先に先手を打ったのはサイトだった。
メイジが魔法でこちらに応戦するならば、詠唱している間を狙えばいい。幸いこちらにはガンダールヴの力がある。武器を握るだけで武器の使い方が手に取るようにわかるのみならず、目にも留まらぬ速さを発揮できる身体能力も得られる。しかも自分の中には…ウルトラマンがいる。一体化の影響からか自分の意思と関係なく、その分だけさらに力が底上げされていた。
だから、ワルドにも勝つことは不可能ではないはずだ。いや寧ろ余裕で勝てるかもしれない。
…だが、その予想は見事に外れた。
「はぁ…はぁ…」
サイトはすっかり息が上がっていた。
先手を打って仕掛けたのは良かったものの、ワルドは最も容易くサイトの初手を、ヒラっと舞うように避けた。
すかさずサイトにレイピア型の杖を向けてカウンターを仕掛ける。
ワルドの攻撃もすばしっこいものだった。少しでも気を抜いたらもらってしまうほどの速さだった。
なんとかカウンターをいなしたのは良かったが、そこからワルドが杖で連続攻撃を仕掛けてきた。
プロのフェンシングの選手のような鋭い連撃がサイトを襲い、サイトは最初こそデルフを構えて防いでいたが、次第に防ぎきれなくなり、一旦距離を空けて構え直した。
なんてやつだ。てっきり魔法で攻めてくるかと思いきや、魔法を使わず杖で勝負を仕掛けてくるなんて。しかもあの太刀筋は自分のものと違って、鍛え上げられた達人のものだ。以前決闘したギーシュを基準に、メイジの闘い方を仮定したのが良くなかった。
「くそ、これならどうだ!」
サイトはデルフを風車のようにぶん回しながらワルドに突貫した。
「なるほど、風車のように回して太刀筋を見極め辛くするか。考えたようだが…」
ワルドは余裕の姿勢を崩さない。
サイトの身のこなしの素早さもあり、確かに一見すると見極め辛く見えるが、
「だが!」
サイトが風車のように回していたデルフを、ワルドに向けて叩き込もうとした瞬間、ワルドはレイピア型の杖をふん!と下から切り上げ、デルフを弾き返した。
「うわ!」
サイトはバランスを崩して尻餅をついた。
「もらった…!」
ワルドがほくそ笑みながら杖で突こうとする。
ルイズがそれを見て、叫んだ。
「待ってワルド!」
まさか本当にサイトを貫くつもりか!?そうとも取れかねない勢いがあったように見えていた。
「!」
サイトも貫かれるかと思った。彼自身のみの反射神経なら、確かに突かれることになることにもなったかもしれない。
だが、今の彼の中には…もう一人いる。
『ちぃ!』
そのもう一人が舌打ちすると、サイトの体は…勝手に動き出した。自分の体を貫かんとする勢いで迫っていたワルドの杖を、ピンポイントで蹴り上げた。
「ぬぅ!?」
「『うおおおおおお!!』」
そして勢いのままにデルフを横一文字にぶん回した。
その素早い一太刀に、優位に立ったはずのワルドは、刹那の時の中で焦った。
よもや、チェックメイトを決めたと思ったあのタイミングで、逆にこんな一撃を放ってこようとは。
だが、ワルドも逆転負けを許す気はなかった。間一髪、サイトの放ったカウンターを、デルフが迫ってきた右方向にレイピア型の杖をかざすことで防いで見せた。
バキィン!と激しい金属音と共に、ワルドは防御の姿勢のまま広場の隅の石壁にまで強制的に後退させられた。
ワルドとの距離が開き、サイトはデルフを構え直す。
『サイト、何やってる!お前俺と一体化してんだから、体の力で負けるはずねぇだろ!』
『そうは言うけど、ワルドの奴全部見切ってんだから仕方ねぇだろ!』
さっきの渾身の風車っぽい攻撃もいなされてしまった。いくらガンダールヴのルーンによって剣が扱えるようになったことと、ウルトラマンと一体化して体が丈夫になったと言っても、ただ一つ変わらない事実がある。
「なるほど…まさかここまでとは。君を『素人』だと舐めてかかりすぎていたようだ」
そう、たった今態勢を整えたワルドが告げた通り、どれだけチートな力を得たとしても、サイトは戦いにおいて全くの『ド素人』なのだ。
しかし侮ればこちらが敗北するだけの能力は持ち合わせているのだとワルドは気を引き締める。
「そう言えば使い魔君、君は確かウルトラマンがいた世界からルイズに召喚されたんだそうだね」
「そうっすけど」
「君はウルトラマンをどう見ている?」
殴りっこし合っているというのに、なぜか唐突にウルトラマン絡みの質問をして来たワルド。
「どうって、そりゃ…俺たち地球人にとっちゃ、命の恩人で、英雄で、正義の味方で…俺にとっても子供の頃からずっと憧れてた存在ですよ。それがどうかしたんすか?」
「なるほど、やはり君にもそう見えるか。だとすれば……
拍子抜けだな」
ワルドの一言に、サイトはぴくっと眉をひそめた。
「伝説の使い魔としての力を授かって召喚された君がどんな人間なのか期待を抱いていたが、所詮君も大衆に漏れない凡愚な人間らしい。
ウルトラマンに救われただけで結局何もしていない、なんの努力もしていない怠惰な少年だ。あのウルトラマンゼロと同様、力任せで暴れるだけ。これでは怪獣や魔物と変わらないな」
「なんだと!」『あの野郎!!!』
聞き捨てならないムカつく言葉だった。
サイトのみならず、ゼロもワルドの言い分に凄まじく腹を立てた。
「ワルド、あなた…!」
同じく介添え人として聞いていたルイズも唖然としている。
『代われサイト!俺がやる!』
もう我慢ならなかった。さっき一撃もらいかけた時は一瞬だけ入れ替わっていたが、今度は違う。
ゼロは半ば強制的に人格交代をして、変身はせずサイトの姿のまま表に出た。
そしてすかさずワルドに切り掛かった。
「!?」
間一髪それを、鋭い反射神経でなんとかかわしたワルドだが、さらに速くなったサイトのスピードに驚いていた。
(さっきよりもさらに早くなっただと!?)
サイトの…否、ゼロ攻撃はさらに続く。サイトの太刀筋よりもやや洗練され、そして力強さに満ちていた。
「人のことを魔物や怪獣なんざと同類扱いしやがって…覚悟しやがれ!」
(なんだ?彼の様子が、さっきと違う…まるで別人に成り変わったかのようだ)
さすがに違和感は感じていたようだが、まさか目の前の素人の少年が、ウルトラマンと人格を入れ替えて戦っているなどとは、さすがのワルドにとっても想像するに至らなかった。
「この!どおりゃあ!」
これは、一瞬でも気を緩めたらすぐに落とされてしまう。ワルドは焦る気持ちが沸かないよう自分の心をうまくコントロールしつつ、サイトの剣撃を避けながら彼の動きを観察する。
そして見えた。今のサイトがどんな状態にあるのか。
確かに今のサイトは、決闘をし始めた時と比べると一瞬にして強くなったように錯覚させられる変化があった。だがそれでも…
「やはり力任せだけだな!」
「な、また避け…」
ワルドにサイトの攻撃は一切当たらなかった。
変身していないとはいえウルトラマンとガンダールヴの力を合わせた上での攻撃の連続なのに、どうして!?
「流石に伝説の力を授かっただけはある。だがそれでもやはり、君にその力は持て余すだけの長物だったな。小手先の力で、力だけを頼りに戦っているだけでは本物のメイジには勝てない」
『…あ?』
ゼロはその言葉を聞いて、一瞬固まった。何かがプツと切れたような気がした。
――――――お前は、小手先の力しか信じていない。
――――――そんなものは、本当の強さじゃない!
「『うるせぇ…ゴタゴタ抜かしてんじゃねぇ!』」
ゼロはブチ切れてさらに力を込めた攻撃を仕掛けた。だがその攻撃もワルドに避けられてしまう。
(やはり素人だ)
さっきは動きがさらに速くなってほんの少し焦ったが、もう問題ではない。素人故に太刀筋や動きがワンパターン寄りになっていて、しかも怒りやに焦りによって拍車がかかっている。こうなってはいくらサイトが特別な力を有していても、歴戦のメイジであるワルドが相手では部が悪かった。
「はぁ…はぁ…くそ」
大ぶりな攻撃を繰り返して、逆に体力を浪費したサイトの動きがついに鈍った。
「もうおしまいかね?なら今度は僕だ」
ワルドはここでケリをつけに向かった。サイトは突き出されたレイピアをデルフでいなして行くが、バテバテの状態では体がワルドの動きについて来れなかった。
「ラナ・デル・ウィンデ」
ワルドの口からぶつぶつと声が漏れて出ていた。
「行けねぇ相棒!魔法が来るぞ!」
「もう遅い」
デルフがサイトに警告するが、間に合わない。
「〈エア・ハンマー〉!」
ワルドの空気に金槌がサイトに炸裂した。グハッと苦悶の声と共に、デルフを落としたサイトはそのままもの置き場の積み上げられていた樽の山に突っ込んだ。
なんとか起きあがろうとしたその時には、
「勝負ありだ」
ワルドのレイピア型の杖が、いつでもサイトの顔を貫ける至近距離にあった。
サイト…そしてゼロの完全な敗北であった。
その日の夜…
「ワルド、いくらなんでもあそこまでサイトにしなくても良かったじゃない」
ルイズは、ワルドとの相部屋にて彼に詰め寄った。
「ルイズ、僕らはアルビオンという危険地帯に向かうんだ。もし強力なメイジに怪獣といった強力な敵に追い詰められた時、君はどうする?」
「それは…もちろん戦うわ。そうしなければ貴族の誇りを見せつけられないし、なにより自分の身を守れないもの」
「その通りだ。敵は僕らに容赦することはないと考えるべきだ。それを彼に身をもって教えなければならないと思って、彼を一度叩きのめさなければならないと思ったんだ。いかに強い信念や正義があっても力がなければ何も守れない」
サイトを案じて詰め寄っていたルイズだが、ワルドの尤もらしい反論を言われ何も言えなくなった。
「明日の風石の採掘くらいはできるだろうが、彼は戦いには不向きだ。大きすぎる力を持て余し、精神的な未熟さも見られる。下手に戦場に出せば彼自身が危険だ。
風石を回収したら、彼には魔法学院に先に帰しておこう。それが彼の身のためだ」
しかしワルドの次に口走った発言に、ルイズは「ダメ!」と反対した。
「サイトは置いて行けないわ」
「どうしても連れて行くというのかね?」
「使い魔と主人は常にあるべきもの。サイトを召喚し使い魔としたのは私よ。あいつを否定することは、私を否定することでもあるわ」
強い眼差しを持ってワルドに言い切ったルイズ。折れる気はないようだ。こうなるとルイズは決して意見を曲げないだろう。
ルイズ、とワルドは彼女の名を呼びながら話を続けた。
「僕は君を守るために、ずっと努力し魔法衛士隊のグリフォン隊隊長まで上り詰めた。無論もっと先へ行くつもりだよ。
でもね、そこに上り詰め続けた今日まで、僕は何度も見てきた。今の時代の貴族たちは腐敗し始めている。
最近我々人間の前に現れ怪物を撃退した巨人…ウルトラマンが現れてから貴族の多くは『ウルトラマンに何もかもを任せてしまえ』と言っている者がいた。怪獣によって競争相手が減ったことをいいことに、貴族たちの多くはその権力と財産を盾に、以前より一層横暴さを極め始めている。
そんな混乱を招くウルトラマンのような、この世界において異端な存在に人間の運命をゆだねるべきかと思うと、僕はそうは思えない。というより、いてはならないと考えている」
これまでの、のし上がるまでのことを遠い目で、かつ残念そうにワルドは振り返った。今の彼は現在の貴族に対する失望を抱いている。
サイトの決闘の時も、そういえば失望感を口にしていた。しかし、ウルトラマンの存在と、貴族への失望がどう繋がるのだろう。
「ルイズ、君にならわかるはずだ。ラ・ヴァリエールの三女である君になら」
「それは…確かに私もウルトラマンに全てをゆだねることは、貴族として恥を知るべきことだとは思うわ。でも、だからってそんな言い方までしなくても…」
流石に言い過ぎではないか?ワルドが何を言いたいのかわからなくもないが、自分たちはウルトラマンに大きな借りがあると言うことでもある。それをちゃんと返すのが自分たちの成すべきことの一つでもある。だから、何も邪魔者扱いまですることはないのではとルイズは思っていた。
「ウルトラマンの存在がなぜ、いてはならないのか。そう言った理由はある。
一つは、人も貴族も関係なしに都合の良い存在として見ているということだ。
人間の危機を察して、怪獣の魔の手から人々を救ったウルトラマン。まさに物語の英雄が実在のものとなった存在としても見られる。だが、中にはこんなことを考えた貴族がいたんだ。『ウルトラマンとは、我々のような選ばれし高潔な貴族のために始祖が遣わした存在だ』とね。これを言ったのは、裏で平民への重税を課して私腹を肥やしている評判最悪の貴族の意見だ。悪いことに、彼は戦争でもトリステインのためにウルトラマンは力を貸してくれるだろうと言う妄言まで吐いている」
「なんて都合のよすぎる解釈なのかしら…根拠がなさすぎるし、怠け過ぎにも程があるわ」
ワルドが言っていたその評判最悪な貴族の話に、ルイズは不快感を覚える。
「同時に、平民たちからもよくない意味で英雄視されていることだ。先ほど話したような貴族が増える一方で、それに呼応して悪評のある貴族へ反感を抱く平民たちも増えている。彼らはウルトラマンを『この世界を変える救世主』と見ている。
聞こえ自体はいいんだ。でも、それは同時に、平民たちは政を取り仕切る私たちを頼らなくなってしまう。しつこく言うが、今は悪評のある貴族が増えている。そんな中で、まともに政をやらず自分たちの事ばかりを考える貴族と、人間のために己が身が傷つくのを恐れず恐ろしい怪物と戦う勇敢な戦士、ウルトラマン。はたして皆はどちらを頼るだろうか?」
ルイズは答えなかった。いや、答えるまでもなかった。自分を敢えて平民側の立場に立たせて考えてみれば、どっちを選ぶかなんて決まっている。
「間違いなくウルトラマンを選ぶだろう。そうなれば、『だらしのない貴族なんか必要ない。ウルトラマンさえいれば俺たちは安泰だ』と考える者が一層、身分に関係なく現れるに違いない。それは同時に、私たち人類をウルトラマンになんでも任せてばかりの惰弱な存在に退化させてしまう可能性が大きい。
だから僕はね、指先一つで国を動かすことも、魔法でウルトラマンさえも凌駕することさえもできるような、立派な貴族になる。そしてトリステインを、そしてハルケギニアを改革したいんだ。そうすればこの国は、もう何者からの脅威におびえることはない」
壮大なワルドの野望を聞いて、ルイズは圧倒された。まさかワルドがここまでこの世界の先のことを、自分の未来を考えていたなんて。それに引きかえ、自分は魔法もロクに成功できず、自分を馬鹿にする奴らを見返すことばかりを考えていた。その結果命を落としかけ使い魔にも叱り飛ばされる始末だ。
「ただ…済まなかったねルイズ。任務を効率的に、確実にこなすことを考えるあまり、君と使い魔君への配慮に欠けていた。
だが、この任務はトリステインの未来がかかった大事な密命だ。故に彼の力量を図る必要があったこと、君たちの命を守るための考慮だったことも理解してほしい」
「い、いえ…いいのよ。あなたの言いたいこともわかっているから」
自分の発言を反省しつつ、ワルドは話を続けた。
「全ての脅威を排除し危機への危険が全て振り払ったその時、僕らは世界で最も幸せな夫婦となれるだろう。だからルイズ、改めて言うよ。
僕の妻になってくれ」
ルイズは不思議でならなかった。こんな自分を、どうしてワルドは…
ワルドが目を閉じて顔を近づけてくる。
それに対して自分は胸の鼓動が高鳴る。
…しかし、
使い魔の少年の顔が浮かんだ。
顔を赤らめつつも、ルイズはワルドの胸をそっと押し返して口付けを拒んだ。
「ルイズ?」
「ごめんなさいワルド…今は任務中よ。そんな話は今、やるべきじゃないわ」
「…どうやら君の中に、懸念した通り別の誰かが住み着いてるようだ」
「っ!そ、そんなんじゃないわ!私はただ…」
自分の心情を悟られ羞恥に顔を染めるルイズ。
「だが、いつまでも待つつもりだよ。僕は君の婚約者なのだから」
ワルドはこれ以上、ルイズにぐいっと迫るようなことはすまいと、一度部屋を後にすることにした。
残されたルイズは自分の胸に手を添える。
ワルドのことは、確かに嫌いではない。顔もかっこいいしスタイルも良く、スクウェアクラスの優秀なメイジ。人柄もサイトのような平民に対してもフランクに接してくれるほど懐の深さがある。男として、公爵家の三女である自分の夫として何一つ非の打ち所がないはずなのだ。それなのに…
どうしてもサイトの顔が浮かぶのだ。
最初の災厄であるクール星人の円盤の襲撃、破壊の杖奪還の際に怪獣にやられかけた自分を叱り飛ばした時、そしてその後の舞踏会でぎこちなく踊った時…
それらが頭の中をよぎった。
(ち、ちち違うもん!)
そんなわけないじゃないか。あいつは平民で使い魔で犬で…
自分の中に浮かぶサイトへの感情がなんなのか、はっきり浮かびかけてはそれを必死に否定するルイズは、ベッドに顔を埋めて足をバタバタさせた。
そのサイトはと言うと…
ワルドとの決闘に敗れた倉庫にて、剣の素振りをしていた。正確には、
『腰が入ってねぇぞサイト!そんなんでワルドの野郎を見返せるのかよ!』
ゼロに半ば強制的にやらされていた。
ワルドとの決闘の後、サイトは酷くいじけていた。ルイズの目の前で負けたことが悔しくて仕方なく、一人で腐っていたのだが、そんな暇があるなら剣を振ってろと、一体化しているせいもあって無理やり体を動かされている。
「荒れているなサイトよ」
「無理もねぇよ。貴族の娘っ子の前で負けたんだからな」
見物しているギーシュがぷぷっと笑い出した。
「もしや君、やきもちを妬いているのかな?」
「…」
「ご主人様に叶わぬ恋を抱くなど君も哀れだね。かわいそうに…身分違いな恋など不幸の元だよ。残念ながら」
「そう言ってやるなよ。相棒にとっちゃあの娘っ子は結構…」
「うっせぇ!んなんじゃねぇ!」
ギーシュと、自分が振っているデルフにサイトは怒鳴った。怒鳴られてギーシュはびっくりする。
「そ、そうムキになることないじゃないか。相手はあのワルド子爵だぞ?君が敵わないとしてもおかしくないことさ。気にしても仕方のないことだと思うぞ」
今度は慰みの言葉を送るギーシュだが、サイトに響かなかった。
悔しいが一度はいい奴だと、ルイズの婚約者として相応しい奴だとも思ったが、結局いけ好かない男だった。
自分を、ただウルトラマンに守られただけの一凡人でしかないと断じてきた。
ふざけるんじゃねぇよと思った。ただ守られて、力を得ただけで満足する、そこまでだったらシエスタをスケベ貴族から助けたりもしなかったし、クール星人の襲撃で自分から体を張って避難誘導をやったりとか、そんなことしなかった。全て、ウルトラマンに守られてきたからこそ、自分は彼らが守ってきて良かったと思える人間でありたいと願い行動できたのだ。
ゼロもワルドに怒りを感じていた。
自分はウルトラマンだ。この力で怪獣や星人を倒して宇宙の安寧を守る種族。現に自分はこの世界に現れて以来、横槍が入ってきた時を除き遭遇してきた怪獣たちを全て葬ってきた。
それに引きかえワルドたち人間たちは何をしてきた?何ができた?
自分たちウルトラマンを目の上のたんこぶ並に見るような言い方をしてくれているのだ。自分たちだけじゃ、怪獣相手に何もできなかったくせに!!俺が戦わなかったら、とっくにこの国はディノゾールやクール星人のような奴らに滅ぼされていたに違いないくせに!!
『怪獣の一匹も倒せやしねえ奴が、笑わせんじゃねえよあの髭!!そもそも俺は別に、権力豚な貴族共の救世主になりたかったわけじゃねえってのに、勝手なことぬかしやがって!!怪獣相手に何もできなかった分際で偉そうに!言うことにかいえて俺が怪獣どもと同類だと!』
自分より弱く守られているのがやっとな立場の人間から、ケダモノとして見下された屈辱が、本来の姿ではなくサイトの体で挑んだとはいえワルドに負けたことが、さらにゼロの苛立ちに拍車をかけていたのだった。
『ワルド…もしこの旅で怪獣が出てきたら、その節穴同然の目をこじ開けて見ていやがれ。俺とてめえの間には天と地以上の差があるって事実を教えてやる!
サイト、お前もワルドの野郎を見返すためにも張り切れよ!』
『…あぁ』
でも、ウルトラマンさえも凌駕する。そんな高すぎる目標を自身持って言ってのけるあたり、ワルドはそれだけの実力と自信を持つ男なのだろう。
それに引き換え、俺は…。ゼロの力を借りないと怪獣と戦うことができない、…ギーシュの使い魔じゃないが、男として特にこれといった取り柄もないモグラ君だ。サイトは、内心卑屈になっていった。
でも、今度ばかりはゼロの言う通りだ。腐っていてもワルドのあのスカした態度も言葉も否定できない。
アルビオン行きに必要な風石の採掘、そこでなんとしても証明しなければならない。
自分は、ウルトラマンたちが守ってきた価値が確かにあった人間であると。