そのキバで僕を噛んでくれ!   作:松田ゐふ

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試験と幼なじみとサメ

 やぁ!張理有(ばりあ)ハルだよ!

 あれから1週間が経って雄英高校の入試当日になったよ。

 え?展開が早いって?1週間も切奈と勉強するだけのシーン書いても、つまらないでしょ。

 とにかく、今日は雄英高校の一般入試当日。

 僕が合格することだけ信じてくれたらそれでいいよ。

 

「ありがとね、見送りに来てくれて」

 

「幼なじみの大切な日だし、直接頑張れって言いたいじゃん」

 

「それは嬉しいんだけどさ……わざわざ雄英まで来る必要あった?」

 

「そういうこと言うんだ……せっかくやる気がでるおまじないしてあげようと思ったのに」

 

「それってまさか!」

 

「ほっぺにちゅーくらいなら……いいよ」

 

「あ、すぅー……ありがとう」

 

「……噛んでくれるとでも思ってた?」

 

「モチロン!」

 

「……ちゅーはなしでいいよね」

 

「ごめんなさい」

 

 正門の近くで、いつもの茶番を繰り広げる僕たちは、場違いにも程がある。

 でも、切奈のおかげで緊張がほぐれたと思う。

 

「じゃあ……行ってくるよ」

 

「行ってらっしゃい」

 

 切奈と別れて正門を通り雄英の敷地内に足を踏み入れる。

 今からの僕はちょっとだけ真面目に行こう。

 切奈が勉強を教えてくれたから、それに応えないと二度と噛んで貰えなくなる。

 

 性癖は一旦置いて真剣に取り組むとしようか。

 


 

「行ったか……」

 

 幼なじみの背が見えなくなるまで、雄英の正門で見送ってもいいけど、そろそろ他の人の邪魔にもなるし移動しよう。

 

「頑張れ」

 

 幼なじみにもう一度エールを送ると、雄英からそう遠くない喫茶店に入り、幼なじみの試験が終わるまで待つことにした。

 

「このブレンドコーヒーとサンドウィッチをお願いします」

 

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 店員さんにコーヒーと軽食を注文すると、幼なじみのハルのことを考える。

 

 私とハルは親同士が仲が良く、産まれた病院から中学までずっと一緒だった。

 幼稚園の時は、今のような性癖に目覚めてなくて、中性的な顔立ちだったこともあり弟みたいな感じに思っていた。

 

 私たちの関係が変わったのは、ハルが“個性”に目覚めた時だった。

 ハルの“個性”は『絶対防御(オートガード)』。攻撃を受ける際に、自動で自身の周りにオーラを発生させて、バリアを展開する能力。

 世間的に“強個性”と呼べるものだった。

 

 対して私の“個性”は体をいくつかのパーツに分けるだけ。

 今は割り切ってなんとも思っていないけど、当時は嫉妬した。そのせいでハルに強く当たって喧嘩になり、しばらく距離を置いた。

 

 仲直りしたのは中学に入学した時だった。

 男子三日会わざれば刮目して見よ、なんて言葉があるように、中学生になったハルは私のストライクゾーンど真ん中のイケメンに成長していた。

 

 中性的な顔は成長により、女を殴ってそうな沼顔になり、ハイライトのない瞳は、ミステリアスな雰囲気を醸し出して、その魅力を更に引き上げていた。

 なのにユーモアがあって、クラスの雰囲気を明るくするから、そのギャップにやられるクラスメイトも少なくなかった。

 

 私はハルを嫉妬で傷つけてしまったことを謝ろうと久しぶりに声をかけた。

 ハルは私を見るやいなやとんでもないことを口にした。

 

「切奈!僕に噛み付いてくれ!跡が残るくらい強く!」

 

「は?」

 

 私が避けていた6年間のうちにハルは変わってしまった。弟みたいに可愛かったハルは、私の歯に興奮する変態に成り下がっていた。

 

「まあ……本気で拒絶してない時点で……私もか」

 

 私は仲直りしてからほぼ毎日、噛んで欲しい言うハルを今日まで拒絶してこなかった。

 理由は単純で、女殴ってそうなイケメンが、私の前でプライドも捨てて懇願する姿が好きで好きで堪らないからだ。

 ハルがギザ歯に目覚めたように、私もハルの情けない姿に目覚めた、幼なじみ揃って変態だ。

 

「こちら、ブレンドコーヒーとサンドウィッチになります。ごゆっくりどうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 店員さんがコーヒーと軽食を持ってきてくれたので、思考を中断する。

 

「ハル……ハイになってないといいんだけど……」

 

 幼なじみに一抹の不安を覚えるが、ハルなら大丈夫だと思い、コーヒーと軽食を食べるのだった。

 


 

 雄英入試は無事終わり、首席合格だそうだ。

 ん?実技試験がどうなったて?当然、ロボ相手に無双したよ。

 でもさァ……わざわざ書くようなことでもないでしょう……普通に強力な“個性”でロボを壊しまくって、0P相手に大立ち回りを演じて試験終了。

ありきたり過ぎて地の文で説明する程度でいいだろう。

 

 それよりも、受験シーズンで我慢してた、通販でまとめて買ったサメ映画の観る順番を決める方が重要だ。

 

「試験も終わったし……入学まで溜まってたクソ映画でも消化しよっと」

 

「ちょっと待って!?首席だよ!あっさりし過ぎじゃない!?」

 

「興味無いね」

 

 首席合格したことをメッセージで送ったら、すぐに家に来た切奈は、驚いていた。

 首席とか別に興味無いからどうでもいい。

 

「そんなことよりさ、これ観ようよ。【ヘルシャーク】!」

 

「雄英の首席よりクソ映画が大事なの!?」

 

「うん」

 

「……そうだよね……あんたはそういうやつだった」

 

 頭を抑えて、ため息を吐く切奈。

 ため息を吐く瞬間、前歯がチラッと見えた。いいものを見ることができたと気分が上がる。

 

「悩みがあるなら、これ観て忘れよ。この映画は、家族を殺された男が復讐のために、地獄からサメを召喚するんだけどさ、サメに拘りすぎて予算足りなくなったんだって」

 

「よく見ようと思うね」

 

「このサメ、歯をガトリング砲みたいに飛ばすんだって……動画配信サイトで予告見てポチッたんだよね」

 

「……コーラとポテチは?」

 

「ここにあるよ」

 

「めちゃくちゃツッコミ入れるよ」

 

「それが楽しいじゃん」

 

 切奈は僕の隣に座り、クソ映画を一緒に観るようだ。

 この映画を観た影響で、僕の噛んでくれないかなとか思いながら、DVDを再生するのだった。

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