「こんなものか!ハル!」
「うるさいなぁ!黙ってろよ!筋肉ダルマ!!」
大通りの真ん中で、僕と犀原の殴り合いはその勢いを増していた。
……手を抜かれている。
トッププロのリューキュウと、雄英の実力者波動先輩が一瞬でやられた相手に、ここまで張り合えているのは、明らかに向こうが手加減をしているからだ。
何が目的かは分からない……でも相手が僕を舐めているなら、そこに付け入る隙があるはず!
《バリアラッシュ》
両手足にバリアを纏うように展開して、連続攻撃を仕掛ける。
ダンスで鍛えた体感から、放たれる旋風脚をバリアで強化したが、犀原は片腕で防御する。
……山ッ!?
腕に蹴りが直撃した瞬間、そんなイメージが頭を過ぎる。
犀原の鍛え上げられた肉体は、それほどまでに硬く強かった。
弾かれた反動を利用して、バタフライキックに回転を加えて、体重を乗せた蹴りを放つがまた片腕だけで防がれる。
それでも、拳の連打、足下を狙った蹴りやフェイントを加えて攻め続けるが、有効打どころか無駄に体力を消費するだけに終わる。
「……なかなかいい動きをするな……師に恵まれたな」
「悪いけど全部独学なんだよねっ!」
「才能か………………もったいない!これほどの才があるというのに、実にもったいないぞ!!」
「何が言いたんだよ」
「手本を見せてやる……死ぬなよ」
「は?」
「“性癖解放”……Mt.レディの谷間に居住権を移したい!!」
先程の解放と同じように、突風が吹きオーラが濃くなる。
「拳とはこうやって打つのだ!!」
「マジかッ!?」
その巨体のどこから、それほどのスピードを出せるのか分からないが、一瞬の隙を使って急接近した犀原は、拳を放った。
任意のバリアじゃ間に合わず、オートバリアが展開される。
次の瞬間、ガラスの割れるような音と共に、バリアにヒビが入った。
「二段階ではまだ足らんか……だが見取り稽古には丁度いいか……構えろ」
やっぱり僕を鍛えるために、わざと手を抜いていたんだ。
こいつの言うことを聞かず、隙を見て応援を呼ぶことが出来るかもしれない……だが、まだここには倒れた男性ヒーローや警察……リューキュウや波動先輩がいる。
僕の軽率な行動で、犀原が怒ればこの人達がどうなるか分からない……なら今すべきことはひとつしかない。
「……よろしくお願いします」
僕は構えを取った。
そっちがその気ならやってやる……僕の糧になれ。
この戦いでお前を超える。
再び殴り合いが始まる。
「はぁッ!!」
殴り合いはまだ続く。
犀原の動きを見て、自分のフォームを改善していく。
始めてた頃と比べて、威力もキレも上がってきている。
今ならいける!
そう思い、目の前に展開したバリアを腕で纏ったバリアで破壊する。
《バリアブルスマッシュ》
バリアが砕けエネルギーが放出される。
犀原は、両腕で防御する。
エネルギーが霧散していくと、腕に軽傷を負った犀原が立っていた。
「……お前のバリア……エネルギーの塊か」
「……」
「恐らく……エネルギーを圧縮することで、高密度空間を生成する……それがお前の“個性”だな。そして今の技は……圧縮したエネルギーを解放することで、攻撃に転用した」
「キッショ、なんで分かるんだよ」
「俺はお前の師だ。……この程度見抜けないようでは、教える資格なんぞない」
「いつから師になったんだよ!」
《バリアブルスマッシュ》
「……」
今度は防御もせず、犀原は真正面から衝撃波を受けた。
煙が晴れると、特にダメージを受けた様子がない犀原がこちらに近づいていた。
「……お前はこの技の半分も使いこなせていない」
「何を言って……」
「俺の腕にバリアを纏わせろ」
「は?」
「纏わせろ」
腕を掴まれたかと思うと、バリアを纏わせろとわけのわからないことを言う犀原。
その勢いと圧に、僕は言われた通りにバリアを纏わせる。
「“性癖解放”Mt.レディの滴る汗で溺れたい」
……間近でそんなこと言わないで欲しい。
人がせっかく空気読んで真面目にしてるのに、性癖を暴露する度にギャグになってしまう。
……実際、ギャグなんだけど!
《バリアブルスマッシュ》
心の中でツッコミをしていると、犀原の拳が僕の顔の横を通り過ぎ、オートバリアに激突する。
瞬間、バリアの周りの空間に赤黒いヒビが走り、エネルギーが炸裂した。
「な、に……をした……んだ」
こんな技僕は知らない。
「お前のバリアの核を打ち抜いた」
「……核?」
「やはり感覚で使っていたか…………バリアを展開する際、エネルギーを圧縮しているのであろう。ならば、バリアの中心ほどエネルギーは圧縮されている。腕に纏い、目の前に展開した2つのバリアの中心……核をぶつけ合うことで、より強力になる」
「今のが……」
「やってみろ」
「え?」
「安心しろ……俺がサンドバッグになってやる」
「いや、それは……」
「お前の心配もわかる。生身の俺には打てないのだろう?……だから三段階目を解放したんだ……今この瞬間……俺は“個性”を使用する」
犀原はそう宣言すると、体がより分厚く膨れ上がる。
肌は灰色になり、盛り上がった筋肉を鎧のような皮膚が覆い、鼻には角のようなものが生えてくる。
「俺の“個性”はサイ!サイっぽいことをサイ以上できる!俺の鍛え上げられた肉体が、“個性”によって強化されることで、エンデヴァーさえ傷つけることができない……鋼の肉体となる!!安心して打ってこい!!!」
「エンデヴァーと戦ったことあるの?」
「あぁ……性癖を話そうともせん、しょうもない男だった。確かに強かったが……性癖を隠す者に俺が負けるわけがない」
この話の真偽はどうであれ、少なくとも犀原はオールマイトクラスでないと、相手にならない化け物だ。
上手く……やらないと。
犀原が見せた、《バリアブルスマッシュ》の真の一撃。
あれを出さないと……。
プレッシャーが重くのしかかり、思うように動けない。
拳の打ち方ってどうすれば……いいんだっけ?
「呑まれるな!!……こういう時、どうすればいいかお前は知ってるはずだ」
犀原の言葉が迷いを消す。
こいつは何がしたいのか分からない。敵のくせにヒーローを目指す僕を強くしようとする。
でも、認めてもいいかもしれない……この人は僕の師匠だと。
「“性癖解放”…………ギザ歯で痕が残るくらい噛んで欲しい!!」*1
雑念が消える。
……性癖を高らかに叫ぶのってこんなにも心地が良いものなんだ。
今なら、なんでもできる気がする。
ゆっくりと師匠に近づいていく。
成功するビジョンを頭に思い浮かべ、ただそれだけを考える。
「バリアブル……」
「……スマッシュ!」
師匠の胴にバリアを展開し、全力で拳を振るう。
バリアに当たる瞬間、世界がスローになる。
これがゾーンというやつだろうか……あぁいける!
瞬間、空間に赤黒いヒビが走る。
辺りが揺れ、師匠の胴に強烈な一撃が放たれる。
放出されたエネルギーは、あまりの威力に赤黒く染まり輝く。
師匠は吹き飛ばされ、道路を転げ回ると何事も無かったかのように立ち上がる。
その腹にできた赤黒い痕が、威力を物語っている。
「ふはは!いいぞ、ハル!マスターにも紹介せねばならんな!!」
「ま、マスター?」
「我らが、“解放の園”のリーダーにして、俺が唯一敬う御方だ!」
まだいるんだ……師匠みたいな人。
「また、会える日を楽しみにしておくぞ!」
僕の成長を見届けたからか、師匠は笑いながらどこかへ行ってしまった。
なんでだろう……近いうちに会えそうな気がする。
なお、この一件は瞬く間にSNSで拡散され、僕の活躍と痴態が全国に知られることになった。
後、リューキュウを守る際に、言った言葉を告白と捉えたのか、切奈とトガちゃんから恐ろしい数の連絡が来た。
……職場体験が終わったら、死ぬな……。
こうして、波乱の職場体験一日目は終了した。