「リ、リューキュウ!違うんです!噛みたいんじゃなくて、噛んで欲しいんです!」*1
「似たようなものでしょ!?ふざけないで!ネジレチャン!あなたからも言ってちょうだい!」
「……チ」
「チ?……え?チ?」
「……チンチン」*2
「ネジレチャン!?」
あぁもうめちゃくちゃだよ!
Mr.Yという敵のせいで、現場は混乱状態!
波動先輩も僕も敵の“個性”のせいで、Y談しか話せない。
……というか波動先輩のY談ってチンチンなんだ……。
ん?メッセージ着た。
ちっ、誰だよ人が困ってるトキにメッセージ送ってくるバカはよぉ~!
……緑谷くんじゃん。
……住所だけ……送ってる。
「ハル?どうしたの?」
「……リューキュウ噛んでください」*3
「変なこと言わないって……この場所、保須市内じゃない」
さすがリューキュウだ。保須市に来て半日も経ってないのに、住所を頭に入れてるんだ。
じゃなくて!緑谷くんがなんの意味もなく、住所だけを送るなんてことするかな?……しかも保須市内。
まさか!
僕はスマホを使ってメッセージを打ち込む。
「リューキュウ!」
『もしかしたら、友人がヒーロー殺しと遭遇したかもです!』
「なんですって!?」
『すみません!僕、行きます!』
「ハル!……あぁもう!ネジレチャン、まずはここの人たちを、安全なところまで連れて行くわよ!」
「チンチン!」*4
「……元に戻るまで、無理に話さなくてもいいわ……」
人気のない路地裏……そこでは“ヒーロー殺し”ステインと、緑谷たちが戦っていた。
「ハァ……いつまでそうしてられる……偽物を庇ってボロボロじゃないか」
「つ、強い……」
「緑谷……大丈夫か?」
「う、うん……なんとか……それよりも来るよ!」
「ハァ……いいぞ!」
「もう……もう、やめてくれ!」
「飯田くん!?」
「飯田!?」
「戦闘中だぞ……視線を逸らすな!」
飯田の叫びに、緑谷たちが目をそちらに向けてしまい、ステインはナイフを投げつける。
その一瞬は、致命的な隙を産んでしまった。
ナイフは、轟が急いで生成した氷壁を、僅かにすり抜け飯田に向かって一直線に進んでいく。
「ッ!?」
ヒーロー殺しの“個性”によって、動くことができない飯田は迫り来るナイフに何も出来ず、ただその時を待つ。
「……ほう」
「なっ!?」
「えっ!?」
「……くッ…………なぜ?」
甲高い音とともにナイフが弾き飛ばされる。
顔を上げた飯田は、目の前の人物に驚く。
「ハルくん!」
「ハル!」
「ハルくん……なのか?」
「また子供か……やけに邪魔が多いな」
「……皆、もう大丈夫」
「僕が強めに噛んでもらいに来た!」*5
「……」*6
「……」*7
「……」*8
「……」*9
「……」*10
まだ解除されてないねぇぇぇ!!!
いい加減にしてよ!なんだよ噛まれに来たって!?度を越した変態じゃないか!!
やめて!そんな目で見ないで!
「……ふざけているのか?」
「だから強めに噛んで欲しいんだ!」*11
「……」
「ギザ歯でアソコを甘噛みして欲しい」*12
「……」
「巨大な牙で噛み砕かれたい!」*13
ダメだ!全然解除されない!
一定の話数喋れば解除されるかと思ったけど、違うみたい!あの敵め!解除方法くらい教えてから帰れよ!
ていうか……ヒーロー殺しの顔怖っ!!?なんであんなに睨んでんの?生理かな?
「ハァ……お前は見せかけだけの偽物……否!それ以下の愚物だァ!!」
「粛清対象だ!」
「……マジかよ……あっ戻った!」
なんか怒らせたっぽい。
というか、このタイミングで強制Y談の効果が切れたのか、普通に喋れる!良かった!これで変な奴だって思われずにすむよ。*14
「殺す」
「……はぁ、緑谷くん!轟くん!守りは任せて!3人で戦うよ!」
「あぁ!」
「うん!」
「取り繕っても無駄だ!!」
「悪いけど……犀原より弱いよアンタ」
緑谷くん達を無視して、突っ込んできたヒーロー殺しを、バリアを展開して迎え打つ。
「ッ!?厄介だな!」
「アンタには何もさせない」
《バリアブルスマッシュ・改》
赤黒いヒビとともにエネルギーが放出され、バリアに攻撃していたヒーロー殺しに直撃する。
「やったか?」
「轟くん……それ言っちゃダメなやつ」
「え、そうなのか?」
「ハァ……偽物のくせに中々良いな……」
どうやら、ヒーロー殺しはこれまでの戦闘経験から、咄嗟に回避したらしく、軽傷で済んだみたいだ。
「……なんでなんだ……止めてくれ……もう……僕は……」
「……飯田」
「なら立てよ!!」
飯田の小さな泣き言に、僕は大声で返す。
君の事情は知らないけど、どうしても言わなくちゃいけない気がしたから。
「僕の体には敵の血が流れてる!!でも、ヒーローになりたいからここにいる!」
「ッ!?」
「なッ!?」
「……」
「ハル……くん?何を言って……?」
「飯田くんが、どうしてそうなってるのかは……ごめん、わかんない!……でもこれだけは言える!」
「なろうよヒーローに!!だからここにいるんだろ!!」
僕の言葉が飯田くんに響いたか分からない……でも、伝えることは伝えた。後は飯田くんがどうするかだ。
「……お前……何しにここに来た」
「へ?」
「答えろ」
さっきまで、僕を殺そうと殺気ビンビンだったヒーロー殺しが、問いかけてきた。
「……ここに困ってる人がいると思ったから」
「ほう……」
「僕は……皆を照らす
「……ならば俺を倒して証明して見せろ!本物になれハル!!」
「言われなくてもやってやるよ!!」
《バリアブルスマッシュ・改》
「僕たちのことも!」
「忘れんなよ!」
「ぐっ!?」
僕の放ったエネルギーを回避したヒーロー殺しだったが、緑谷くんと轟くんの不意打ちに対応できず、攻撃を食らう。
「おかわりもあるよ!」
《バリアブルスマッシュ・改》
「ぬっ!?」
そこに僕も加わり、連続で攻撃を食らわせていく。
着実に追い込んではいる、だけどヒーロー殺しの執念は凄まじく、何度攻撃を受けても起き上がり、僕と飯田くんを狙ってくる。
あともう少しなんだ!でもその少しが足りないんだ!
「……飯田くん!僕が二瞬作る……その隙に行けるかい?」
「あぁ……大丈夫だ!」
「しっかり決めてね委員長!」
《バリアブルラッシュ》
腕を捨てた連打を、ヒーロー殺しに叩き込む。
バリアを展開したところから殴って破壊し、エネルギーによる連続砲撃で動きを封じる。
「くッ!?こんなもので……俺が止まるわけがないだろう」
「知ってる……だから任せたんだ」
「うおぉぉぉ!!」
「はあぁぁぁ!!」
エネルギーの連続砲撃から抜け出すために、高く跳躍したヒーロー殺し。
そこを飯田くんと緑谷くんが狙い打つ。
脚と拳が直撃し、今度こそヒーロー殺しは気を失った。
「お、終わった……」
“ヒーロー殺し”ステインとの戦いは、こうして終わりを迎えた。
「……ハルくん……さっきのって」
「あぁ……敵の血がってやつ?」
「うん」
「……あれは本当なのか?」
「本当だよ……でも詳しいことは後にしよ……まずはヒーロー殺しをプロか警察に渡さないと」
「そうだね」
「僕のワイヤー使って」
「ありがとう」
拘束したヒーロー殺しを連れて、路地裏を出る。
「皆!無事?」
「リューキュウ!怪我人はいますが、全員生きてます!」
「ハ、ハル……もとに戻ったのね。……報告ありがとう、すぐに救急車の手配と警察に連絡をお願い!」
リューキュウは近くにいるヒーローに指示を出し、ヒーロー殺しの身柄を預かってくれた。
これで終わったんだ……そう安堵してしまった。
次の瞬間、緑谷くんが飛行する脳無に連れていかれてしまった。
リューキュウや謎のおじいちゃんヒーローが、追いかけようとする。
しかし、それよりも早く動いた者がいた。
ヒーロー殺しだ。
隠し持っていたナイフで拘束を解除すると、ヒーローに付着していた脳無の血液を舐め取り、“個性”を発動する。
「偽物が蔓延るこの社会も徒に力を振りまく犯罪者も」
「粛清対象だ」
動きが止まった脳無は徐々に落下していき、その隙をついてヒーロー殺しはナイフを脳に突き刺して、緑谷くんを助けた。
「全て正しき社会の為に」
「助けた」
「バカ!人質とったんだ」
「躊躇なく人殺しやがったぜ」
「いいから戦闘態勢とれ!とりあえず!」
突然の出来事にヒーロー達は後手に回る。
「何故一カタマリでつっ立てっている!!?」
「そっちに一人逃げたはずハズだが!!?」
「エンデヴァーさん!!」
「あちらはもう!?」
「多少手荒になってしまったがな!して……あの男はまさかの」
「エンデヴァー……」
「ヒーロー殺し!!」
「待て、轟!!」
「贋物……正さねば、誰かが……血に染まらねば……!」
「英雄ヒーローを取り戻さねば!!」
「来い。来てみろ贋物ども」
「俺を殺していいのは本物の英雄オールマイトだけだ!!」
これがヒーロー殺し……恐ろしい敵だ。
ここには、何人ものプロヒーローがいるはずだ。
なのに僕たちは一歩も動けなかった。ヒーロー殺しの覇気に気圧され、呼吸すら忘れてしまうほどだった。
幸いにも、ヒーロー殺しは既に気を失っており、すぐに警察に連れて行かれた。
色々内容が濃かった、保須市での出張はこうして終了した。