ウルトラマンゼロ~絆と零の使い魔~   作:???second

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ルイズの婚約者

 ルイズたちのクラスはその頃、ミスタ・ギトーの授業を受けていた。…と言っても彼は風系統こそが最強の系統であるという主張…というか自慢が多く、授業も風系統を持ち上げる内容が多い。性格も陰湿な所もあって教師としての評価は高く無い。

 その授業中にコルベールが、金髪ロールのカツラの上に高貴な帽子、ギーシュが着てるようなフリル付きのシャツを着込んで乱入、「アンリエッタ姫の来訪により、魔法学院は全授業を中止してお出迎えされたし」とのお達しを伝える。その際コルベールのカツラがズレて特徴的な禿頭が露出、生徒たちの失笑を買ったのは余談だ。

 

その一方で、新たな予想外の問題が発生していた。

 

「…」

 

学院の厨房にて、サイトは賄い色を貰いに来ていた。学院の食事は、貴族の子女に向けたそれなだけに、毎度豪勢でしかも美味。サイトはたとえおこぼれにあやかる形とはいえ、こんな美味いものを食わせてくれるシエスタたちに感謝の言葉もないほどだった。

 

…のだが、今日の朝食を見てサイトは目を疑った。

 

「なぁシエスタ、今日の昼飯…」

 

目の前のテーブルの上にあるのは、パンと薄いスープとわずかな惣菜…いつぞや見たことのあるラインナップに少し野菜を添えただけのわびしいものだった。

 

「すみません、今日のお昼はそれだけなんです」

 

申し訳なさそうにシエスタが謝ってきた。

 

「別にいいけど…なんでこんなに少ないんだ?いつもなら俺一人分の飯くらいの余り、あるはずなんだけど」

 

本音で言えば正直足りないが、シエスタに罪悪感を抱かせぬよう何でもないふりをしつつ、サイトは食事が足りなくなっている理由を問う。

 

「今日はアンリエッタ姫殿下がご来訪なされるとのことで、護衛の方々にもお食事を振舞うことになってるんです。だからその分、サイトさんにお分けできるお料理が減ってしまいまして…だからサイトさんにお分けできる分が…」

「マジかぁ…」

「ごめんなさい。サイトさんには欠かさず美味しいご飯を振舞ってあげたかったのに」

「いや、いいよいいよ。シエスタは何も悪くないって。その気持ちだけでありがたいよ」

 

サイトは項垂れた。よもや来客のために食材が削られているとは。まぁ、もとよりタダ飯食いの身だ。ルイズの時のような傍若無人な理不尽と違い、やむを得ない事情で文句を言うわけにもいかない。

いただきます、と呟きサイトは朝食にありついた。

 

「にしても皆、姫様の話で持ちきりだよな。さっきすれ違ったギーシュから熱く語られたよ。トリステインの花やらなんやらって」

『ったく、二股騒動を起こしても凝りねぇ野郎だったな。サイト、あいつならそのお姫様に手を出してくるだろうぜ』

『わかってるよ。もしそうなった時は…』

 

ここにくる前、姫の来訪に有頂天なギーシュから、この国の姫の素晴らしさと美しさ、可憐さをしつこく聞かされ、サイトと、彼の中で聞いていたゼロはちょっとゲンナリしていた。

美女好きのギーシュからすれば、アンリエッタはまさに手を出さずにいられない格好の……………とりあえず本当にそうしたらギーシュを始末しておくとしよう。あの男ならやりかねない。

 

「変な言い方になりますが、ミスタ•グラモンの言いたいこともわかります。平民の村娘に過ぎない私にとっても、アンリエッタ姫殿下は憧れの存在ですから」

 

サイトの暗い決意など梅雨知らず、シエスタは純粋な憧れの感情を露わにした。

 

「アンリエッタ姫って、一体どんな人なんだ?」

「美人で気品のある方で、なおかつ平民や貴族に対しても分け隔てなく接するお方で、貴族平民関係なしに国民の皆からとても人気があるそうなんです。あくまで噂…ではありますけど。

もしそうなら、私も一度お目にかかりたいなぁ…」

 

なるほど、女の子が高貴な王女様に憧れるというのは異世界でも変わらないらしい。幼い頃、同じ幼稚園に通っていた女の子たちがごっこ遊びで口々にお姫様役をやりたがっていたのを思い出す。

 

「いいなぁ、姫殿下って。毎日綺麗なドレスやティアラで着飾って、毎日美味しいお料理を振る舞ってもらえて、お風呂も食堂一部屋分の大きな場所で入って、美味しいワインも飲んで…私なんかじゃ逆立ちしたって味わえない贅沢で幸せな生活なんでしょうね…サイトさんも憧れませんか?」

 

窓の外を見つめはふぅとため息を漏らすシエスタ。

 

「うーん、俺もたまに羨ましく感じることくらいはあるけど、実際にそうなりたいか、毎日貴族の連中みたいにたらふく食いたいかって訊かれると、そうとは言えないかな」

「どうしてです?」

 

一方で否定的なことを呟いたサイトに、シエスタは首を傾げる。

 

「だって俺ら、所謂平民なわけだろ?そん時から庶民らしい暮らしぶりが身に沁みてるんだよ。だから毎日豪勢で量が多い飯なんて食べきれなくて胃もたれしちまう。だったらほどほどくらいがちょうどいいさ。

なんだったら俺、シエスタの飯を毎日食える方がずっといい」

 

シエスタの顔が、ぼうっと火のように赤くなった。

 

「…!!や、やだサイトさんったら、何を言ってるの!もう!」

「あ痛!?」

 

照れくさくなって思わずサイトの背中をぶっ叩いてしまう。

 

「サイト、こんなところで油売ってたの!?」

「ルイズ!?」

 

とそこで、ルイズが厨房にやって来た。妙にぷりぷりしている。

 

彼女は今、妙に苛々が収まらなかった。サイトにも…何よりサイトから今、意味深な発言ともとれる言動を受けてくねくねしているシエスタに。

 

なんかものすごく腹が立つ。

 

「早く戻りなさい。今日は姫様がご来場なさる大事な日なのよ。あんたも掃除しときなさい」

「なんだよ、またいつになくイラついてるな」

「いつになくって何よ!まるで私が常に苛々してるみたいじゃない!」

「え?実際そうじゃね?」

『あぁ、確かに』

 

サイトの何言ってんだこいつ?的なコメントに、ゼロまでも同意していた。

 

すかさずルイズのビンタがサイトを襲う。

 

「痛ってぇ!何すんだよ!」

「誰のせいよ!」

 

 

 

 

 

そして来訪予定時刻。前日までに貴族平民総出(サイトも含む)で大掃除などの準備に追われ、教師らの入念なチェックを経てようやく出迎えの準備が完了した。

 

 生徒たち全員が校庭に集められ、美しく可憐なわが国の姫の来訪を心待ちにする。

 

 しかし、好奇心旺盛な性格もあってフットワークが軽いサイトにとって、じっと待ち続けるというのは苦手だ。

 だから近しい間柄になったギーシュやキュルケらと、アンリエッタ姫に関してお喋りタイムを満喫して暇を潰した。

 その会話の中で、この国の現在の政治の中心を取り仕切っているのは王族ではなく、

枢機卿だと。ゆえに『トリステインの王家には美貌はあっても杖がない、杖を握るは枢機卿。灰色帽子の鳥の骨』という小唄が流行っているのだとか聞かされた。

 しかしルイズから「これから姫様が来訪なさるのに無駄口を叩かないで」と、きつく叱られた。

なので仕方なくゼロと話でもしてみることにした。人命救助より敵の殲滅を優先するとんでもない野郎だが、口を開かずとも会話できる貴重な相手でもある。

 

『なあゼロ、お姫様ってどんな人だと思うよ?』

『なんで俺に聞くんだよ』

『なんとなく』

『…敢えて言うなら、姫ってのはお淑やかなのが普通だろうが、意外と行動派な奴とかいるんじゃないのか?ユリアンみたいに』

 

 ユリアンという単語を聞いて、サイトは幼いころに見た子供向けのウルトラマンの特集冊子の内容を思い出してみる。

 

『ユリアンって確か、ウルトラマン80と一緒に戦った、ウルトラの母以外では初めての女性ウルトラマンだったな…って、ユリアンって光の国の王女だったの!?』

『知らねえのか?』

 

 地球人はウルトラマンについて強い関心があるから知っていると思ったのか、ゼロは意外とこぼした。

 

『いやいや聞いたことないし』

『ま、それもそうか。ウルトラマンの正体は基本明かされてはいけねぇ決まりだしな。わざわざ王女だって知られる理由もねぇか。

にしても…遅くねぇか?例のトリステイン王女っての』

 

会話が今の状況から脱線しかけたところで、ゼロが思い出したように話題を戻した。

 

「そう言えば…なぁルイズ、いつになったら来るんだ?そのお姫様って」

 

待ち始めてから既に1時間、1時間半、2時間…一向に王女の一行が来訪しない。待ちくたびれたサイトがルイズに苦言を漏らす。

 

「ちょっと黙ってなさい。今から姫様たちが来られるんだから、ちゃんとしてなさいよ」

 

横でんん!と背伸びするサイトを、ルイズは咎める。

 

「そうは言うけど、予定の時間からもう3時間くらいは待たされてるじゃない。ふあぁ…」

「キュルケ、欠伸しないで!」

 

これだからゲルマニアの奴は、とルイズはキュルケに目くじらを立てる。もし来訪したアンリエッタ姫一行に見られたら、不敬罪に処せられるかもしれないし、何より学院の質が落ちたと王族に見なされてしまうではないか。

 

「ルイズ、そうカリカリするのも無理はないが、実際来るのが遅すぎるんじゃないかね」

「そうね。何かあったのかしら?」

 

落ち着くように言うギーシュと、不安を口にするモンモランシー。

 

「や、やめなさいよ。不吉なこと言わないでよ。姫様たちに限って」

「緊急のお仕事が入られた、とかじゃないのかってことよ。私だって何事もない越したことないって思ってるのよ」

「…」

 

モンモランシーにそう言われ、ルイズは黙る。

 

「なぁ、俺戻っていい?流石に待ちくたびれたよ」

「あんたは黙ってて!」

 

 もうここでじっとなどしてられないから、先に自分だけでも帰してくれとせがむサイトだが、ルイズは許さなかった。サイトが自分の使い魔なのは周知されていること。あっちこっちでふらふらされては、また『ゼロのルイズが使い魔の手綱も引けない』と言いふらされてしまう。しかも今日は我が国の姫君の来訪、なおのこと使い魔であるサイトにもピシッとしてもらわなければ困るのだ。

 

 …が、そんなルイズの真面目な決意は、無駄に終わることになる。

 

 

「ん?」

 

平原の方から何かが飛んでくるのがサイトの目に見えた。今は黒い点のようにしか見えないほど小さく見える。空に見える黒い点のようなものに対し、目を凝らし続けている。

 

「なぁルイズ、なんか見えないか?ほら、あそこ」

 

サイトは黒い点に向けて指差す。

この犬、何か見えたのだろうか。もしや、この学院を襲撃しに来た不届きものだろうか?それともはぐれた魔物だろうか?だが彼女の視力ではそれ以上見えてこない。

 

 今のサイトはウルトラマンと一体化した特殊な存在だ。そのため変身していなくとも身体能力の他、視力も向上している。透視能力も有しており、ある程度までなら物質の内部構造を目で確認することもできるのだ。

 

「あれは…鳥か?でも随分デカいな」

 

辛うじて見えたその黒い点は、大きな鳥のような生き物だった。でも鳥と言うには異様だ。後ろ足が…ライオンを思わせる動物になっている。

 

「もしかしてあれ、新しい怪獣か?」

「怪獣ですって!?」

 

サイトの呟きを聞いてルイズの表情が強張り、彼女の叫びで周囲もぎょっとした。

トリスタニアでのディノゾール災害はもちろん学院の生徒たちも周知している。最初のクール星人による学院襲撃の件とも重なり、またあの恐るべき時が来るのかとざわつき始めた。

 

「あ、あいつこっちに来てるぞ!」

 

サイトの言った通り、その鳥は学院に向かって近づいてきていた。次第に近づいていきうちに大きく見えてきて、その鳥に人が乗っていることに気づく。

そこでルイズはハッとした表情を浮かべ、サイトに「何よ、人騒がせな使い魔ね」と呆れた。同じく周囲の生徒たちも、「やっぱり平民のたわごとかよ」と、サイトに冷たい目を向けてくる者、「どこの田舎の平民だよ」と嘲る者が出てくる。

それらの視線と言動にサイトはムッとするも、ルイズに説明を求める。

 

「なんだよ?あんな生き物見たことあんのか」

「相棒、ありゃグリフォンって奴だ。怪獣じゃねぇ。ハルケギニアの生き物だぜ」

 

デルフが顔を出して解説してきた。

 

「って言うか、怪獣なんて生き物がいる世界から来たあんたにとって、別に珍しいものでもないでしょ?グリフォンなんて」

「グリフォン?え?じゃあ、あれもハルケギニアの生き物なのか?」

 

そう言ってるでしょ、とルイズはサイトに言った。

 

「へぇ、人を乗せるくらいデカい鳥なんてすげぇな。タバサのドラゴンにも驚いたけど、あんなのもいるんだな」

「ただ大きいだけじゃないわ。あれはグリフォンよ。それも魔法衛士隊のグリフォン隊に配備されてる特別なグリフォンだわ」

「じゃあ、あれに乗ってる奴って、結構すごい魔法使いってことか」

「そういうこと。だからギーシュの時の様に揉めごとは起こさない様にして」

 

 ルイズの言った通り、そのグリフォンの騎手が腰を跨いでいる鎧には、トリステイン王国の印である百合の印と、魔法衛士隊のエンブレムが入っている。

 

そのグリフォンは、二人が話し込んでいる間に魔法学院の門の前に着地した。グリフォンの騎手は降りてきて、教師たちの前に立つ。

彼はその教師の中でコルベールを代表者に選んで歩み寄り、耳打ちする。

コクっと頷いたコルベールが学院の生徒たちに向けて叫んだ。

 

「え〜、アンリエッタ姫御一行は、まだゲルマニアからお戻りになるのに暫くの日数を要するとの知らせが入りました!よって授業を再開しますので、生徒たちは教室へ戻りなさい」

 

 直後に生徒たちからえぇ〜!とブーイングが飛んだ。

 長らく待たせておきながら結局遅れのあまり、中止になっていた授業を結局やる。

 

 これなら最初から授業だった方が退屈を凌げたのにと、生徒の間で落胆が広がった。不平を漏らし、それを教師にはしたないと咎められながら生徒たちは教室へゾロゾロと戻っていく。

 

そんな中、ルイズが一人学院の外を眺めたまま止まっている。

 

「ルイズ?どうしたんだよ。早く戻ろうぜ。ったく、待たされただけで、肩こっちまった」

 

またこんなこと言えばルイズに怒られるだろうが、地球にいた頃、学校の全校習会が退屈で仕方なかったサイトとしては言わずにいられない。

 

しかしルイズからは返事がない。

 

「姫様…」

 

どうしたのだろうと改めて彼女の顔を見ると、ルイズはひたすら不安そうに学院の外の平原を見つめていた。

来訪するはずの姫が来なかったことで、心配しているのだろうか。

そんな彼女の下へ、先ほどグリフォンに乗って飛来した男が歩いてきた。

 

「どうしたのかねお嬢さん。もう他の皆は教室に…ん?君は…

 

ルイズ!ルイズじゃないか!」

 

「え?」

 

名前を呼ばれたルイズは目を丸くした。サイトもまさか、この男がルイズの顔見知りと思わなかったので驚いている。しかし彼にとって驚くべきだったのは、男が発した次の台詞にあった。

 

「あなた、私を知ってるの?」

「知ってるも何も、君と僕は旧知の中じゃないか。忘れてしまったのかい?

 

 

婚約者である僕のことを」

 

 

「はぁ!?」

 

ルイズの…婚約者!?

 

サイトの頭の中に雷鳴が轟いた様な衝撃が走った。

彼の目を通してみていたウルトラマンゼロも驚いていた。まさか、この高慢ちきなお嬢様に、婚約者がいたというのか、と。ルイズ本人がゼロの存在を知覚し今の心の声を聴いていたらお怒りになるだろうが。

 

そしてルイズはと言うと…

 

「あなた…ワルド様?」

 

その男の名前を言い当てた。

 

「そうだよ!久しぶりだね、僕の小さいルイズ!

遠目で君の姿を見た時、すぐにわかったよ!」

 

グリフォンに乗ってやってきたその男は、魔法衛士隊グリフォン隊隊長のワルドだった。

 

 

 

 

 

 学院長に御用がある。案内して欲しい。ワルドにそう頼まれ、ルイズは学院長室へワルドを案内する。サイトも使い魔なのでとりあえず着いて来るように言われた。

 

「それにしても、また一段と綺麗になったじゃないか、ルイズ。最後に見たあの幼い姿から随分と見違えたよ。尤も、君が美しい女性になることはわかっていた」

 

サイトは、ルイズを褒めちぎるワルドの歯の浮く台詞にゲプっと吐き気を感じた。この女の気を惹く言い回し方がギーシュのそれと被ってくる。

 

対するルイズはと言うと…若干顔を赤らめながら、しかし悪い気がしない反応だった。

 

「な、何言ってるのよ。婚約だなんて親同士の気まぐれで決まったことなのに。

それにあなた…モテるでしょう?まだお若いのに魔法衛士隊の一部隊の隊長をお勤めになってるんだもの。他の貴族の令嬢からアプローチかけられてもおかしくないわ。なのに私みたいな子に構ってたって…」

 

「僕はずっと君一筋だったよ。確かにこの10年間、君のことを構ってやれなかったこと、後悔している。

でももうそれも終わりにする。これからは君の顔を見に何度でも会いに行くよ。

それとも、この10年の間に他に好きな男ができてしまったのかな?」

 

「ちち、違うわ!そんなこと…」

 

「あぁそうか!よかった、君が他の誰かに心奪われたなんてことになっていたら、ショックで始祖の御許に帰るところだった」

 

 聞けば聞くほど歯の浮く言葉だ。サイトは胸焼けが治らない。それどころかイライラも感じた。

 あのルイズが珍しくしおらしい態度になっている。言ってることは女を口説く時のギーシュに近いそれなのに、何か裏があるのでは、なんて疑惑すら起こさず、ただ照れ続けている。それが癪に障る。こっちは元の世界に今すぐにでも戻りたい気持ちを抑えながら、こいつの使いっ走りにされているとも知らずに…

 

「たとえばそこにいる少年とか」

「ち、違うってば!もう、ワルド様ったら!久しぶりに会ってわざわざ意地悪しにきたんですの!?」

 

 すると、ワルドはこちらの嫉妬の視線に気づいたのかサイトの方を向いてくる。言い回しのせいで自分が使い魔に惚れていると疑われたと思ったルイズは必死に口調を強めて否定した。

 

「ははは、済まない。つい慌てる君が愛おしくて揶揄いたくなってね」

「もう…言っておくけど、こいつはただの使い魔なのよ。使い魔に恋するなんてありえないわ」

 

そうですかよ、とサイトが拗ねたように呟くと、余計な口を開くなと言いたげにルイズがキッとサイトを睨みつける。

 

「ワルド、あなただって笑ってるでしょう?みんなは猫や鳥、ドラゴンを召喚した子だっているのに、私なんて平民だもん」

 

「まだ言うのかよ。俺頑張ってたんだぜ。お前に色々好き放題言われてもさ」

 

「あんたは黙ってなさい!ワルドに誤解されるでしょ!」

 

不満で口を尖らせるサイトを、ルイズは叱りつける様に怒鳴る。まぁまぁと、ワルドが宥めてくる。

 

「人間を使い魔にするとは…他のメイジとは違うと言うことさ。当然、良い意味で。婚約者を嗤ったりなんかしないさ。それとも君は、僕が他人を見下し嘲笑う下劣な男だとでも?」

 

「そ、そんなことないわ!家族以外で一番立派なメイジと言ったら、あなた以外に浮かばないもの!」

 

「ありがとうルイズ。君はやはり僕をしっかり見てくれているようだ」

 

ワルドはホッとしながらサイトに向き直る。

 

「そうだ。使い魔君の名前を訊いていなかったな。

僕はジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。気兼ねなくワルドと呼んでくれ」

 

「サイト。平賀才人…です」

「ヒラガサイト…変わった名だね」

「よく言われます…」

 

やっぱ異世界だとそんなに風変わりに聞こえるのか…。ちょっとしたカルチャーショックである…いや、使い方合ってたかな?

 

「なに、親から名付けてもらった名前だ!きっと良い意味が込められた名前だろう。その名前に恥じないことを君はすでにやってのけているのだからそんなに落ち込むことはない。

噂はこちらでも聞いているよ。君は、ルイズたちと共にあのフーケを捕まえ破壊の杖を取り戻したそうじゃないか!しかも当時、二体もの怪獣を相手にした上で!

僕は婚約者を守ってくれた君に感謝しなければ!何か欲しいものがあればなんでも言うといい!遠慮はいらないぞ!」

 

 すでにフーケ事件のことはこの男も知っていたようだ。笑いながらワルドは、気さくにもサイトの肩をパンパン叩いて彼を励ましてきた。嬉しい反面、どこかサイトは悔しくなった。

 

(くしょ~…しかもこいつ見た目通りのいい奴じゃねえか~…)

 

 ギーシュも美少年なのは確かだ。でも馬鹿でキザ。自分から薔薇を着飾ってカッコつけるあたり趣味も悪い。マニア受けするタイプに違いない。そう思うとモンモランシーはかなりマニアックな奴だ。

 

 でも、ワルドはギーシュと大きく違う。

 寝癖一つない綺麗な長いストレートな銀髪、高い鼻、鷹のように鋭い眼光を放つ目、威厳を感じる口髭、全てが整っていて、西洋人のイケメンさながらだ。年を重ねても男らしいフェロモンを漂わせている映画俳優のようだ。モテた経験のなかったザ・普通の日本人の少年でしかない自分とはまるで違う。それが悔しくてたまらない。

 

 怪獣や異星人という強大な存在を知っていること、自分がギーシュを圧倒したこと、色々あったけど怪獣との戦いを経てフーケを捕まえただけに、メイジはギーシュのようにひょろひょろで弱っちそう…なんて考えてかけていたが、このワルドの場合だと秒殺されそうだ。全面的に男として勝てそうにない。元々モテなかったとはいえ、サイトはすごく落ち込んだ。

…勝てる気がしない。サイトは男として圧倒されているという事実に落ち込んだ。暗闇の中で四つん這いになって這いつくばる自分がスポットライトに照らされる姿が脳裏に浮かんだ。

 

「もうフーケの一件、ワルド様の方にも伝わっていたの?」

 

「オスマン学院長が、その件の褒美として君たちにシュヴァリエの称号の授与を申請なされたそうなんだ。僕は誇らしかったよ、我が婚約者の力が認められるなんてこんなに嬉しいことはなかなかない。

 だが、どうもこの国の政を取り仕切る枢機卿殿はこれを不服に思って却下したんだ。軍からのいらない嫉妬は買えないからと。

 全く嘆かわしいことだ。ルイズの功績を、下らない体面のために無かったことにするなんて。世を騒がせた盗賊と怪獣を二体と戦った君たちに対してあんまりなことだ」

 

「い、いいのよワルド。私はただ、貴族の誇りを捨てたフーケが許せなかっただけだもの。それにあの任務で頑張ってたのはサイトの方よ。怪獣だって、止めを刺したのはウルトラマンだったわ。私、寧ろ足を引っ張ってただけよ…」

 

「ルイズ…」

 

 てっきりサイトは、これくらい当然なんだから!と得意げに語る姿を思い浮かべていた。でもこれだけできた婚約者を相手に見栄を張ることはしなかった。あの時の自分の行動が余程応えていたせいなのか、それとも…

 いや、きっと婚約者に嘘はつけないのだ。さっき怒鳴ったのも、このイケメンな婚約者に傍若無人な姿を見せたくないからだ。このしおらしい態度がその証拠だ。そう思うと…ルイズが少しは自分のことを認めてくれたのかと期待しちょこっと喜んだサイトだが、そんなわけないかと感じて少し切なくなった。

 

「いや、使い魔はメイジにとって一心同体の手足同然の存在だ。足を引っ張ったと言っていた君が召喚したはずの彼が、君を救い国を騒がせた盗賊を捕縛する活躍を見せた。

つまり、君には他のメイジを凌駕するとてつもない才能を隠し持っているのさ」

 

 ルイズは、ワルドがここまで自分を持ち上げてくることにむず痒く、そして気まずくなった。照れもあるが、彼が言うほどの力がやはり自分にあるとは自信を持っていえないからだ。

 

気を逸らそうと思って、話題を別の方に持っていくことにした。

 

「と、ところでワルド、あなたほどの人が急に来るなんて…何かあったの?もしかして…」

 

そこまで言いかけたところで、ルイズはハッとする。

 

「そうだわ!姫様…アンリエッタ姫殿下に何かあったんじゃないの!?」

「どうしてそう思うんだい?」

「だって今日、姫様が来訪するって知らせが来たのよ。でも予定の時間を大幅に過ぎて、結局来る気配がなかったから」

「ルイズ、姫殿下のことならなんでもないさ。あのお方は急用ができて王都へひと足先に戻られただけだよ」

「嘘だわ。だったらあなたがここに来た理由に繋がらない。姫様程のお方が外国に、それもあの野蛮な成り上がりの国においでになる以上、最大限の護衛を付ける必要があるわ。それがあなたなら間違いなく適任よ。

でもそんなあなたがこうして、姫様が来訪を計画していた学院に来た。だったら御身に何かあったと考えるべきよ」

 

「…さすがはルイズだ。やはり君は鋭いな」

 

隠し事はできないか、そう悟ったらしくワルドはふぅっとため息を漏らす。

 

「まずこの話をする前にルイズ、そして使い魔君。今から話すことは絶対に他言無用だ。学院に、ひいては国中に混乱が起きる」

 

ジロリと目線が合わさり、口走らぬようにプレッシャーをかけられたサイトとルイズは唾を飲み込みつつ頷いた。

 

「君の察している通り殿下は今、賊によって拐かされたんだ」

 

「なんですって!」

 

「ルイズ!」

 

声が大きいことを咎められ、ルイズはしゅんとする。

 

「ご、ごめんなさい…で、でも」

 

「気持ちはわかる。僕も臣下としてあるまじき事態を防げなかった。グリフォン隊隊長として恥ずべきことだ。必ずこの汚名を注いで殿下を救出するつもりだ。幸いなことに奴の特徴は捉えている」

「特徴?」

「見たことの無い姿をした亜人と、黒衣を纏った男の二人組だ。黒衣の男の方は、急な状況で顔は見えなかったが、両人とも中々目立つ格好だから間違えることはないだろう」

 

『…こいつ…』

 

そんなサイトたちのやりとりを、ゼロも耳を傾けていた。何かを察している様であった。

 

話している間に、目的地である学院長室の扉が目に入った。

 

「そろそろ学院長室だわ。ほら、あそこ」

「ありがとう。僕は学院に通っていたわけではないから助かったよ。持つべきは良き婚約者だ」

 

また持ち上げる様な言い方をするワルド。

ルイズがその言葉から逃げる様に目を逸らす様は、サイトにはやはり婚約者からの褒めちぎりに照れた様に映る。それがちょこっと癪に触った。そう、ちょこっとだけだ、と自分に言い聞かせつつ、サイトはワルドに質問してみる。

 

「なんで、通ってなかったんっすか?」

「あぁ、別に学院に通わずとも、実家の財力なら家庭教師を雇うことで一般教養も魔法の勉強にも困らなくなるからさ。僕もその一人なのさ。尤も、学院に行かなかったから多くの友人には恵まれなかったものさ」

 

ワルドが困った様に笑った。

 

「さて、話し込んでる場合ではなかったな。ここまででいい。

ルイズ、使い魔君。また近いうちに顔を合わせよう」

 

そう言ってワルドは学院長室ドアをノックする。

中からオスマンの「入りなさい」の一言が聞こえてきて、ワルドは入室した。

 

「お姫様が攫われた、か…

まさか現実でそんなことに出くわすなんて思わなかったな」

 

ワルドが入っていった学院長室を見つけながらサイトが呟くと、デルフが鞘から顔を出て来る。

 

「まぁ確かに、物語とかじゃよくあるパターンって奴だな」

「へぇ、ハルケギニアでもそうなのか」

「その口ぶりだと、相棒の世界もそうらしいな。イケてる顔で心優しい勇者が、可愛らしいお姫さんを悪いドラゴンから救って結ばれ、世界を救うって感じだろ?」

「そうそう。そうなんだよ。ただ俺たちの世界の場合、赤い服を着た髭のおっさんが刺々しい甲羅を持つデカい悪者の亀と戦う奴もあるんだぜ」

「なんだそりゃ。赤い服を着てるだけの髭親父に、相棒の世界の連中は魅力感じてんのか?」

「まぁ口だけで聞くとそう思うよな。でも実は」

「サイト!呑気にボロ剣と喋ってんじゃないわよ!」

 

愛刀との会話が弾むサイトに向けて、ルイズが五月蝿いと言わんばかりに怒鳴った。

 

「な、なんだよ!そんな怒ること言ったか、俺?」

 

「別にそういう意味で言ったわけじゃないわよ!そんなことより、今から出発するわよ!」

 

「え?出発?」

 

なぜかこのタイミングで出かけると言い出したルイズに、サイトは首を傾げた。

 

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