テクターギア・ゼロによる炎の蹴りがラフレイアに炸裂したことで、アルビオン大陸に起きた、巨大爆発。
自身もそれに巻き込まれたゼロは、サイトの姿に戻って倒れていた。
「いっつつ…」
焼けるような痛みが肌を伝い、サイトは目を覚まし、起き上がった。
サイトが倒れていたのは、草木一本生えていない荒野だった。
「ここは…どこだ?」
最初に荒野を一望した感想がそれだった。さっきまで森や草原が広がっていたはずなのに、今は度重なる環境悪化で砂漠化したように、草木一本生えていない荒れた大地となっていた。
「どこだとは随分なことだな」
そんなサイトのもとに歩み寄る男が一人。
「シュウ…」
顔を上げると、もう一人のウルトラマンの男…シュウがいつの間にかそこに立ってサイトを見下ろしていた。
「何があったんだ?俺、確か…」
俺は確か、ルイズとワルドの結婚式に仲間たちと共に参列していたところ、ウェールズたち王党派が守っていたはずとされる始祖の箱舟…と呼ばれる巨大なロボットがルイズを攫って、それにグレンファイヤーが立ち向かった。
自分もルイズを助けに飛び出していたはずだが、突然仮面をした男が現れてその邪魔をされ、奴は花みたいな怪獣を呼び寄せてまで自分を殺そうとしてきたところでゼロに変身して応戦した。
そいつが苦手としているであろう、そして唯一使うことができる必殺技である炎の蹴りを浴びせたところで…
そこから先は、強い光で視界を塗りつぶされてよく覚えていない。
ルイズや、キュルケにタバサ、ギーシュ…そしてウェールズたち王党派や炎の空賊の人たちは?背中に背負って常に一緒にいるはずのデルフもいない。
「…ここまで自覚を持ってないとは、怒りを通り越して呆れる」
シュウは射貫くような鋭い眼光でサイトを睨みつけてきた。
うっとサイトは息が詰まったような感覚に苛まれた。
「お前の火力を込めた攻撃がラフレイアの花粉に誘爆した。忘れたのか?」
「誘爆…?…っ!!」
広がる焼け野原を見て、サイトは思い出した。
自分がゼロに変身し、あの花の怪獣…ラフレイアに必殺技である〈ウルトラゼロキック〉を直撃させたことで、あの怪獣の体内にため込まれていた大量の花粉に引火したのだ。
この焼け野原は、小さな人間のサイズと比較すると果てしなく、地平線にまで広がっているようにすら見える。それだけの広範囲でのあの大爆発。爆発の跡には、何か大きな石垣の建物が崩れ落ちた箇所もある。
となると、あの時自分が変身して戦っていたあの地にいた仲間たちは。
あの時ルイズとワルドの結婚式を挙げてくれたウェールズたち王党派と、炎の空賊団の人々は…!
サイトは青ざめた。
なんということだ。自分がゼロに変身してあの花の怪獣…ラフレイアを倒したことで…
まさか…
ルイズも、デルフも、ギーシュも、タバサも、キュルケも…ウェールズ皇太子も、グレンや炎の空賊団も…
仲間や王党派だけではない。あの大規模な爆発で他の街も、そこにいた大勢の人たちも巻き込まれてしまった可能性が高い。
皆、俺が…
俺が…みんなを…
「う、うあああああああああああああああああ!!!!」
サイトの中に絶望が走り、彼は崩れ落ちた。
残酷な事実で気分が悪くなり、強い吐き気が催され、サイトは胃の中の者を全て吐き出してしまう。
心の中でサイトは自分を責め立て続けた。
もし、ラフレイアが歩く爆薬庫同然の怪獣だと知ってさえいれば。いや、その可能性を全く考えもしていなかった。
あの時の自分は、ウルトラマンが守ってくれただけの価値がある地球人の一人であると、ワルドが口走った『ウルトラマンにただ守られるだけで何の努力もしていない凡庸な人間』ではないことを証明したいという…考えてみればなんてつまらない意地を張っていた。
その結果、自分は守るべき仲間たちも、共に同じ平和を見据えていた皇太子たちを…。
ゼロと出会って以来、敵を倒すことより人命を優先するべきだと、口酸っぱく言っていたはずの自分が、逆に大勢の人々の命を奪うことになったなんて。
前回の戦いでようやくゼロと一つの意志と目的のもとで戦ったというのに、その結果が最悪なものだなんて、皮肉何て言葉でも済まされない。
『…サイト』
ゼロの声が聞こえてきた。
『仕方ないだろ、この前の戦いのことについちゃ』
ピクリとサイトが反応した。
「仕方ない…だと」
『俺たちがあらかじめあの怪獣のことを知っときゃ確かに今回のような結果にはならなかっただろうさ。けど、常にあらゆる怪獣のことを知り尽くしたうえで戦えるやつなんて宇宙のどこを探し回ったっているもんかねぇ。仕方ねぇだろ…』
「仕方ないで済むわけないだろ!そんな無責任なことを口走りやがって!」
サイトは立ち上がって怒鳴った。
「知らなかったから、そんな言い訳で何人の人が死んだんだろ!人が…人がたくさん死んだんだぞ!俺たちのせいで!
ギーシュたちだってあの爆発に巻き込まれちまった!俺たちが殺したようなもんじゃないか!
それを仕方ない…仕方…ないで…済むわけないだろ…」
近くの気にもたれ掛かり、その幹を殴りつけた。
「知らなかったら、何人でも人が死んでも良かったって言うのかよ…それでもウルトラマンかよ!認めてくれるかもしれない人たちを、沢山死なせておいてそれか!」
『っ…俺は…俺、は…!』
至極真っ当な指摘に、ゼロはそれでも『自分はウルトラマンだ』と主張しようとした。だが、喉から出るはずのその言葉が出てこない。
「ちっ…尤も、俺が早くお前を止めてさえいればこんなことにならなかっただろうな」
シュウは舌打ちした。ゼロ…自分たちを止めることができず被害の拡大を未然に防げなかったことには、彼もまた責任を感じていた。
そんな、悪いのは…俺たちなのに。シュウに申し訳なく思っていると、彼はサイトに向けて、ある質問を投げかける。
「平賀、お前たちはどうして戦っている?」
「……」
サイトは無言だった。シュウはサイトの顎を掴んで無理やり顔を上げさせ、再度質問した。
「なんのために戦っているのかと訊いている」
「な、何のためって…そりゃ、ウルトラマンとしてみんなを守るためで…」
急にそんな質問をされると思わなかったサイトは困惑した。こんな質問、どんな答えを出すべきかなんて分かりきってるものじゃないか。しかし、シュウからすかさず冷たく重い指摘が入る。
「なぜみんなを守ろうとする?」
「…は?」
サイトは一瞬呆けた声を漏らした。
「この世界はお前や俺とも縁も縁もない、文字通り異世界だ。ましてお前は、元々、どこにでもゴロゴロしている高校生の少年、まして勝手にあの小娘の召喚魔法とやらで呼び出された誘拐の被害者、体を張ってまで異世界の人間を救う義理なんてなかったはずだ」
「それは…!でも、もし俺たちが戦わなかったら、誰かが怪獣たちの犠牲になっちまうかもしれないだろ!俺たちはこれでも一生懸命に、ウルトラマンとして戦ってきたんだ!現にそれで守れた人だっている!」
自分は以前、クール星人の襲撃を受けた魔法学院を救って見せたことがあるし、モット伯爵やその後に現れた怪獣の手からシエスタを救ったことだってある。その自負を持ちだしていくが、すかさずシュウから指摘を食らう。
「既にこの世界には、俺やグレンファイヤーのような戦士がいたのにか?しかも今回、それ以上の犠牲を今回お前たちは生み出し、みすみすあの小娘も攫われるハメにもなった」
「…っ」
シュウ自身とグレンファイヤーの存在に、仲間や王党派の犠牲とルイズの誘拐を許した事実。それをダシにされてサイトたちは言葉を詰まらせた。
「そして今は、その事実に圧し潰されてガキみたいに拗ねている」
「拗ね…!お、俺は拗ねてなんて!」
「だったら言ってみろ。お前たちが互いに命を懸けてまで闘う理由を。なぜ誰かを守りたいのかと思ったのか、その理由を明確に言ってみろ」
「な、なんのためって…それは…それが正しいことだから……」
「そんな理屈を聞きたいんじゃない。『どうして守りたいと思ったのか』、そもそもの理由を俺は訊いてるんだ」
シュウから尋問されるような凄味で答えを迫られるも、サイトは答えられると思っていたその質問に対し、
なんと言えばいいのか、言葉を形にして口に出すことができなかった。
「………ウルトラマンゼロ。お前はどうだ」
サイトが口ごもるのを見て、シュウはゼロに同じ質問をしてきた。
『それは…て…てめえには関係ないだろ』
声をかけられ、サイトの中で聞いていたゼロは、吊られるように一瞬答えようとしたが、回答を拒否した。言いたくない気がした。
「…前に言ってたよ。光の国にいる他のウルトラマンを見返したいって」
『な、なに正直に答えてんだよてめぇ!』
しかしサイトが暴露したために、その意地は無駄に終わった。
シュウは目を細めた。
「他のウルトラマンを、見返す…だと?」
『…ああそうだよ。悪いか』
「…」
突っかかるような返事のゼロに対し、シュウはため息を漏らした。露骨に呆れているのが見て取れ、ゼロは腹が立った。
『んだよそのため息は!バカにしてんのか!?』
「…実際馬鹿だろ」
『あぁ!?』
「自分一人だけならまだしも、周囲の罪のない人々を死なせることを厭わない奴が、何を寝言ほざいてる。平賀同様、俺の質問に答えを濁したのも、本当はわかってたからじゃないのか?
にもかかわらず口をつぐんで非難を浴びることを避ける…まるで悪さを認めたがらない悪ガキだな。
そんな奴を、どこの阿呆が認めるんだ。現にウルトラマンである俺から否定されている癖にな」
『て、てめぇ…!』
ゼロの声が怒りで低くなるも、シュウは全く臆さずに言葉を紡いでいった。しかも次に彼が口にしたそれは…。
「平賀、ウルトラマンゼロ。お前らは俺と同じくウルトラマンとして人々を守り戦ってきたつもりだろうが、あんな周囲を省みず暴れる獣同然の戦いをする奴など…ウルトラマンですらない。
はっきり言って、災厄を拡大させ人々を殺す、
スペースビーストそのものだ」
「スペース…ビースト…?待てよ!お、俺たちが…怪獣そのものだっていうのかよ!」
なんだろうと聞いてみれば、ワルドからも言われたそれと似た、屈辱的な烙印だった。その言い方はあんまりではないか。二人は声を荒げた。
「守るだの認めさせるだのと抜かしておいて、好き勝手に暴れて誰も守り切れず、周りの犠牲を省みず、災厄を振り撒きながら敵を殺すことしか考えずに戦う。そんな奴、ビーストとどう違う?」
「…!!」
胸を刺し貫くような鋭い指摘を受けて呆気にとられ、何も言い返せなくなったサイトを見て、シュウは確信した。
この男…サイトは、そして彼の中にいるウルトラマンは二人揃って…
「俺は、ろくな戦う理由も覚悟も持たないお前たちと違う」
『こ、この野郎…言わせておけば!』
ワルドといい、こいつといい…!
サイトの体がビン!と跳ねるように動いた。ゼロが我慢ならなくなり、サイトの体を通してシュウに殴りかかったのだ。
繰り出されたサイト…ゼロの拳は鋭く早く、シュウを捉えようとした。しかし…シュウには通じなかった。彼は自分に向かってくるサイトの腕を難なく捕まえ、背負い投げた。
サイトが背中を打ち付けると同時に、シュウはサイトの腹に拳をめり込ませた。
強烈な一撃を急所に受け、サイトとゼロの意識は暗転した。
その頃…レコンキスタの怪獣保管庫。
炎の空賊団とアルビオン王党派軍の混成部隊による爆破作戦が行われるはずだったその場所は、結局作戦が失敗に終わり、爆破されることなく残っていた。とはいえ、街の地下、それも何層もの地層の下にまで掘り進められて建設されたその地下怪獣保管庫が爆破されたところで、地上には大した影響は出ないのだが。
その怪獣保管庫が存在する街のはずれの平原のとある地点の地面が、ずずずっ、と陥没。底なしのような穴が口を開けた。その中から、次々と人が浮遊した状態で飛び出してきた。
一人は炎の空賊3兄弟船長の一人、怪獣保管庫爆破作戦メンバーのリーダーであるギル船長。他数名の爆破作戦メンバー、そしてフーケ。
「…ひゅう!助かったぜ、一時はどうなることかと思ったわ~…」
「始祖ブリミルが、まだ我らに生きろと仰ってるんだ。改めて始祖に感謝しなければ」
爆破作戦メンバーである炎の空賊や王党派メイジの一人がそれぞれ、生きている喜びを実感し合う。
しかし、犠牲がなかったわけではない。生き延びることができたのは数十名いた作戦メンバー、そのうちの僅か人にも満たない人数だった。
「しかしギル船長、つけなきゃならねぇ落とし前、ありますよな」
他の空賊の一人が、じろりとフーケを睨んだ。
「どういうつもりだ土くれ。俺たちを騙して罠に嵌めようなんざして。俺らに近づいたのもハナからそのつもりだったってことでいいんだよなぁ?」
「…だったらなんだっていうんだい」
フーケは目をそらしながら、悪態をつく。
「あんたにゃ今回の件を償ってもらう。そうだな…身ぐるみはいで、体で償ってもらうことも覚悟しとけ」
やはり嵌められ危機に瀕した恨みを強く持っていた。しかし彼に限った話ではない。他のほぼ全員が、フーケに対する怒りから、彼女へ報復することを望んでいた。
「待て」
だがそこに待ったをかけたのが、爆破作戦のリーダーを任されたギル船長だった。
「ギル船長、まさかこの女を許す気なんすか!?」
「わしらがこうして助かったのも、この姉ちゃんがあの土壇場で土の壁を作ってわしらを守ってくれたおかげじゃ。それについても無視はできん」
そう、彼女は確かにギル船長たちをはめようとした。フーケが守ろうとしている『ある人物』たちを脅しの材料として狙う仮面の男の命じるがままに。
だが、彼女もまた仮面の男の仲間たち…レコンキスタにも裏切られた。彼らの共和制を志す組織の姿勢とはまるで反対側の選民思想、それがフーケをも利用し切り捨てる選択を取った。
自分もまた捨て駒扱いされるだけの身。予想していなかったわけではないが、だからといってフーケも黙って切り捨てられるつもりもなかった。
爆破作戦を決行した王党派と炎の空賊団の混成チームが、自分が流した情報であらかじめ待ち構えていたレコンキスタのメイジたちに包囲されたあの時…
レコンキスタは、彼らが怪獣保管庫の爆破に使っている爆弾を逆に利用し、彼らを爆殺しようとした。だが、その爆弾にレコンキスタのメイジの火の魔法が当たる前、咄嗟にフーケがそれをレコンキスタのメイジたちと、自分たち爆破作戦メンバーの間の廊下の天井へ投げつけた。
レコンキスタのメイジたちは、フーケの咄嗟のアクションに一瞬驚いていたが、既にレコンキスタのメイジたちは列をなす弓兵部隊と同じように、無数に火や風といった魔法を放っていた。当然フーケが投げつけた爆弾にも火の魔法が直撃、天井近くまで放り投げられたその爆弾は爆発し、天井を崩落させた。
しかしそれがフーケの狙いでもあった。怪獣保管庫の廊下は頑丈な金属で覆われていたものの、爆弾によって天井が破壊、崩落したことで土の壁も露出され、それがフーケ達の頭上を覆った。
フーケは『土くれ』の名の通り、土系統に優れたトライアングルクラスのメイジ。天井から崩落して降りかかってきた土砂を逆に利用し、土のドームを作って周囲の皆を守ったのだ。しかし咄嗟に、ほんの数秒の時間の間に作った突貫工事のため、土砂の勢いを殺すクッション替わりの役目こそ果たしたが、ドームの形を維持しきれず、多量の土の中に生き埋めとなる形となった。
レコンキスタの兵たちは、爆風と岩も含めた土砂の圧に、フーケや爆破作戦メンバーが埋まったのだと思いそのまま立ち去った。しかし生き埋めになった程度で済んだおかげで、土の中で杖を離さず持っていたフーケによって地上へ続く穴が開かれ、彼らは危機を脱することができたのである。
確かにフーケはギル船長たちを救うことができた。しかしそもそも、あの危機を作ったのもまたフーケである事実は覆らない。
「けど、それはそもそもレコンキスタどもがこの女を裏切ってさえなきゃ、この女はきっとあのまま俺たちを…」
「過ぎたことでぐだぐだ抜かすんじゃねぇ。そうやって昔のことに拘り続けちまえば、わしらはいずれ心の自由を失っちまう。わしらは自由を何よりも愛する炎の空賊、それを忘れんじゃねぇ」
「…わかったよ」
ギル船長から深く追求するのは止めるよう言われ、その空賊は押し黙った。当然他の空賊や、王党派のメイジたちからは納得などしきれることではない。
自分もまた同じ気持ちを抱いていることもあって、ギル船長は彼らの気持ちを汲み、フーケに向き直る。
「じゃが、確かに何のお咎めなしというのも示しがつかんからな。
土くれの姉ちゃん、まずはお前さんがわしら嵌めようとした理由を聞かせてもらおうか。嘘偽りなくな」
「それを素直に言うと思うのかい」
フーケは強気な口調を維持しているが、目を逸らしていた。
「律儀にレコンキスタどもの言いなりになる理由もなかろう。それとも、裏切られてなお貫くだけの忠誠心が奴らに対してあるとでも言うのかの」
「…」
「お前さんは命を救ってくれたが、そもそもわしらを嵌めた分がデカすぎる。こっちは何人もの部下の命を危険にさらされた。そして今回の作戦の失敗で、わしらは完全な壊滅一歩手前の状態。
お前さんがわしらを嵌めた理由を喋って償ってもらわなきゃ割に合わん」
ギル船長から至極当然のことを言われても、それでもフーケは口を閉ざしていた。
「…どうあっても喋る気は無しか」
「船長、この女やっぱし信用ならねぇですぜ。流石に今回はガル船長の見込み違いだったんすよ」
フーケを完全に裏切り者とみなした空賊の一人が吐き捨てる。
「ギル船長、ひとまずどこかに身を隠すことを提案する。例えば…ロサイスとサウスゴータの間から50リーグほどの森の中などに」
「!」
王党派のメイジは、フーケへの報復も考えつつ、しかし今は身の安全を優先すべきと冷静に考え、ギル船長に提案する。
「ま、待ちなよ」
だがその時、なぜかフーケの表情が一変し、彼女はギル船長たちに食い入るように提案してきた。
「そんなところより、もっと身を隠すのに良いところがあるよ。それでなんとか手を打ってくれないかい?」
「ダメじゃ。お前さんの言い分を信用するには今回のやらかしは重すぎる。それに気になるな、お前さんがなぜ、今の提案を出したのか。随分落ち着きがなくなっちまったじゃねぇか。うん?」
だが当然、ギル船長からは信用を得られず断られてしまう。
ギル船長は、フーケのこの妙に取り乱したようなリアクションに、何かあると睨んだ。
フーケは、自分が今落ち着きを失ったことで何かを感づかれたと悟り、舌打ちした。
そんなギル船長やフーケの反応を見て、王党派メイジの一人、バリーもあることを察した。
「もしや…」
「おう、何か知ってんのか?」
ギル船長が興味を惹かれて耳を傾けてきた。
「実は貴君ら空賊団と盟を結ぶ前、レコンキスタとの戦がサウスゴータ付近で激化した時があったのだが、ロサイスとサウスゴータの森を移動していた者たちが、我が陣に帰還した際に記憶障害を訴えたものがいたのだ」
「記憶障害?」
「その森に足を踏み入れた兵たちは、いずれもその森で敵兵の偵察の人を担っていたと言っていた。
だがあの森はロサイスやサウスゴータからも離れた地だ。伏兵を隠すような利もなく、わざわざ偵察に赴くような場ではない。
にもかかわらずその地に行っていた兵たちは偵察の任務完了を報告してきた。当然ありもしない任務報告に、上官らは困惑した。
怪しいと思い、その地に兵を派遣して調査に向かったのだが…」
すらすらとバリーの口から、フーケが反応したその森の情報が明かされていく毎に、フーケの表情に険しさが増していく。
「土くれ、一体何を隠している。話さないなら…」
その先はあえて言わなかったが、何をするか…焦っているフーケを焦らせ追い詰めるには充分であった。
フーケは、喉から呪詛の言葉が出そうになったが、今ここで彼らに下手に喧嘩を売っても自分が滅多打ちにされるのが目に見えている。
そうなれば、『あの子たち』を守れる者がこの世から誰一人としていなくなってしまう。
「ちっ、わかった。言うよ。言うから…」
隠していることを、正直に言うしかなかった。
(『テファ』…済まないね、あたしかなりドジっちまった。でも…あんたたちは絶対に守ってみせるから…)
恐らくこいつらに、『あの村』の場所をばらさなければならなくなる。
でもせめて、こいつらから『あの子』を守らなければ。
とはいえ、あの村のある森に向かい、探しても何もないはずがないと彼らも睨んでいるはずだ。何せ自分は、今では裏社会で名の通った悪党。そんな女が裏で何も隠しちゃいないなんて思われるはずもない。
(せめて、あの子に教えといた『サモン・サーヴァント』、あの子が呼び出した使い魔が、あの子達を守ってくれるといいんだけどねぇ…)