プロローグです。
修正、加筆しました。
妖怪大戦争と言っても過言ではない大きな戦いに幕が下りた。
陰陽師安倍晴明、”鵺”と奴良組3代目、奴良リクオ率いる妖怪たちが死闘を繰り広げ、奴良組の勝利に終わった。
晴明が消滅したことにより、彼がかけた術も解かれ、残りの歴代当主たちの体はも朽ち果てた。
当然、晴明によって反魂の術で生き返った山吹乙女の魂、転生の術を施された羽衣狐も消滅した。
残ったのは、黒い瞳、黒い髪、白いリボン以外は黒一色のセーラー服を身に纏った男性女性の両方を魅了する容姿を持つ少女。
彼女は戦いの後、多くの京妖怪を連れて姿を消したのだった。
◇ ◇ ◇
全ては晴明と、あの山ン本五郎左衛門という輩の仕組んだことじゃった。
元々この体は山吹乙女のもの。その山吹乙女は病に倒れ、この世を去ったのじゃが、晴明の反魂の術によってよみがえった。
晴明が倒された今、妾の体からは乙女も狐もいなくなった。じゃが、彼女らの記憶はいまだに妾の頭の中に鮮明に残っておる。
山吹乙女として奴良鯉伴と一緒に過ごした日々も、羽衣狐として八度の転生を繰り返した日々も……
今、妾を『お姉様』と慕う少女、まだ羽衣狐が妾の中にいた頃に仕えていた京妖怪の一人、狂骨。羽衣狐は消えたが、妾とこの狂骨の絆は消えることはない。例え、羽衣狐であったときの仲であっても、じゃ。それが”妾”なのじゃから……
そして、弐條の城で乙女の記憶を思い出した妾はリクオを庇い息絶えた筈だったのじゃが、ぬらりひょんの手によって乙女の記憶を受け継いだ形で再度よみがえった。その時、妾は乙女の魂と融合して人から「母性」の妖怪となった。妾は「母性」の妖怪として人と妖怪、双方を慈しむ母であろうと決意した。それは乙女の魂が消えた今でも変わらぬ。乙女が消えたのならば、人に戻ってしまうのではないかと思っておったのじゃが、幸い妖怪のまま。これからは「母性」の妖怪として生きていく。
人と妖怪が共に歩んでいける道を切り開くのは必ずやリクオが成し遂げてくれるじゃろうから心配することはない。
じゃから妾は、妾を大切に慕い、妾についてきてくれるこの可愛い京妖怪たちと一緒に……
◇ ◇ ◇
今、妾と狂骨は屋敷で紅茶を嗜んでおる最中。
妾と一緒で楽しいのだろう、狂骨は伸長に合っていない椅子のせいで、宙に浮いている足をバタバタさせておる。……何とも可愛い奴だ。
「狂骨、」
「何ですか? お姉様」
妾に呼ばれて嬉しそうな顔をして笑っている狂骨へ、何度目かも分からんことを言う。
「妾と一緒にいて楽しいか?」
「もちろんです」
「そうか、妾も狂骨と一緒で楽しい。……狂骨、妾たちはこれからもずっと一緒じゃ」
「ハイッ! お姉様!」
また一口紅茶を飲み、カップをソーサーに置こうとしたとき、ソーサーの下に封筒が一通置いてあった。封筒には「山吹乙女殿」という文字しか書いておらんかった。確かにこの体は元々山吹乙女のものじゃから、名前もそうなるであろう。じゃが、そのことを知っているとは、この送り主は何物じゃ。
見たところ、「山吹乙女様」という文字以外、名前の類いは一切見当たらない。
それにしてもいつからここにある? 先程まではここに置いてなかったと思うが。いつの間に? 何処から?
封筒を手に取り、妾が不思議そうに見つめていると、狂骨が尋ねてきた。
「お姉様、その封筒は何ですか?」
「妾にも分からん。差出人の名前がない、なんとも無礼なものじゃ」
「何が書いてあるか開けて確かめてみましょう」
好奇心が溢れだしておる目をしている。こうなった狂骨は何を言っても聞かん。
仕方なく封筒を開けると、そこにはカードが一枚入っているだけであった。
「お姉様、何て書いてありますか?」
「待て、慌てるでない狂骨今から読んでやるから落ち着かんか。
……どれ……
『 悩み多し異才を持つ少年少女に告げる
その才能を試すことを望むなら
己の家族、友人を、財産を、世界の全てをを捨て、
我らの”箱庭”に来られたし 』
……何じゃこの手紙は?」
狂骨も、思い当たる節がないのか、分かりませんと言った。
……これは妾に宛てられたもの。じゃが妾には心当たりが全くない。
(異才を持つもの? 此奴は何故妾のことを知っている? それに”箱庭”じゃと? 妾を人形か何かとでも思うておるのか?)
様々な疑問が浮かんでくるが、最も気になったのは、『己の家族を捨てる』という部分。
人間の方の関わりなどはどうでも良い。リクオは妾がいなくても上手くやるであろう。じゃが、狂骨たちを捨て、妾一人でこの”箱庭”などという何処にあるのか、はたまた本当に存在するのかどうかも分からん場所へなど行くものか。御免被りたいものじゃ。
狂骨も聞いたことのない”箱庭”という言葉に疑問を抱いたのか、
「”箱庭”とは何なのでしょうか?」
「さあな」
「あの、お姉様……」
狂骨は、この手紙にある通り妾が何もかも捨て、”箱庭”に行ってしまうのではないかと思うておるようじゃ。妾が狂骨たちを捨てるなど有り得ないことだというのに……妾も甘く見られたものじゃ。
狂骨を安心させる為、彼女に微笑みかける。
「心配するでない。先程も言ったではないか、ずっと一緒じゃと。
それに、半妖の里でお主に言ったことをもう忘れてしもたのか? 言ったであろう? 狐が消えてもおぬしとの絆は消えはせん。妾はおぬしを置いて何処かに行くなどは微塵を考えておらん」
「ごめんなさい、お姉様」
「ふふ、まぁよい」
自分の愚かさに気を落としたのか、元気のない声を出し表情も暗くなっている。じゃが、妾が頭を撫でてやると先程までの暗い顔が嘘のように、目を細めて嬉しそうな顔となった。
「紅茶も飲み終わってしまったな。さて狂骨よ、何処か行きたいところはないか?」
「え? 何故ですか?」
「おぬしを不安させてしまった詫びじゃ」
「私はお姉様と一緒なら何処でも構いません」
即答じゃった。本当、可愛い奴じゃのう、おぬしは。
「では適当に散歩にでも行くか」
「ハイッ!」
妾は椅子に立て掛けておった鞄を持って椅子から立ち上がり、バルコニーから部屋への扉へと向かう。
狂骨がすこし後れてついてくる。
「どうして後を歩いておる、おぬしが歩くのは妾の隣であろう?」
妾が狂骨に言ってやると、彼女はパアッという擬音がついてもおかしくない程に笑う。その笑顔はまるで太陽のようであった。
妖怪は陽の光が苦手であるのと同様に、妾も苦手であるが、この太陽ならばずっと照らされたいと思えた。もしかしたら、彼女は妾の太陽なのかもしれない。
すると、先程の手紙がまだ気になるのか、狂骨が妾に言う。
「結局、あの手紙は何だったのでしょうか? 実を言うと私、”箱庭”というのがどのような場所なのか、少し興味があります」
「ははは、おぬしは本当に好奇心の強い子よのぅ」
ここでふと机の上のティーセットが目に入る。
ふむ、このまま置いて訳にも行かぬか……
「狂骨 、」
「はい?」
妾の声に、狂骨は歩み始めていた足を止めて振り返る。
「先に行っていておくれ、妾はこれを片付けてから行く」
「それなら私が……」
彼女ら
「いや、おぬしより妾の方がメイドの前に出やすい」
「それは……そうですが……」
まだ納得していないようじゃ。はて、どうしたものか。強情な狂骨を説得するためには……
「しつこいぞ狂骨。これくらいのこと、何てことはない。おぬしは妾を怒らせたいのか?」
「い、いえ……そんなつもりは」
少々口調をきつくしたせいか、狂骨は肩をすぼめた。
勿論、妾は狂骨を怒る気など毛頭ないが、こうでもしない限り狂骨は一歩も引いてくれそうもなかったのでな。仕方のないことじゃ。すまんな狂骨。
「おぬしのことは分かっておるから大丈夫じゃ。だから外で待っておってくれ」
「…分かりました……」
そう言って狂骨はしぶしぶ部屋の中へと入っていった。その背中は寂しい一人の女児と何の変わりもない。
(……狂骨に悪いことをしてしまったのう。外で何か狂骨の欲しいものでも買ってやろうか)
そんなことを思いながら、ティーセット(正確にはカップ、ソーサー、スプーンをそれぞれ二つずつ乗せたトレー)を手に持ち妾も扉に向かう。
◇ ◇ ◇
階段を下り、キッチンへ向かっている途中で一人のメイド《女中》に会うた。掃除をしている最中であろう、手には少し濡らした白い布を持って窓を拭いておった。彼女は妾がいることに気が付くと、手を止め妾の方へ歩いてきた。そして
「お嬢様、後は私が運んでおきます」
狂骨にはああ言ったが、先程の姿を見た限りすぐに向かった方が良いじゃろう。それにあまり待たせては可哀想じゃ。
ここは彼女に任せておくか。
「そう? ではお願いできるかしら」
「畏まりました」
「そうそう、妾はこれから外出します。帰りは遅くならないと思うから心配は要りません。いつも通り護衛は結構よ。
それと、今日も紅茶美味しかったわ。淹れた者に礼を言っておいてくれるかしら」
トレーを渡すと、メイドは後ろへ数歩下がって淡々とした口調とともに軽く一礼し、
「畏まりましたお嬢様。
旦那様には私から申し上げておきます。お気を付けて行ってらっしゃいませ」
と言った。
それに対して妾は「行ってくるわ、トレーお願いね」と、踵を返して玄関へと歩き始めた。
玄関までの廊下を歩くなか、先程の奇妙な手紙がふと頭に浮かんできた。
(狂骨が興味があるというのなら彼女に”箱庭”とやらを見せてやりたい気もするが……)
一瞬そのようなことを思おうた途端と、妾の視界は白く染まった。
今回は一応ここまでです。
※『妾』は狂骨と話しているときは『わらわ』、メイドと話しているときは『わたし』とお読みください。
更新は劣等生とのクロスを優先しますので、次話の更新がものすごくあくと思います。
え? 別に待ってない?
ですよねー