デビル・グルメ   作:ナオ3

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グルメ回です!


絶望と幸福のカクテル3

 

魔界――人間界と重なり合いながらも、決して交わることのない常闇の世界。

紫色の月が二つ浮かぶ空の下、枯れ木のような森の奥深くに、その屋敷は静かに佇んでいた。ゴシック様式の尖塔が聳え立つ古城のような館。

屋敷の廊下には、主の帰還を出迎える使用人の姿はない。静まり返った館内を、悠夜は足音を忍ばせて歩いていた。その姿は、自分の家であるにも関わらず、まるで泥棒のようですらあった。

 

 

(よし、あの暴君は寝てるな……!)

 

 

悠夜は天井を見上げ、二階にある寝室の方角へ神経を研ぎ澄ませた。

強大な魔力の気配は静まっている。規則正しい寝息のような波動だけが感じられる。どうやら、同居人は深い眠りについているようだ。

悠夜は安堵の息を漏らすと、足早に地下へと向かった。

目指すは、彼専用の聖域――『地下キッチン』である。

重厚な鉄の扉を開け、中に入ると同時に、悠夜は懐から数枚の呪符を取り出し、部屋の四隅に貼り付けた。さらに指先から魔力の糸を紡ぎ出し、扉の隙間、換気口、壁の継ぎ目、ありとあらゆる「外部との接点」を幾重にも封印していく。

 

『遮断結界・絶』

『認識阻害・無響)』

『匂い封じ・断空』

 

これらは全て、対「同居人」用の防衛策である。

見つかれば、今夜の獲物は一瞬で胃袋へと消えてしまうだろう。悠夜にとって、魂の記憶の調理は神聖な儀式であり、誰にも邪魔されずに堪能したい至福の時間なのだ。

 

 

「(悪いが、今夜は僕だけで味あわせて貰うぞ!)」

 

 

悠夜はキッチンの照明を落とし、手元だけを照らす妖しげな紫色のランプを灯した。

キッチンと言っても、そこにあるのは料理道具というよりは実験器具に近い。フラスコ、ビーカー、蒸留器、そして怪しげな光を放つ魔道コンロ。

その中央にあるバーカウンターに、悠夜は愛用のシェイカーを置いた。ミスリル銀で作られたそのシェイカーは、強力な魔力を封じ込めるための特殊なルーン文字が刻まれている。

 

 

「さて、始めようか」

 

 

悠夜は懐から二つの容器を取り出した。

一つは、太陽の欠片のように眩い黄金の光を放つ結晶。紗世子の記憶。

もう一つは、光を吸い込むブラックホールのような漆黒のヘドロ状の結晶。隆行の記憶。

並べて置くだけで、空間が軋むような反発力が生まれる。

悠夜は専用のナイフを取り出すと、それぞれの結晶を慎重に削り出した。

 

カリ、カリ、カリ……。

 

黄金の結晶を削ると、キラキラとした光の粒子が舞い、部屋中に花の香りが広がる。それは春の陽だまりのような、どこか懐かしく温かい香りだった。

一方で、漆黒の結晶を削ると、ドロリとした粘液がナイフに絡みつき、腐った沼のような異臭が鼻をつく。鉄錆と血、そしてカビの臭い。

 

 

「ふふ、対照的だ。これこそがカクテルの極意」

 

 

悠夜は削り出した二つの欠片をシェイカーの中へと落とした。

カラン、と乾いた音が響く。

続いて、彼は指先に蒼白い魔力を灯し、シェイカーの中へと注ぎ込んだ。

 

 

「融解(メルト)」

 

 

ジュワァァァァァァ……!!

 

 

魔力に触れた瞬間、固形だった記憶の欠片が溶け出し、液体へと変化していく。

紗世子の記憶は黄金のネクターに。隆行の記憶はドス黒いタールに。

二つの液体はシェイカーの底で混ざり合おうとするが、水と油のように激しく反発し合う。

 

 

「暴れるなよ。これから一つになるんだから」

 

 

悠夜は素早くシェイカーの蓋(トップ)を被せ、ストレーナーを装着し、強引に密閉した。

その瞬間だった。

 

 

ガガガガガガガガガッ!!!

 

 

シェイカーが激しく振動し、内部から凄まじい熱と圧力が発生した。

それはまさに、核融合。

正反対の性質を持つ二つの記憶を強制的に融合させることで、莫大なエネルギーが生み出されるのだ。シェイカーの表面に刻まれたルーン文字が赤熱し、危険を知らせるように明滅する。

 

 

「くっ、素晴らしい反発力だ! 隆行さんの拒絶反応かな?」

 

 

悠夜は暴れるシェイカーを両手でねじ伏せるように抑え込むと、全身の魔力を腕に集中させた。そして、リズミカルに、かつ力強くシェイクを開始する。

 

 

シャカッ! シャカッ! シャカッ!

 

 

振るたびに、シェイカーの中で爆発音が響く。

そして、その爆発音と共に、ある「声」が漏れ出し始めた。

 

 

『……せ……!』

『返せ……! 俺の運を、俺の人生を返せぇぇぇ!!』

 

 

隆行の声だ。

記憶だけの存在になってもなお、彼の執着は消えていなかった。シェイクされる遠心力の中で、彼の怨念は永遠に引き裂かれ、混ざり合い、紗世子の記憶と強制的に接触させられているのだ。

 

 

『熱い、痛い、苦しい!! なんで俺だけ!!』

『俺はエリートだぞ! 俺は選ばれた人間なんだ!!』

『殺してやるぞぉぉぉぉぉ紗世子!!!』

 

 

シェイカーから漏れ出る怨嗟の声は、キッチン内の空気をビリビリと震わせた。普通の人間なら、この声を聴くだけで発狂していただろう。

だが、悠夜にとってそれは最高のBGMだった。

 

 

「ははははは!!!」

 

 

悠夜はシェイクの手を止めず、高らかに嘲笑った。

 

 

「そんなに紗世子さんの幸福が美味しかったのですか、隆行さん!!! 貴方は今、彼女の人生そのものと混ざり合っているのですよ!?」

 

『やめろぉぉぉ! 近づけるなぁぁぁ! そのキラキラした光を見せるなぁぁぁ!!』

 

「嫌ですか? 眩しいですか? 貴方が踏みにじり、見下していた妻が、貴方より遥かに高潔で美しい魂を持っていたという事実を突きつけられるのは!!」

 

 

悠夜はわざと激しくシェイクする。

内部で渦が発生し、隆行のドス黒い魂が、紗世子の黄金の魂に飲み込まれていく

 

 

「もっとだ、もっと怨嗟の声をあげろ!」

 

『ギャアアアアアアッ!!!』

 

「恨め! 憎め! 嫉妬しろ! 貴方のその醜い感情が、彼女の幸福の甘さを引き立てるスパイスになる!」

 

『許さない、許さない、許さないぃぃぃぃぃ!!!!』

 

「そうだ、その調子だ! 絶望して美味しくなれ、隆行さん!!」

 

 

悠夜の瞳が紅く輝き、興奮で息が荒くなる。

シェイカーの振動がピークに達した。内部のエネルギーが限界まで高まり、ミスリル銀の容器がきしみ音を上げる。

今だ。

悠夜は動きを止め、用意していたバカラのグラスに、カクテルを注いだ。

 

 

トクトクトク……。

 

 

注がれた液体は、形容しがたい色をしていた。

黄金色の液体の中に、黒い渦がマーブル模様を描き、それが生き物のようにうごめいている。液体からは黄金の粒子が立ち上り、その一方で黒い煙が底に沈殿していく。

 

 

「おお……!」

 

 

悠夜は感嘆の声を漏らした。

グラスの中で、二つの色は混ざり合っているようで混ざっていない。互いが互いを拒絶しながらも、逃げ場のないグラスの中で強制的に共存させられている。

その緊張状態が、とてつもない魔力エネルギーを生み出していた。

味見のために、悠夜は小指の先ほどの量をスプーンで掬い、舌に乗せた。

 

 

「っ――!?」

 

 

衝撃が脳髄を突き抜けた。

 

 

「これは……会心の出来だ!!」

 

 

舌の上で弾けるのは、紗世子の人生の極上の甘み。愛され、満たされた魂の多幸感。

その直後に襲いかかってくるのは、隆行の人生の泥のような苦味と酸味。嫉妬、後悔、激怒、そして底なしの絶望。

だが、それらは打ち消し合うのではない。

不幸という名の影が濃ければ濃いほど、幸福という名の光が眩しく輝く。

逆に、幸福の味が甘ければ甘いほど、その後味として残る絶望のエグみが際立ち、舌を痺れさせる。

カクテルは不幸が幸福を、幸福が不幸を高め合う無限の相乗効果を発揮していた。

わずか一滴で、通常の魂の記憶百人分にも相当するエネルギーが発生している。

 

 

「頂きます」

 

 

悠夜は震える手でグラスを持ち上げると、喉を鳴らして一口飲んだ。

ゴクリ。

食道が焼けるようだ。

胃の中に核爆弾が落ちたかのような熱量。

全身の血管という血管が拡張し、指先まで魔力が駆け巡る。細胞の一つ一つが歓喜の声を上げ、老廃物が瞬時に浄化されていく感覚。

 

 

「ふうぅぅぅぅ…………ッ」

 

 

悠夜は陶酔した表情で天井を仰いだ。

全身が破裂しそうな程、力が滾り、活力が満ちていく。魔力が溢れ出し、周囲の空間が歪むほどだ。

 

 

「これだけで酔いそうになるとは……ここまでの逸品はそうそうない」

 

 

悠夜はグラスに残ったカクテルを見つめ、自画自賛した。

これは良いのが出来た。今夜はこれを肴に、ゆっくりと――。

 

 

「はっ!?」

 

 

その時だった。

背後から、物凄い威圧的な気配を感じた。

それは、殺気などという生易しいものではない。

「捕食者」としての、圧倒的なプレッシャー。

食物連鎖の頂点に立つ存在だけが放つ、抗いようのない重圧。

キッチンの空気が凍りついた。

悠夜の動きが止まる。

恐る恐る、油の切れたブリキ人形のような動きで後ろを振り返る。

そこには、一人の少女が立っていた。

腰まで届く美しい銀髪。

闇夜に光る猫のような、妖艶な紫色の瞳。

豪奢なゴシックドレスに身を包んでいるが、その体躯は十歳ほどの子供にしか見えない。

だが

 

 

「うわあああ!?」

 

 

悠夜は思わず叫び声を上げ、グラスを取り落としそうになった(なんとか空中でキャッチした)

 

 

「グラトニー!? な、なぜここに!?」

 

 

グラトニー。

それは彼女の名であり、同時に彼女の本質を表す称号でもある。

七つの大罪が一つ、『暴食』の名を冠する悪魔。

かつて魔界を恐怖のどん底に陥れ、あらゆるものを喰らい尽くした伝説の怪物。

今はなぜか悠夜の住まいを気に入り、勝手に占領して居座っている魔王の一角だ。

銀髪の幼女――グラトニーは、悠夜の言葉など聞こえていないかのように、じっと一点を見つめていた。

彼女の視線の先にあるのは、悠夜の手にあるグラス。

 

 

「……いい匂い」

 

 

ぽつりと、彼女が呟いた。

その口元からは、いまにもヨダレが垂れそうだ。

 

 

(嘘だろ冗談だろ、あれだけ結界張りまくったのに嗅ぎつけてきたのかよ!?)

 

 

悠夜の頬が引き攣った。

結界は、最高位の魔術師でも破れないはずの代物だ。それを彼女は、まるで紙切れ一枚隔てた向こう側の料理の匂いを嗅ぐかのように、いともたやすく感知してここまでやってきたというのか。

 

 

「い、いや、これはその……試作品でして、まだ毒見も済んでいない危険物で……」

 

 

悠夜は必死に言い訳をしながら、グラスを背後に隠そうとした。

だが、次の瞬間。

 

ヒュンッ。

 

風が吹いた。

気づけば、グラトニーは悠夜の目の前に移動していた。

紫色の瞳が、至近距離から悠夜を見上げている。その瞳孔は、獲物を狙う獣のように縦に細まっていた。

 

 

「ん」

 

 

グラトニーは無言で、小さな右手を差し出した。

「よこせ」という絶対の命令である。

悠夜は数秒間、抵抗を試みるべきか葛藤した。

しかし、相手は『暴食』の魔王。ここで拒否すれば、カクテルどころか、悠夜自身が「デザート」にされかねない。

 

 

(あああ、仕方ない……)

 

 

悠夜は心の中で血の涙を流しながら、降伏した。

棚からもう一つグラスを取り出す。魔王の分も用意しなければならない。なんて理不尽な夜だ。

 

 

「……頼むから、味わって飲んでくれよ。これは繊細なバランスで成り立っている芸術品なんだから

 

 

深い溜息を吐きながら、悠夜はシェイカーに残っていたカクテルを、グラトニーのグラスへと注いだ。

トクトクと注がれる液体を見て、グラトニーの喉がゴクリと鳴る。

 

 

「はい、どうぞ」

 

 

悠夜がグラスを手渡した、その刹那。

 

 

「いただき」

 

 

グラトニーは電光石火の早業でグラスをひったくると、そのまま口へと運んだ。

 

 

ゴックゴックゴック……!!

 

 

「あ!!」

 

 

豪快な飲みっぷり。

味わう? 香りを楽しむ? そんな概念は彼女にはない。

 

 

「ビールみたいに飲むなよ!!」

 

 

悠夜の悲痛な叫びが響く。

グラトニーは一滴残らず飲み干すと、グラスをダンッ!とカウンターに叩きつけ、大きく息を吐いた。

 

 

「ぷはーーーーっ!!」

 

 

満足げに口元を手の甲で拭うグラトニー。

その瞳が、カッと見開かれる。

 

 

「……!!」

 

 

彼女の小さな体が震えた。

頬が紅潮し、紫色の瞳が恍惚と潤んでいく。

 

 

「おいしい……っ!」

 

 

グラトニーはハイテンションで叫び、カウンターの上でピョンと飛び跳ねた。

先程までの無口で不機嫌そうな様子はどこへやら、彼女の「食レポ」スイッチが入ったのだ。彼女は美味いものを食うと、饒舌になる悪癖があった。

 

 

「なにこれ悠夜! すごい、すごいよこれ!」

 

 

グラトニーは身振り手振りで熱弁を振るう。

 

 

「最初はね、口の中でふんわり甘いのが広がるの! バニラみたいな、蜂蜜みたいな、とろけるような幸せな味! 脳みそが溶けちゃいそう!」

 

「紗世子さんの黄金の記憶だね。彼女の愛と感謝の味だ」

 

「でもね、そのすぐ後に、ズドーン!って来るの! 泥! ヘドロ! 腐った生ゴミみたいな味が喉の奥から突き上げてくるの!」

 

「……言い方はあれだが、隆行さんの絶望だね」

 

「そのドロドロが、最初の甘さをギューッて締め付けるの! 幸福が絶望を深めていくの! 『あんなに幸せだったのに、なんで俺はこんな目に』って!」

 

 

グラトニーは自分の喉を掻きむしるようなジェスチャーをした。

 

 

「で、その絶望が、逆に幸福を引き立てる! 『私、あんな酷い目に遭ったけど、今はこんなに幸せ』っていう安堵感が、スパイスになって甘さを爆発させてる!」

「沙世子ちゃんの幸せが、隆行の不幸を引き立てる! 隆行の不幸が、沙世子ちゃんの幸せを輝かせる! 完璧な永久機関だよこれ!」

 

 

グラトニーはキャッキャと笑いながら、空になったグラスを愛おしそうに舐めた。

 

 

「それに、聞こえるよ! 飲んだ瞬間、お腹の中で隆行の惨めな豚みたいな声が響き渡るのが!」

 

『返せぇぇ!』『俺の運だぁぁ!』『なんであいつだけぇぇ!』

 

 

グラトニーは隆行の声真似をして(それが妙に似ていて悠夜は少し引いた)、ケラケラと笑い転げた。

 

 

「この声が喉を通る時の炭酸みたいにシュワシュワして気持ちいいの! 紗世子ちゃんの幸福を味わって、すぐ隣で悶え苦しむ隆行の絶叫がたまんない!! 最高のハーモニーだよ!」

 

 

まさに悪魔の所業。

彼女にとって、人間の苦しみは極上のエンターテインメントであり、最高の調味料なのだ。

 

 

「ああ、美味しかった。……で?」

 

 

グラトニーは突然真顔に戻ると、空のグラスを悠夜に突きつけた。

 

 

「もっと飲みたい」

 

 

悠夜は天を仰いだ。やっぱりそう来るか。

 

 

「あのね、グラトニー。これを作るのは結構疲れるんだよ!? 精密な魔力操作が必要で、失敗すれば爆発する危険性だってあるんだ」

 

「悠夜ならできるでしょ? 天才だもんね?」

 

 

上目遣い。

小首を傾げる。

あざとい。自分の可愛さと、それを拒否した時の恐ろしさを完全に理解している態度だ。

 

 

「……はぁ」

 

 

悠夜は観念して、再びシェイカーを手に取った。

主人がペットにこき使われるこの構図。悠夜は残りの結晶を削り始めた。

 

 

「リクエストはあるかい、我が儘な魔王様」

 

「んーとね。さっきのはちょっと甘すぎたかな」

 

「贅沢言うねぇ」

 

「次は、もっとピリッとしたのがいい。喉が焼けるくらいのやつ」

 

「なるほど」

 

 

悠夜は隆行の結晶の中でも、特に黒ずんだ部分――彼が紗世子と蓮の仲睦まじい姿を見た瞬間の記憶――を選び出した。そして、紗世子の記憶からは、蓮と初めて結ばれた夜の、情熱的な記憶を選ぶ。

 

 

「じゃあ、次は『嫉妬』を多めに入れてみようか。酸味が強くなるけど、その分刺激的だよ」

 

 

悠夜は手際よくシェイカーに材料を投入し、再び激しく振り始めた。

 

 

シャカッ! シャカッ!

 

 

『許せねえ……! あいつだけ……俺のモノだったのに……!!』

 

「ほら、いい声で鳴いてる」

 

「わくわく」

 

 

グラトニーはカウンターに顎を乗せ、シェイカーを見つめて尻尾(があるとしたら)を振って待っている。

 

 

「お待ちどうさま。特製カクテル『愛憎の果て』だ」

 

 

悠夜が注いだ二杯目のカクテルは、赤黒いマグマのような色をしていた。

グラスの中でチリチリと音が鳴り、触れれば火傷しそうなほどの熱気を放っている。

 

 

「憎悪で辛いカクテルかあ、美味しそう!」

 

 

グラトニーは嬉々としてグラスを手に取った。

 

 

「いただきまーす!」

 

 

ゴクリ。

 

 

「ッ~~~~~~!!!」

 

 

飲んだ瞬間、グラトニーの顔が真っ赤になり、目から涙が滲んだ。

 

 

「か、辛(から)っ!! でも……うまーーーーい!!」

 

 

口から火を噴きそうな勢いで、グラトニーは絶叫した。

 

 

「これすごい! 喉が焼ける! 隆行の嫉妬が針みたいに突き刺さってくる! でも、その奥にある紗世子ちゃんの情熱が甘くて熱くて、口の中がぐちゃぐちゃになるうぅぅ!」

 

「それはよかった」

 

 

悠夜も自分の分を一口啜り、その強烈な刺激に顔をしかめつつも、満足げに微笑んだ。

隆行の魂は、死してなお、こうして悪魔たちの舌を楽しませ、その身を削り続けている。

永遠に終わらない、地獄の晩餐会。

 

 

「ねえ悠夜、次は? 次はどんな味?」

 

「まだ飲む気かい? ……やれやれ。次は『後悔』をベースにした、少しビターなやつにしようか」

 

 

地下キッチンの夜は長い。

悪魔たちの笑い声と、シェイカーから漏れる男の悲鳴は、朝が来るまで止むことはなかった。




人間は絶対に飲まないで下さい、死にます。
隆行の記憶から声が聞こえるのは記憶に執念や憎悪など負の感情がこびりついてるから擬似的な人格が沙世子の記憶を感じる事で出来ました。
沙世子さんの記憶にはそういったものはありません、彼女は未練も後悔もなく満足して旅立ち、隆行には一片の関心もありません。
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