完全敗北
僕らは、敵に負けた。
ブラドキングが通報していたみたいで……敵が去った15分後、救急や消防が到着した。
生徒40名の内、敵のガスによって意識不明の重体15名、重・軽傷者9名、無傷で済んだのは15名だった、そして……
行方不明1名。
プロヒーローは6名の内、1名が大量の血痕を残し、行方不明になっていた。
一方、敵側は18名の現行犯逮捕、その内の15名は脳無だった。
彼らを残し、他の敵は跡形もなく姿を消した。
僕らの楽しみにしていた林間合宿は、最悪の結果で幕を閉じた。
あの後、僕は合宿場近くの病院に運ばれた。
二日間、気絶と悶絶を繰り返し、高熱にうなされた。その間に、リカバリーガール来て治癒を施してくれたり、警察が訪ねてきたみたいだけど、何一つ覚えちゃいなかった。
目が覚めると、ベッドの横に置かれている机に、切られたリンゴが目に入った。
皿に立てかけるように、メモが残されており、お母さんの文字だと気づく。
出久……もうやだよ。お母さん、心臓もたないよ……
……合宿前の言葉が頭を過ぎる。
「洸汰くん……無事かな……」
「あー緑谷!!目ぇ覚めてんじゃん」
「え?」
「テレビ見たか!?今、学校やべーぞ」
「春の時の比じゃないよね」
「メロンあるぞ!皆で買ったんだ!」
A組の皆が、僕の病室に入ってくる。
「迷惑をかけたな……緑谷」
「ううん……僕の方こそ……A組皆で来てくれたの?」
「いや、耳郎くん葉隠くんは敵のガスによって、未だに意識が戻っていない。そして、八百万くんも頭をひどくやられ、ここに入院している。昨日丁度、意識が戻ったそうだ。……爆豪くんにも声をかけたんだが、行かないと……だから、ここに来ているのはその4人を除いた……」
「
「ハルがいねぇからな」
「ちょっ轟……」
轟くんの言葉が、頭の中で何度も繰り返される。
僕らは、かっちゃん達を救うために必死になった。
それでも手が届かなくて……ハルくんが無茶をして取り返してくれた。
そのハルくんがここにいない。
その事実が、深く突き刺さる。
「……オールマイトがさ……言ってたんだ……手の届かない場所には、救けに行けない……って、だから手の届く範囲は必ず救け出すんだ……」
僕の視界がぼやけていく。
「僕は……手の届く場所にいた……必ず救けなきゃいけなかった……!……僕の“個性”は……その為の“個性”……なんだ……相澤先生の言った通りになった……」
……おまえは一人救けて、木偶の坊になるだけ
「体……動かなかった……」
「じゃあ今度は救けよう」
「それもーらい!」
「俺のハイドラをパクんなよ!!」
「残念でした!早い者勝ちです!!」
さて、皆がシリアスになっている間、僕は何をしているんだろうね。
死柄木たちとレトロゲームに興じているよ。
「若い子ってすごいね……おじさん目がチカチカして無理だわ」
「かれこれ、10時間くらいやってるわね……まぁ元気でイイじゃない」
UN〇から始まり、ツイスターゲームや人生ゲーム、テレビゲームと、この二日間ほとんど遊んでいた。
最初こそ警戒していたけど、敵連合が僕に危害を加えないと分かると、ヒーロー達が助けてくれることを信じて、待つことにした。
「……それで?そろそろ教えてよ、僕を敵連合に誘った本当の理由ってやつをさ」
「言ったろ?ネームバリューだよ」
「それだけなら、そこにいるコンプレスで充分だろ?他にあるんだろ?僕だけの価値ってやつが」
「……本当に鋭いなぁ……ただの変態ってだけじゃねぇのな」
死柄木はコントローラーを置き、僕を真っ直ぐ見る。
「俺たちの狙いはお前……そしてトガヒミコだ」
「ッ!?」
「トガヒミコは本来コッチ側の人間だ……お前も理解してるだろ?」
「……」
「血を飲むことで、対象に変身できる“個性”を持つが故に、他者の血を求めてしまう。……当然、社会に受け入れて貰えるわけがない……だが、お前がいた」
「……」
「お前が受け入れ、愛したことでトガは自分を抑えられた……良い子として暮らしている。……でもお前が死ねばどうだ?……ヒーローなんて死と隣り合わせの職業だ。お前も死ぬかもしれないだろ?そしたらどうだ……トガは一人になる」
「……」
「トガは今度こそイカれるぜ?……お前が受け入れていたモノが、外に放たれるようになる……そうなりゃ当然、社会はトガを異端として見るだろうな」
「……」
「勘違いするなよ……俺たちは、トガが欲しいからお前を攫ったんじゃない……お前の内にある欲望もイイと思ったから、ここに呼んだんだ」
「……あのさ」
「ん?」
「さっきからベラベラ人の彼女を悪く言ってさ……尊敬するよ……」
「俺を怒らせるなんてさ」
こんな気持ちは初めてだよ……怒りでハイになりそうになったのは。
「……拘束しろよ……元々0%だった気持ちが、マイナスに振り切った……これ以上は無理だ」
「……残念だよ……トゥワイス縛っとけ」
「え!?俺!?任せとけ!!」
僕は頭を冷やすように、椅子に座り拘束される。
……我慢できなかった、本当は笑って流すつもりだった。
でも、トガちゃんを悪く言われて腹が立った。
(オールマイト……早く来てくださいね)
おそらく、水面下で動いているであろうヒーロー達に、僕は祈るしかなかった。