「全員、コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ」
「はーい」
「伸ばすな「はい」だ芦戸。……くれぐれも失礼のないようにじゃあ行け!」
ヒーロー名の考案から1週間が経った、僕の職場体験先はリューキュウ事務所に決定した。
相澤先生からは、守りに関係する“個性”を持つ、クラストにしないのかと言われたけど、色々言葉を尽くしてリューキュウ事務所に行くことに納得してもらった。
相澤先生的には、今回の職場体験は一足先にヒーローの現場を見こいって感じだからか、なるべく本人の希望を尊重してくれた。
……というわけで!僕はワクワクしながら、リューキュウ事務所に向かおうとしてたんだけど……。
「ねぇねぇ!なんで目に光がないの!?なんでそんなに怪しい顔なの!?なんでSNSで炎上してるの!?不思議!」
この人……先輩だよね?
相澤先生から、リューキュウ事務所にお世話になっている先輩がいるらしく、今回僕の引率をしてくれると聞いて、道中で話を聞こうと思ってたんだけど……さっきからずっとこの調子です。
この人の名前は“波動ねじれ”さん。
こんな感じでも雄英の三本指に入る実力者らしい。そんな感じには見えないんだけどね。
これじゃあ引率の先輩どころか、こっちが面倒見なきゃいけない幼稚園児だよ。
まぁ……可愛いからいいんだけどね!
“だがイケメンに限る”って言葉があるように、“だが美人に限る”って言葉もあってもいいと思うんだよね。
……いや、男と女の子じゃあ美形かどうかの価値も変わってくるか……なにかとシビアだもんね!
男の僕が、だが美人に限るなんて女性に言ったら、袋叩きにあうもんね!
というわけで、余計なことは言わずに、リューキュウ事務所に行こう!
「ねぇねぇ!なんで男の人に嫌われてるの!」
……多分、顔かな?
「ようこそ!リューキュウ事務所へ!」
リューキュウだぁ!!!
すっげぇ美人!
微笑みの隙間から見えるギザ歯エッロぉ!
チャイナドレス風コス着こなしてる!
失礼、取り乱しました。
でも仕方ないじゃん?目の前に最推しがいるんだよ?
オタクなら感極まっちゃうものでしょうよ!
え?一緒にするな?肩組まないでください?
……
…………
………………
照れるなよ!*1
「あの?大丈夫?」
「え?あ、あぁはい!元気です!」
「ふふ……初めて会った時も思ったけど、面白い子ね」
「お、覚えていてくれたんですか!?」
「えぇ……あの時にかけてくれて言葉、とても嬉しかったわ」
これは認知されてるって認識でOKだよね!
あぁ……でも推しに認知されてるってちょっと複雑だなぁ……嬉しさと、僕なんか認知しなくて大丈夫ですって気持ちがせめぎ合ってる。
とりあえず、落ち着きを取り戻すためにも……噛んで貰っていいですか?
「というわけで、これから1週間よろしくね。まずは自己紹介でもしましょうか」
「はい!僕は張理有ハル!ヒーロー名はハルです!」
「ふふっ元気いっぱいでよろしい……改めて私はリューキュウ。そしてこの子が君の先輩で、うちにインターンに来ている」
「波動ねじれだよ!さっきも自己紹介したよね!なんでもう一回するの不思議!」
「好奇心旺盛な子よ、仲良くしてあげてね」
……ここに天国がある。
好奇心旺盛で元気な波動先輩を、軽く抱きしめて聖母のような微笑みを向けるリューキュウ……絵画かな?
この瞬間を絵にしたら、モナリザとか軽く凌駕するんじゃない?
……言い過ぎかな?いや!目の前に広がる光景にはそれだけの価値がある!
脳内フォルダに焼き付けとこ……あ、容量が足りない!すまん峰田くん!君と一緒に見た巨乳の人のことは消すことにする!
「自己紹介もしたことだし、これからのことを説明するわね」
「よろしくお願いします」
……君らの考えはわかるよ。聞こえないからって、心の中で狂ってたくせに急に真面目になるなでしょ?
残念だけど演技は上手いからね!心の中を一切感じさせない好青年を演じてるよ!
最推しを前に醜態なんて晒さないよ!残念だったね!
「基本的に昼と夕方の2回、周辺パトロールに出るのだけれど、それ以外は基本待機になるわ。事件や事故が起きれば、その都度警察からの応援要請が来て、逮捕協力や人命救助をするという流れね。もちろんパトロール中に、事件が発生することもあるから、気を抜いちゃダメよ」
「なるほど……はい!」
「次のパトロールまで少し時間があるし、体育祭の活躍は知ってるけど、君がどれだけできるのか……ウォーミングアップついでに、実際に見せてもらおうかな?」
「はい!喜んで!」
学校で簡単に習ったけど、こうしてプロの口から説明されると、現場に来たって感じがするよね!
とりあえず、リューキュウに良いとこ見せるために頑張っちゃうぞ!!
「……なってない……まるでなってないぞ!!」
上半身裸の筋肉質な大男が、街のど真ん中で叫ぶ。
男の足下には、複数人の男性ヒーローが倒れている。
周りの人々は、スマホを向け野次馬に勤しんでいる……まるで、男の脅威が自分たちに向かないと高を括っているようだ。
「これだけの男がいて……誰一人として己の性癖を晒すことができんとわな……同じ男として恥ずかしいぞ!」
男の発言に周りの人々は、目を丸くする。
だってそうだろう……これだけのことをしておきながら何を宣言するかと思えば、性癖がどうとかだ。
はっきり言って頭がおかしい。
「この俺を満足させる者はいないのか!」
男は“個性”を発動したのか、肉体を動物の様に変化させ街を駆ける。
この男との出会いが、これからの僕に大きく関わってくることになるとは……この時はまだ知らなかった。
というわけで、職場体験編が始まりました。
先に言っておきます。オリジナル敵登場します。
苦手と思われる方は注意してください。