ウルトラマンゼロ~絆と零の使い魔~   作:???second

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MACの遺産

「良くぞ破壊の杖を取り戻して来た。しかもフーケを捕え、加えて怪獣たちをも撃退するとは!予想以上の働きであったぞい!」

「い、いえ…怪獣を倒したのはウルトラマンです。私たちは逃げるばかりで」

「謙遜せずとも良い。君たちの活躍があったからこそ、ウルトラマンも無事怪獣を撃退できた。故に君たちの手柄でもあるのだ。尤も、一番に喜ぶべきは、君たちが四人とも生還してきたことじゃ」

 

ルイズからの報告に、オスマンは笑顔を浮かべた。

 

『っけ、別にルイズたちが手を出さなくたって、あんな奴ら…』

『ちょっと黙ってろよゼロ』

 

 サイトの中で話を聞いていたゼロは強がっていた。同じ体を共有しているのだ。下手をすれば負けていたかもしれないことは、体が一番正直に語っている。

 

 怪獣の出現という予想外の事態に出会したものの、無事フーケを捕え、破壊の杖を取り戻すことに成功したサイトたち。

 フーケは、サイトがルイズたちと合流した後にタバサの魔法で拘束、そのまま学院内の牢獄に一時幽閉された。

 

 学院長室にて彼女たちからの報告を聞いて、ロングビルがフーケだと聞いたオスマンとコルベールは驚いていた。

なぜ彼女を雇ったのかというと、酒場で尻を撫でても怒らないから…という何とも情けない理由からだった。

 コルベールも苦言こそ呟いていたが、自分も自分で、フーケの上部だけの物腰柔らかな女性としての魅力に惑わされてしまい宝物庫の状態をポロっと漏らしてしまったことを思い出し、オスマンと揃って誤魔化すような笑い声を上げた。もちろん女性陣はジト目で二人を睨んでいる。女性として彼らを軽蔑している目線だった。

 女性陣の痛い視線に、オスマンとコルベールは愛想笑いを浮かべた。

 

「こ、こほん…ではフーケを捕まえたこと。破壊杖を取り戻したこと。そしてウルトラマンと共に怪獣を撃退しこの学院の危機を未然に防いだ君たちに、王室へシュヴァリエの称号の授与を、既にシュヴァリエのミス・タバサには聖霊勲章の申請をしておく」

「やった!」

 

 キュルケが飛び跳ねた。

 

「あの、オールド・オスマン。サイトにも、何も…」

 

 ルイズが恐る恐るオスマンに尋ねる。悔しいことだが、サイトは、突如出現した怪獣相手にも怯むことなく破壊の杖を用いて自分たちを助けてくれた。もしサイトがいなかったら、自分たちがどうなっていたことか、想像したくない。オスマンは申し訳な下げに言った。

 

「済まぬ。彼は平民じゃから、どのみち褒美を用意できんのじゃ」

「いや、俺は必要ないですよ。ただ、その代わり…話をしたいんです」

 

 話をしたいと告げるサイトに、オスマンは机の上に置かれた破壊の杖のケースを一瞬見つめ頷くと、同時に何か思い出したように声を上げる。

 

「…うむ、わかった。…おおそうじゃ。今夜はフリッグの舞踏会。存分に着飾って楽しみたまえ」

「そうでしたわ。すっかり忘れておりました!」

 

 思い出したようにはしゃぐキュルケ。

 舞踏会とは、昔の映画で見たような…ダンス会のようなものだろうかとサイトは思う。

 生徒達は意気揚々と準備をするため学院長室を後にする。そんな中、ルイズはその場に残っているサイトに振り向く。

 

「先行っててくれよ」

「う、うん」

 

 そう促され、ルイズもタバサとキュルケと共に今度こそ学院長室を後にした。

 

 皆が学院長室を後にして、残ったのはサイトとオスマン、そしてコルベールとなった。

 

「さて、サイト君…じゃったな。ワシに訊きたいことがあるんじゃろ?褒美のせめてもの代わりじゃ。なんでも聞いておくれ。わしもぜひ、君と話したいと思っておったところじゃ」

「ありがとうございます」

 

 お礼を言うとサイトは、オスマンの机の上に置かれている破壊の杖が、自分の知る限りではどういったものなのかを語り始めた。

 

「この破壊の杖は、俺の世界…地球の兵器です」

「チキュウ…?」

 

 コルベールは首を傾げる。

 

「俺の故郷…地球は約50年前から、怪獣や侵略者の脅威にさらされてきました。そのたびに地球防衛軍が、そしてウルトラマンたちが現れ、俺たちを守ってきてくれたんです。そこにある破壊の杖のような、多くの兵器を用いて」

「ウルトラマンを知っている辺りからただの平民の少年ではないと思っていたが…やはり君はこの破壊の杖を知っておるのか」

 

 オスマンは破壊の杖のケースを、懐かしむように撫でながら言った。

 

「はい。この破壊の杖…正確にはMACバズーカと言います。MACと呼ばれる防衛組織が使用していました。でも、これをどこで…?」

 

 サイトにそこまで言われ、オスマンは静かに目を閉じた。

 

「もう35・6年前のことじゃ…森を散策しておったわしは突如、ワイバーンに襲われたのじゃ。そこを救ってくれたのが、破壊の杖の持ち主なのじゃ。彼はこの破壊の杖を用いてワイバーンを吹き飛ばすと、その場に倒れてしまったのじゃ。全身から血を流し、それはもう酷い怪我じゃった。わしは彼を学院に運び込み手厚く看護したのじゃが…」

 

 当時のことを思い返し、思いつめた表情を浮かべながら言葉を切らしたオスマン。

 

「…まさか、お亡くなりに」

 

 サイトがそう言うと、オスマンは頷いた。

 

「恩人として彼は丁重に葬った。遺品である破壊の杖は、宝物庫に保管したのじゃ」

「…」

「彼は死ぬ前に、服についておったこのマークを握りうわごとのようにこう言っておった」

 

 オスマンは破壊の杖…MACバズーカのケースに刻まれたマーク…かつてサイトの地球を守ってくれたことのある防衛組織『MAC』のエンブレムに触れる。

 

「『地球に帰りたかった。円盤生物に殺された仲間の仇を討てなくて残念だ』と。わしにはよく意味が理解できなかったが、彼に何か思うところがあったのじゃろうな」

「…やっぱりそうだ」

 

 サイトがここで声を漏らすと、オスマンは彼の一言を聞き逃せなかった。自分を救った人物のことだから気になっていた。

 

「やっぱりとは?」

「35年前ってのも合っている。彼も俺の地球にいた人だ。それも…MACの隊員の人だった。授業で聞いたぐらいなんですが…かつて『ウルトラマンレオ』という名前のウルトラマンと共に地球を守ってきた組織だったんです。でも…侵略者の送り込んだ円盤生物に基地を破壊されて、全滅したそうです。地球防衛軍に起こった最悪の悲劇として、歴史の授業で習ったのを覚えてます」

「…そうか、それで仇を討てなかったとか言っておったのか…」

 

 何十年もたった今でもオスマンは覚えていた、死ぬ直前の彼の、すさまじく悔しそうな表情を浮かべながら息を引き取った時の顔を。涙でぐしゃぐしゃになって、手を伸ばす姿は無念さに満ちていた。

 

『………』

 

 ゼロは、黙ってサイトを通してオスマンとサイトの話を聞いていた。サイトは気づかなかったが、『ウルトラマンレオ』と彼と共に戦っていたMACの末路を聞いたときの彼は、サイトの精神の中で驚いたように顔を上げていたのである。

 

「でも、その人は何のはずみでこの世界に来たんだ?俺と違って、誰かに召喚されたわけでもないのに…」

 

 基地を破壊されたはずみで、この世界にやってきたというのだろうか?

 

「わからぬ。どんな手で、その地球という世界から来たのか…」

「くそ…もしかしたら、帰る手がかりが見つかると思ってたのに…」

 

 地球にいる母は無事だろうか?それに自分がGUYSと協力して救助した一般人は?そして、同じ現場にいた彼女…ハルナは無事なのか?サイトはできることなら今すぐにでも確かめたかった。自分が生きていることを、早く母や彼女に知らせてあげたい。でも、それができもしない状況であることを嘆いた。

 

「サイト君、教えてくれてありがとう。それにもう一つ、君に伝えねばならぬことがある」

「え?」

 

 オスマンは礼を言うと同時に、彼の左手を掴む。ルイズのコンタクト・サーヴァントによって刻み付けられたルーンが二人の目に映された。

 

「君は不思議だとは思わないか?いかに君が地球の人間だとしても、わずかな期間でこの破壊の杖を使いこなせるはずがない。その理由は、君の左手に刻まれたルーンに秘密があるのじゃ」

「俺の、ルーン…ですか」

 

 ギーシュの時がそうだった。このルーンが、剣をまともに振ったこともないギーシュとの決闘における圧倒的不利な状況を打破した。たとえゼロと同化していなくても、このルーンの力がサイトに勝利をもたらしていたかもしれない。

 

「そう。これはこの世界において我らメイジの始祖であるお方…『始祖ブリミル』が召喚した四人の伝説の使い魔が一人、ガンダールヴのルーンじゃ」

「ガンダールヴ?伝説…?」

「そうじゃ。ガンダールヴはあらゆる武器を使いこなすことができたそうじゃ。破壊の杖を使うことができたのもそのためじゃろう」

「…でも、どうして俺がその伝説の使い魔ってのに?」

 

 伝説の使い魔の力と言われても、サイトにはいまいちピンと来ないのだ。召喚したのはルイズだが、彼女もまた伝説と謳われるほどの力を持っているのか?いや、それはない。彼女の魔法の際は、残念ながら評価しきれるようなものではないのだから。

 

「何か、運命めいたものを感じるのぅ。ウルトラマンの存在していると言う世界から来た彼と君…そしてミス・ヴァリエールによって刻まれたこのガンダールヴのルーン。ただの偶然とは思えぬ」

「……」

『っけ…』

 

見た目は、変な文字の入れ墨にしか思えないが、言われてみて、奇妙な運命を感じる。

 だが、ゼロからすれば、自分とサイトの分離を阻む鬱陶しい楔でしかない。

 

「さあ、君もミス・ヴァリエールたちと舞踏会に行くと良い。平民であっても使い魔の立場なら、会場へ入ることも可能じゃろう。フーケを捕まえた君へのせめてものねぎらいと思って楽しんできなさい」

「あの、校長先生」

「うん?何かね?遠慮せず申し上げてみよ」

 

オスマンは、遠慮はいらないとサイトに言う。

 

「捕まえたフーケのことなんですけど、この後はどうなるんですか?普通に逮捕されるって感じですか?」

「フーケはこの後、王宮へ運ばれ裁判を下される。間違いなく有罪、そして死刑を下されるでしょうな」

「死刑!?」

 

あくまで泥棒しただけで、そこまで重罪なのか。異なる世界とは言え、そこまで厳しい判決を下す必要があるのか。死刑なんて、ドラマの世界とかニュースでごくたまに聞くくらいのことでしかないサイトにとって、たかが窃盗犯に下す判決としては厳しすぎる。

 

「そこまでするんですか!?あの人は確かに、お宝を盗んだけど、なにもそこまで!」

「これまで数多くの貴族が彼女の被害に遭ってしもうとる。他人の命こそ奪っとらんようじゃが、それでも被害額は馬鹿にならない額じゃ」

 

サイトはその後のフーケに訪れる処遇を聞いて一時沈黙したが、意を決して口を開く。次にサイトが告げたのは、オスマンやコルベール、そしてゼロの予想を大きく上回るものだった。

 

「あの人のこと、許してあげられないですか?」

 

「!?」

 

やはりと言うか、オスマンとコルベールの目が驚愕で見開かれた。

 

『サイト、お前あんな奴のいうこと信じるのかよ?』

 

サイトの中でもやっぱりゼロが同じ反応を露わにする。

 

「使い魔君、それは本気で言ってるのかね?」

「俺、聞いたんです。あの人が怪獣に襲われた時に…うわ言で言ってたんです。誰かの名前と、それを守れるのは自分だけだって…」

 

聞き違いなどではない。ゼロと一体化した影響で聴力も増していたため、サイトははっきりとフーケの呟きを聞いていた。

 

「誰かを養うために、やむを得ず盗賊に…ということかの」

 

ふむ、とオスマンは考え込む。コルベールもうぅむと唸る。

 

「しかし、それならばなおのこと我が校の秘書のままでも十分なのでは?オールド・オスマン、彼女には十分な給金は与えていたのでしょう」

「もちろんじゃ。…が、給与だけでは足りなかったかもしれん。尤も、更に欲を掻いて犯行に及んだ可能性も捨てきれん。寧ろそう考えるのが自然じゃろう」

 

「でも、あのタイミングで、俺が来たことに気づいてわざわざ嘘ついてるとも思えないんです」

 

サイトは、フーケにまだ善性があることを粘り強く説くが、それでもオスマンたちは首を縦に振れなかった。

 

「そうであったとしてもじゃ、無意に釈放したところで、こちらの善意に漬け込んでフーケが再び犯行に及ぶじゃろう。流石にそこまでは、この学院を収める者として、この学院で学ぶ、いずれこの国を支える若者の未来のため、わしとしても譲歩しきれん」

「そうっすか…」

 

 もうこれ以上、無理を言ってもこの人たちを困らせてしまうだけだろう。だが、幾度も及んだ犯行の末であっても、盗みを働いただけで法の元に命を取り上げられる…サイトは、フーケを気の毒に思った。

サイトの心情を察したオスマンが、孫を労る祖父のように微笑する。

 

「君は優しい少年じゃの。それも、ウルトラマンからの授かり物なんじゃろうな」

「んなことないっすよ。俺はただ…」

 

もしフーケに、誰か守っている人がいて、もしその人がフーケの帰りを待っているのだとしたら…

自分は、フーケという大事な人を、その人から奪ったことになる。

 

 サイトの脳裏に、苦い記憶が過った。

 

怪獣とウルトラマンの戦いにて親を失い、悲しみと不安に暮れていた、孤独なあの時を。

 

「そうしたくなったってだけですから」

 

 

 

 

 

 

 

 アルヴィーズの食堂の上の階は大きなダンスホールになっている。

 フリッグの舞踏会はそこで執り行われた。着飾った生徒や教師が、豪華料理を並べたテーブルの周りで歓談中だ。笑顔と活気のある光景。その一方でサイトはバルコニーから外を見ていた。

 

「いいのか相棒、貴族の連中が会食やらダンスやらで賑わってるってのに」

 

 デルフが鞘から顔を出してケタケタおどけるように言う。が、一方でサイトは盛り上がった素振りさえなかった。

 

(…)

 

 サイトは、フーケがグドンたちに痛手を受けた時に呟いた言葉を思い出す。もし自分の聞き間違いでなければ個人的な私利私欲ではなく、別の誰かのために怪盗をしていただけで根っからの悪人ではなかった…ということだろうか。

 

 いや、疑問と言えばもう一つある。破壊の杖…MACバズーカだ。なぜ、かつての地球防衛軍の兵器が、この異世界に存在しているのだ?ツインテールやグドン…地球に生息していた怪獣がこの異世界に存在していたのも気になるところだ。あいつらは宇宙怪獣であるディノゾールとも違う。本来ならこの異世界で目にすること自体ありえないのだ。だから、元の世界に戻れる方法があるかもしれないと期待したのだが…。

 

「相棒?どうしたよ。随分黄昏てんな」

「地球に帰る手がかり、見つかったと思ったんだけどな。それに、フーケのことだってさ…」

 

 夜空の星を暇そうに数えながらサイトは呟く。

地球に帰る手段は今のところ、ゼロに変身して当ても無い宇宙の闇を行くことだけ。それ以外の、確実なルートを辿った上での帰還方法を見つけられなかった。加えて、フーケの後の待遇が止めを刺すようにサイトの心にモヤモヤとしたしこりを残した。

 

「あの盗賊の姉ちゃんのことは仕方ねぇさ。相棒の世界ではどうだったかは知らねぇが、こっちの世界じゃ窃盗も立派な重罪だ。しかもターゲットは貴族、連中に取っちゃ自分たちの面子を潰すだけの鬱陶しい奴だからな。殺して二度と盗みを働かせないようにするしかねぇって思ってんのさ」

「そんな…人の命より貴族のプライドなんか

「相棒!」

…!」

 

デルフが、サイトが言おうとしたその先のことを大声を出して遮った。

 

「な、なんだよ」

「自分が今どこにいるのか忘れてんのか?」

 

言われて、サイトは今、自分が貴族の子女たちが楽しむ憩いの場にいることを思い出す。

 

「ここにいる連中は、お前さんが理解できないことを守る奴らでいっぱいだ。下手に口走れば吊し上げられるぜ。娘っ子共々な」

「…」

 

口は災いの元、時と場所を弁えずに口走れば、ルイズにも迷惑がかかる。口を閉ざす以外になかった。

 

「まぁそう気を落とすなよ。相棒は精一杯やったんだ。後悔するこったねぇ。

元の世界に戻る方法だってよ、もう一人の相棒だっているんだ。絶対に不可能ってわけじゃじゃねぇだろ」

 

 人の気も知らないで口の減らない奴である。とはいえ、根は陽気で楽しい男の性格をしている。今のような気分だからこそデルフの存在は都合がよかった。

 

『サイト』

 

 ふと、ゼロがサイトに話しかけてきた。

 

「ゼロ?」

 

『……お前、故郷に帰りたいのか?』

 

 なんだかやけにしおらしい口調。サイトは不思議に思った。

 

「それはまぁ…そうだろ。帰りたいさ。でも…お前とは分離できないままだ。ずっと二人ともこのままだったら、別々の故郷に帰れないじゃないか。だからせめて方法とか手がかりだけでも知っておきたかったんだ。この星は、地球からも光の国からもどれだけ離れてるかもわからないし」

 

 すでに地球は、宇宙へ進出できるまでに文明が発展している。もしこの星がどこにあるのか判明していたら、地球へ帰るのに苦労などしない。それはゼロにも言えたこと。だが、サイトとゼロ、それぞれの故郷から一体この星がどの位置にあるのか見当もついていないのだ。

 

しかし、ゼロは言った。

 

『…どのみち帰れねえよ…俺は。帰りたくても帰れねえんだ』

 

「え?」

「はぁ~いダーリン」

 

 それはどういう意味だと尋ねようとすると、ここでキュルケがサイトの元にやってきたのだ。彼女は胸元の開いた、それでいて上品なドレスで着飾っている。本人いわく、特注で作らせたドレスだそうだ。彼女はサイトより一つの18歳だというのに、更に年上の綺麗な大人の貴婦人のようだ。

 

「もう、折角のパーティなのにそんな顔してたらダメよ。ほら他の皆だって楽しんでるじゃない」

 

 キュルケが指し示す方向を見ると、タバサは黒いドレスに身を包み、頭にはティアラを付けている。右手にフォークを、左手に皿を持って。何かをもぐもぐ食べているところから、舞踏会というのにご飯が目的のように見える。

 

「私が無理やりおしゃれさせたのよ。かわいいでしょ?」

 

 確かにタバサは、小柄な知的メガネ美少女と言った印象がある。ドレスに身を包むと気品も出て似合っている。が、そんな上品な姿と裏腹にあの小柄な体のどこにそんなに入るんだという大量の料理と格闘中。今はハシバミ草のサラダに食らいついている。

 ハシバミ草はサイトも厨房でシエスタにふるまってもらった時に試食したことがあったが、事前にシエスタが「とっても苦いですから気を付けてください」と忠告を入れていた。彼女の言っていた通り、地球でも味わったことのないほどの苦みがサイトを襲った。そんなハシバミ草をあんなに目をきらめかせてまで見ているこっちが腹いっぱいになるほど食すタバサにある種の恐ろしささえ覚える。

 紫のラメ入りのタキシードを纏っていたギーシュも、得意の口説き文句で女子生徒たちからの人気を取り戻し始め、ダンスを申し込まれて良くも悪くも調子よしのようだ。それを見ていたモンモランシーが不満そうな顔をしているのも見えた。

 

「そういうわけで、ダーリン踊りましょ♪」

「いや、俺は……」

 

 そんな気分じゃないとサイトが渋っていると、大勢の男子達が寄ってきた。

 

「キュルケ、今夜も綺麗だよ!!」

「あらん、ありがと」

 

 キュルケは男子生徒たちから褒められ、ダンスを申し込まれるや否やそっちの方へ移って行った。元々乗り気じゃなかったからちょうどいい。ルイズの部屋で先に寝ようと、ホールを後にしようとした時である。

 

「ヴァリエール公爵が息女。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~り~!!!」

 

 ホールの壮麗な扉が開かれ、ルイズが姿を見せた。

その姿に、サイトは息を呑んでしまう。

 確かにルックスはサイトの好みに近い美少女だったルイズ。でもその実性格はかなりの癇癪持ちで我儘。…と思っていた自分がいた。

 髪をバレッタにまとめ、白いパーティドレスに身を包み、ひじまで覆い隠す白い手袋が、いつもの彼女とはまるで別人かと疑わせるほどの美しさを放っていた。

『へえ…あの喚くだけのガキとは思えないな』

 

 ゼロがさらりと、ルイズが聞いてたらまさに言葉通りになることを言う。ルイズにゼロの声が聞こえないのが幸いだ。

 そんなルイズに、男子生徒たちが我先にとダンスを申し込んでいる。今までゼロだの無能だのと蔑んでいた癖に、現金なことにルイズの魅力の虜になったらしい。しかしルイズは彼らからの申し入れに目をくれず、まっすぐサイトの元へと歩いてきた。

 

「楽しんでるみたいね。サイト」

「い、いや別に」

「へえ、馬子にも衣装って奴だな娘っ子」

「そこのボロ剣、うるさいわよ」

 

 デルフが余計なひと言を言うと、ルイズは怒るがすぐにサイトに視線を戻す。

 

「お前、踊らないのか?」

 

 いっぱい誘われていたのにどうして俺のところに来たんだ?疑問に思っていると、ルイズはサイトの方に手を差し出してきた。

 

「踊ってあげてもよくてよ」

 

 目を反らして照れくさげに言ってきた彼女に、サイトは戸惑った。言われている自分までなんだか照れてしまう。でも、頼み方がなっていない。そう思ったサイトはこう言った。

 

「踊ってください、じゃねえの?」

 

 しばらく沈黙がその場に流れたが、ルイズから溜息が漏れる。

 

「き、今日だけだからね…!」

 

 ルイズは両手でドレスの裾を恭しく持ち上げ、足を曲げお辞儀をしながらサイトにダンスを申し込んだ。

 

「私と一曲踊ってくれませんこと?ジェントルマン」

 

 頬を染め、淑女らしくダンスを再び申し込んだルイズはとてつもなく可愛らしい。サイトはそれだけで胸を高鳴らせて骨抜きにされてしまった。

 デルフをバルコニーの柵に掛け、手を取り合った二人はホールへと歩いていく。

 

「俺、ダンスなんてできないぞ」

 

 TV放送された映画を母が見ていたのを、横からちょこっと見たくらいだ。後は学校の体育祭で嫌々やらされたくらいしかダンスの経験がない。

 

「分かってるわよ。いいから私に合わせて」

 

 ルイズに言われたとおりに動くサイト。

 

「そう、ゆっくり。思ったより上手じゃない」

 

 続けているうちに、サイトの動きは中々様に映るようになった。そんな中、ルイズは彼に尋ねた。

 

「……ねえ、あの破壊の杖のこと…知ってたのよね」

「ん?あ、ああ…」

「じゃあ、異世界から来たのも本当…なのよね」

「信じてなかったのかよ?証拠見せたのに」

「今まで半信半疑だったけど…あんなの見たら信じるしかないじゃない」

 

 ノートパソコンとか見せたじゃないか。破壊の杖でやっと信じてくれたのか?まあ、何から何まで信じるとまではいかないだろうけど。

 

「帰りたい?」

「…ああ…」

 

 帰りたい。それは紛れもなく本当のことだ。故郷に心残りがある形でこの世界に来てしまったのだから。

 

「…ごめんね」

「え?」

「勝手に故郷からあんたを召喚したことよ。その…悪かったって思ってるわ」

 

 意外だった。もうとっくになんとも思っていないのかとてっきり思っていた。だが今のルイズは、サイトを地球から呼び出し、結果的に彼と彼の家族・友人を引き離してしまったことに責任を感じてくれたようだ。

 

「それと、ありがとう…」

「次から次へと如何したんだ?」

 

 今日のルイズはなんだかおかしい。ゼロといいルイズといい、すごく違和感を覚えさせられる。

 

「だって、怪獣にやられそうになったとき助けてくれたでしょ。だから…」

 

 みるみる顔を赤らめながらルイズは俯く。

 

「気にすんなよ」

「どうして?」

 

首を傾げるルイズに、サイトは笑って見せてこういったのだった。

 

「俺は、お前の使い魔なんだろ」

 

 その笑みを見たときのルイズは、さらに一層赤くなりながらも、笑みが浮かんでいた。

 

「こいつは驚れーたな」

 

 バルコニーから見ていたデルフは、その暖かな様子を眺め続けていた。

 

「主人のダンスの相手を務める使い魔なんて初めて見たぜ。こりゃおでれーた!」

 

 

 

 

 

 その頃…。

 とある宇宙の、名もなき惑星。そこには獅子を意識させたような顔つきの、赤い巨人がいた。

 

「ゼロ、一体どこへ消えたのだ?」

 

 その巨人の名は…ウルトラマンレオ。この日サイトがオスマンに教えた地球防衛軍MACと共に怪獣・侵略者と戦ってきた、宇宙警備隊最高幹部『ウルトラ兄弟No.7』の戦士だ。彼は他のウルトラ兄弟たちとは違い、M78星雲光の国の出身ではなく、今は失われた獅子座L77星の王子である。ゼロを探しているらしい。

 

「兄さん」

 

 レオの元に、もう一人彼そっくりの赤い巨人が現れる。彼は『アストラ』。レオの双子の弟であり、ウルトラ兄弟の8番目に選ばれた戦士だ。地球に長く留まらず、宇宙各地を飛び回りながら侵略者と戦ってきた少し異例な経歴を持つウルトラマンである。

 

「何か手がかりを掴めたか、アストラ?」

「ゼロなんだけど、どうも地球に向かったそうだ。セブン兄さんの時と同様に地球を狙ってきたクール星人からの情報だよ」

 

 このアストラというウルトラマン、どうやら以前サイトたちの地球を襲い、GUYSと交戦したクール星人の生き残りを捕まえ尋問したようだ。

 

「地球に?」

 

 レオが意外そうに言うと、アストラは頷く。

 

「あいつは、他者に自分を認めてもらいたがっていたからね。僕たちウルトラ兄弟の戦ってきた星で強くなれば…と考えているんじゃないだろうか」

「なるほどな。それなら合点も行く。

アストラ、お前は捕まえたクール星人を光の国に送検し監視しておけ。俺はゼロを探しに地球に行く」

「兄さんが自ら?」

「何が起こるかわからん。二人同時に行けば逆に全滅の危険がある。だが一人だけ向かえば最悪の事態までは免れる」

 

 まるで自分が死ぬ前提のような言い方に、アストラは抗議する。

 

「その言い方は止めてくれ、兄さん。僕は信じているよ。兄さんは決して死なないってね」

 

それを言われると、レオはくく…と苦笑した。

 

「一度命を散らした身なのだがな。まあいい。行ってくるぞ、アストラ」

「はい、気を付けて。レオ兄さん」

 

 弟にしばしの別れを告げ、レオは地球に向かって飛び立っていった。アストラはそんな兄を見送りながら、彼の無事を祈るのだった。

 

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