そのキバで僕を噛んでくれ!   作:松田ゐふ

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【急募】ここから助かる方法

は?

 

 私は()()を見た瞬間、頭が真っ白になった。

 いつも私に情けない姿で懇願する幼なじみの腕に、私じゃない誰かの噛み跡があった。

 咄嗟にハルの腕を掴み、跡を見る。

 真っ白になった頭の中が、嫉妬と怒りでいっぱいになる。

 

 なんで?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 私というものがありながら、他の子に現を抜かすなんてありえない。

 いつも私に頭を下げてるくせに、もう既に誰かに噛まれてるなんて、考えるだけで頭が割れそうになる。

 ハルの性癖については理解してるつもりだ。

 テレビのモデルとかヒーローとかを見て、あの歯いいよねって言うくらいなら許せる。

 でも噛んでもらうのは違うじゃん……これは私に対する裏切りだよね?

 あれだけ私のギザ歯は特別なんだって熱弁してたのに、噛んでくれるなら誰でもいいんだ。

 

「ねぇ……黙ってないで答えてよ」

 


 

 ここから入れる保険ってあったりしませんか?

 浴室の壁に押さえつけられた僕(全裸)と、僕の腕を掴んで恐ろしいほど真顔で、圧をかける幼なじみ(全裸)。

 どこから見ても痴情のもつれで、僕が刺される場面です。

 どうしよう……オールマイト呼んだら助かるかな?

 

「えっと……先に服着ない?ほら、色々見えちゃってるからさ」

 

「ハルに見られて困るものなんてない」

 

 わぁ漢前。

 タオルで隠れているとはいえ……綺麗な肌してるね。胸も程よい感じで僕好みの大きさだ。

 今までギザ歯だけに着目していたけど、切奈って見れば見るほど僕の理想な気がしてきた。

 性格が良いことは昔から知ってるし、幼なじみだからかもしれないけど一緒にいても苦にならないし、スタイルもいい、あとギザ歯。性癖についても、僕がギザ歯で噛んでくれってお願いしたら、引きはするけど拒絶はしないし、普通に接してくれるくらい寛容。

 

 ……僕の理想の恋人としてピッタリなんじゃないかな?

 実際、好きか嫌いかで聞かれたら、迷いなく好きと即答できる。

 

 ……もしかして僕ってば切奈のこと結構好きだったりする?

 あーまずい。急にこの状況が恥ずかしくなってきた。タオルで隠れてるけど、お互い全裸のこの状況、意識しない方がおかしいじゃない。

 

「ねぇ何か言ってよ」

 

「……ごめん」

 

「謝るってことはやっぱり、やましい事したんだよね」

 

 真顔だった切奈の瞳に涙が溢れ始めた。

 僕のバカ!何やってんだ!

 ちゃんと説明しよう。それで切奈が納得してくれるかは分からないけど、この跡がどうしてできたのかしっかり話そう。

 

「この跡はね……小学校の時にできたんだ」

 

「そんな昔……」

 

「公園で出会った女の子が……小鳥の血を吸ってたんだ」

 

「は?」

 

「だから僕は、それを止めて吸うなら僕のにしろって言ったんだよ。ほら、僕の母さん健康に気をつかってたから……僕の血ならバイ菌とか無いかなって思ってさ」

 

「……」

 

「それで……その女の子嬉しそうに僕の腕に噛み付いたんだよね」

 

「それがこの跡?」

 

「うん」

 

「その子は今何してんの?」

 

「わからない……血を吸わせた後、貧血で倒れちゃって気づいたらもういなかったんだ。意識がなくなる前に、明日も遊ぼって約束したんだけどね……結局あの子は来なくて……それっきりどこにいるのかも名前もわかんない」

 

「そっか……じゃあ私以外には噛んで欲しいとか頼んでないんだよね」

 

「もちろん……切奈だけだよ」

 

 切奈は表情は徐々に戻っていく。どうやら納得してくれたようだ。

 

「ねぇ……ハル?」

 

「ん?なに?」

 

「じっとしててね」

 

「は?」

 

 腕を離して少し自由になった僕に、切奈は少し考えた素振りを見せると、僕の目を手で覆ってきた。

 

 ガブ

 

「ッ!?」

 

 右肩に鋭い痛みが走りる。

 力強く尖った何かで刺されるような感覚が、全身をめぐり脳を刺激する。

 何をしているのかなんて、見なくても分かる。切奈は僕の肩を噛んでいる。

 

「せつ……な」

 

「黙ってて」

 

 切奈は目を覆う手は動かさずに、左手首を噛む。

 そこにはあの子がつけた噛み跡がある場所だ。

 痛みが脳に到達しドーパミンやアドレナリンが分泌されて、快感を感じる。

 

 “個性”が発現してから僕の生活に痛みは無くなった。

 例えば、転びそうになった時、地面にぶつかる前にバリアが展開して僕を守る。死角から飛んできたボールが当たりそうになった時も、バリアが僕を守った。

 そんな生活をしていたある日、あの子に噛まれた。

 

 痛かった。

 

 でもそれ以上に気持ちよかった。

 

 それからだ、僕が噛んで貰いたくなったのは。

 

「切奈!」

 

 目を覆う手を掴み、左手首を噛んでいる切奈を止める。

 

 痛みを感じ快感を得た僕は、痛みがひく少しの間()()になる。

 何度か試した結果、ハイになった僕はリミッターが外れるみたいで危ない。

 だからこれ以上はまずいと切奈を止めた。

 

「切奈……これ以上は()がどうなるかわからない」

 

「……わかった」

 

 切奈は僕の様子を見て体を離してくれた。

 正直危なかったとしか言いようがない。あのままだと、押し倒してそのまま最後までいっていたかもしれない。

 告白も交際もまだなのにそれは駄目だ。微かに残った理性で、本能を抑える。

 

「その傷、私が上書きしたから……あの子のことは忘れてね」

 

 浴室を出る切奈が顔を近づけて耳打ちする。

 

「……」

 

 浴室の扉が閉められ、脱衣場から切奈が着替える音が聞こえる。

 

「これどうしようかな」

 

 タオルを持ち上げ主張する()()をどうしたかは、僕だけの秘密だ。

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