その夜、ニューカッスル城では明日の戦いに備えた、気分高揚のための晩餐会が開催された。国王ジェームズ一世は弱り切った腰を浮かせ、手に持ったワインを掲げた。
「皆の者、よくこの王に付き従ってくれた。
明日の戦にて、我々の運命が決まる。滅びるか。それとも生き残って戦い続けるか。きっとこれまでにない辛い戦いとなるだろう。
炎の空賊たちよ、自由を愛する戦友よ。叛徒どもに翻弄される我らのような惰弱な軍によく手を貸してくれた。わしは正直これまで賊と言う存在を侮っていたが、これほど心強く勇敢な者たちと触れて、とても嬉しく思っている」
王党派の貴族たちは全員着飾り、炎の空賊たちのクルー、そしてサイトたち一行もしっかりと国王の話に耳を傾けていた。
「もし敗れることになったとしても、せめて栄誉ある敗北を描こう!だが最後まで決して諦めずに戦おう!我らにはあの叛徒どもと違い、真に始祖ブリミルのご加護がある!正義がある!誇りがある!明日の戦いに打ち勝ち、我らの誇りと名誉を示し、未来を勝ち取ろうではないか!」
国王が高らかに宣言し、ウェールズ皇太子や王党派の者達は手に持ったグラスを掲げた。
「「「「「「アルビオン王国万歳ーーーーー!!」」」」」
「タバサ、どうしたの?晩餐会には参加しないの?」
一方で、キュルケとタバサもまた晩餐会の席に出席していなかった。キュルケとしては、ワインを飲んで気分を変えて行こうかとも思ったが、以前フリッグの舞踏会に参加した時と違ってタバサが参加しないことに疑問を感じていた。
「…そんな気になれない」
あまり王党派の様子を直視しないタバサ。本来静かな環境を好むことというだけではなさそうだ。
「そうね、なんだか無理に明るく振る舞っているようにも見えるわ。
それにワルド子爵とルイズの結婚のことも、気分じゃないわね。こんな時にあんな話を持ちかけてくるなんて…何を考えているのかしら?」
自分にもし婚約者がいて、こんな時に結婚式を挙げようと言われたとしても、正直嬉しくないし断らずにはいられない。結婚式とは本来新郎新婦とその一族郎党のために行う儀式。国の政治的な高揚のために行うなど野暮、ましてアンリエッタとウェールズの悲恋が確定した矢先でなど…と考えていた。
ルイズも押しに弱いものだと思った。いや、むしろ元から弱いタイプだったとみるべきか。結局キュルケはその日の夜は一滴もワインを飲まなかった。
サイトとギーシュはバルコニーにてグラスを片手に立っていた。ギーシュはバルコニーの柵に身をゆだねながら、ぐったりと沈んでいた。
「姫殿下と皇太子様が…姫殿下と皇太子様が…うぅ」
「お前まだ引きずってんのか?いい加減にしろよ…ったく」
ここにいる人たちは浮気性なこいつと違い、明日死ぬかもしれないと言う瀬戸際に立っているのだ。もう放っておこう。
サイトはルイズの姿を目で追って行った。
晩餐の最中、ルイズたちは王党派の貴族たちから料理やワインを何度も進められていた。
「大使、ミス・ヴァリエール!我々にもあなた様の花嫁姿をお見せしてほしい!あなたのお美しい花嫁衣装姿をご覧になって、我々が大切なものを守っていると言う実感が欲しいのだ!」
「この酒はいかがでしょうか!?アルビオン一の酒ですぞ!飲めば頬が落ちるほどの美味を味わえますぞ!」
「す、すみません、ちょっと失礼します。ごめんなさい」
ルイズは、それらのもてなしを丁重に断ると、急ぎ晩餐会の場を後にした。ここにいたいと言う気持ちが全く持ってなかった。ウェールズとアンリエッタの引き裂かれた愛、直後のワルドからの突然の結婚式をつい先ほど持ちかけられたことで、彼女の心は穏かではなかったのだ。
「あ、あのルイズが…追いかけないと」
「ああ、君に言われなくとも分かっているよ」
ワルドはルイズを追いに、そしてサイトも手伝わないと文句言われるかなと思い、未だへこみ続けるギーシュをほっぽりだしてルイズを追っていくことにした。
城の中は、夜になっているだけあって暗くなっていた。二つの月と壁に掛けられたランプによって薄暗く照らされていた。月を見る度に、本当に異世界に来てしまったのだとサイトは思わされた。さて、この異世界へと連れてきたルイズはどこへ行ったのだろうか。
「やぁ、使い魔君」
ウェールズがサイトに声をかけてきた。
「皇太子様」
「先刻はありがとう。おかげで怪獣の情報を得たことで次の作戦がより盤石になった。さっき重臣を集めて、作戦の微修正が終わったところだ。
反徒共は怪獣を力の頼みとしている。弱点が分かれば、次の作戦もより確実に成功に近づける。民の平穏を取り戻す未来が見えてきたよ」
「それは、よかったです。けど怪獣って、俺が知るだけでも何百匹もいますから…」
「短い時間だけであれだけ教えてくれたんだ。あれほどの種類の怪獣たちの情報を得られたことで、我が軍の兵たちの生存率はぐっと上がった。つまり君は既に命の恩人と言えるんだ。胸を張ってくれ」
「大袈裟ですよ」
力になれたようでサイトは嬉しくなった。
「できればもう一声贅沢を言うなら、僕自身に怪獣と戦えるだけの力があればよかったんだが。そうであれば、皆の分の危険も痛みも一手に引き受けられたのだが」
あぁ、やはりこの人は良い人だとサイトは思った。まさに理想的な王子そのままだ。地球では文字通りの非モテ男児だった身としては妬ましさもあるが、こうも非の打ち所のないイケメンではそれを通り越して尊敬するしかない。
しかし故に、自分の人間としての力の限界には不満もあるようだ。
「自分もウルトラマンだったら…なんて思ってたりするんですか?」
「まさにそうだよ。使い魔君」
言い当てられたか、と肩をすくめながらウェールズは言った。
「アルビオン王家の男児には、あらゆる悪を滅する伝説の力が宿るって言われてるんだ。『鏡の騎士』の力、と言われている」
「鏡の騎士?…確か、グレンと話してた時に言ってたやつ、ですよね?」
流石にドンピシャでウルトラマンの力、というわけではなかった。でも遠からずでもあるようだ。
鏡の騎士の力、なんなのだろう。
「かつて我が祖先…アルビオンの祖王は、始祖ブリミルの血を引く者として生まれた。その伴侶となった者が、遠い国からやってきた、ある特殊な力を持つ一族の末裔だったらしい。
かの者は、このハルケギニアの四大系統魔法のいずれにも属さない特殊な力を持っていた。鏡を利用し、対峙したあらゆる強大な敵を翻弄し仕留めてきた、と言われている。極めつけは、その体は怪獣にも匹敵し撃つ巨大なもので、このハルケギニアを幾度も救った」
「へぇ…」
鏡を使って戦う、一体どんな力だろう。もしかして、鏡の中に飛び込んで行ったりするのだろうか?一昔前にTVで放送されていた、バイクを駆る仮面のヒーローみたいに。
聞けば聞くほどウルトラマンに近しい英雄の話だ。ただウルトラマンは、地球人である自分にとってはどちらかというと近しい方の存在だが、ウェールズの言う鏡の騎士の伝説の方が、伝承がふわっとしている分神秘性がウルトラマンよりも増してる遠い存在のような気がした。
「一説ではその力が、失われた系統『虚無』だとか言われたりもしたけど、残念なことにその話が事実だったと証明できるものは、口伝と『始祖の箱舟』だけだ。そして、僕の代に至るまで、その鏡の騎士の力はその兆候すら出ていない。
あぁ、本当に口惜しいものだ。その力があれば、あんな叛徒共に好き勝手な戦など起こさせなかっただろうし………アンリエッタとも……」
ウェールズは昔話の語り手のように言葉を紡いでいった。そしてその表情は影を帯びていった。愛する自国を踏みにじられていることもそうだが、アンリエッタのこともあきらめきれずに
自分ももし彼の立場ならその力を求めていたかもしれない、とサイトは思った。
「…不思議だな。君とは会って間もないのにこうもすらすらと王家の伝説すらも語ってしまうとは。グレンに続いて二人目だよ」
少し場の空気が暗くなったことに気づいて、ウェールズは改めてサイトの方を向いて微笑した。
きっと王子にとって、自分は久方ぶりに会う同年代の人間なのだろう。そしてグレンだけでなく、他にも友人が欲しくなるくらいに、反乱軍との戦いで心をすり減らしていったのだ。
サイトはそんな予想を立てて、敢えてウェールズを王子として以上に、同年代の少年として話しかけた。
「…もしレコンキスタに勝てたら、どうするつもりですか?」
「勿論王族としてこの国をもう一度立て直す。あの恥知らず共のせいで国土が酷く荒らされた。まずはこれらを元に戻し、二度とあのような者どもをのさばらせない、民の平穏な日々を取り戻す。
その後は…そうだな、遠くからアンリエッタの花嫁衣裳姿を見届けたら、少しの間グレンたちと自由に空を飛び回ってみるのも悪くないな」
ウェールズはそう言うと、バルコニーの方へと歩き出し、そこからアルビオンの大平原を一望する。
「以前、アンリエッタと話していた頃のことだ。彼女は自分が王族として生まれたことに窮屈さを感じていたようでね。よく言っていたよ。『生まれ変われるなら鳥になりたい』と」
「鳥?」
サイトが訊き返す。
「きっと鳥の、どこへでも自由に飛び回れる姿を羨んでいたんだろう。かくいう僕もそうだ。王族は国を背負う柱、自分の気の向くままに旅ができる身分でもない。
だから、グレンたちのように自由に空を飛び回れる空賊にも同じ憧れを感じてしまう。…ははは、僕が空賊に憧れるなんてね」
ウェールズは苦笑いを浮かべた。家臣たちも、今では同じ敵と戦う戦友として炎の空賊たちとうまくやっているが、自分が彼らに憧れているとは言えない。
「なーに言ってんだよ」
そんな二人の間に、ぶおっと熱気が入り込む。正確には一人の男が割り込んできた。
「グレン!」
グレンだ。どうも人間の姿でもある程度熱気を周囲に振り撒くらしい。
「お前らは自分の殻に閉じこもりすぎなんだよ。ぐだぐだ悩んでねぇで、思い切って内側からぶち破っちまえ。
さっき言ってたお姫さんの結婚式のことだってよ、いっそのことその結婚式に殴りこんで、かっさらっちまえよ!『お前の花嫁はいただいた!』ってな」
「たはは、冗談はやめてくれ…僕は怪盗にはならないぞ」
ウェールズが困ったように笑った。
「でも、ちょっとやってみたいかな…なーんて思ってるだろ。わかるぜ、そのニヤケ顔で」
「その質問に対しては黙秘させてもらうよ」
「じゃ、その通りだってわけだな。へへ」
ちょっと本気で考えていたんだろうなと、察しの悪い方であるサイトも思った。しかし結婚式で花嫁を攫うなんて、まるで漫画の世界だな。尤も自分から見れば、魔法が実在するこの世界そのものが漫画の世界なのだが。
「ところでグレン、僕に何か知らせでもあるのかい?」
「そうそう、ウェールズ、次の作戦と、桃髪の嬢ちゃんの結婚式の準備、両方整ったんだってよ」
「そうか。あとは非戦闘員と民間人を地上に逃すだけだな」
それを聞いたサイトははっとした。
そうだ、二人はもう直ぐ結婚することになったんだ。
ウェールズたちとの話に夢中になるあまり忘れていた。
…ずず、と胸の中に黒いものが渦巻いた。
サイトはウェールズたちの元を後にすると、廊下に設置されたロビーのソファに、月明かりに照らされたルイズが座っているのを見つけた。
「サイト…」
自分の使い魔の姿を見た途端、ルイズはサイトの胸に飛び込んできた。いきなり抱きつかれたことに激しき動揺したサイトだったが、すぐに彼女がそうしてきた理由を理解した。なにせ、ルイズの口から漏れ出ていた声が涙声になっていたのだから。
「どうして…?姫様は絶対、皇太子様に逃げてって手紙で仰ってたわ。なのに、どうしてここに残って戦おうとするの?
あんたも見たでしょう?このアルビオンは今、貴族派の操ってる怪獣たちの縄張りにされているわ。あんなたくさんの怪獣を相手に、勝てっこないわ。なのにどうして?」
空賊と手を組んだところで、グレンファイヤーが味方にいると言っても、相手は無数の怪獣すらも操る恐るべき相手だ。
怪獣を相手に無謀にも立ち向かおうとしたルイズだが、元より冷静であればそんなこともしなかったかもしれない。自分ではなく他の誰かがあんなことをやっているのを想像すれば、あの時の自分がどれほど無謀だったのかもわかる。
けど、今の王党派…ウェールズたちは違う。分かった上で危険な道を行こうとしている。それで誰かの未来を繋ぐことができることを信じている。
「大切なものを守るためだって言ってた」
「なにそれ?愛する人より大切なものがあるっていうの?」
「もう知ってるだろ?あの人は、お姫様やこの国の人たちのために戦うんだって。
怪獣なんてとんでもないものを操ってるような奴らだ。俺が知ってる宇宙人たちが裏で糸を引いていようが、この世界の人たちだけで怪獣を操っていようが、この国のみんなもお姫様も大事だから、きっと…」
「………ねえサイト…」
「ん?」
「どうしてこんな時に…ウルトラマンは来ないのかしら?」
ギュッとサイトの服を掴んでくるルイズ。ああ、そうだな…とサイトはルイズの気持ちを理解できた。確かに、助けたい人を助けたい…どうにもならないこういう時こそウルトラマンには来てほしいと願いたくなる。
サイト自身もそうだった。メビウスが地球を守っていた頃から、ずっとそうだった。でも…。
「…あんたの言うウルトラマンって、こういう時こそ来るもんじゃないの?」
サイトは目を閉じて、何時ぞや覚えたある言葉を口にした。
「『地球は我々人類、自らの力で守り抜かなくてはならない』」
「何それ…?」
フーケ事件の時もそうだが、サイトからまた妙な言葉を口にされ、ルイズは首を傾げた。
「昔の地球防衛軍のとある隊長が、ウルトラマンと共に戦う際に言った言葉だ。ウルトラマンは人間にとって都合のいいだけの存在じゃない。精一杯頑張って平和を勝ち取ろうとする人たちがどうしようもない時に力を貸してくれるヒーローなんだ。
怪獣と戦うだけならまだしも、戦争でどちらか片方の勢力に手を貸して、敵軍の人間を殺すなんて真似は、ウルトラマンたちにとって最大のタブーなんだ」
そうだ、これまでのウルトラマンが地球を守るために戦ってきたのは『人類の手に負えない力』が現れたときだけだ。この世界の存在じゃない何者かが絡んでいることを見いだせない限り、ウルトラマンはきっとレコンキスタと王党派の戦いの場に現れない。まだ星人のように、強力な知性を持つ存在がはっきりしていない以上、人間同士の戦争にウルトラマンは介入することができないのだ。
人類の主権を侵害することはできない。人間同士の戦争でどちらかに肩入れすることは、決して許してはいけない。宇宙人たちの中では常識だ。
「俺たちは、たとえウルトラマンがいなくても未来を切り開くことができるように、努力しないといけないんだ」
そうだ、この身にたとえゼロが同化していなかったとしても、自分はルイズや仲間たちのためにまずは頑張って行かないといけないのだ。手に入れた力におんぶにだっこじゃいざと言うときに何もできなくなったりするかもしれないし…。
…いや違う、それだけじゃない。今の俺はただ、あいつに…『ゼロ』に頼りなくないだけなんだ。
あいつが独りよがりな戦いをしたせいで、ラ・ロシェールの人たちが余計に傷ついてしまった。
もしかしたらその前のディノゾールとの戦いの場となったトリスタニアの街の人たちもそうなっていたのかもしれない。そう考えると、ゼロに頼ることなんて…。
「わからないわよ…レコンキスタはいくら同じ人間でも、平和を乱す侵略者じゃない…」
ルイズは、サイトの語るウルトラマンの在り方、この状況に対する対応の仕方に納得できなかった。
敬愛する姫、アンリエッタとウェールズを引き離し、怪獣さえも操ってアルビオンの大地を地で汚し続ける。ルイズにとってレコンキスタは憎むべき敵でしかなかった。
「…私、もう一度説得する。それが無理なら私も皇太子様を助けるために一緒に行く。姫様の大切な想い人だもの。死なせたくない…姫様と皇太子様を引き裂く貴族派を、私は許せない…!!」
ルイズはギュッと手を握った。ルイズにとって、アンリエッタは忠誠を誓うべき相手というだけではない。やはり幼き頃に互いに育んできた友情を今もなお抱いているからこそ、戦場へ向かうウェールズを助けたいと思う。
(やっぱ優しい所あるんだな)
最初に会った時の高慢で偉そうなだけの見栄っ張りは、ルイズの本来の姿じゃない。意地っ張りで恥ずかしがりで怖がりで優しい…それがルイズと言う少女なのだ。
だけど、皇太子の説得や助力は立場上不可能だ。
「気持ちはわかるけど、それはダメだ」
「また私のやることにケチをつけるの!?」
「そうじゃねぇ。お前の仕事は、王子様の手紙をお姫様に届けることだろ?お前の立場で下手にこの戦いに首突っ込んでまでしたら、トリステインにだって迷惑かけちゃうだろ」
「…」
ルイズの頬を一筋の涙が流れ落ちた。サイトはルイズの小さな体をぎこちなく抱きしめた。
今感情がすっかり高ぶっているルイズにこれ以上言っても納得したりはしないだろう。サイトは話の話題を変えることにした。
「そういや、お前…結婚するんだったよな」
「……!」
自分に抱きついたままのルイズの頭を撫でながら、サイトは言った。
「…おめでとう、ルイズ。みんな喜んでるぜ」
胸中に、なぜか黒い何かが渦巻くのを感じるが…サイトは堪えた。 所詮使い魔で、いつか地球に帰る自分が守るよりも、ワルドと共にいて守ってもらう方が、ルイズにとっての幸せのはずだ。
「…あんたは…いいの?」
しかし…ルイズは目元に影を作って俯いた。その声は、何かを押し殺しているようにどこか震えていた。
「私がワルドと結婚しても…」
サイトは戸惑った。ルイズからそんな質問をされるとは思わなかった。
「な、何…言ってんだよ?
俺は…その、あくまでお前の使い魔で、ワルドはお前の婚約者だろ。
お前自身も言ってたことだし」
「………!!」
バシィイイイイン!!!
その瞬間、サイトはルイズに顔をひっぱたかれた。
「痛!?いきなり何すんだ!?」
サイトにとって予想もできなかったことに、彼はルイズを睨み付けた。だが、すぐに呆然とした表情に一変した。
「サイトの馬鹿!なんで…
なんで止めようともしないのよ!!!」
彼女の目からは、涙がぼろぼろと溢れ出ていた。涙ながらにサイトに怒鳴り、ルイズはサイトに背を向けどこかへ駆け出して行った。
「………」
どうしてルイズは自分にあんな問意を投げかけてきたのか、どうして自分をぶっ叩いてきたのか…
暗い廊下にて遠ざかるその背を、サイトはただ困惑して、見てるしかなかった。
いや、正確にはわかろうとしなかったのかもしれない。そうしようとしたら、心のどこかで燻り始めていた『その想い』に期待して、それがいずれ辛くなってしまうから…