そのキバで僕を噛んでくれ!   作:松田ゐふ

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張理有 ハル:オリジン

 思い出すのは、幼い頃の記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじさん! すげぇ!!」

 

「へへ、ハルも練習したらできるようになるよ」

 

 僕は叔父さんが好きだった。

 たまに、家に来て手品を見せてくれる叔父さんが、好きだった。

 

「みてみて! おじさん! できるようになったよ!!」

 

「お! すごいじゃないか! ……流石ハル! 俺の甥っ子だ!」

 

 教えてもらった手品が、できるようになるのが嬉しかった。

 手品を成功した僕の頭を、撫でて褒めてくれるのが嬉しかった。

 

 10年も前のことだけど、未だに覚えている。

 多分、これが僕の“原点(オリジン)”ってやつなんだろうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで! 敵になったんだよ!!」

 

「“世直し”のためだ!!」

 

 僕は怒りや、悲しみ……あの日から、ずっと蓋をして見ないフリをしていた感情を、拳に乗せてコンプレスを殴る。

 

「マジシャンは手が命って教えたよな? 粗末にあつかうなよ!」

 

 コンプレスは、ひらりひらりと身軽な動きで、僕の攻撃を躱していく。

 

「アンタが……アンタが敵になるなんて思ってもみなかったよ!!」

 

「それは俺を知らないだけだろ」

 

「アンタは優しかった! 手品を教えてくれた! 褒めてくれた! ……そんなに血が大事か!」

 

「大事とか、そういう次元の話じゃないんだよ! ……“(これ)”は宿命なんだ!!」

 

「宿命!? なら敵じゃなくて……もっと別の方法があっただろ!!」

 

「ないんだよ! 今のヒーローは汚れている! だから、俺が正すんだ!!」

 

「ヒーローの前に自分を正せよ!!」

 

 互いの主張のぶつけ合い、ヒーローと敵じゃなく、家族喧嘩のような戦いは、始まったばかりだ。

 

「俺に説教する前に、もっと自分を気にしたらどうだ! ろくに“個性”も使いこなせてないのによ!!」

 

 コンプレスが、僕に向かって何かを投げた。

 ビー玉のようなそれは、一瞬輝くと巨大な岩石に変わる。

 コンプレスの“個性”で圧縮されたものだ。

 

「くッ!?」

 

 巨大な岩石は、オートバリアで防いだが、コンプレスを視界から外してしまう。

 

「本当の“個性”を知ったんだろ? 使えよ……そしたらおじさんなんてすぐに捕まえれるだろ!」

 

 コンプレスは僕を圧縮しようと、死角から手を伸ばす。

 またオートバリアが展開され、手を弾く。

 

「ッ!?」

 

「バリアバリアってそれしか芸がないのか?」

 

「アンタだって圧縮だけだろ!」

 

 弾かれたことで、体勢が崩れたコンプレスに蹴りを放つ。

 コンプレスは腕で防御し、受身を取りながら、距離を取る。

 

「……アンタはあの日、あの時何を思ってたんだよ! アンタにとって僕は……張間歐児の後継でしかないのかよ!!」

 

「いや? ちゃんと甥っ子としても見てるぜ……自慢だったよ」

 

「……ッ!」

 

「だからこそ、あの時は失望したよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハルは、将来は何になりたい?」

 

「ん?」

 

 僕に“個性”が発現したあの日、叔父さんは僕に聞いてきた。

 

「んー……マジシャン!」

 

「はは、嬉しいこと言ってじゃない」

 

 この頃は、何になるかなんてしっかり考えていなくて、一番興味のあるものになりたかった。

 

「……なぁ……張間歐児って知ってるか?」

 

「はりま……おうじ?」

 

「ハルとおじさんのご先祖様だ」

 

 叔父さんは教えてくれた。

 自分たちの先祖がいかに素晴らしいか、正義の体現者だったか……何度も何度も教えてくれた。

 

 今、思えば……叔父さんはこの時から、僕に張間歐児を継いで欲しかったんだろうね。

 

 ……でも僕は断った。

 

 小学校に入学して、トガちゃんと出会って……僕の中で何かが変わった。

 

 性癖じゃなくて、もっと奥にある価値観のようなものが……変わった。

 

「……叔父さん……僕はヒーローになりたい」

 

「え?」

 

「皆の手を取って笑顔にできる……ヒーローになりたい」

 

「……そ、そうか……頑張れよ」

 

 叔父さんは少し目を見開いて、僕のことを応援してくれた。

 

 

 

 

 

その日を境に、叔父さんは姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの日……俺はお前に失望したよ……先祖がどれだけ正義に生きたか教えたのに……お前はそれを裏切ってヒーローなんか目指した!!」

 

「……僕は僕のやり方で、正義を実現するって決めたんだ!!」

 

「勝手にしろ! 俺は俺のやり方で、先祖の正義を実現する!!」

 

 僕とコンプレスの拳がぶつかり合う。

 

「ッ!?」

 

「俺が正面戦闘苦手かと思ったか? ……いずれお前とぶつかると思ってた……備えあれば憂いなしってやつだ!!」

 

 ……駄目だ。こっちのペースが乱された。

 

「動揺してんな! 勢いが止まったぜ!」

 

 コンプレスは戦闘のペースを掌握し、僕を追い詰めていく。

 圧縮されそうになるけど、バリアと反射神経で、ギリギリ回避する。

 

「……驚いたよ……アンタはそういうのやらないと思ってたから……」

 

「なら術中にハマったな!」

 

「うん……見事にしてやられたよ」

 

「じゃあこれで幕引きにしよう……ハル!」

 

「……叔父さん……僕さ、褒めて欲しかったんだよ」

 

「は?」

 

「あの時、ヒーローになるって言った時……他でもない叔父さんに褒めて欲しかったんだ!」

 

「命乞いか? 悪いがそういうのは聞かないようにしてんのよ!」

 

「違うよ……“原点(オリジン)”の話だよ。手品を見せた時みたいに笑って欲しかった……頭を撫でて欲しかった……凄いなって褒めて欲しかった! それが僕の“原点(オリジン)”だ!!」

 

 僕を圧縮しようと接近するコンプレス。

 オーラ内に入った……バリアでコンプレスを閉じ込め圧縮する。

 

「ッ!?」

 

「……恥ずかしい本音(オリジン)を……聞こえのいい本音で隠してた……でも、改めて宣言するよ」

 

「僕は僕のやり方で、アンタに認めてもらう。アンタに褒めて貰えるようなヒーローになる!」

 

《真・バリアブルスマッシュ》

 

 プレパラートのように薄い、長方形のガラスに圧縮されたコンプレスを、全力で蹴り飛ばす。

 

パリンッ!! 

 

 ガラスが割れるような音と共に、コンプレスは地面を転がりながら飛んで行く。

 

「立てよ……まだ喧嘩は終わってないだろ?」

 

「……クソッ!」

 

 コンプレスはよろよろと立ち上がると、コートのポケットから幾つものビー玉を投げ捨てる。

 

 圧縮が解除されると、雄英襲撃や職場体験で遭遇した個体と比べて、小柄な脳無が飛び出す。

 

「そいつは群体型脳無……一体一体はそこまでだが、数が揃えばプロヒーローですら手をこまねく厄介なやつだ」

 

「待て!!」

 

「お前はこいつらを無視できるか? ……今日のショーはここまでだ!」

 

 僕が脳無を対処している間に、コンプレスは木々を飛び移りながら、どこかへ行ってしまった。

 

「……クソッ!」

 

「……悪いけど手加減はなしだ!」

 

 僕の毒づいた声は、森の闇に消えていった。

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