魔法少女ものがたり論~妹(妹じゃない)、同期、ご近所さんetcetc……魔法少女いっぱいのハーレムラブコメ~   作:夏目八尋

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感想・評価いただくたびに、やったぜと喜んでいます。
楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。
誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。

その後のリリーちゃん視点。


第08話 プリンセス・リリーは決意する

 ゆっくりと、湯船に浸かる。

 

「はぁぁ……ん……っ」

 

 肩まで沈めてちょうど浴槽いっぱいになったお湯には、あの人が好きなヒノキの香りの入浴剤を使っている。

 

 

「………」

 

 温まりつつ、魔法で湯気をスクリーンにして、さっきのやり取りを映し出す。

 

『だからな、リリー』

「っ!」

『これからも、俺と一緒にここで過ごして欲しい。魔法少女であるキミの、助けになりたい』

「~~~~っ!!」

 

 伝わる想いに、心の底から身を震わせる。

 バシャリと湯を掬い上げ、放り、スクリーンに虹をかける。

 

 足りない、足りない。この程度の装飾じゃ表しきれない……私のこの喜びは!

 

 

「……おにいさま、ああおにいさま、お兄様♡」

 

 心の中でいつも呼んでる呼び方を口に出す。

 大丈夫。今この浴室には防音魔法を張っているから、外にこの声が漏れる事はないわ!

 

「っ! ああ~~~~~~~~~~もう! どうしようかしら! どうしたらいいの!? お兄様がイケメンすぎて私もう、耐えられない!!」

 

 普通なら絶対に許されない罪を犯した私を、お兄様は許してくださった。

 それどころか、これからは協力までしてくれるって言ってくださった!

 

(まさか、こんなに都合のいい展開になるなんて……夢かしら? 夢じゃないわよね!? シリーズ優勝逆転サヨナラ満塁ホームラン! ブザービート! 神の一手! 最後に愛は勝つ! ありがとう世界! ありがとう! ありがとうーー!!)

 

 嬉しい! 嬉しい! 嬉しい!!

 頭の中でもうずっと、天使たちがラッパを吹き鳴らしているわ!

 

 

(お兄様。試練へと飛び込んだ先に待っていた、私の運命を変えてくれた人)

 

 未熟だった私を淑女になるまで導いてくれた人。

 魔法はすべてではなく手段なのだと教えてくれた人。

 優しくしてくれて、厳しくしてくれて、守ってくれて。

 

 ……ずっとずっと欲しかった、愛を与えてくれた人!

 

(っていうか、こんなに私に都合のいい人がいていいのかしら!?)

 

 顔、よし。爽やかイケメン風なのは、アパレル職のお母様の影響ね。

 体つき、よし。ほどよい細マッチョで、鍛えている時の艶めかしい声もよし。

 性格、よし。普段すっごく優しくて甘くて、でも時々厳しかったりSっ気出すのがまたよし!

 技能、よし。文武両道家事万能、一家に一人お兄様♡

 

 改めて考えても、なによこのハイスペスパダリ! そうよ私のお兄様よ!

 こんなの好きにならない方がおかしいじゃないっ!!

 

 

「あぁ、もう! どうしよう、どうしたら!」

 

 湯船の中でバシャバシャと暴れる。

 魔法で作ったスクリーンは湯を浴びるたびに乱れたけれど、決して消える事はない。

 

「もうずっと、ずっと、大好きです……お兄様♡」

 

 胸の鼓動が止まらない。

 沸き上がる感情を抑えきれない。

 

 この想いにふさわしい名を、私は知っている。

 

 

「これが、これこそが……恋なんだわ! 絶対に!」

 

 私は、御伽守陸人というお方に、心の底から惚れ込んでいる。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 私が御伽守家に潜り込もうと決めたのは、本当に自分のワガママからだった。

 

(ふむふむ。母親は海外働きでほとんど家にいなくて、父もアトリエ活動で引き籠りがち。その分一人息子が家事全般を請け負って、文句ひとつ言わず何人分も働いている、と)

 

 両親となる人物からの干渉は薄く、家事を万全に行える人もいる御伽守家はまさしく、寄生するのに打ってつけの場所だった。

 

「マジカルマジックマギアマナ! あなた達は今から、私の事が大大大大大好きな家族よ!」

「「わー」」

 

 魔法でパパッと心を操り、ていよく家に侵入して。

 ここから私の楽々人間界ライフが始まる……はずだった。

 

 

「リリー! またこんなに散らかして!」

「えぇー? 別にいいでしょ? 私の勝手」

「ダーメーだっ! ほら、今すぐ片付けるぞ!」

「ぎゃあっ! ちょ、腕引っ張らないで!!」

 

 お兄様は、私がだらけて生活するのを許さなかった。

 部屋を汚したら片付ける、洗濯物はしっかりと管理する、不摂生はしない。

 

 いちいち口うるさくって、正直ウンザリだった。

 

 

「こんなの魔法ですぐなんとかできるんだから、えいっ!」

 

 最初は面倒事を全部魔法で何とかしてた。

 けど。

 

「すごいな、リリー! こんなにキチッとできるのか! やればできるんだなぁ、偉いぞ」

 

 そう言って何度も私を褒めるお兄様が。

 

「あぁ、ごめんなリリー。まだ片付け切れてなくて。俺もまだまだだ」

 

 一生懸命、家事をひとつひとつこなしているのを見ていたら。

 

「え? お皿の洗い方を教えて欲しい? でもリリーはもう十分上手じゃ……あぁ、わかったわかった。それじゃ1から教えるぞ?」

 

 なんだか、自分がズルをしてるように思えてきて。

 

「いいんだよ、楽をしても。手早く済ませられるに越した事はないんだからな。でも、そうやって楽ができるようになるまでに色々な積み重ねがあったって事は、覚えておくといい。それこそが、俺達人間が繋いできたもの……歴史って奴だからな」

 

 だんだんと、魔法を乱用するのを控えるようになった。

 

 

「はは、ピカピカになったな。偉いぞ、リリー」

「……当然です」

 

 あの人と同じ方法でやり遂げた時の方が、その褒め言葉を素直に受け止められる気がしたから。

 

「ほんと、よくできた妹だ」

「……えへ」

 

 その方が、心がポカポカして、幸せだったから。

 

 

「兄さん、これ……」

「ん? 口に合わなかったか? 甘口。父さんが辛いのダメだからなぁ」

「いやぁ、すまないねぇ」

 

 家族。

 一緒に食卓を囲んで、王宮の食事に比べて決して豪華とは言えないけど、温かな味を知る。

 

「っ!? 兄さん?」

「あぁ、それか? リリーが好きな味になるようにスパイスをちょっとな。鍋を分けるのはちょっとだけ手間だが、そこはやっぱり、みんなで美味しいって思える方がいいと思って」

 

 命令なんてしなくても、私のために尽くしてくれる誰か。

 

 

「こらっ、まただらしない格好して! 太もも丸見えだぞ!」

 

 時には叱られたり。

 

「リリーはどれにする? え、全部? マジかー……もー、仕方ないなぁ」

 

 時にはワガママに付き合ってくれて。

 

「ちょっと遠出しようか。大丈夫、道中の運転はお任せあれだ」

 

 私の知らないものを、たくさん教えてくれて。

 

 

「おはよう、リリー」

「いってらっしゃい、リリー」

「お、リリー! こっちこっち!」

「それ、美味しいよな。リリーもそう思うだろ?」

「うん、今日も美人さんだ。さすがはリリー、優秀な妹で俺も鼻が高いぞ」

「今日はお疲れみたいだな、リリー? 何か飲み物いるか? 頑張ってる妹にご褒美だ」

「おやすみ、リリー。また明日な」

 

 何よりも。

 ずっと、ずっと……近くにいてくれて。

 

 

『すまない、リリー。お前の誕生日だというのに急な用事が入ってな』

『リリー、ごめんなさいね。王族が務めを果たさなければ、巡り巡ってこの国のみんなが困ってしまうの』

『姫様、ここは我慢を。爺めには、王と王妃の苦悩、痛いほどわかりまする……って、ギャー! 何をなさホホゥホーゥッ!!』

 

 ずっと、ずっと、欲しかった。

 魔法の国(ここ)ではそれが手に入らない事を、理解はしていても納得はしていなかった。

 

『いいかい? 王とは絶対的な力を持つ存在だ。特にこの国ではそうなんだ。キミはそういうものになるべく未来を約束された、生まれついての支配者たれと望まれた者だ。孤独は常にキミに付きまとう……だから、うんっと強くなるんだよ?』

 

 そう教えてきた家庭教師はどこまでも胡散臭くて、だからこそ説得力があって。

 私は孤独だから、そういう生き方をする者だから、それは望んでも決して手に入らないって思ってた……のに。

 

   ・

 

   ・

 

   ・

 

『リリー。どうか、王族の試練が終わるまで。キミがここにいられる限界いっぱい、俺の家族でいてください』

「はいもちろんですお兄様ぁぁぁぁーーーーーーーーーーー♡♡♡♡」

 

 ドボーンッ!!

 

 最高の殺し文句に思わずすっ転び、湯に沈む。

 防音魔法のかかった浴室は、こんな大きな音だって、しっかり隠してくれるから。

 

 だから遠慮なく、私は私の想いを口に出す。

 

 

「ぶはっ! なります! なります! 家族になります! 一生そばにいます! ずっとずっと一緒に、ずっとずっと永遠に! お兄様の家族になります! ずっと一緒にいてください! ずっと家族でいてください!」

 

 私気づいたんです。

 きっと、お兄様こそが私にとっての“本当に大切な物”なんだって。

 

 絶対に手放したくない。失いたくない。掴んだらずっと離さない。

 それくらい大事な人なんだって。

 

 だから。

 

「王族の試練が終わっても、ずっと、ずっと!! ずぅぅぅぅっと一緒に!」

 

 そのために。

 

「試練が終わったら、お兄様を魔法界へ連れていきます! そしてパパとママに挨拶して……お兄様と結婚します!」

 

 決意する。

 

 

「愛してますお兄様! お兄様と一緒なら、私はきっとなんだってできる! なんだってやってみせます! お兄様が私を許してくれた今、私は無敵です! 最強です! だからずっとずっと、一生一緒にいるんです! これは決定事項なんですよお兄様! 覚悟の準備をしていてくださいね!」

 

 スクリーンのお兄様が優しく微笑んで、口を開く。

 

 

『リリー。これからも俺の家族として、妹として、よろしくな』

「もちろんですお兄様! 家族として、妹として……」

 

 そこではたと、気づく。

 

「妹と、して?」

 

 これは何かマズい気がすると、私の第六感が訴えた。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 妹。

 それは甘美な立ち位置。

 

 妹。

 それはある意味、近くて遠い、特別な関係。

 

 

「私が妹だとして、お兄様と結婚する事は……できる、はずよね?」

 

 だって、血は繋がってないし、本当の家族ではない。

 だから問題はない、はず……なのだけど。

 

(なんだろう、何か、とてつもなく致命的なミスをしたような気がするわ)

 

 お兄様とより親しくなれるよう、この世界についての勉強は欠かしていない。

 お兄様に誇れるように、清楚で淑女然とした振る舞いだって演じられるようになった。

 

 妹として何度も褒められるくらい、お兄様の期待に応えてきた自負がある。

 

 

(なのに、どうして?)

 

 だからこそ、さっきのやり取りで()()()()()()()()を引かれたような……そんな不安が脳裏をよぎって。

 

「魔法……は、ダメ。ダメよ」

 

 人の心を操る魔法は、もう使わない。

 それで得られた好意や関係なんて、今の私には価値を感じられない。

 

 何よりそれは罪を許してくださったお兄様の、尊く温かな想いを裏切る事になる。

 奇跡のような確率で繋がった縁を、自ら断つような真似はできない。してはいけない。

 

 

「でも、だったらどうすれば…………そうだ!」

 

 悩み抜いた私は、お兄様の甘いセリフを繰り返していたスクリーンを操作して、魔法界の通販サイトを表示させる。

 そこには人間界のアイテムもたくさん商品として並べられていて、お目当ての物もすぐに見つかった。

 

「“俺の妹がこんなに素敵なわけがない”、“相手は兄だけど愛さえあれば無問題アルねっ”、“義妹日常”……」

 

 妹との恋愛を描いた、先人達の叡智の結晶!

 これらに倣って、妹という立場をむしろフルに活用してアピールすれば、きっと……!

 

 

「大丈夫、妹でも、大丈夫……!」

 

 私はそれらをポチポチしながら、目指すべき未来に向かって動き出すのだった。




見た目は清楚、中身はパワー型お姫様、その名は……御伽守リリー!

応援、高評価してもらえると更新にますます力が入ります!
ぜひぜひよろしくお願いします!!
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