そのキバで僕を噛んでくれ!   作:松田ゐふ

55 / 93
ぴろぴろぴろーん!ハルくんの好感度が……上がりません

完全敗北

 

 僕らは、敵に負けた。

 

 ブラドキングが通報していたみたいで……敵が去った15分後、救急や消防が到着した。

 生徒40名の内、敵のガスによって意識不明の重体15名、重・軽傷者9名、無傷で済んだのは15名だった、そして……

 

行方不明1名。

 

 プロヒーローは6名の内、1名が大量の血痕を残し、行方不明になっていた。

 

 一方、敵側は18名の現行犯逮捕、その内の15名は脳無だった。

 彼らを残し、他の敵は跡形もなく姿を消した。

 僕らの楽しみにしていた林間合宿は、最悪の結果で幕を閉じた。

 

 

 

 あの後、僕は合宿場近くの病院に運ばれた。

 二日間、気絶と悶絶を繰り返し、高熱にうなされた。その間に、リカバリーガール来て治癒を施してくれたり、警察が訪ねてきたみたいだけど、何一つ覚えちゃいなかった。

 

 目が覚めると、ベッドの横に置かれている机に、切られたリンゴが目に入った。

 皿に立てかけるように、メモが残されており、お母さんの文字だと気づく。

 

 出久……もうやだよ。お母さん、心臓もたないよ……

 

 ……合宿前の言葉が頭を過ぎる。

 

「洸汰くん……無事かな……」

 

「あー緑谷!!目ぇ覚めてんじゃん」

 

「え?」

 

「テレビ見たか!?今、学校やべーぞ」

 

「春の時の比じゃないよね」

 

「メロンあるぞ!皆で買ったんだ!」

 

 A組の皆が、僕の病室に入ってくる。

 

「迷惑をかけたな……緑谷」

 

「ううん……僕の方こそ……A組皆で来てくれたの?」

 

「いや、耳郎くん葉隠くんは敵のガスによって、未だに意識が戻っていない。そして、八百万くんも頭をひどくやられ、ここに入院している。昨日丁度、意識が戻ったそうだ。……爆豪くんにも声をかけたんだが、行かないと……だから、ここに来ているのはその4人を除いた……」

 

1()4()人だよ」

 

「ハルがいねぇからな」

 

「ちょっ轟……」

 

 轟くんの言葉が、頭の中で何度も繰り返される。

 僕らは、かっちゃん達を救うために必死になった。

 それでも手が届かなくて……ハルくんが無茶をして取り返してくれた。

 

 そのハルくんがここにいない。

 

 その事実が、深く突き刺さる。

 

「……オールマイトがさ……言ってたんだ……手の届かない場所には、救けに行けない……って、だから手の届く範囲は必ず救け出すんだ……」

 

 僕の視界がぼやけていく。

 

「僕は……手の届く場所にいた……必ず救けなきゃいけなかった……!……僕の“個性”は……その為の“個性”……なんだ……相澤先生の言った通りになった……」

 

 ……おまえは一人救けて、木偶の坊になるだけ

 

「体……動かなかった……」

 

 

 

「じゃあ今度は救けよう」

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それもーらい!」

 

「俺のハイドラをパクんなよ!!」

 

「残念でした!早い者勝ちです!!」

 

 さて、皆がシリアスになっている間、僕は何をしているんだろうね。

 死柄木たちとレトロゲームに興じているよ。

 

「若い子ってすごいね……おじさん目がチカチカして無理だわ」

 

「かれこれ、10時間くらいやってるわね……まぁ元気でイイじゃない」

 

 UN〇から始まり、ツイスターゲームや人生ゲーム、テレビゲームと、この二日間ほとんど遊んでいた。

 

 最初こそ警戒していたけど、敵連合が僕に危害を加えないと分かると、ヒーロー達が助けてくれることを信じて、待つことにした。

 

「……それで?そろそろ教えてよ、僕を敵連合に誘った本当の理由ってやつをさ」

 

「言ったろ?ネームバリューだよ」

 

「それだけなら、そこにいるコンプレスで充分だろ?他にあるんだろ?僕だけの価値ってやつが」

 

「……本当に鋭いなぁ……ただの変態ってだけじゃねぇのな」

 

 死柄木はコントローラーを置き、僕を真っ直ぐ見る。

 

「俺たちの狙いはお前……そしてトガヒミコだ」

 

「ッ!?」

 

「トガヒミコは本来コッチ側の人間だ……お前も理解してるだろ?」

 

「……」

 

「血を飲むことで、対象に変身できる“個性”を持つが故に、他者の血を求めてしまう。……当然、社会に受け入れて貰えるわけがない……だが、お前がいた」

 

「……」

 

「お前が受け入れ、愛したことでトガは自分を抑えられた……良い子として暮らしている。……でもお前が死ねばどうだ?……ヒーローなんて死と隣り合わせの職業だ。お前も死ぬかもしれないだろ?そしたらどうだ……トガは一人になる」

 

「……」

 

「トガは今度こそイカれるぜ?……お前が受け入れていたモノが、外に放たれるようになる……そうなりゃ当然、社会はトガを異端として見るだろうな」

 

「……」

 

「勘違いするなよ……俺たちは、トガが欲しいからお前を攫ったんじゃない……お前の内にある欲望もイイと思ったから、ここに呼んだんだ」

 

「……あのさ」

 

「ん?」

 

「さっきからベラベラ人の彼女を悪く言ってさ……尊敬するよ……」

 

「俺を怒らせるなんてさ」

 

 こんな気持ちは初めてだよ……怒りでハイになりそうになったのは。

 

「……拘束しろよ……元々0%だった気持ちが、マイナスに振り切った……これ以上は無理だ」

 

「……残念だよ……トゥワイス縛っとけ」

 

「え!?俺!?任せとけ!!」

 

 僕は頭を冷やすように、椅子に座り拘束される。

 ……我慢できなかった、本当は笑って流すつもりだった。

 

 でも、トガちゃんを悪く言われて腹が立った。

 

(オールマイト……早く来てくださいね)

 

 おそらく、水面下で動いているであろうヒーロー達に、僕は祈るしかなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。