ウルトラマンゼロ~絆と零の使い魔~   作:???second

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婚約者ーワルドー/手紙

 浮遊大陸、アルビオン。

 この国は、王室を倒して新たな政権を築こうとしている組織『レコンキスタ』による反乱が起きていた。

レコンキスタはハルケギニアにおいて神として崇められし者『ブリミル』の降り立ったとされる地、『聖地』の奪還を目的とし、その足がかりのためにハルケギニアの統一を掲げて、やがて人間に敵対するエルフに戦いを仕掛けるつもりでいた。だが、これはとても褒められたことではない。王政に対する謀反など恩知らずと言う見方も取れる上、昨日まで平和に生きていた人々から見れば迷惑行為でしかなかった。少なくともレコンキスタが乱を起こすまでの間、アルビオンは少なくとも平和だったし、民たちからも決して失望されるほど腐ってはいなかった。

 にも拘らず、レコンキスタの長である男『オリバー・クロムウェル』はこともあろうか、自らが失われし伝説の系統『虚無』の担い手、始祖の意思を受け継ぎし選ばれし者と称して王政に反逆したのである。これを王党派が見逃すはずもない。始祖の名を騙り、無用な戦を起こす不届きな輩の蛮行を許すわけにはいかなかった。

 

「全軍突撃せよ!あの身の程知らずのレコンキスタに始祖のご加護を受けし我らの正義の鉄槌を下すのだ!!」

 

 ある平原でついに本格的にぶつかり合った王党派軍と、貴族派ことレコンキスタ軍。最初のレコンキスタはまだ起こったばかりの弱小軍団だった。しかし、負けていたのは最初の内だけだった。

 

「た、大変です!第13部隊のド・グランツ元帥が変心!!こちらに攻撃を仕掛けています!」

 伝令兵がこの時の闘いの前線指揮を務めた王党派貴族に知らせた。

「グランツ殿が離反しただと!?馬鹿な、あの方は王党派への忠誠心が人一倍高かった方ではないか!」

 

 レコンキスタとの戦いが続く中、原因不明の味方の離反が続いたのである。それも、王国に忠誠心の高い義理堅い将までレコンキスタが急に寝返るということまで多発したのだ。しかも、問題はそれだけじゃない。

 

「グオオオオオ!!!」

 

 なんと、レコンキスタはどういうわけか、人間にはとても御することができるとは思えない存在を王党派との戦いに投入したのである。

 

「な、なんだあのモンスターは!!?」「あ、あ…ああああああああ!!!!」

 

 もうお分かりかもしれないが言おう。『怪獣』である。

 

 この時、王党派を攻撃しているのは『古代怪獣ゴメス』。ウルトラマンが地球に出現する前、地球に初めて出現し人類に怪獣の脅威を知らしめた怪獣だった。

 

その巨大な姿に王党派軍は恐れ慄いた。魔法を次々と撃ちこむ王党派軍だが、怪獣ゴメスはびくともしない。ゴメスは雄叫びを挙げながら王党派軍を踏みつぶし、蹴り飛ばすなど蹂躙していく。

 

あまり時間も経たないうちに、王党派軍は散り散りになっていた。これはもう、戦なんて言葉で飾れるものじゃなかった。周囲は王党派軍の死体の山が積み上がりはじめ、惨劇と言うにふさわしい光景だった。

 

「く、くそ!退却!!退却!!」

 

て このままではいたずらに兵を失うだけだ。指揮を務めた王党派貴族は退却命令を出したが、この時すでにゴメスが上から彼を見下ろしていた。

 

「あ、ああ……」

 

 ゴメスはその大きな足を振り上げ、彼を踏みつぶそうと足を下ろしてきた。

 

「うあああああああああああ!!!」

 

 だが、その時だった。突如空の彼方から甲高い声が聞こえてきたのだった。

 

 

「ファイヤアアアアァァァァーーーッ!!!!」

 

 

 その熱さを秘めた声が轟くと同時にゴメスは吹っ飛ばされた。指揮官は、一体何が起こったのかわからず顔を上げると、目に飛び込んできた異形の存在に腰を抜かした。

「な…!」

 彼の前に立っていたのは、オレンジ色の体に炎をそのまま擬人化させたような姿をした巨人だった。そしてその傍らの宙に浮いていたのは、王党派が所持している戦艦にも匹敵する大きさを誇る、炎に身を包んだ戦艦だった。

 

それは、サイトがこの世界に現れる前…

 

 

この世界に、『ウルトラマン』の存在が認知されるしばらく前の出来事だった。

 

 

 

 

ツルク星人の魔の手からアンリエッタを無事救出したサイトたち。

 ギーシュは、姫救出の恩賞や、これを機にアンリエッタにお近づきになれるかもしれないと期待していたが、そう簡単にはいかなかった。

 そもそもサイトたちが姫の救出に向かったのは彼らの独断によるものだ。ましてや危険に身を投じる行いとあっては教師たちも黙っていられない。

 生徒の身の安全を預かる者として学院教師らから罰則が下されかけたのだが、それについてはアンリエッタが「私が生きているのは彼らのおかげであるから穏便にお願いします」と、取りなしたことで免れた。

 

 

 かくして、予定より遅れが生じる形ではあったが、魔法学院にてアンリエッタに向けた盛大な歓迎パレードが開催、学院内は華やかな我が国の姫の来訪で大盛況であった。

 

 

 その日の夜だが…アンリエッタはルイズを、オスマンから借りた応接室に招き入れた。使い魔であるサイトも同伴させられた。

 

 再会した当初はお喋りする時間も惜しい緊急事態だっただけに、ようやくゆっくり旧友と言葉を交わしたがっていたアンリエッタは、ルイズと幼い頃の思い出話で盛り上がった。

 

ヴァリエールの庭の森を泥だらけになるまで走り回ったり、おままごとでお姫様役を取り合って喧嘩することもあったり…同席していたサイトと、彼を通して話を聞いていたゼロも、アンリエッタが見た目に反してなかなかのお転婆なのだと認識した。

 

 さて、思い出話が落ち着いてきたところで、同じく呼び出されたギーシュやワルドも来たところで、本題に入った。

 

 

 

 この話の前提として、アンリエッタはついに結婚が決まったと明かした。

 

 祝辞の言葉を送るルイズだったが、姫の嫁ぎ先が大嫌いなキュルケの祖国で、ルイズが成り上がりだと見下している大国ゲルマニアだった。もちろんルイズは憤慨し、アンリエッタもその相手がゲルマニアの皇帝…別に好きではない相手なので乗り気ではなかったらしい。が、もとより王女である自分が、自分の勝手で好きな相手と結婚することは許されていないため、愛する人との結婚自体はもう諦めていたと切なげに明かした。

 しかも現状のトリステインは、元から貴族の腐敗政治等が祟って国力が年々低下、しかもトドメを刺しにきたとばかりに怪獣や異星人の襲撃で深刻なダメージを負わされている。国の万人が生き残るためにも、ゲルマニアとの同盟、その条件であるアンリエッタの結婚は必須だった。

 

 だが、この結婚は危機にあることをアンリエッタは明かした。

 

 現在のアルビオン王国だが、トリステイン王家とは血の繋がりもある王族を中心とする王党派と、そんな彼らに共和性というリベラルを掲げて反乱を起こした貴族派の二派に別れて内乱が起きていた。

 

しかも…

 

「怪獣を従えているだって!?」

 

サイトが声を上げた。

 

「サイト、姫様の御前よ!声が大きい!」

 

「わ、悪い…」

 

ルイズから注意され、サイトは謝った。

 

「し、しかし本当なのですか?貴族派…『レコンキスタ』が怪獣を従えて国を蹂躙していると?俄かに信じがたいのですが…」

 

 ギーシュもこの話が壮大かつ予想外すぎて、耳を疑った。

 怪獣…既にディノゾールやグドン、ツインテールなどと言った個体が出現しその猛威を振るった。メイジが何人束になっても倒せなかったあんな化け物を、同じ人間である貴族派が従えることに成功して戦力としているなんて俄かに信じられない。

 

「しかし残念ながら事実だ。アルビオンに秘密裏に派遣した我が隊の斥候部隊が確認している。レコンキスタが発足して間もないにも関わらず、王党派の軍を圧倒し優位になった理由として頷ける話だ」

 

残念そうにワルドが呟いた。

 

「トリステインとしてもこの事態は由々しきこと。故に私は先日までのゲルマニアの他、ガリア王国、オクセンシェルナ、クルデンホルフ大公国と話し合うべく奔走して参りました。いくつかの国とは協力関係を結ぶことはできたのですが…あくまで保険、結果が身を結ぶ可能性は高いと言えないでしょう。

前向きに協力することを約束してくれた国の多くが小国、

ガリアはかの国王が無能王と噂されているジョセフ一世、

ゲルマニアは大国でありますが、私の結婚を条件とした同盟を結んできた相手。盟を盾にこちらに不利益を浴びせる可能性も捨てきれません」

「あの野蛮人の国…」

 

憂い顔で告げていくアンリエッタを見て、忌々しい思いでゲルマニアへ毒付くルイズ。だがそんなルイズを、アンリエッタが注意を入れてきた。

 

「ルイズ、そのように言うものではありません。そもそも自力で対処が難しくなるほどまでにトリステインの政を疎かにしてきた、我が国の貴族全員に責任があるのです。寧ろ条件付きとはいえ、同盟を結ぶことを承諾してくれたことに感謝しなければなりません」

「も、申し訳ありません…出過ぎたことを言いました」

「いえ、わかったのならそれでよいのです」

 

ルイズにこうして指摘を入れたアンリエッタだが、現状思わしくないことは確かだ。

アンリエッタは、あのディノゾールによるトリスタニア襲撃事件の後、王室は対怪獣対策会議を執り行ったと言った。しかし、トリスタニアの被害は尋常ではなく、復興資金は馬鹿にならない額だった。しかもトリステインのエリートメイジたちの揃う魔法衛士隊が全く手も足も出ずに敗れ、再編成も困難な状況だという。その矢先に先刻のツルク星人騒動だ。

元より国力低下が問題視されていたトリステインは必然的に他国の助力を借りることになった。無論これはよい機会でもあった。怪獣の脅威を他国に知らせることで各国に対怪獣警戒態勢を敷くことができる。だが、結果はアンリエッタにとって望ましいものではなかった。

 

 タバサの出身国とされている国ガリアの王ジョセフ一世。彼は全く興味を示してこなかった。それどころか、アンリエッタに対して「それはお気の毒に」と、言葉とは真逆の、何の憐みもない声で返事をした。適当に返事するだけで特にこれと言って協力する姿勢さえとってこなかった。

 アルビオンはというと、現在は王政を倒そうとする反乱軍のせいで会議など行える余裕はない。

 さらにアンリエッタは知り合いの姫がいるという小国『オクセンシェルナ』にも協力を求めた。これは至って快く受け入れられたものの、トリステインからかなり遠い距離に位置している上にトリステイン並の小国であるため、あくまで念のためのレベルでしかない。

 ロマリアはブリミル教の総本山なために軍事力について期待はできない。新興国クルデンホルフも協力はしてくれているが、ハルケギニア一の竜騎士隊を持っている割に、トリステインの衛士隊の壊滅的被害を聞くと怪獣対策について消極的になった。

 だから一番頼れる国といえば、大国ゲルマニアだった。といっても、それは友好的な形とは程遠い。トリステインのヴァリエールとゲルマニアのツェルプストーが不仲であるように、幾度か戦争をしたことだってある。ゲルマニア皇帝アブレビト三世との会談も、腹の探り合いをするばかりだった。

 

しかも、アルビオン…否、アルビオンの貴族派が脅威である理由はもう一つあった。

 

「そして、同盟の危機となる要因ですが…

 

『手紙』です」

 

「手紙…?」

 

「ええ、私がかつてアルビオンのウェールズ皇太子様に送った手紙。これが今回の同盟を破棄される要因になってしまうの。それがアルビオンの反逆者である貴族派たちの手に渡ったら、彼らはゲルマニアの皇室にそれが届き、同盟破棄となるに違いありません」

 

「同盟を破棄するって…そんなにまずい手紙なのですか?一体それって」

「ギーシュ君、女性の封の中を知ろうとすることは紳士のやることではない。まして殿下のものだ」

「は、はい!失礼しました…」

 

好奇心が沸き立ってその内容を問おうとするギーシュを、ワルドが止めた。

注意を受けたギーシュは尻すぼみする。

 

「…姫殿下、お言葉ですが、今のアルビオンに勝機はないのでしょうか?」

 

ルイズがアルビオン王国の戦況について尋ねると、代わりにワルドが答えた。

 

「今の所完全な壊滅だけは免れている。どうも最後に残った者たちが選りすぐりの戦士たちでね、彼らのおかげで王党派は今も健在なのだそうだ」

 

それを聞いてちょっとホッとしたルイズとギーシュだが、ワルドが「だが」と言葉を綴る。

 

「だが僅かな残存兵力で、しかも怪獣を従える軍を相手に長くは持たないだろう。その前に同盟の憂いとなる殿下のお手紙を回収しなければならない」

 

「私は愚かな女だわ。この国を危機に陥れようとする要素を、よりもよってアルビオンに残していた。これをマザリーニたちが知ったら、どれほど私に失望することか…。でもその手紙を、なんとしてもアルビオン王室が倒れる前に取り戻さないとなりません」

 

 切なげに胸に手を当て、窓の外に見える双月を眺めるアンリエッタ。

 ルイズも、その内容に興味がわいたが、訊くのはやめた。現在のこのトリステインがゲルマニアと同盟しなくてはならない現状に障害となる内容と、アンリエッタの今の仕草。ウェールズ皇太子への手紙の内容におおよその察知が付いていた。だからワルドも、尋ねてきたギーシュを咎めたのだろう。

 

「この度の任務ですが、私が信頼におけるメイジに任せようと思います。私にとっても数少ない信を置けるお方に…ですが、残念なことに今のこの国に、この任を任せられるだけの者はほとんどいません。ほんのわずかな者を除いて」

 

 アンリエッタは残念そうに告げた。

 彼女は、どこの国も怪獣等の全人類共通の脅威に対して互いに、それも友好的に協力し合って平和な世界を目指すべきと考えている。理屈でものを見れば、彼女のこの考えは正しい。だが、それは他国のみならず自国の貴族たちからも鼻で笑われていた。国家間の複雑な内情など考えずに言った、平和ボケした妄言だと思われていた。

 誰も彼も、己の権力維持に出世、要は己の利益ばかりを優先していた。誰も信用できないといった様子だった。彼らはこんな自分たちの醜い現状が、怪獣はもちろん、悪辣な侵略者に付けいれられる原因にもなっていると言うことにも、それ故にアンリエッタを笑う資格がないことに誰も気づかないままか、そうであっても目を逸らしていたのである。

 

 サイトはそれを聞いて複雑な感情を抱く。地球人も互いに醜い争いの歴史を積み重ねてきた。それは地球が怪獣や星人の被害に見舞われた頻出期時も続いていた。実際平和を望む星人を、星人を恐れるあまり地球人が殺してしまう事件さえあった。それらの間違いを経て地球人は成長を遂げていったのだが、この世界は地球と比べてもかなり出遅れてしまっていた。今まで外宇宙からの侵略者や怪獣の脅威がなかったのが不思議なくらいである。

しかしこのまま貴族の利権主義を通すようでは、近いうちにこの世界は落ちてしまうのだ。

 

 故にアンリエッタは、王族としてせめてもの、同時に非情さも兼ね備えた決断をしなければならなかった。自分にも、自分以外の誰かにも。

 

「ワルド子爵、まず第一にこの任務にはあなたを付けます」

「はっ」

 

 ワルドは羽付きの帽子を脱ぎ、膝をついて承諾する。

 

「あと此度、あの恐るべき亜人より私を救ってくださった…ギーシュさん、ルイズ、ルイズの使い魔さん。あなたたちにもお任せしたいと思います」

「は…え!?」

「僕とルイズ、しかもサイトにもですか!?」

 

 これにはルイズとギーシュも驚いていた。サイトも自分を指さして俺も?と首を傾げた。

 

「ですがこの任務は私個人が発端とも言える事態。そのため秘密裏な上に、先ほど申し上げた通り怪獣を兵器とする貴族派の脅威が闊歩する場所。ここでお話ししたことを秘密にしてくださるなら断っても構いません。本音を言えば、あなた方を行かせたくないのですが…他に頼める者がいないため、あなた方を棄権に追いやる任務をお願いすることを、どうか許してください」

 

「何を仰いますか!姫様とこの国のためならこのルイズ・ド・ラ・ヴァリエール、命を賭してこの任務にやり遂げてみせますわ」

「僕もルイズと同じ気持ちでございます。姫殿下、このギーシュ・ド・グラモンにも是非お任せください!グラモン元帥が三男の名に恥じぬよう、命を捧げる覚悟にございます!」

「お、お前ら!少しは躊躇しろよ」

 

躊躇なく二人は即決した。危険が伴う仕事だというのに…サイトは呆れた。

 

「何よ!姫様が私たちを頼ってくださったのよ。貴族としてこんな栄誉あることそうそうないんだから!」

「そうだぞサイト。本来なら平民である君が、ルイズの使い魔という立場もあってこその奇跡だが、君も殿下のお力になれるまたとない機会なんだぞ」

 

 逆に二人は、サイトに冷水を浴びせられて気を害した。

 

「お前らな、お姫様も言ってただろ。危険が伴うって。怪獣を相手に戦うことになるかもしれないんだぜ?」

 

 そういわれて、ギーシュは一瞬はっとなるも、すぐに笑う。

 

「は、ははは…何を言うんだね。アルビオンのウェールズ皇太子殿から手紙を預かるだけじゃないか。かか、怪獣と戦うなんて、そう何度も起こるようなことではないと思うがね、へへへ…」

 

「いや声震えてるし」

 

 ギーシュはようやくことの重大さを自覚したのだろう。この引き攣った笑い、近くした恐怖に苛まれているのだ。無茶しやがってと言うしかない。

 

「怖がるくらいなら断りなさいよ」

 

ルイズも呆れているが、サイトからすれば彼女も人のことを言ってる場合じゃない。

 

「ルイズ、お前もお前だっての。戦争中の国に行くんだぞ?」

 

 ルイズはゼロと馬鹿にされ続けてきた。だから少しでも見返したい、立派な貴族でありたいと言う気持ちが強く出すぎている。気持ちばかりで何も考えずに安請け合いする印象しか受けなかった。人間同士で殺し合いになるかもしれないのに…。

 

「そんなの関係ないわ!死ぬのが怖くて貴族が務まるものですか!」

「関係ないだと…?ふざけんなこの馬鹿!!」

 

 サイトも引き下がれず、ルイズの言い分に怒りを露わにした。怒鳴られたルイズのみならず、アンリエッタとギーシュも彼の破棄に気おされてビクッと身が震える。

 

「お前、この前のフーケ討伐任務のときだって、無謀なことしたせいで危うく死ぬところだったんだぞ!!」

 

そうだ、今回は間違いなくあのフーケとの戦いよりも危険が待ち構えているに違いない。ルイズだって本当はわかっているはずだ。なのに、何も学んでいないような今の発言は許しがたいものだった。

 

「ひ、姫様の前で余計なこと言わないで!だいたい相手は、国の平和を乱した賊軍よ!そんな奴ら…私の手で」

「倒してやるって言いたいのか?つまりあれか?殺すってことかよ?同じ人間を、お前がか!?」

「っ…!」

 

命のやり取りを、人間を相手に行う。サイトの推測を聞いてルイズはわずかに動揺した。

 

「前の時もそうだったけど、お前自分の言ってることがどういうことかわかってんのか!?人間だろうが、怪獣とかだろうが、相手にするにはやばすぎる!」

 

「そ、それでも…それでも姫様のお力になるのを躊躇うわけにいかないでしょ!」

 

感情が高ぶって意固地になるルイズは、それでもサイトの言葉に耳を傾けようとしなかった。

 

だめだ、なんとなくあのフーケ事件で学んでくれたのかと思ったら、こいつはちっともわかっていない。あの時と同じ間違いを犯してしまうだけだ。そうなったらきっと…。

 

「お、おい君たち…」

「ルイズ、使い魔さん…」

 

白熱していく二人の諍いに、これ以上は止めた方が良いとギーシュが伝えようとするが、二人は完全にお互いを責め合うばかりで聞いていない。アンリエッタも、次第に今回の話を持ち掛けたことを後悔しつつあった。

 

「使い魔君、そこまでにしたまえ。ルイズも落ち着くんだ」

 

そんなサイトとルイズの間に、ワルドが入ってきた。ぐいっと強引に入ってきたので、さすがの二人もワルドに意識が向かった。

 

「使い魔君、君のルイズを大事に思う気持ちは、使い魔として立派だ。婚約者としてとても嬉しく思う。僕もルイズに危険な目に遭ってほしくないことについては同意する」

「っ…だったら、止めてあげてくださいよ!」

「しかし、主がいくと決断する以上、黙って着いて行くのも使い魔である君の義務だ」

「はぁ!?」

 

この男は何を考えているんだとサイトは思った。いちいち婚約者であることをアピールするほどに大切だと言っておきながら、なぜルイズが危険に飛び込むことを容認するのか。

 

「そんなこと言われたって、納得できませんよ俺は!」

 

そんなサイトにワルドはすかさず、冷たい言葉を投げかけてきた。

 

「なら君だけでも断ればいい。君は例え、相手が賊であっても人間と戦うなどできないのだろう?」

 

「…!」

 

その言葉はサイトの頭に、金槌で殴られたような衝撃を与えた。

 

「それに、人間だろうがなんだろうが、この世界に害をなす者に、生きる資格を与えるような優しさは不要だ。その甘さはいずれ秩序を乱し、国を、世界を破壊する。病魔に侵された植物も、剪定した部位を刈り取るようにしなければ死滅するように」

 

「に、人間と植物を一緒になんかできるかよ!」

 

「感情に流されるようでは、役目を果たすことなどできないぞ。誰かを守るということはそういうことでもあるんだ」

 

 ワルドの語る理屈は、正しさを持っている一方で、心無い冷たさを孕んでいた。

確かに、言い返そうにも何故か言い返せない。そんなふうに割り切れないと叫んでも、ワルドもルイズも折れることはないだろう。それが悔しかった。

なぜすらすらとそんなことが言える。この男、本当にルイズを想っているのだろうか。

 

そんなサイトを見かね、ルイズが口を挟んできた。

 

「あんたの言いたいことはよくわかってるつもりよ。でも、だからって何もせずに逃げ続けたら、それこそ何もできずに終わるのを待っているだけになるじゃない!

あんたの故郷の人間だって、ただ指を咥えてウルトラマンが勝つのを見たままでいる訳にはいかなかったから怪獣に立ち向かえた。違う!?」

「!!」

 

 ルイズの言う通りだ。これまでの地球防衛軍はウルトラマンでさえ敗北に追い込んだ怪獣にさえ、絶対に屈することはなかった。それどころか、明日の勝利を信じて作戦を立て、力を蓄え、数々の脅威から地球を守って未来を切り開いてきたのだ。

 すっかり思い込んでいた。この国の貴族たちは見栄を張るためなら命の危機にさえ無謀に飛び込むとばかりに思っていたが、今のルイズの言葉は、まさにこれまでの地球防衛軍の勇敢なる戦士たちの思いそのものだった。

 

「そうだぞサイト、ルイズの言っていることは正しい」

 

ついにギーシュも話の中に入ってきて、ルイズに同意を示した。

 

「貴族が世を乱したとならば、それを正すこともまた貴族の責務。貴族派の反逆者たちに鉄槌を下す一助となるのならば、僕もグラモンの名にかけて粉骨砕身の所存だ」

 

「ギーシュ、お前…」

 

「な、なぁに…僕とてグラモン家の端くれ。怪獣にもし立ち向かう事態となれば、背後のレディたちを守るためにも…僕自ら盾になろうではないか。は、ははは…」

 

 結局無理をして震えながら笑っているため、ちょっと台無しである。

 

 この貴族連中の空気に当てられたせいもあったかもしれない。サイトは次第に、自分も自分で意固地になっていたことに薄々気づき始めた。

 彼らは自分たちの力で、世を乱す脅威を振り払おうとしている。その可能性を摘み取れば、それこそウルトラマンたちも恐れていたこと…クール星人やツルク星人のような悪しき侵略者や、ディノゾールたちのような強大な怪獣の魔の手に落ちる結果に繋がりかねない。

そんなことにならないように何か自分にできることがあるのなら…

 

「…わかったよ。俺も行く。反対もしない」

 

サイトも自分も任務に向かうこと、ルイズとギーシュの任務参加にも反対しないことを選んだ。これ以上言い争っても、自分はきっとルイズたちを折れさせるだけの要素を持ち合わせていない。

 

「最初からそう言えばいいのよ」

「俺はただ、心配だったんだよ。お前危ない目に遭ってること多かったし、それもわかっててアルビオンって国に行くんだろ?ギーシュだってここまで大口叩いてんだ。だったらそばに居て守ってやるくらいしなきゃ、使い魔以前に男じゃねぇだろ」

 

 ルイズは、ぼっと顔に熱を帯びるのを感じ、サイトに顔が見えないようそっぽを向いた。

 

「ふ、ふん!やっと使い魔としての自覚が出たわけね!褒めてあげるわ」

 

「へいへい…」

 

 なんで上からなんだよって思ったサイト。ルイズがそっぽを向いて顔を赤らめたこともその理由も察しきれなかった。

 

「ギーシュさん、先ほどのあなたのお言葉に感銘を受けましたわ。お父様も勇敢で立派な貴族ですが、あなたもその血を受け継いでいるのですね。頼もしいわ、ギーシュさん」

 

ギーシュは、アンリエッタが自分の名を呼んだこと、その時の花のように可憐な笑顔にメロメロになる。

 

「ああ…姫殿下が僕の名前を…」

 

 さっき怪獣と戦うかもしれないと聞いてビビっていたと思いきや、可憐な王女に褒められてすぐに出れるチョロさ。

大丈夫かこいつ?ほわほわして失神しかけるギーシュを、サイトとゼロ、ルイズは呆れた表情で見た。此度の件で確かにアンリエッタ救出に一躍買ったとは言え、こんな男にまで頼ったアンリエッタは果たして正しいものだろうか。

 加えると、ギーシュの父親も、トリステイン貴族では名を馳せた人物である。余談だが、息子同様女好きであることも有名で、結構問題視されてもいた。

 

 そんなギーシュは置いといて、次にアンリエッタは、サイトの方を向いた。

 

「頼もしい使い魔さん。さしつかえなければ、あなたのお名前を聞かせてもらえますか?」

「え?あ、ああ…平賀才人って言います。サイトって呼んでください」

 

 サイト?ハルケギニアでは変わった名前なので、アンリエッタはサイトの名を聞いたときは少しきょとんとしつつも、彼の名前をしっかり頭の中に刻み込んだ。

 

「サイトさん、お尋ねしたいのですが、あなたはあの怪獣や、私を襲ったあの恐ろしい亜人のことをご存知だったのですね?確か…ツルクセイジン、と」

 

「は、はい」

 

「やはり…あなたがあの時、あの亜人の名を口にした時からそうなのではと思ってました。加えてあの亜人も、あなたのこと…というよりも、あなたの母国らしき単語を言っていたようでしたから。

サイトさん、失礼なことをお尋ねするようですが、あなたはハルケギニアの方ではないのでは?」

 

あの土壇場での会話をしっかり覚えていたアンリエッタの記憶力と、その内容に強く関心を示した彼女の想像力にサイトは驚いた。このお姫様、もし自分の学校にいたら高凪さんにも匹敵する優秀さを発揮していたかもしれない。

 

「俺は…」

 

「姫様、下賎な身でありながら恐れ多くもお願いをすることをお許しください。サイトの出身ですが、この場以外ではなるべく内密に願います」

 

サイトが答えようとする前に、ルイズが代わりに口を開いた。自分が言った方が彼らに伝わる、そう思って、偽りなく答えた。

 

「サイトはハルケギニアどころか、この世界の人間ではありません。ちきゅう…という別の世界から来た人間です。あの亜人や、ウルトラマンと同じように」

 

「え…!?」

 

アンリエッタは目を丸くした。ルイズがこのような荒唐無稽なことを口にするとは。

 

「ルイズ、何を言うんだ。確かにサイトは見ての通り平民としても変わり種の塊のような男だが…別の世界から来ただって?その言い方では、ハルケギニア大陸以外どころか、東方…ロバ・アル・カリイエのような遠い大陸の出身ですらない、全く別の世界にも人間がいるような言い方ではないか?」

「さらりと俺をディスったよなてめぇ」

 

同じくギーシュも、何を言い出すのだとルイズを見つめていた。そうだ、この世界以外にも人間がいる?意味がわからない。困惑のあまりサイトの抗議の声も耳から耳へ通り抜けた。

 

「別の世界から…なるほど、確かにそれなら怪獣やあの亜人のことを知っていることにも頷けるな」

 

「子爵殿、この話を信じるのですか?今の話、冗談で言ったらかなりまずい内容ですぞ」

 

 ワルドまでこの話を真実だと見做していることにギーシュは本気かと耳を疑った。

 下手をすれば、政治や宗教面においても、この世界の常識を根底から覆すことになりかねない内容だ。

 

「いえ、ギーシュさん。ルイズはこのような真面目に話し合っている場で冗談を言うような子ではありません。それに、『別の世界がある』としなければ、あの恐るべき亜人…ツルクセイジンの存在も、ウルトラマンの存在も証明することができません」

 

 アンリエッタも俄かに信じられないようであったがすぐに受け入れるようにした。しかもルイズの眼差しに一切嘘を言っているような気が見受けられない。

アンリエッタの言葉に、うぅむ確かに…と、ギーシュはすぐに受け入れることが難しくも、他に説明できる要素がないため受け入れる以外になかった。

 

「サイトさん、正直にお答えください。これからのトリステイン…いえハルケギニア全土のためにも是非知っておきたいのです。あなたは」

 

「…その通りです。俺は地球人、魔法のない世界から来ました」

 

 それからサイトは、アンリエッタに自分の故郷である地球の半世紀にわたる経緯を話していった。

怪獣頻出期。

人類を救うべく宇宙のかなたから飛来した光の国の使者、ウルトラマン。

彼らと人類の共闘、数多の怪獣や地球侵略を目論む異星人たち、話せる限りのことを話した。

 

「…サイトさん、話してくれてありがとうございました。とても貴重で興味深いお話でしたわ」

 

 ドレスのスカートの左右の裾を持ちながら優雅にアンリエッタは会釈した。サイトはその高貴な仕草にドキッと胸が高鳴るのを感じた。ファンタジー映画やアニメ、ゲームでも姫という位置付けのキャラを幾度か目にしたが、今そのお姫様が目の前にいると思うと感動すら覚える。

 

「改めて聞いたけど、あんたの故郷って魔法もないのに途方もない世界ね…。信じることにはしたけど、今でも半信半疑だわ」

「に、にわかに信じられないぞ。ウルトラマンが、ゼロや先刻の銀色の巨人以外にも、まだたくさん…それも一大文明を築いているほどの数がいるなんて。しかも、他にもまだたくさんの怪獣たちがいるなんて、まるでおとぎ話の世界じゃないか」

「俺からすれば、この世界もお前らも同じだからな」

 

 既に事情を知るルイズも含め、まるで物語を聞かされているようだったことだろう。だが、これは現実。今まさに自分たちは、サイトの故郷に降りかかったそれと同じ、人類の存亡の危機に立たされているのだとアンリエッタは確信した。

 

「この任務、危険が伴うに違いありませんが、だからこそあなたが必要不可欠です。

このトリステインは、怪獣やあの例の亜人、そして魔法学院を襲った空飛ぶ円盤…メイジの手ではどうにもならない恐るべき危機にあります。その矢先にあなたが…怪獣たちを知るあなたがルイズの召喚魔法で現れた。

ウルトラマンたちと同じく、別の世界からルイズの手であなたが召喚されたこと…きっと始祖ブリミルのお導きにして、我々ハルケギニア全土の人間の救いの可能性となる…そう確信しましたわ」

 

「俺…で、いいんですか?だって俺、ツルク星人との戦いじゃあんまし役になってなかったし、それに…」

 

先日の戦いにおいて、サイトはツルク星人の情報を誤ったことを思い出す。奴にこれと言った弱点は明確に無く、その知っていた弱点もカーリー星人のそれだった。あの勘違いミスは、思い返すと随分と恥ずかしい。それだけに姫が自分を買ってくれていることが気まずい。

 

「いいえ、怪獣や亜人…いえ、セイジンの情報を持っているというだけで、何も知らない状態と比べればとても強みになるもの。自信を持ってください」

 

かなり持ち上げられている気がして、サイトは照れ臭くなってむずがゆくなる。

 

「サイトさん、ルイズは私にとって大事なお友達です。いかに怪獣を従えたあの反乱軍たちでも、トリステインとゲルマニアの同盟を厄介に思っているはず。きっと僅かな隙さえも突こうとあなたたちを狙ってくるでしょう。ですから、ルイズをどうか、守ってあげてください。

この愚かな王女の我儘な頼みですが、お願いしますわ。勿論、相応のお礼も致すことをお約束します」

 

 さっきの話だと、アンリエッタは宮廷内でも心を許せる相手はほとんどいなかった様子だ。ルイズは今の彼女にとって、心を許せる数少ない存在。他に信じることができて頼れる存在がいないとはいえ、ルイズを結局危険な国に向かわせたことに強い責任と重圧を感じていたことだろうとサイトは思った。

 

応えなければならない、そんな気がした。

 

「俺の星、地球はこの世界と同様、怪獣や侵略目的で侵攻してきた宇宙人たちの脅威に晒され続けてきたんです。その度に、ウルトラマンが俺たちを助けてくれました。

もしかしたら、この星にも怪獣だけじゃなく星人の脅威がこの先迫ることになるかもしれない、もしかしたらすでにこの世界に及び始めているかもしれない。

 

俺は、それを確かめたいんです。この星も地球と同じ危機に陥ってるなら、俺にできる限り、それを何とかしたいんです!」

 

 サイトは真剣な顔で強く頷いて見せた。

 

『ゼロ』

 

サイトは、自分の中で話を聞いているであろうゼロにも、頭の中で声をかけると、返事が返ってきた。

 

『言いてぇことはわかる。ってか、俺に訊くまでもなく行くって、さっきお前が言ったんだろ』

『それは…悪かったよ。勝手に言ったことは』

『謝るくらいなら俺に一声かけるんだな。

まぁ、俺としても好都合だ。

今まで侵略者共に狙われなかったこの星に、星人や怪獣が現れだしたことも、例の貴族派って連中が怪獣を使役している理由も、今回の旅でわかるかもしれねぇ。

その過程でこの世界を狙う怪獣や星人共をぶちのめしときゃ、光の国の連中を見返せるだろうからな』

 

 ゼロも思うところこそあったが、今回の任務にはやる気を見せていた。

 

しかし、光の国の同胞たちを見返す…ゼロは以前、光の国に帰りたくても帰れない、と言っていたが、それと何か関係があるのだろうか。

 

「ありがとうございます。ルイズは頼もしい方を使い魔にできたのですね」

 

サイトも任務を引き受ける姿勢を見せたことに、アンリエッタは笑みを浮かべた。

 

「本当ならば、お礼も含め、私をあの亜人から救い逃がし続けてくれたあの方も頼りにしたかったのですが…子爵、彼の姿は?」

「残念ながら、あの現場を捜索したところ、その人物の姿はありませんでした。見つけようにも捜索範囲が途方もなく広がるだけでしょう」

 

 どうやらアンリエッタは、自分をツルク星人から救った青年…シュウにも声をかけようと考えていたらしい。無事魔法学院に到着した後、ワルドにもそのために探させていたようであるが、結局見つからずじまいだったようだ。

 

「殿下、その者については諦めましょう。今日会ったばかりの素性すら不明の男、此度のような重大な任務を任せる相手としては適切とは言えますまい」

 

「…そうですわね。わかりました」

 

 ワルドの立場…王家の僕であるトリステイン貴族の一員としての面子もあるだろう。ルイズの使い魔でありフーケ捕縛に一躍買ったサイトならまだしも、見ず知らずの平民と任務を共にするのも、彼にとって気分が良くないのだろう。

 アンリエッタは、シュウに頼むことについては諦めた。

 

彼にも任務を依頼する意思があったと聞き、サイトは改めてシュウという男のことを振り返る。

 

自分と同じ地球の人間で、ウルトラマンの力を持った男。気にならないわけがない。だが惜しいことに、前回の戦いの後は彼から話を聞く機会を得られなかった。

 

言葉通り、謎の男だった。名前と同郷の人間でありウルトラマンであることはわかったが、それでも謎が多すぎる。それに彼が乗ってどこかに飛び去った、あの白い小型飛行機みたいな物体…

 

あれに触れた瞬間、サイトの中に見たこともない景色が脳内に流れ込んできた。もしかして…あの男の記憶なのだろうか?はっきりと記憶しきれていないが、それにしても、あまりにも壮絶な光景だった気がする。まるで、学校の授業で見たような、戦時中の再現ドラマのような…そんな世にも恐ろしい、できれば二度と見たくないそれだった気がする。

 

もう一度会って、話を今度こそ聞いてみたいとサイトは思った。

 

 

「ウェールズさ…皇太子様は今頃、王族由来の要所のいずれか…あらゆる手を使って妨害しトリステインを危機に追い込むでしょう……」

 

 アンリエッタはそう言うと、一通の手紙を取り出し、それを胸に強くぎゅっと抱きしめた。恐らく、話にあった手紙とは別に用意した、ウェールズ皇太子に送る密書だろう。

 

「姫様?」

「いえ、何でもありませんわ」

 

アンリエッタは手紙を胸に添えた。そして窓の外に向いた。

 

「始祖ブリミルよ。この自分勝手な姫をお許しください。自分の気持ちに嘘をつくことはできないのです…」

 

密書にも拘らず恋文をしたためるように、赤く頬を染めながらも悲しげに呟いていた。

やはり…そうなのだろうか。ルイズは、アンリエッタが胸中に抱く想いを、確信を持って察した。

 

「ルイズ。この手紙を預けます。ウェールズ皇太子に会ったらこの手紙を渡してください。すぐに例の手紙を返してくれるでしょう。それから…」

 

 アンリエッタは自分の指に付けていた指輪をルイズの右手の中指に通した。その指輪の宝珠は、カラータイマーにも匹敵する水のように青く綺麗な輝きをしている。

 

「母上から頂いた水のルビーです。せめてものお守りです。売って旅の資金にしても構いません」

「姫様、こんな貴重なものを!」

 

 アンリエッタの母、つまりかのマリアンヌ太后のことだ。そんな国の頂点とも言える方から授かった貴重なものを預かるなんてできない。ルイズは断ろうとしたが、アンリエッタは指輪をはめたルイズの右手を握ってまっすぐルイズを見る。

 

「いいの、黙って受け取って頂戴。これからあなたたちを危険な戦地へ送ることになるのです。これくらいのことはさせてください」

「…わかりました」

 

 ルイズは自分の右手に装備された水のルビーに触れながら、深々と頭を下げた。

 

「水のルビーがアルビオンの吹く猛き風からあなた方を守りますように…」

 

 翌日から行われる任務において、ルイズたちが無事に戻ってくることを、アンリエッタは夜の双月に祈るのだった。

 

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