そのキバで僕を噛んでくれ!   作:松田ゐふ

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お前!東堂枠かよ!!

「ハルよ!貴様の性癖はなんだ!!」

 

「ギザ歯の素敵な女性がタイプです!!」

 

 

 

 筋肉質な上半身裸の男と僕が激突する。

 

 ……僕は街のど真ん中で何をしているんだろう。

 

 ……僕は目の前に最推し(リューキュウ)がいるのに何を言ってるんだろう。

 

 ……僕は本当に何をしているんだろう。

 

 

 

 なぜこうなったのか、それは一時間ほど前に遡る。

 

 

 


 

「それじゃパトロールに行きましょうか」

 

「はい!」

 

 ウォーミングアップを済ませた僕たちは、事務所を出てパトロールを始めた。

 

 ちなみに、僕のコスチュームはUSJの一件から少し変わったんだ。

 どこが変わったかって?グローブとスニーカーだよ!

 金具付きの指ぬきグローブは、分厚いパンチンググローブのようなものに、スニーカーは耐衝撃に優れたブーツに変えたんだ!

 理由は《バリアブルスマッシュ》の反動を軽減するため。

 さて、それじゃ新しいコスでパトロールに行きますか!

 

 こうして始まった、初めてのパトロール。

 途中でリューキュウやねじれ先輩……ネジレチャンのファンが、ファンサを求めたりするのを眺めていたら、僕のファンを名乗る人達に遭遇したんだ。

 

 通学の時にも握手とかサインを求められたけど、中々嬉しいもので、モチベーションとかがガンガン上がっていくね!

 

 それからもパトロールは続けていると、リューキュウの無線から応援要請が来た。

 

『大通りに敵出現!至急ヒーローの応援お願いします!』

 

「聞いたわね、行くわよ!」

 

「「はい!」」

 

「ハル!あなたは逃げ遅れた人の誘導をお願い!」

 

「は、はい!」

 

 びっくりした!急に名前呼びされたかと思った!

 そっか、ヒーロー名を本名にしたからか……ってそんなこと考えてる場合じゃない!しっかりしろ!おふざけは無しだ!

 

 気持ちを切り替えて、現場に向かうとそこには……

 

 

 

「この街の男もてんでなってない!」

 

 

 

 上裸の男が、男性ヒーローや警官の山の上で怒りを顕にしていた。

 

「……最悪ね」

 

「あの敵のこと、知ってるんですか?」

 

犀原 角(さいはら かく)……男性ヒーローを執拗に狙う敵よ」

 

「なぜ男性ヒーローを?」

 

「それは見ていればわかるわ」

 

 

 

「なぜ己の性癖を隠す!」

 

 

 

「は?」

 

 今、こいつなんて言った?

 

 

 

「性癖とは即ち、これまでの人生の軌跡!それを隠すということは、ろくな生き方をしてきていないと同じ!」

 

 

 

 多分だけど違うと思う。

 

 

 

「己の性癖を隠す者を俺は断じて認めん!!」

 

 

 

 こいつ頭おかしい。

 

「見ての通り、話が通用しないの……おまけに、かなり強い」

 

「……なるほど」

 

 頭を抱えるリューキュウと僕、波動先輩は目の前の敵が何を言ってるのかわかっていないようで、はてなを浮かべている。

 

「そこにいるのはリューキュウか」

 

「え、えぇ……犀原あなたを捕まえに来たわ」

 

「ふん、俺は女を殴る趣味はない……今引くと言うのなら見逃してやる」

 

「そういう訳にもいかないのよ……ネジレチャン行くわよ!」

 

「わかった!」

 

「……ハル、あなたにも“個性”使用の許可を出します……万が一は“個性”を使ってでも逃げなさい」

 

「リューキュウ……!?」

 

「……仕方ないな」

 

 “個性”で竜化したリューキュウと浮遊する波動先輩、そんな2人を見て犀原は首鳴らし、不機嫌な顔のまま突撃する。

 リューキュウがあんなことを言うなんて、犀原はそれほど強力な敵なのかと訝しむ。

 僕はすぐにハッとして周りにいる逃げ遅れた人たちの元へ急ぐ。

 今、2人を信じよう……僕は僕にできることをするんだ!

 

「皆さんこっちです!」

 

 たしかに不安だ……でもリューキュウは、トップ10入りするプロヒーロー……いくら犀原が強くても負けることはないと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほんの一瞬でリューキュウが近くのビルに激突するまでは……

 

「は?」

 

 目の前の光景に思わず声が出る。

 リューキュウが倒された?誰に?アイツに?

 波動先輩は?……ダメだ気を失ってる……。

 

「こんなもんか……俺を捕まえるなどと、のたまうわりには……大したことなかったな」

 

「……くっ……ま、まだよ」

 

「ほう……意識はあるのか?流石はトップ10入りのヒーローということか……だがこれで終わりだ」

 

 犀原がリューキュウに近き腕を振り上げた。

 まずい!助けなきゃ!

 でも、僕がアイツに勝てるのか?

 

 負けるかもしれない……

 

 殺されるかもしれない……

 

 それでも!

 

大切な人(最推し)を見殺しなんてできるかよぉ!!

 

「眠れ!リューキュウ!!」

 

「させるかぁ!!」

 

 リューキュウの前に立ち、犀原の拳をバリアで防ぐ。

 派手な音ともにバリアが軋むが、リューキュウも僕も無事だ。

 

「お前……見たところ子供だが何しに来た」

 

「救けに来たんだ」

 

「リューキュウが倒れるところを見ただろう?それでも尚、この俺に立ち向かうと?」

 

「当たり前だろ!」

 

「目の前で(最推しとして)好きな人が傷ついてるんだ!ここで動けなきゃ男じゃない!!」

 

「ハ、ハル……!?」

 

「リューキュウ……ごめんなさい。でも、僕逃げたくないんです!だから後で叱ってください!」

 

「面白い!」

 

 僕の啖呵に犀原は笑うと、リューキュウと僕から距離を取り、人がいなくなった道のど真ん中で高らかに叫ぶ。

 

「俺は犀原角!ケツとタッパのデカイ女が性癖です!!」

 

 犀原が己の性癖を叫ぶと、彼を中心に突風が吹きオーラのようなものを纏う。

 

「い、今のは……?」

 

「“性癖解放”!……己の性癖を開示することで、人としての格を上げ、全能力を底上げする技だ」*1

 

「そ、そんなことができるのか……!?」*2

 

「性癖と向き合い続けた者だけが、到れる極地だ!」*3

 

「……確かにさっきとまるで違う……」*4

 

「驚くのはまだ早いぞ……俺は後3つ解放を残してある」*5

 

「……何……だと……?」*6

 

「安心しろ……お前も俺と同じ高みに登ることができる……あの啖呵にそれだけの可能性を見た」*7

 

 力を解放した犀原と向き合い、構えをとる。

 リューキュウが手も足も出なかった相手だ……緊張で体が震える。

 それでも、僕が逃げればここにいる人たちがどうなるか分からない。なら、戦わないと!

 

「お前……名前は?」

 

「ハル……それが僕の名だ!」

 

「ならば問おう!」

 

 

 

「ハルよ!貴様の性癖はなんだ!!」

 

「ギザ歯の素敵な女性がタイプです!!」*8

 

 

 

 犀原と僕の拳がぶつかり合った。

 こうして僕の長いようで短い職場体験が始まった。

 

 振り返ってみると……本当に何やってるんだろうね、僕。

 この時は、目の前で色々起きて、正常な判断が出来なかったんだと思う。

 

 ……だからあんなことになったんだ。

*1
そんなものはありません。

*2
できません、むしろ格が下がってます。

*3
プラシーボ的なあれです。

*4
気のせいです。

*5
これ以上、下がる格ねぇだろ

*6
そこまで驚くことか?

*7
もはや悪口だろ。

*8
※彼はテンションがおかしくなっています

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