地球では日曜日が存在するように、ハルケギニアでは、休日に『虚無の曜日』と言うものが存在する。その虚無の曜日の朝のことだ。予定通り、サイトとルイズは馬に乗って街に繰り出した。
ルイズの読み通り、キュルケはその日の朝からサイトを口説こうと思って早く起きたのだが、そうなる前に早めに起きた二人はキュルケが目覚める前に校舎を出ていた 既に二人が出かけていることを知らないキュルケは、こともあろうか校則で禁じられているコモンマジック『アンロック』でルイズの部屋を開けた。
愛さえあれば何でも許される。それは彼女の実家の家訓だ。
部屋の扉を開くと、二人の姿はすでになかった。ヴァリエールなんかに出し抜かれた。それがキュルケの心に火をつけた。
「タバサ!起きてる!?」
直ちにキュルケは、今度はタバサの部屋に入ってきた。
他人にどう思われるより、放っておいてほしいと思っているタバサにとって、趣味である読書の時間は誰にも邪魔されたくないもの。せっかくの休日、虚無の曜日だから一人静かに本を読みたい。だから、音を消し去る効力を持つ風の魔法『サイレント』の魔法をかけて騒音をシャットアウトしようと杖を手に取ろうとする。が、そうなる前にキュルケがタバサの杖を奪いとって彼女の膝元に縋りつく。
「今日は虚無の曜日…」
「ああん待って!わかってるわ!あなたにとって虚無の曜日がどれだけ大事なのかは!
でも話を聞いて!サイトを口説きたいけど、ルイズが街に連れていったのよ!
彼のハートを射止めたいの!!これは情熱の恋なのよ!」
サイトがギーシュとの決闘で、その勇姿を見ただけでキュルケはサイトに惚れてしまっていた。それはもう皆もご存じだろう。しかしキュルケは惚れっぽいのと引き換えに、すぐに冷めてしまうタイプなのだ。昨日サイトを部屋に連れ込んだその日に、キュルケに追い払われた彼らを含め、今まで無理やり交際関係を解消された男たちは数知れない。困ったものである。
「…わかった」
しかしタバサは、キュルケとの友誼からなのか、それとも他の意図からなのか、キュルケの頼みを聞き入れる。
「えっ!?わかってくれた!?」
「シルフィードで追う…馬で行ったの?」
「そうよ。馬二頭でいったわ」
タバサは使い魔のシルフィードを口笛で呼ぶと、呼び出された彼女の使い魔である風竜『シルフィード』が窓際まで飛んで来てくれた。
「馬二頭、食べちゃダメ」
二人はシルフィードに飛び乗り、ルイズとサイトを追ってトリスタニアまで飛んでいった。
「鎧の巨人…ですか」
トリステインの城下町、王都トリスタニア。魔法学院から馬で三時間もかかる距離にある。白い石造りの建物やレンガで出来上がった建物の並びはまさにテーマパークのようだった。
街の中心の丘の上にそびえる、この国象徴たる城『トリスタニア城』ではオスマンからの、先日のクール星人の円盤によるトリステイン魔法学院襲撃の報せが届き、重臣達を急遽集め、緊急会議が行われた。
「マザリーニ枢機卿、本当なのですか?トリステイン魔法学院が謎の円盤に襲われ、壊滅しかけたというのは?」
「はっ。トリステイン魔法学院長オールド・オスマン殿の報せによれば、その様に書かれております」
年齢差を感じさせない程の美貌と貴賓溢れる貫録を持つ女性と、痩せこけた男性が神妙な顔で話し合っていた。女性はトリステインの王妃であるマリアンヌ王妃。今は亡きトリステイン王の妻である。
傍らには娘である王女、『アンリエッタ・ド・トリステイン』も同席していた。
一方で灰色の帽子を被るやせた壮年の男性の名は『マザリーニ』。彼は亡き王の妻であるマリアンヌと、彼女の娘であるアンリエッタを支えながら、この国の政治を取り仕切っている。事実上彼が現在の王ともいえる状況であった。そのためか、民衆から『王家は華だけ』だの、マザリーニは『灰色帽子の鳥の骨』と揶揄されている。
「魔法学院のメイジ総出で放った魔法でも、傷一つ付ける事が出来なかったと」
「そんな!!魔法が効かないなんて…」
マザリーニの口から放たれた、オスマンからの報告に驚愕するアンリエッタ王女。
貴族にとって魔法は自分たちの威厳と誇り、何より力を示すための、何にも勝る攻撃手段。自分たちはその力に、人によっては傲慢にもとれるほどの多大な自信がある。それが通じないとなると打つ手が何もないではないか。
「そして魔法学院を救ったのは、何処からともなく現れた巨人だそうです」
「巨人?」
巨人、という単語にマリアンヌは目を丸くした。
「はい。魔法学院にその巨人の知識があるものが居たらしく、その名を知る事が出来たそうで」
「その巨人の名は?」
「超人、という意味から『ウルトラマン』と…」
「ウルトラ、マン…」
どこからともなく現れた巨人戦士、ウルトラマン。突如学院を襲撃しに来た謎の円盤も気になるが、そのウルトラマンについて誰もが色々と考えさせられた。円盤の正体は結局なんだったのか、その円盤を倒した鎧の巨人ウルトラマンとは何者だったのか。なぜ学院の者たちを救ってくれたのか…。
「…馬鹿馬鹿しい。我ら貴族は、始祖ブリミルより魔法という神の力を授かった選ばれし者。そのような者がこの世におりますまい」
「全くですな。オールド・オスマンも御歳だ。現実と夢の区別がつかなくなられたのでは?」
そう言って、学院からの報告を鼻で笑う貴族がいた。いや、寧ろこちらが大多数だっただろう。自分たち貴族の誇りと自負が、学院からの報告が事実無根だと切り捨てた。
「ですが、実際に魔法学院が被害を受け、壊滅しかけたことは事実なのでしょう?」
アンリエッタがそういうと、重臣の一人が口を開く。
「殿下、まさか今の与太話を信じるおつもりですか?王女たるあなたがそのようなことがあってはなりませぬ。あなたは貴族の中で最も始祖ブリミルの血を引かれてお出でになるお方…栄えあるトリステイン王族の末裔なのですぞ」
「では、オールド・オスマンが嘘をつかれたと?確かにオールド・オスマンはご高齢ですが、以前この宮殿にお出でになった時はそれを感じさせないほど、とてもご健勝であられましたわ。
だいたいそのようなことをなされば、ご自分の首を落とす羽目になることくらい、長年学院長をお勤めになられたあの方が分からないはずがありません。たとえご高齢故に虚実をお書きになったとしても、他の教師の方々が即座にお止めになるはずですわ」
「しかし、信じられませぬ!このような話をお認めになってしまえば、我ら貴族より優れた者の存在をお認めになること、その栄光を自ら虚構だとおっしゃられることになりますぞ!それはすなわち、偉大なる始祖ブリミルよりも優れた存在がこの世にいるということに…」
そうだな、確かに、そんなはずがない…重臣たちが口々に、学院からの知らせを頑なに認めない台詞が飛び交う。
「た、大変です!」
突如部屋の扉が開かれ、息を切らせた騎士の男性が入ってきた。
「何事だ!騒々しい!」
「も、申し訳ありませぬ!ですが、急報を知らせんがためにこの宮殿へはせ参じた次第にございます!」
大事な話をしている最中だったので、その騎士に激怒するマザリーニだが、それをマリアンヌが宥める。
「枢機卿、落ち着きなさい。まず彼の話を聞きましょう。何があったのですか?」
「はい!このトリスタニアの方角へ、東の方から謎の巨大な魔物が接近しているとの事です!」
「魔物?」
この場に呼び出されたトリステイン貴族の一人『ウィンプフェン』が驚いた様子を見せたが、同時に別の貴族『ド・ポワチエ』が鼻で笑う。
「どうせはぐれドラゴンでしょう。何を慌てている」
だがここへ訪れた騎士は呑気なド・ポワチエの発言を一蹴するかのごとく言い放った。
「ドラゴンなどではありません!もっと恐ろしい…推定50メイル以上もの巨体を持つ怪物です!そやつを食い止めるべく各地に駐在していた部隊が応戦しましたが、全く手も足も出ず壊滅したとのことです!」
「なんと…」
応戦した部隊が、全部倒されてしまったと言うのか。そんな馬鹿なと、重臣たちが口々に言いだす。
「すぐに市街の魔法衛士隊を集めよ!その怪物をこの街の餌食にさせてはならん!」
にわかには信じがたいことであるが、マザリーニは応戦するよう命令を下した。
(謎の円盤に巨大な怪物…これは、何かの前触れだと言うのでしょうか…)
近日に二度も渡る、かつてないトリステインの危機。アンリエッタは、この現実そのものが脅威に思えた。
(魔法学院には、確かあの子が入学していたはず…できることならすぐに確かめたいのだけど…)
その頃のルイズたちは…。
白い石造りの建物が建ち並び、いかにも中世ヨーロッパ時代らしく見える町並みが目の前に広がっていた。老若男女問わず数多くの人々が町を行き来している。サイトはそれを、遠い目で眺めていた。まるで外国へ修学旅行に来た気分で、ちょっとわくわくしてくる。
「へえー、ここがトリステインの城下町かあ」
初めて馬に乗ったサイトは3時間も馬に揺られていたせいか、腰が少し痛くなった。とはいえ、これもゼロと同化した影響だろうか。思ったほど痛みは長続きしなかった。
「そっ、ブルドンネ通りはトリステインで一番大きい通りよ」
「狭いんだなあ」
『同感だな。光の国のクリスタルタウンと比べたら、まるでジオラマのようだぜ』
自慢気にない胸を張るルイズだが、サイトの予想外の感想にコケそうになった。ルイズには聞こえなかったが、サイトと同化しているゼロも、サイトの目を通して同じようなことを呟く。
「俺の世界の街は、これの何倍かは道幅はデカかったぞ」
見たところ道幅はたったの5mだけしかない、大勢の人が通るのならもっと広げていた方がいいのではないか?とサイトは思った。
「どんな街よ…あんたの故郷って…
まあいいわ。それより上着の中の財布に気を付けなさい。寄り道もしないことスリが多いから」
ルイズにそう言われ、サイトは彼女から持たされた財布が無事か確認する。ずっしりと重い。流石は貴族のお嬢様だ。寧ろこんな重いものをスるのは誰だと思ったが、ルイズは魔法さえあれば一発だと言ったので用心することにした。
街の建物にほぼひとつずつ付けられている看板を見て、サイトは興味深そうに足を止めた。
看板には、本の形をしたものもあれば、魚の形をしたものもある。壜の形をした看板は酒場、×印のような形をしたものは衛士の詰め所と、建物の役割によって形が決まっているようだ。
「字の読めない平民も多いからね」
「確かに、俺看板見てもなんの店かわかんね〜な」
おどけたような口調でサイトは言った。
「迷子になっても知らないわよ。ほら、とっとと着いてくる!」
ルイズに引っ張られてきた先は、悪臭漂う裏通りだった。鼻を抑えるサイトを見て、ルイズも顔をしかめる。当然ながら彼女も来たくなかった様子だ。
店内に入ると、カウンターの向こうに中年の男店主がおり、ルイズを確認すると驚いたように警戒した。一瞬は胡散臭げに見ていたが、彼女の制服の胸にある五芒星を見て、吹かしていたパイプを置いてすぐに姿勢を整えた。
「こ、これは貴族様!うちはまっとうな商売をしておりますので、お上に目を付けられるようなことは…」
「客よ」
ルイズは腕を組んでそう言った。
「へぇ、最近の貴族様は剣を扱いになられるのですかい?」
「私じゃなくてこいつのよ」
そういってルイズはサイトを指差した。そのサイトは店の中をキョロキョロ見回していた。結構好奇心が良くも悪くも高いのだ。
「剣のことなんかさっぱりだから適当に、でも貴族の下僕にふさわしいものを用意して頂戴」
「かしこまりました」
そう言って店の奥に消えた店主は、へへへと嫌な笑みを浮かべていた。鴨がネギをしょってやってきた。せいぜい高く売りつけてやろう、と企みながら。
しばらくして店主は美しい装飾の施されたレイピアを持ってきた。
「これなんていかがでしょう?」
「おお!」
「あらキレイ!」
レイピアを見てサイトとルイズは目を輝かせた。
「へぇ!最近の貴族様は下僕に剣を持たせるのが流行でして。それはそんな貴族様に人気の品でして」
「剣を持たせる?どういうことかしら?」
店主の言葉にルイズは疑問を感じた。ちなみにサイトは子供のようにはしゃいでレイピアを振り回している。
『サイト、その剣気に入ったのか?』
「まあ、悪い剣じゃないってのはわかるよ。細い分すげー振り回しやすい」
そう言いながらサイトは『秋沙雨!』と吠えながら突き攻撃の練習をし始める。
「いえね、最近やたらと物騒な噂を聞くんですよ。以前からあった土のメイジの盗人で現場に自分のサインを残していくことで有名な『土くれのフーケ』の噂が絶えねえですだ。その影響で貴族様も従者に剣を持たせる始末でして」
店主が色々喋っているが、しかしルイズは特にその『土くれのフーケ』の話に興味を示さなかった。
「でも、この剣細いわね。すぐに折れちゃいそうで。もっと大きくて太いのがいいわ」
店主の話が終わり、レイピアを見たルイズは別の剣を注文した。
「お言葉ですが人と剣には相性というものが――――」
「大きくて太いのがいいと言ったのよ」
「へ…へい」
口には出さなかったが、店主は素人め!と心の中で舌打ちする。続いて店主が持ってきたのは、金ぴかで宝石が所々にちりばめられた大剣だった。
店主曰く、ゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿による業物で、剣にかけられた魔法で岩をも一刀両断とのことらしい。
「おお!かっけーーー!!!」
『…』
豪華な剣を一目で気に入ったサイトだが、彼の中にいるゼロは唸っている。何か思うところがあるのだろうか。サイトが気に入ったようなので、ルイズはその剣を買うことにした。
「おいくら?」
「エキュー金貨2000、新金貨で3000になりやす」
それを聞いた途端、ルイズはびっくりした。
「な!? なによそれ!立派な家と森付きの庭が買えるじゃない!!」
「え?買えないの?」
「全然足りないわよ!」
あまりの値段にルイズは大声を出したが聞き入れられなかった。この日ルイズは新金貨100しか持ってきていない、とても買えるような値段ではなかった。
「気に入ったのにな…」
残念そうに呟くサイトだが、ここでゼロが彼に声をかけてきた。
『サイト、はっきり言うぜ。その剣を買う金があったとしても買うことは勧めないぜ』
「!い、いきなり話しかけるなよ…で、なんでそんなこと言うのさ?」
ルイズたちに聞こえたらまずい。サイトはわざと名残惜しそうに剣を眺めているふりをしながら小声でゼロに返事する。
『その剣、このウルトラマンゼロから見れば、使い物にならないなまくらだぜ?多分剣の型に鉄を流し込んでから金メッキを張り付けただけの飾りもんだ』
「…マジ?」
この剣がなまくら?見たところそんな風には見えないのだが。だがゼロの話が本当だとすると、ルイズのなけなしの金を結果的にドブ川に捨てることになるだろう。まあどうせ買う金もないし、この剣は店主に返してしまうのが無難だろう。
「おい坊主、剣もまともに振れねような体つきで生意気言ってんじゃね!てめぇには道端に転がる棒切れがお似合いだぜ!」
サイトが剣を店主に手渡した途端、どこからか男の声が響いてきた。
「んだと!誰だ!!…ってあれ?誰もいない?」
「やいデル公!商売の邪魔すんじゃね!」
悪口を言われたサイトは声の方を見たが誰もおらず、そこには樽に入れられていた沢山の長剣や槍があっただけだった。サイトは不思議に思って首をひねっていた。主人の反応からして誰かいるのは確かなはずだ。
すると、ゼロが声の主がどこにいるのかを教えてくれた。
『そこの樽から声がするぜ。カタカタって金具が勝手に動いてる奴だ』
サイトは言われた通り店の端にある、剣がいっぱい詰まった樽に視線を向けてみる。言われて見れば、確かに一本だけ奇妙に、剣の鍔のあたりの金具が人間の口のようにカチカチと音を鳴らしながら動いている。
「もしかしてお前か!!?」
見るとボロボロにさび付いた剣が喋ってた。サイトは面白がってそのボロ剣を手に取った。
「すげー!!!剣が喋ってる!!」
喋る剣というコンセプトが、サイトの好奇心旺盛な心を刺激した。
「これって、『意思剣(インテリジェンスソード)』じゃない」
「ルイズ、そのインテリなんとかって何?」
サイトはルイズに説明を求める。
「簡単に言えば、人間と同じように意思を持った剣のことよ」
「おう、当たってるぜおじょーちゃん」
「馴れ馴れしくしないで。私は貴族よ」
「おっと、こりゃ失礼」
喋る剣は、口代わりにカタカタと金具を動かして喋っている。
「お前が喋ってたのか?名前は?」
「俺っちはデルフリンガー様だ。ん?」
デルフリンガーはサイトの左手にあるガンダールヴのルーンを見ると、驚きの声をあげた。
「おでれーた。おめえ『使い手』か?」
「使い手?」
「なんだ知らねーのか?まあいい。俺っちもわかんねえし。まあいいさ。俺っちのことはデルフでいいぜ」
自分で意味深なこと言っておいてなんだったんだよ…とサイトはデルフリンガーの意味不明な発言に首を傾げたが、この喋る剣が面白くて気に入っていた。
「そうだな…ルイズ、これがいい」
「ええ!?こんな錆びた剣?」
ルイズは目を丸くした。他にも錆びてないキッチリした剣があるのに、この使い魔はこのおかしな剣を気に入ったのか?
「喋らなくて綺麗な剣を選びなさいよ」
「いや、だって…金あんまり持ってきてないだろ?剣を買う分だけのしか」
「う…」
(ゼロも良いよな?)
『ま、さっきの奴よかずっとました。いいんじゃないか?』
確かにサイトの言う通り、新金貨100しか持ち合わせがない。しかもデルフリンガーの値段もちょうど100。ゼロもとりあえずその剣が一番いいだろうと言う。仕方なくルイズはサイトのリクエスト通りデルフリンガーを買い、武器屋を後にした。
と、来た通りを出てきた途端二人は予想もしていない人物二人と鉢合わせする。キュルケとタバサの二人だ。
「あ…あんた達!!何でここにいるのよ!?」
指をさして物申すルイズに、キュルケは余裕の態度を示す。
「あらルイズ、奇遇ねえ…ちょっと剣を物色しに来たの。ある殿方に贈るためのね」
そう告げたときの彼女の視線は、まっすぐサイトの方に向けられ、見られたサイトは俺?と自分を指さした。
「その贈る人って、まさかうちの使い魔じゃないでしょうねえ!?」
「それはあなた次第よルイズ。あなたが私の手に届かない程の剣をダーリンに贈れば、私は何もしないわ。でも、鈍を贈る様なら私が彼の為に剣を贈るわ。主人の選んだ剣の所為で、彼が死んじゃったら彼が可哀想過ぎるものね」
ルイズのこめかみがピクピクしている。ああやばい、もう沸点を超えようとしている。さわらぬ神にたたりなし。サイトは何とか逃げ場を探そうと考えていると、街の人たちの話声が聞こえてきた。
「知ってるか?魔法学院、妙な空飛ぶ円盤に襲われたんだよ。貴族の魔法が全く敵わなかったんだ」
話題は、どうやら先日クール星人の円盤に襲われた魔法学院のことのようだ。
「空飛ぶ円盤?魔法が通じない?おいおい冗談だろ?」
「冗談なもんか、俺はなんたって魔法学院に勤めてるからな。この目で見たんだよ。ありゃ生きた心地がしなかったさ」
話をしている平民の一人は、魔法学院で勤務している身のようだ。料理人か?それとも衛兵だろうか。
「でも、貴族も大したことないよな。態度がでかいだけで」
「!」
ルイズはその言葉を聞いて、耳をピクリとさせた。大したことない?こいつらは何を言ってるのだ。立ち止まったルイズはそのままの状態で平民たちの話を聞いていた。
「ああ、最近の…特にトリステインとアルビオンの貴族連中は傲慢で気に入らねえ能無しばっかだしな。ロクな政をやってる奴なんか数えるほどしかいねえ。何やってんだって話だ。真っ先に影響受ける俺たちの身になってほしいもんだ」
「連中は野蛮だとか言ってるけど、ゲルマニアを見習うべきだよな。なのにどいつもこいつも古臭いしりたりとか地位にばっかこだわって偉そうにしやがって…ガリアだってそうだ。最近ジョセフが王位を授かってからロクなもんじゃない」
ルイズはもうここまで聞いたときには、怒りと屈辱で顔を真っ赤にしていた。
「あいつら…貴族に対してなんてことを…!!」
我慢ならず、ついに貴族への失言を吐き続ける平民たちの方へと歩き出そうとしたが、キュルケが彼女の肩を掴んで引き留めた。
「ヴァリエール、落ち着きなさいよ」
「キュルケ、あんたはいいわよね。見習われる側の国の出身なんだから。でも、私たちトリステインの貴族を全員侮辱したのよ!あの平民たちは!」
「だからってあなたが彼らに手を挙げていい理由にならないじゃない。それとも、あいつらで鬱憤を晴らすためなら、あなたの暴力で余計にトリステイン貴族の名に泥を塗ってもいいのかしら?」
「ぐう…」
キュルケの言う通り、ここでルイズが迂闊に彼らに手を出したら、それこそ平民からの怒りと不満を余計に買ってしまうだけ。もしそれを実家の家族に知られたら、罰としてずっと自宅で軟禁生活を送られるようなことにもなりかねない。平民たちがあんなことを言うのも、自分たちの力不足が故だ。でも…納得できるわけもない。自分たち貴族だって必死なのだから。
「でも、気になるのはやっぱ噂の鎧の巨人だよな」
「ああ、今日学院から来た貴族連中が噂してた奴か。ええと…ウルトラマンって奴?」
気が付くと、話は貴族への不平不満から、学院の危機を救った鎧の巨人の話にすり替わっていた。サイトもこの話ばかりは聞き逃さずにはいられない。
「貴族連中が敵いもしなかった円盤をあっさりとやっつけたんだ。正直圧巻だったぜ」
すごく興奮気味に語る平民たち。キュルケは、ウルトラマンの名付け親のような立場にあるサイトを見やる。
「ウルトラマンって名前を広めたの、ダーリンだそうね。どれぐらいウルトラマンのことを知っているの?」
そうだな…とサイトは腕を組んで知りうる限りのウルトラマンのことを説明してみることにした。
「俺の故郷にはたくさんのウルトラマンが、俺が生まれる以前から姿を見せていたんだ。初代ウルトラマン、ゾフィー、セブン、ジャック、エース、タロウ、レオ、アストラ、80…そして俺が実際に生で見たことがあるメビウスとヒカリ。光の国って呼ばれる星から来たから、まだ同胞が数えきれないほどいると思う」
「と、とんでもない世界ね…」
あんな巨人たちが何人も確認されているとは予想外だったので、ルイズとキュルケはかなり驚いていた様子。タバサも相変わらず表情一つ変えず本を読んでいたが、ちゃっかり本を読みながらサイトの話を興味深そうに聞いていた。
「でも、それならあの鎧の巨人にも名前を付けてあげたらどうかしら?他にも仲間がいるのに、あの鎧のウルトラマンだけ名前を持たないなんて寂しいじゃゃない」
「『あ〜…』」
すると、キュルケから突拍子もなく名前を付けてみないかと提案した。
やばいな。確かルイズの不名誉な二つ名とかぶっているから『ウルトラマンゼロ』って言うのを控えてたんだけどな…サイトは自分の変身するウルトラマンに変な名前を付けられることはできれば避けておきたい。それは彼と同化しているゼロ本人も同じだった。
すると、ルイズが真っ先に意見を出してきた。
「ふふん、それならいい名前があるわよ!ウルトラマンジャイ…」
「ジャイアンって…どこの餓鬼大将だ。俺反対」
「ご、ご主人様の意見に反対する気!?」
『…俺もそんな名前はやだな』
どのみち反対しておきたいのだ。ゼロと同化している身としては。はあ、でもどうやって彼の名前をうまく伝えられることやら。
「だったらウルトラマンスーパーデラックス!」
「言いにく過ぎて舌を噛むわ」
キュルケも呆れ顔だ。名前が長いことには、自分たちがそうであるので敢えて突っ込まない。しかも極めつけはタバサの止めの一言。
「ネーミングセンスなさすぎ」
「う、ううううるさいわよタバサ!」
「あなたの方がうるさいわよ?なんたってタバサは基本無口だもの」
「ぐぐぐぐ…!!」
歯ぎしりしながらキュルケとタバサを睨みつける。が、それでもなぜか意地を張って諦めきれないルイズ。どうも皆から反対意見を出されている状況が、いつものようにクラスメートたちから『ゼロのルイズ』と馬鹿にされている状況に似ているように感じたのだろうか。大体文句を言うくらいならお前らも考えとけと言いたい。
「だったら…ウルトラマン…!!ウルトラマン…」
何か言おうとしているが、何もいい名前が思いつかない。
「ウルトラマン…なんなの?」
「えっと…ルイz」
なんというか、もうお手上げだったせいかルイズは自分の名前を言おうとしていたのだ。自己アピールも甚だしい。自分の名前を付けるとか、もう何ともいえない。
こりゃダメだと思ったその時、突如サイトはグワッ!と目を見開いて大声で叫んだ。
「違う!あの巨人の名前は『ゼロ』!!
『ウルトラマンゼロ』だ!間違えんな!!」
…シーン。
あまりにもすごい剣幕だったのか、ルイズたちはおろか町の人たちまでサイトに注目してしまっていたのだ。
…実をいうと、このときのサイトはサイトであってサイト自身ではない。
実際には、サイトの中のゼロが、あまりにもおかしな名前を付けようとするルイズに我慢ならず、強制的にサイトの姿のまま自分の人格を表に出してきてしまったのだ。
『ちょ…ゼロ!お前何勝手に表に出てきてんだよ!しかも堂々と本名名乗って!』
人格を強制で交代させられたサイトは、自分に成り代わっているゼロに文句を言う。
『うっせーな!変な名前つけられるくらいなら堂々と名乗った方がいいわ!』
『いや、その本名が問題であって…』
そう、嫌な予感ばかりが的中しているのだ。今、彼のご主人様ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール嬢の美しいピンクの髪の毛が、妖怪のごとく黒いオーラを放ちながら波立っている。
「へ、へえ…そう、ウルトラマン『ゼロ』ね?」
ひきつった笑みを浮かべ、やけに『ゼロ』を強調するルイズ。
『あ、俺ギャラリーな』
「ああ!ずりーぞお前!」
しかも事の発端であるゼロは悪びれもなくまたサイトの中へ引っ込んだ。
「せっかく虚無の曜日にと・く・べ・つ・に!剣を買いにご主人様が連れてきてあげたって言うのに…よっっっっっぽどあんたはご主人様を怒らせたいのね…」
「いやいやいや!あの巨人が俺を助けたときに自分から名乗ってたんだよ!決してお前を悪く言うために言ったんじゃなくて!」
「問答無用!そこに直りなさい、この馬鹿犬うううううううううう!!!」
「り、理不尽だああああああああああああああ!!!」
しばらくの間、サイトは烈火のごとく怒ったルイズに追い回され続けた。
この情けない有様が本来の彼の姿なのだ。
このルイズが起こした癇癪のせいで、鎧の巨人は奇妙な名前を付けられる前に、本名である『ウルトラマンゼロ』と知れ渡ったのだが、それは同時にルイズにとって屈辱的なことでもあった。
「あ〜ん、ダーリン。待っててね。今あたしが助けに行ってあげるから!」
「…」
それを見かねて…というよりもサイトの気を引く一環のつもりで、キュルケはぷりぷり怒るルイズからサイトを助けに向かおうとすると…
「キシャアアアアアアアア!!!」
天を切り裂くような鳴き声がトリスタニアの空に響いた。そしてズシンと重い音が鳴ると上空から巨大な影が降り立った。