ウルトラマンゼロ~絆と零の使い魔~   作:???second

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王子との謁見

アルビオン王党派軍の現在の根拠地はニューカッスル城。大陸の真下には、アルビオン王族のみが知る秘密の港が存在している。現在のアルビオンの空を飛び回る怪獣や艦隊に見つからないよう、イーグル号は雲を潜り抜けながらその港へと入港した。

入港の際、信用に足るとされたサイトたちは武器を返却された。

 

「いやー、相棒と引き離されて一時はどうなるかと思っちまったぜ。そういや相棒…」

 

サイトの元へ返されたデルフはため息を漏らすと同時に、今のサイトにとってあまり尋ねられたくないことを口にした。

 

「なんで変身しなかったんだ?」

 

ルイズたちにバレたらまずいと思い、サイトにしか聞こえない程度の小声でそう言った。それを聞いてサイトの表情が険しくなった。

 

「……いいだろ」

「いいだろ…って、お前さんなら皆を助けるためなら、変身してもおかしくなかったんじゃねーの?あのグレンとかいう炎のでっかいのがいてもいなくてもよ」

 

まだ会って長い期間が経ったわけではないが、デルフはサイトの性格を大方理解しているつもりだ。彼は困った相手を見過ごせないお人よしだ。そんな男がもしウルトラの力を手にしている以上、それを用いて誰かを助けたがるものだと。だがベル星人に襲われた時、彼は変身しようとするそぶりさえなかった。それがデルフには不思議に思えてならなかったのだ。

 

「…別に。もうゼロに頼りたくない。それだけだよ」

 

『何寝言抜かしてやがるんだてめぇ』

 

サイトとデルフの会話の間に、ゼロが介入してきた。

 

『前にも言ったろ。いくらガン何ちゃらって力があったところでてめえは体も力も小せぇ人間。しかもワルドのように魔法も使えなければ頭もそんなに良い方じゃねぇ。

そんなテメェに一体、怪獣を相手に何ができるってんだよ?』

 

ゼロの尤もだが勘に障る物言いにサイトはカチンときた。

 

「うるせぇ…やってみなきゃわかんねぇだろ。だいたい体も力も小さいその人間だって、地球防衛軍として今まで地球を守ってくれたじゃねぇか。俺にだって出来ねぇわけがねぇ。

それにお前だって昨日の戦いとかなんだよ!ワルドの言ってた通り好き勝手暴れやがって!あれじゃ怪獣がもう一匹いるようなもんじゃないか!」

 

『あんだと!?テメェだって同じことワルドに言われてたじゃねぇか!人のこと言えんのかよ!』

 

「てめえよりも周りに気を配れる分マシだろうが!」

 

 ああまたか…とデルフは頭を悩ませた。

 

 ワルドに、両者共に『暴れるだけの獣』,『ウルトラマンに守られただけで大した努力もしていない凡庸』と酷評された者同士。でもだからと言って二人が手を取り合って協力し合うと言う発想には至らなかった。

 かたや怪獣殲滅優先、かたや人命優先。

 ガボラ戦では名誉挽回になるどころか、ワルドにいいところを完全に持っていかれる始末。同じ体を共有していても、どうもこの二人は反りが合わないままだった。

 

『けっ、ワルドの野郎、余計なことをしやがって。今に見てやがれ。今度こそ、このウルトラマンゼロの力を認めさせてやる…!』

 

ガボラとの戦いの手柄を奪われ、今度こそはと息をまくゼロ。

 

(この野郎が…)

 

やはり街に被害を及ぼしたことを反省しようとしていない。サイトにはそれが頭にきた。

その一方で、

 

(でも…畜生…。悔しいけど、ゼロの言う通り…俺は結局、口だけで何もできなかった。

 

あの時と、何も変わっちゃいねぇ…)

 

ゼロの言い分に言い返せず、己の無力さを痛感しますます自信を失っていた。

 

 

 

 

 

秘密の港は、広く開いた洞窟だった。光るコケが生え、それが明かりの代わりとなって一帯を照らしている。

 

「こんな天然の隠れ家があるなんてね」

 

洞窟の壁を見渡しながらキュルケが呟いた。

 

「ああ、これならあのレコンキスタも簡単には見つけることなどできないだろうね。殿下もここが見つからない限りは安全でいられるはずだよ」

 

ギーシュもこの秘密の隠れ港を見て簡単の声を漏らす。サイトもまた、この自然に出来上がったこの洞窟を興味深そうに眺め続けていた。

イーグル号から降りると、城に待機していたウェールズの側近たちが出迎えてきてくれた。

 

「パリー、喜べ!硫黄が手に入ったぞ」

 

サイトたちが搭乗した客船には硫黄が詰め込んであった。

 

「火の秘薬ではありませんか!これで我らは王家の誇りと名誉を叛徒共に示すこともできましょう!次の作戦が楽しみですな」

 

出迎えてきてくれた老貴族、パリーはウェールズからの知らせを聞いて大いに喜んでいた。そして視線を、皇太子と行動を共にした炎の空賊団の船長たちに移す。

 

「殿下をよくぞお守り成された」

「なに、協力している以上当然の事よ」

 

ルイズは握手しあうパリーとガルの姿を見て、彼ら炎の空賊たちが王党派たちから強い信頼を手にしていることを察知したと同時に、いくら義賊でも賊であることに変わりない彼らが、ここまでウェールズをはじめとした貴族たちから信頼されていると言うことを意外なものとして受け止めざるを得なかった。自分がもし皇太子の立場だったら彼らのことをかたくなに拒んでいたかもしれない。

 

「さあ、大使殿。件の手紙はこちらだ。ついてきてくれ」

 

ウェールズはルイズたちを見てそそくさと歩きだし、ルイズ達は案内されるがまま、着いて行った。

 

 

 

ウェールズの部屋はニューカッスル城の一番高い天守の一角にあった。

内部は王子の部屋とは思えないほど質素であり、家具も木製の机と椅子、ベットしかない。壁には戦局を示すタペストリーが掛けられている。

ウェールズは机の引き出しから宝石の散りばめられた小箱を取り出した。蓋を開けると裏にアンリエッタの肖像画が描かれていた。

 

「俺もよくトリステインの姫さんの話をウェールズから聞いててさ、あれはあいつの宝物なんだ」

 

ルイズたちの横で、グレンが説明した。

 

「あんた、あの方はウェールズ殿下、王族なのよ?礼節をわきまえなさいよ。っていうか、なんでここまで着いて来たのよ!」

 

賊が礼儀を知りたがるかどうかなんて考えられないが、それでもこれはピシッとしなければならないと考えるルイズとしては、王子の部屋にまで着いて来たグレンと空賊船長三兄弟に納得がいかない。

しかし、ウェールズは微笑しながらルイズに言った。

 

「いいんだよ、ミス・ヴァリエール。僕は寧ろこうして呼び捨てにし合えるだけの仲の友が欲しかったくらいなんだ。何せ、王族と言うのは個人的な交友関係がほぼ無い当然ともいえるからね」

「結構気さくな方なのね」

 

キュルケとしてもウェールズの空賊たちとの打ち解けようは意外だった。ウェールズは内心で王族ではない者の暮らしに憧れの感情があるのだと見た。ゲルマニア人である自分にも、成り上がりの国の人間の癖に…なんて言葉も言ってこないのだろうか。

 

「へえ…すごく気のいい人なんだ」

 

サイトはウェールズの人となりの一端を見て好印象を抱いたが、タバサそれを聞いて彼の袖を引っ張ってきた。

 

「だとしても、馴れ馴れしく話しかけない方がいい」

「どうして?本人がいいって言うなら別にいいんじゃないの」

「やれやれ…君は単純だな。とはいえ、平民の君にはわからないだろうね」

 

首を傾げるサイトに、今度はギーシュが呆れる、すると、キュルケがサイトにその理由を明かした。

 

貴族と言う者は常に腹の探り合いをしなければならないし、常に出世して立場を高めたがるもの。特に気位の高いトリステイン貴族はその度合いが強い。

 

「異国の王族と仲良くしているとその母国に取り入ろうとしていると思われちゃうの。滅亡間近の王族の味方をしてもメリットが大きくない。場合によっては出世の足を引っ張ることもありうるのよ」

 

見た目からして聡明さがうかがえるウェールズが王族としてのしがらみを理解していないわけがないが、理解したうえで砕けた口で言い合える相手を求めても迂闊に仲良くすることにも気をつけなくてはならないのだと言った。

 

「キュルケ、さすがに口が軽いんじゃないかい?」

「それをあなたに言われたくはないわね、ギーシュ。それに、愛する人が知りたいことなら包み隠さず教えるものじゃないかしら」

 

 しかし、サイトにとっては到底理解し難い。この世界では平民に当たり、そもそも貴族政治なんてとっくの昔に廃れた地球人であるサイトにとってどうでもいいものだ。皇太子が寧ろかわいそうじゃないか。そして、こんな辛い現実を作ってウェールズたちを苦しめるレコンキスタにも怒りを覚える。怪獣を戦争の道具に用いるなんて、とても許せる行為じゃない。生き物の命をどんな目で見てることか。

ウェールズは手紙を取出し、愛おしいようにそっと口付けし、開いてゆっくりと黙読する。

 

「これが例の手紙だ。このとおり確かに返却した」

「ありがとうございます」

 

 ルイズは深々と頭を下げながら手紙を受け取った。その手紙は封筒もその中もすでにボロボロだった。

 

(何度も読まれたのね…)

 

 同じ内容の手紙を飽きずに何度も読み漁っていたことがわかった。ルイズは手紙をしたためた時のアンリエッタの顔を思い出した。愛おしそうに手紙を抱き、自らの気持ちに嘘はつけないと始祖に打ち明けたときの彼女の顔…。ウェールズとアンリエッタの仲をこの時確信した。そのため、この手紙がウェールズにとって読まずにはいられないほどのものだったのだろうとルイズは察知した。

 

「明日の朝、民間人を乗せてイーグル号が出港する、それに乗って帰りなさい」

「あの、殿下。王軍に勝ち目はあるのですか?」

 

ルイズからそう尋ねられると、ウェールズは遠い目で窓の外を眺めて答えた。

 

「…今度の作戦がうまくいかなかったら、我が軍は確実に滅ぼされるだろう。次の戦いでも、きっとレコンキスタはグレンを警戒し、強力な怪獣を用いてここへと攻め入ってくる。決戦の場はサウスゴータ地方。情けないが、今の王軍はわずか5000。レコンキスタ共は10倍の五万。当然、王軍だけで立ち向かっては勝ち目がない」

「そんな…!!」

 

 戦力に差がありすぎた。それに怪獣を使役する術を持つ反乱軍が相手では、まともにやりあっても勝ち目が薄い。たまらずルイズはウェールズに言った。

 

「殿下、トリステインに亡命してくださいまし!それほどの劣勢では、いくら強い味方を付けていたとしても…アンリエッタ様からの手紙にもそう書かれていたはずです!」

 

しかし、ウェールズは首を横に振った。

 

「大使が手紙の内容について言及するとは、越権行為が過ぎるのではないかな?

それに亡命など出来んよ。アンリエッタは王女だ。国の大事を、僕を助けるために私情を挟むような事はしない」

「私は姫様のことは大変存じております!姫様がご自分が愛した人を見捨てるわけがございません!!私は幼い頃、恐れながら姫様のお遊び相手となったことがありますから、あのお方のお気持ちはわかっていると自負しているつもりです!」

 

それを聞くと、ルイズとワルドを除くサイトたち一行がルイズに注目した。

 

「アンリエッタ姫殿下と…ウェールズ皇太子が恋仲…!?」

 

 この事実に特に驚いていたのはギーシュだった。たちまちそれを聞くや否や、ギーシュは真っ白になって膝を着いて放心状態に陥った。

 

(こいつ、お姫様に惚れてたのか?)

 

 実を言うと…いや、もしかしたらお気づきの人がいない方がおかしいかもしれない。学院でアンリエッタがルイズに今回の秘密の任務を与えた際に自分もその任務に就くと名乗り出た際に言った、『お願いしますね、ギーシュさん』の一言とアンリエッタの笑顔を向けられたその時から、惚れてると言ってもいいほどギーシュは完全にアンリエッタの虜になってしまっていたのだ。その分、あのアンリエッタに想い人がいたと言う事実は相当ショックだったらしい。

 身分違いの恋など叶わないなんて自分に偉そうに説教垂れていた上に自分はモンモランシーと言う彼女がいるくせに…。人のこと言う前に自分のことをどうにかしとけよとサイトは、そしてキュルケも一人場違いに真っ白になるギーシュに呆れかえる。

 

「なんだなんだ?そいつなんで真っ白な灰になっちまってんだ?」

 

 奇妙に思ったグレンがサイトたちに尋ねるが、タバサがグレンに対して一言言った。

 

「気にしたら負け」

「あ、そう…」

 

 見た目からして空気の読めないキザ野郎。彼女の言う通りあまり気にしたらいけないのだろうと思い、グレンはそれ以上ギーシュのことについて尋ねようとしなかった。ちなみにワルドは今のギーシュの様子に一切の興味を示さなかった。

 ルイズの言葉にウェールズは額に手を当て、微笑みながら言った。

 

「君はアンリエッタと僕が恋仲と…?」

「そうです!姫様とウェールズ殿下は―――」

「…ああ、その通りだ。君の言うとおり、僕とアンリエッタは恋仲だ」

 

ウェールズは一度窓の外を向くと、遠くを見つめるよう眼をした。

 

「だが、この恋文が公表されれば、アンリエッタは始祖の名のもと僕に永遠の愛を誓った事が公になり、重婚の罪を犯したことになる。当然ゲルマニア皇帝との婚姻は破棄され、同盟も成らずトリステインは孤立無援、軍の再編成もままならなくなり、トリスタニアにおける怪獣の被害がもとで行われている復興作業に支障をきたす。そんな状態で、もしも我らが敗北し貴族派のトリステインへの侵攻を許すことになれば、トリステインは滅亡の危機に瀕するだろう。

それに、始祖ブリミルの名において永遠の愛を誓ったのは昔の話だ。彼女と僕の名誉、そして始祖に誓って言おう。亡命を勧めるような事は一文たりとも書かれていなかったと」

 

 頑なに亡命を拒むウェールズに、ルイズはとにかく彼を説得しようと言葉を発そうとしたが、その前に窓の外を眺め終えたウェールズがルイズへと視線を戻し、彼女の肩に手を置く。

 

「ミス・ヴァリエール。君は正直でどこまでも真っすぐで良い目をしている。だがしかし、そのように正直では大使には向かないよ。しっかりしなさい」

 

 ウェールズは微笑ながら言った。

 あの笑みは、嘘だ。キュルケは恋愛について経験豊富なためかウェールズの笑みが無理に作ったものだと察した。本当にアンリエッタと恋仲なら、さっきの手紙の内容を呼んだ時と同様内心ではうろたえているのかもしれない。他の男にアンリエッタを奪われることに歯がゆい思いをしているかもしれない。きっと、自分の存在そのものさえもいずれアンリエッタと互いに交換し合った恋文と同様、ゲルマニア皇帝との縁談…つまりトリステインの未来に置いて障害でしかなくなることを考えて亡命を拒んだのだ。

見ていて正直じれったくて、自分もルイズのように亡命を勧めたいと思った。できることなら、身分もしがらみも関係なく恋する者たちの味方をしていたい。でもゲルマニアは祖国だ。喋ったところでメリットなんかないし、本人たちの意思のもとで決まっている以上、手を貸したところで何もできないのが目に見える。アンリエッタとウェールズの愛し合っていると言う事実は、両国のためにも…敢えて聞かなかったことにしておくことにした。

 

 愛し合う二人が結ばれない残酷な現実にルイズは俯き、目じりに溢れてきた涙をぬぐった。

 

「ならば皇太子様、私からもお願いがございます」

 

すると、ワルドがウェールズの前に一歩出て跪く。

 

「なんだね?ワルド子爵。流石に亡命の件は」

 

「それは重々承知致しております。我々はトリステイン貴族。此度も任務で赴いた身故、殿下や祖国に無断で助力するなど、歯がゆいことですができませぬ」

 

 トリステイン貴族としての立場を弁えたワルドの発言に、ルイズは薄情ではないかと言いたくなった。でも、彼の言う通り自分たちはあくまで大使。もしトリステイン王政府に無断でアルビオン軍に助力することは、国際問題レベルのリスクを母国に背負わせることにもなりかねない。それに以前、自分はサイトにも、シエスタを無理やり引き抜いたモット伯爵とのいざこざにおいても同じことを言っていた。

 

今なら、あの時のサイトの気持ちがわかる気がした。こんなにも歯がゆいものだったのか。

 

「我が軍を助けたいと言う気持ちだけで十分心は救われるよ。して、子爵殿、君のお願いとは?」

 

「はっ、尤もこれは私個人の事情も兼ねている側面もございますが」

 

 

次にワルドの口から言い放たれたその提案に、大半の人間が耳を疑った。

 

 

「王党派の勝利と祈願の意味も兼ね、

 

 

 

私とルイズの婚姻の神父役をお願いしたい」

 

 

 

「「「「!!?」」」」

 

 サイト・ルイズ・ギーシュ・キュルケ・タバサがワルドの突拍子もない突然の提案に唖然となった。

 

こんな時に…!?いくら勝利祈願のためだからって、そんなの気分的にもいいものなのか?いや、いいはずがない!

 

しかしウェールズは…。

 

「ああ、喜んで引き受けよう!兵たちも、炎の空賊のクルーたちも、きっとお二人のめでたい晴れ舞台をご覧になって入り一層士気を高めるだろう!」

「ひゅう!すげぇこと言い出したな髭の兄ちゃん!」

 

 意外にもウェールズはワルドたちの結婚式の神父の役を快く引き受けたではないか。グレンたち炎の空賊たちも、茶化している感ありありで盛り上がっている。

 

「ワルド、何言ってるの!私そんな…」

 

そんな気分にはなれそうにない。だから拒否しようと思った。しかし、ウェールズがルイズに向かってこう言ったのだ。

 

「ミス・ヴァリエール。どうかあなたとワルド子爵の門出を祝わせてほしい。もしかしたら最期になるかもしれないこの僕に、何かを残させてほしいのだ」

 

 悪意がない分、余計にタチの悪い。

ルイズはとてもグレンファイヤーのような強力な戦士が味方に付いている王軍でも、これまでトリステインを襲ってきた怪獣たちの脅威をこの目で見てきた。しかも敵は怪獣を操ることができると言う人知を超えているかもしれない存在。どんな手を使って勝ちを拾うつもりなのかはわからないが勝てる見込みがまだ見えないのだ。でも、ウェールズからここまで頼まれてしまうと、断ることができなくなった。

ふと、ウェールズは机の上の水の張った盆を見た。盆には時計のように長短の二本の針が浮いていた。

 

「もうこんな時間か」

 

彼は机の上のベルを手に取ってそれを鳴らすと、この部屋に数人ほどの兵が入ってきた。

 

「今日はもう遅い。彼らに客室を用意させてほしい」

「はっ!」

 

 

 

「…あの坊や、あの怪獣の暴れ様から生き残ったみたいだね。大した強運だよ」

 

ラ・ロシェールの外れの小屋でそうしたように、フーケと仮面の男はとある場所で密談を行なっていた。

 

「で、作戦が失敗しても、まだこそこそ悪巧みしようってのかい?」

 

「一度企みが破れたからと言って手を止めるほど、俺は諦めがよくはない。策は幾重にも重ねて用意してこそ策だ。

そして今回は、王党派の本拠地の場所を割り出せた。奴らの寝首も同時にかくことができる」

 

ガボラを利用した作戦こそ失敗に終わったようだが、それでも仮面の男の目論見は終わってはいなかったようだ。しかも、なんと王党派…ウェールズたちの居所も把握済みであるらしい。

 

「もはや奴らの命は俺の、そして我らレコンキスタの掌の上にあると言っていいだろう。

喜べ土くれ。貴様の両親の仇も、お前が守っている『あの娘の親』の仇も、俺がとってやれるのだからな」

 

「…余計なお世話だね。頼んだ覚えはないよ」

 

こちらを脅迫しておいて恩着せがましいことを言ってくる仮面の男に、フーケは悪態をつく。

 

「だが内心ではいい気味だとも思っている」

 

さらに奥深くに隠したこちらのかすかな本音をも突かれ、彼女はますます仮面の男への不信感を募らせるのだった。

 

フーケ…マチルダ・オブ・サウスゴータは、アルビオン王ジェームズ一世、ウェールズ皇太子の父親に処刑の名目の元に殺され、家も取り潰された。

 

父は、人として非道な行いをしたことなど一度もない。

 

『あの子』とその両親を守ろうとしただけだ。

 

残された自分は、なぜ自分を残して死んだのだと恨んだこともあったが、父は人としても父親としても、貴族としても誇れる人だった。

 

だから、そんな父を殺したアルビオン王の一族が、どういうわけか凄腕の空賊を味方につけてまで生き延びていることについては不愉快ではあった。いっそのことレコンキスタに潰されてしまえばいいとさえ思うほどに。

 

それに、空賊…こっちも盗賊として裏の世界を渡ってきた身だから、噂では耳にしたことがある。

 

自分と同じく、貴族(特に悪政を強いているタイプ)をターゲットに絞って略奪行為を働く所謂義賊に類しており、貴族をよく思っていない平民たちからも一目置かれている。

 

「土くれ、貴様は炎の空賊と接触したことはあるか?」

「あいつらに?前に一度、こっちで一仕事した後で誘われたよ。『俺たちの仲間にならないか』って。まぁ断ったけどね。あたしに同業者の仲間なんか邪魔くさいもんさ」

 

似た者同士だからというのもあって、フーケは彼らから勧誘されていたようだ。だが、いずれかの組織に身を置くことはフーケにとって邪魔くさいしがらみでしかなかった。盗賊家業だって『あの子』たちの面倒を見るために仕方なくやっているだけ。ましてや自分以外の賊に『あの子』たちの存在がバレたりでもしたら、この仮面の男みたいに自分を脅してくるに違いない。

 

「ほう、既に誘われていたというわけか。なら好都合だ」

 

仮面の男は、フーケが炎の空賊たちとコンタクトを取っていたことを知り、仮面の下でほくそ笑んだ。

 

「なら土くれ、貴様に次の任をくれてやる。

 

 

炎の空賊共ともう一度接触しろ」

 

 

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