魔法少女ものがたり論~妹(妹じゃない)、同期、ご近所さんetcetc……魔法少女いっぱいのハーレムラブコメ~   作:夏目八尋

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星守少女のオリジン。


第15話 星守少女みはりは落ち着けない

 ザッパァー!

 

「んんーっ、ふぅっ!」

 

 家の浴室。

 椅子に腰かけ桶に満たしたお湯で髪を濡らし、私は一息ついた。

 くもってる鏡を前にもう一度、今度は深く息を吐き、気持ちを落ち着ける。

 

 ドッ、ドッ、ドッ。

 

「………」

 

 落ち着かない。

 さっきまでの事を少しでも思い出すと、胸の鼓動が早くなる。

 

 あの人と……陸人さんと別れてからもう何十分も経っているのに、体の中の熱が全然引いてくれなかった。

 

 だって――。

 

 

「……陸人さんに、バレちゃった」

 

 ――私がこっそり夜中に出歩いてた事が、バレちゃったから。

 

 

「うう。しかも出歩いてた理由がステラシーカーしてたからだった事もバレちゃったし、どうしよう~~」

 

 陸人さんの前では、私は子供で、優等生じゃなきゃいけないのに。

 そうじゃなきゃいけなかったのに。

 

「うう~~~~! ぜぇ~~~ったいに変な子だって思われちゃったよ~~~~!!」

 

 普通じゃない事してたって、バレて。

 普通じゃない子だって、思われちゃう。

 

 そんな、そんなの……!

 

 

「……陸人さんに見合う人から、遠ざかっちゃうよ~!!」

「いやいや、むしろチャンスじゃないのー?」

「えひゃうっ!!」

 

 ジョバンニ!

 

「いたんだ……ジョバンニ」

「いたよ~。ボクもお風呂入りたいし~」

 

 お湯を張った桶の中で、ジョバンニがムチムチに詰まってる。

 私は自分の桶に湯を満たし直しながら、唇を尖らせた。

 

 

「全然チャンスじゃないよ。陸人さんは夜にこっそり出歩くような、悪い子なんかじゃ見合わないよ」

「悪い子とは失礼な。ステラシーカーは、星守は、立派なお役目だよ~」

 

 そ・れ・に。

 なんて、ウィンクしながらジョバンニが続ける。

 

「お兄さん的には、みはりが魔法少女だったの、喜んでたじゃないー」

「はうっ!」

 

 言われて、思い出す。

 

『大丈夫。大体わかった……!』

『みはりちゃんは、みはりちゃんのやるべき事をやって!』

『それじゃ改めて、これから協力させてもらうよ。みはりちゃん』

 

 さっきまでの、牡牛座の星輝石を回収する時に見た、陸人さんの活躍の数々を。

 

 

「~~~~~!!」

 

 ザッパァーンッ!

 

「わぷぷっ。みはりー。それ、手を洗うための溜め湯じゃなかったの~?」

「だって、だってぇ……!」

 

 胸がドキドキしてザワザワする。

 いてもたってもいられなくなって、体が勝手に動いちゃったんだもん!

 

 

「うぅ……陸人さん」

 

 ご近所に住むお兄さん。

 そして私の、もうずっと、ずーっと大好きな片思いの相手。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 私が陸人さんと出会ったのは、小学2年生のころ。

 山奥の南ノ関(みなみのせき)町から不思議ノ市に引っ越してすぐで、まだ全然この土地に馴染んでなかった時の話。

 

「おとぅさん……おかぁさん……」

 

 早くこの町に馴染もうとしてたお父さんとお母さんに連れられて参加した、町内清掃のボランティア。

 まだ幼児だった弟の翔琉(かける)に構ってた二人とはぐれて、私は一人、迷子になった。

 

 

「う……ふえ……」

 

 お友達も誰もいない場所。あの頃は寂しくて、新しい場所が怖くて、人見知りで。

 草むらに逃げ込んで、お気に入りの青い石をぎゅっと握りこんで塞ぎこんでいた私に。

 

「キミ、大丈夫?」

 

 あの人が……陸人さんが、声をかけてくれた。

 

   ・

 

   ・

 

   ・

 

「するとその魔女は、箒を振り回してこう言いました。お前もカエルにしてやろうかぁ!」

「あははは!」

 

 陸人さんのお話は面白くて、私はすぐに笑顔になった。

 高校生のお兄さんってすごく怖く見えそうだけど、陸人さんの事は不思議と怖くなくって。

 むしろ傍にいたらぽかぽかで温かくて、幸せふにゃ~ってなる感じがしたのを覚えている。

 

 

「うんうん、笑顔になってくれたみたいでよかった。お父さんとお母さんに会う時も、笑顔の方がいいもんな」

「えへへ……」

 

 優しく頭を撫でられると、幸せふにゃ~はもっとも~っと増えて。

 

「ぽひゃうっ」

「ありゃっ!?」

 

 なんだか色んな気持ちがいっぱいになって、私はふにゃふにゃになってしまった。

 思えばあの時から、陸人さんに触れられたり、そばにいてもらうと私はふにゃふにゃになってる気がする。

 

 それが嫌じゃなくって、嬉しくて。

 だから私は、手の中に握ってた、大切な宝物を陸人さんに見せた。

 

 

「これは……」

 

 田舎の川で見つけた、青い石。

 銀河みたいな奥行きを感じる、星屑を宿した綺麗な石。

 

 それを見た陸人さんは。

 

「……へぇ、綺麗だね。星みたいだ。素敵な宝物だね」

「!」

 

 私と同じ事を思って、これが大事な宝物なんだって、理解してくれた。

 その瞬間、私の胸の中にストンッと何かが収まって、そこからずっと、居座ってる。

 

 

「さぁて、そろそろキミのパパとママを探しに行こうか。多分、あっちの方にいると思うし」

 

 立ち上がり、草を払って手を差し伸べる陸人さん。

 その時に私に見せてくれた優しい笑顔と、暖かな手。

 

 そしてほんとに、魔法みたいにあっさりとお父さんとお母さんを見つけてくれて。

 

「いい子にしてて立派でしたよ。素敵なお姉さんですね」

 

 なんて、泣いてた事も秘密にしてくれた。

 

 それから陸人さんのお父さんがやってきて、私のお父さんとお母さんと仲良くなって、ご近所付き合いが始まって。

 

 

「陸人さん!」

「みはりちゃん」

 

 ()()()()()とは呼びたくなくて、私はあの人を下の名前で呼ぶ。

 そうしたら陸人さんも私の事を、ちゃんと下の名前で呼んでくれて。

 

 そして。

 

「陸人さん陸人さん!」

「なんだい、みはりちゃん?」

「私、陸人さんみたいになりたいです!」

「えぇ? 俺はそんなに立派なもんじゃ……」

「陸人さんみたいに、困ってる人がいたら助けられるような、そんな人になりたいんです!」

「!?」

 

 あの時に見た、陸人さんの顔。

 

「……そ、っか。それは……素敵だねっ」

 

 優しい微笑みに垣間見えた、違う色の――()()()視線。

 

「!!!」

 

 それが私のこの先を、決定的に決めた出来事だった。

 

   ・

 

   ・

 

   ・

 

「いい湯だねぇ~」

「………」

 

 スポンジを泡立てて、体を洗いながら考える。

 

(あの日、あの時陸人さんが私に向けてくれた、期待の目)

 

 あの期待に応えたい。

 それがきっと、あの人が一番に望んでる事だって確信してる。

 

 

(陸人さんみたいに、困ってる人に手を差し伸べられて、誰かを笑顔にしてあげられるような……そんな人になる!)

 

 その思いを抱えて一心に、私は私にできる一生懸命で頑張った。

 自分から積極的に学校のみんなとお話したり、困ってる事があったら手伝ったり。

 お家の事も、勉強も。元々好きだった運動はもっともっと頑張って、できる事を一つずつ増やしていく。

 

 そうやって少しずつ少しずつ、陸人さんの背中を追いかけて努力して。

 大きくなって、魅力的になって、そうしたらいつか……きっと。

 

 あの人の隣を並んで歩けるような、素敵な人になれるって信じて。

 

 

『ふふ。ちゃんと見てるから、頑張りなさい』

 

 お母さんは、私を応援してくれる。

 

『うぅん、そうか。陸人くんか……うん、彼はいい人だよ。間違いなくね』

 

 お父さんは、私の想いは実らないって思ってる。

 

(自覚は、ある)

 

 学べば学ぶほど、理解してしまう。

 私と陸人さんとの間にある、絶対的な……壁。

 

 

(陸人さんは私の事を、ちゃんと一個人として扱ってくれるけど……。同時に、私の事をちっちゃな子供だって、そう思ってる)

 

 大人と子供。年の差。

 二人並んで歩くには、少なくとも私が大人にならなきゃいけなかった。

 

 

「みはり?」

「うん、大丈夫……」

 

 泡に塗れた体を湯で流して、私は椅子から立ち上がる。

 

「………」

 

 鏡に映る私の姿は、どこからどう見ても子供だった。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

「いいかい、みはり。おさらいするけど、星守……ステラシーカーの使命は、地上に落ちて迷子になってる黄道十二宮を司る、12の星輝石(ゾディアックストーン)を保護する事なんだ」

「うん」

 

 自室で髪を乾かしながら、私はジョバンニの話を聞く。

 ちょっとだけナイーブになってたところには、ちょうどいい話題だなって思った。

 気を使ってくれてるのかもしれない。ジョバンニ、結構そういうのしてくれるし。

 

「星守は、星の欠片(ステラストーン)に魔力を込めて星守の杖(ステラワンド)を展開して困難に立ち向かう。それをサポートするのがボク達、星守猫だ」

「うん」

 

 星守猫。別名……車掌猫。

 この子は、地球から見える星々の瞬きを正しく運行するために走る……機関車の機関士だ。

 

 そう、私が陸人さんに話した不思議ノ噂……銀河鉄道は実在する。

 

 

「今、星空は星輝石を失ってしょんぼりしている。このままだと夜は不必要に暗くなって、たくさんの人々の心に闇が落ちてしまうかもしれない。だから一刻も早い星輝石の保護が必要ってワケ」

「だから……陸人さんにも協力をお願いしたの?」

「そうだよ」

 

 ベッドの上で香箱座りしてるジョバンニが、得意げに胸を張る。

 首輪についてる青い石は、私の持ってるのと同じ星の欠片だ。

 

「彼ほどの知識と行動力があるなら、普段から色々と助けてくれそうだし、いざって時にもみはりの事を守ってくれそうだしね」

「うーん。それって、いいのかなぁ?」

「いいんだよ。どうせもうバレちゃってるんだし、ボクも楽……頼れる人は多い方がいいからね」

「………」

 

 ジョバンニは、面倒くさがり。

 星輝石が地上に降りてった後、半年近く放置してたらしい。

 

 

「ごほんえほん。これは超法規的措置なんだよ。そして何より、みはりへの応援でもある」

「え?」

 

 応援っていう、意外な言葉にきょとんとする。

 きょとんとしてたら……ジョバンニが言い放った。

 

 

「だって手伝ってもらえたら、その分だけみはりはお兄さんと一緒にいられるでしょ?」

「なっ!?」

「それに、出会った時に約束したもんね。使命を果たしたら、大好きな人と一緒に銀河鉄道で旅行したいって。どうせいつかバレるんだから、むしろ今バレた方がお得だよ」

「あ、あぅっ!」

 

 言い切られて、そして私は反論できなかった。

 それこそが、私がステラシーカーの使命を請け負った、一番の理由。

 “大好きな陸人さんと銀河鉄道の旅がしたい”だったのだから。

 

 

「気張りなよぉ、みはり。どうやらライバルはもういるみたいだしねぇ」

「ライバル……」

 

 陸人さんは、私以外にも魔法少女の知り合いがいると言っていた。

 魔法少女は、きっと陸人さんが一番好きな物で。だから私にとってそれはとってもプラスな事……なんだけど。

 

「ううう……」

 

 優等生じゃない私。未熟で、まだまだ足りないところがある私。

 これまで自分がひた隠しにしてきた事を、これからはむしろ見せなきゃいけないなんて。

 

 

「ほらほら、切り替え切り替え。あのお兄さんそういうの得意そうだったよ」

「うううーー!」

 

 ジョバンニに煽られるけど、私はベッドに倒れこみ、バタバタするしかできなくて。

 まだまだ、陸人さんが立ってる場所に、立てなくて。

 

「やれやれ、前途多難だねぇ」

「うー! 知らないもん!」

 

 胸の中のもやもやが、もうずっと、晴れてくれない。

 

 

「陸人さん。私、頑張りますから……!」

 

 やる事はこれまでと変わらない。

 少しずつ、一歩ずつ、あの人に向かって歩んでいくだけ。

 

 けれど、突然に変わってしまった状況に。

 

「うーーー!!」

 

 私は全然、落ち着けないでいたのだった。




みはりちゃんは頑張り屋。

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