魔法少女ものがたり論~妹(妹じゃない)、同期、ご近所さんetcetc……魔法少女いっぱいのハーレムラブコメ~   作:夏目八尋

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女の子には秘密がある。


第05話 同期も魔法少女だった件

「では改めて、リリーくん……キミの妹もどきくんは、我々の論に従って分類するなら稀人(まれびと)支配(しはい)型の魔法少女になるだろう」

 

 同期の魔法少女研究家、調部つむぎと行なう魔法少女対策会議。

 対策相手は俺の妹、御伽守リリー(リリーネイア・デカルマーニ・エターネーヴァってのが本名らしいが、リリーで通そう)……魔法の国のプリンセスだ。

 

「稀人族支配型とは、簡単に言えば――稀人、異なる場所からやってきた者で――支配、現地のあれこれに馴染まず自らの敷くルールを通そうとするタイプ、となる」

 

 “魔法少女ものがたり論”において、魔法少女はその物語の傾向に合わせ9つに分類される。

 先程からつむぎが語るように“○○族□□型”という形で、族分類3つと、さらにそれぞれ型分類3つを行なう計9分類だ。

 

 稀人族と、そこから派生する自立型、浸透型、支配型の3スタイル。

 魔女族と、そこから派生する契約型、継承型、発明型の3スタイル。

 戦士族と、そこから派生する守護型、欲望型、生業型の3スタイル。

 

 魔法少女個人個人に割り当てるこの分類作業が殊の外面白くて、ふでん研では鉄板の話題だ。

 複数の族や型にまたがるハイブリットタイプなんかもあって奥深く、これらについてもいずれまた詳しく語りたい。

 

 

「稀人族の物語傾向は、異文化交流。ヒューマンドラマ。常識のすり合わせ。あるいは侵略戦争」

「侵略……」

「現にキミの環境に、彼女は侵略してきただろう?」

「そう、だな」

 

 窓の外から微かに赤みが差し込むふでん研。

 つむぎが語る言葉とリリーの言動を照らし合わせ、俺は頷くしかない。

 

 けれども同時に、正しさの中に確かな違和感があるのを、俺は感じていた。

 

「まぁだが、支配型と言っても例えば『マジカルプリンセス・ミルキーマム』*1のように子宝に恵まれなかった不幸な夫婦の元に子供としてやってくるだとか、『魔女っこメルちゃん』*2のようにそもそも魔女が家族にいる人の元へやってきて支援を受けるだとか、物語的には被支配側にそれを受け入れるメリットや準備があるのが常なのだけどね。現実に行われたのは、ストレートに支配のための洗脳だったワケだが」

「……そう、だな」

 

 事実は小説より奇なり。ならぬ、残酷なり。だ。

 リリーからの告白がなければ、最後まできっと、俺達は騙されていたに違いない。

 

 

「キミは以前から魔法少女と会ってみたいと言っていたね。しかし、よもやこんな形で出会ってしまうとは、少々ワンダフルさを欠いてしまったと言わざるを……」

(騙す、騙す……か)

 

 胸の中の違和感が、少し大きくなった気がする。

 

(違和感……そう、違和感だ)

 

 リリーのカミングアウトとその後の対応を聞いた時、あの時も俺には、違和感があった。

 だからこそ彼女がすべてを終わらせようとするのを止めて、時間を貰ったんだと気づく。

 

 

(考えろ。この違和感の原因。これを解明しない事には、俺はきっと、何もできずに終わる)

 

 今朝も見ただろう。俺と目を合わさず極力迷惑を掛けないようにと振る舞うリリーの姿を。

 少なくとも今、彼女は反省して、覚悟して、俺からの返事を待っている。

 そうまでなるほどに勇気を出して真実を打ち明けた彼女に対して、何の力にもなれずに終わるだなんて、そんなのは……嫌だ。

 

 魔法少女はいたんだ。ただその行ないを断罪してさようならなんて、そんなのが俺のなりたかった自分なワケないだろう!?

 

 

(考えろ。俺の知ってる知識を総動員して、知恵を巡らせ記憶のパーツを繋げて、確度の高い答えを導き出せ!)

 

 深く、深く思考の海へダイブする。

 

(リリーは確か、騙し続ける事に耐えられなくなったから、真実を告げたと言っていた)

 

 騙しているという現状、彼女がすべてを終わらせようとした原因がそれだというのなら……。

 それってつまりは……。

 

 

「……聞いているかね助手くんっ!」

「心きゅんきゅんっ!?」

 

 驚いた!

 気づけばつむぎが隣にいて、両手で俺の左腕を握っていた。

 頭一つ分もない身長差を身を屈める事で上目遣いにして、彼女の丸い伊達メガネ越しの薄紫の瞳が、俺を真っ直ぐに捉えている。

 

「やっぱり、私の話を聞いてなかったな?」

 

 そして、不満げな彼女のきめ細やかなほっぺは、ワザとらしくぷくーっと膨らんでいた。

 

 

「「………」」

 

 しばらくそのまま、見つめ合う。

 

「……ふっ。しょうがないなぁ助手くんは」

 

 メガネ越しの色彩に目を奪われていると、不意につむぎが手を放し、大げさに白衣の裾を振りながら笑顔を見せた。

 大ぶりな動作、毛量多めな紫ウェービーロングがゆさゆさと揺れる。

 

「随分と深く考え込んでいたようだが、何かしら答えに至るものは見つかったのかい?」

「そう……だな。うん、道筋は見えた気がする」

 

 ぎゅっとされてた左手をグッパーしながら、俺は頷く。

 

(稀人族支配型の物語傾向、違和感の正体……そして、支配される側にもメリットがある、か)

 

 つむぎから貰ったヒントのおかげで、何とか自分なりの答えが出せそうだった。

 

 

(俺一人で考えていたら、きっと、こんなに早くは考えがまとまらなかっただろうな)

 

 天才を自称するスキンシップ過多の彼女は、自称に違わず頼れる同期だった。

 

(調部つむぎ……)

 

 そんな彼女が、俺にはとても。

 

「ありがとう」

 

 とても、眩しく見えていた。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

(調部つむぎ……俺と、同じ趣味や考えを共有できる相手)

 

 魔法少女愛好家の俺と、魔法少女研究家のつむぎ。

 俺が諦めた彼女達の実在を、今日まで諦めないで探し続けていた彼女。

 

 正直言うと俺は彼女に、調部つむぎに惹かれている。

 同じ年なのに驚くくらい純粋で、そしてため息が出るほど真っ直ぐで。

 

「ふふっ、それならよかった! 私にとってキミは大切な人なんだ。キミの笑顔が見られるならば、いくらだって協力するとも!」

「っ!」

 

 その上、こんな言葉を素で無邪気に言ってくるものだから。

 

(あぁ、俺の人生。この先もずっと彼女と調べ物して、掛け合いして、ってのは、きっと楽しいだろうな)

 

 なんて、未来についてついつい考えてしまうくらいには。

 

 彼女の事が――。

 

 

「――ところで、助手くん。私は、キミに打ち明けなければならない事があるんだ」

「うん?」

 

 スッと、つむぎとの距離が離れていく。

 それを寂しく思う間もなく、彼女は足早に部屋の脇にある倉庫部屋へ続くドアに手をかけ。

 

「少しだけ、待っていてくれたまえ」

 

 そのままドアの向こうへ姿を消す。直後、刹那の光。

 何事かと深く考えるような時間もかからずに、再びドアが開かれれば……。

 

 

「……え?」

 

 現れたのは、体に合わない白衣を床に引きずる……小学生くらいの女の子。

 見知った誰かと同じ、ラベンダー系の紫髪を左右二つに編み編みしながら。

 見知った誰かと同じ、クリアパープルの瞳を丸い伊達メガネ越しに覗かせて、しかし大きな身長差から、こちらをグッと見上げる姿勢で見つめてきて。

 

「……助手くん」

 

 見知った誰かとほぼ同じ、けれど見た目年齢相応に、少し高めの声音で俺を呼ぶ。

 

 彼女は――。

 

 

「――実は、私も。いわゆる魔法少女に分類される人間なんだ」

「???」

「騙していて、申し訳ない……」

「??????」

 

 どこか、心の深い場所で。

 

 パキッ! パキッ!!

 

 何かが、ひび割れる音がする。

 

 

「本当の名は、調部紡(しらべつむぎ)。名前はひらがなじゃなくちゃんと漢字があって……年齢は11歳、現役の小学生だ」

「………」

 

 パキッ! パキッ!! パキーーーーンッ!!

 

 何かが……いや、俺の初恋が。

 その瞬間、完膚なきまでに砕け散ったのを自覚した。

 

 

「???」

 

 それから俺は、どうやってふでん研を出たのか覚えていない。

 けれど、気づけば俺は大学を出て、家路についていた。

 

 夕暮れ空にカラスがカーと鳴いている。

 

 

「……さすがに、小学生はなぁ」

 

 好意を寄せていた大学の同期が、魔法少女で小学生だった。

 つまるところ、それは……。

 

「……失恋、だな!」

 

 今にして思えば、あの純粋さも、無邪気さも。

 すべてが彼女の元の年齢相応だったと考えれば納得せざるを得なくって。

 

 

「……あれ、季節外れの夕立かな? さすが不思議ノ市、不思議な事がいっぱいだ」

 

 グッバイ、多分、俺の初恋。

 さようなら、夢のようだった時間。

 

 ほんの数滴流した涙が、せめてもの手向けだ……!

 

   ・

 

   ・

 

   ・

 

 一人、ふでん研に残った調部紡(しらべつむぎ)は、陸人の座っていた椅子に腰かけ机に頬を押しつける。

 ぷにぷに柔らかな頬肉が潰れ、格好付けのメガネがカチャリと音を立てた。

 

 

「……私だってこんな、ワンダフルじゃない形で正体を明かしたくなどなかったさ」

 

 机の上に転がる万年筆を、指先で遊ばせる。

 ぽつりぽつりと零れ出るのは、彼女の深い悔恨と、強い情念のこもった声。

 

「だが、ここで明かさねば……私の望みは……」

 

 先程のカミングアウト。

 打ち明けられた事実に打ちのめされたのは、なにも陸人だけではなかった。

 

 

「ぐぬぬ……! 私以外の魔法少女が、よもや、助手くんのすぐ傍にいただなんて! しかも妹? すでに彼の懐の内じゃあないか! なんだそれは羨ましいにもほどがある!! ぶっちゃけありえないだろう!」

 

 バンッ!

 

 怒りに任せ顔を上げる。小さな手の平を叩きつけたテーブルが大きな音を鳴らした。

 

「これはもう……やるしか、ないっ!」

 

 紡もまた“魔法少女ものがたり論”にある通り、己の物語を持つ魔法少女の一人。

 辿りゆく先に突如として立ちはだかる激動を前にして、彼女は強く、強く覚悟を決めたのだった。

*1
マジカルプリンセス・ミルキーマム……1982年作品。夢の国からやってきた少女ミルキーマムが、魔法の力で様々な職業のプロフェッショナルへと変身し、人々の夢を守るために奮闘するヒューマンドラマ。後年のリメイク作品では夢の国の場所が異なっており、それに由来し空マム・海マムと呼び分けるのがファンの伝統となっているそうです。

*2
魔女っこメルちゃん……1974年作品。次期女王候補であるメルが、ライバルのナンと共に人間界に降り立ち、競い合いながら成長するヒューマンドラマ。コメディやセクシーなシーンも多く、男女問わずに人気を博し、後の魔法少女モノ作品においても大きな影響を与えたとされる。蠱惑的な要素を持ったヒロインの走りだとか。




「女の子が魔法の力で大人になるのもまた、魔法少女の王道ですね!」

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