にサイトたちをおびき寄せた。次は…。

 

「クリエイト・ゴーレム…」

 

 彼女の周囲の土が風にあおられるように舞い上がると、見る見るうちに大きな足が、胴体が、そして両腕が出来上がった。自慢のトライアングルクラスのゴーレムの完成だった。

 完成したゴーレムは、ずっしりとした足取りで『それ』に歩み寄る。

ゴーレムがその強靭そうな腕を振り上げ、『それ』を殴った。

 

「グゲェ!!!」

 

『それ』は頭に受けた衝撃の痛みで目が覚めた。その目に真っ先に映ったのは、自分に背を向けようとする土人形。自分の半分程度のサイズ。格下に見えるが、自分に手を出しておいて逃げるなど許せない。

『それ』は敵意を持って、逃げる土人形を追い始めた。

 

サイトたちのいる廃屋に向かって…。

 

 

 

 

 

 この星を覆い尽くそうとする悪夢の欠片が、目覚めた。

 

 

 

 

「…全く、キュルケってばほんとに腹が立つわね」

 

 外で見張りを任されたルイズは不平を漏らした。

 彼女が言った通り、四大系統の魔法の初歩的なものはもちろん、コモンマジックもろくに使えない。自分の魔法はただ爆発を引き起こすくらい。もしフーケと相対しても活躍できる見込みが無い。

 

 でも、それでも悔しい。自分は古い時代からトリステインを支えてきた、優れたメイジを輩出してきたヴァリエール公爵家の娘なのだ。

 

『またゼロのルイズが失敗したぞ』

『こんな簡単な魔法も使えないの?あの公爵家の子なのに』

『ダッセェ!できるのは爆発だけかよ』

『大した魔法も使えないくせに、態度だけはデカいよね、あいつ』

『魔法も使えないし、胸も無いし、性格もキツイばかりでどうしようもないわよね』

『無能の癖に偉そうにして。公爵家の名が泣くわね』

『魔法が使えないなら、せめてあの性格をどうにかすりゃ、貰い手くらいつくだろ』

『無い無い。あんなんじゃ縁談もろくに来ないって。どうせゼロのルイズだし』

 

魔法が使えない自分を見下す魔法学院の生徒たちの心無い言葉が、ルイズの頭の中で反芻する。それがルイズの意地を奮い立たせる。

 

「絶対、見返してやるんだから」

 

 キュルケや、他にも自分を『ゼロ』とバカにしてきた連中に一泡吹かせてやることを誓い、外を見張っていたルイズ。

 

 そんな彼女の目に…あるものが見えた。山の間から、それもロングビルが向かった山道の方角から、砂塵が噴き出ている。砂が吹き荒れるような土地でも無いのに、そもそも風も吹いていない。

 もしかして…フーケによるものでは?一瞬それを予想したが、現実はもっと予想外なものだった。

 

 

「KUAAAAAA!!!」

 

 

 

山道方面の谷の間から現れたのは、怪獣だった。

 

「きゃああ!!」

 

 頭が地面に密着し、逆立ちをしているように二本の同じ長さの触手が頭にあるはずの位置から生えている巨大な生物。

 

 かつて、帰ってきたウルトラマンことウルトラ兄弟の4番目『ウルトラマンジャック』と交戦した怪獣

 

『古代怪獣ツインテール』が姿を現した。

 

 

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