神野の悪夢から数日が経った。
あの夜、僕たちが失ったものは大きい。
テレビをつけると、連日あの夜のことが取り上げられている。
1番は、オールマイトの引退だろう。
不動のNo.1ヒーローの引退は、日本だけじゃなく世界も震撼させた。
次に、No.4のベストジーニストとだ。
彼はAFOの攻撃から、他のヒーローたちを守り大怪我を負ってしまう。
一命は取りとめたものの、長期の活動休止を余儀なくされた。
そして、No.32ヒーローのプッシーキャッツの一人、ラグドールが拉致後に“個性”を使用できなくなったらしい。
これにより、活動の見合わせ。
一夜にしてヒーローは多くを失った。
ニュースは、これからの日本がどうなるのかと、不安を煽るように締めくくられた。
あの戦いの後、僕は警察で事情聴取を受けたり、病院で検査してもらったり、カウンセリングもして、何とか実家に帰ってきた。
そう、実家だ。
雄英の近くに借りたアパートじゃなくて、埼玉にある実家だ。
「うわぁぁぁん!!ハルぅぅぅ!!」
「……ネオン姉さん……痛いよ……」
実家のリビングでのんびりしていると、次女のネオン姉さんが、パック酒片手に、僕にしがみついていた。
「だってぇぇぇぇぇ!!」
……ネオン姉さん、姉さんたちの達の中で唯一、胸がないから痛いんだよね。
肉一つない薄い胸板を押し付けてくるから……痛いんだよね!
「ハルが失礼なこと言ったぁぁぁ!!」
「何も言ってないよ」
シラフじゃクール系美人なのに、いつもパック酒持って酔っ払ってるから本当に残念だ。
ちゃんとしてたら、エネ姉さん*1よりモテそうなのにね。
「今、アタシのことバカにしたか?」
「キッショ……なんで分かるんだよ」
そうだ!あの夜の出来事について、掲示板とか動画サイトが結構騒がしいことになってるんだ!
オールマイト童貞スレとか、AFOが発した与一とはどんな人物なのか考察するスレとかが乱立し、体育祭からあった僕のスレが荒れたりしてたね!
オールマイトを終わらせたとか、敵の子孫がヒーローになるなとか、民度が低いこと低いこと……本当に笑っちゃうよね!
あと、僕が張間歐児の子孫だってバレて、ここにマスゴミが押しかけたらしいしね。
マスゴミがよォ
幸い、プロヒーローのエネ姉さんが家にいたから、追い払えたけど……母さんたち大丈夫かな?
「うえぇぇぇん!怖かったんだよぉ!マスコミいっぱい来てさぁ!」
「アタシがいるから大丈夫だ……また来たら追っ払ってやる!」
「エネちゃんありがとねぇ!」
今のネオン姉さんは、泣き上戸みたいだ。
いつも酒を飲んでいるから心配だよ……本人は不安を誤魔化すためって言ってるけど……限度があるよね。
……いい加減離れてほしいな。
酒臭いし、硬くし、痛いし……あとちょっと鬱陶しい。
せめて、胸を顔から離してくれないかな?
むにゅっじゃなくて無乳って感じだから痛いんだよね!
「ハルが辛辣だよぉ!!」
「いつもと変わらないでしょ?」
数日前のドタバタが嘘みたいに、いつもの張理有家の光景が広がっている。
「あ?いたんだ」
「ネネ姉さんおはよう」
「……ふん、アンタが捕まったから家が騒がしくなったわ……面倒かけないでよね」
「ごめんね」
僕とエネ姉さんとネオン姉さんの三人で、リビングでのんびりしていると、長女のネネ姉さんが降りてきた。
相変わらず、僕にキツい言い方するネネ姉さんだけど……あの人は二人以上のブラコンだったりする。
ネオン姉さんは、デレデレと甘えるタイプのブラコン。
エネ姉さんは、カラッとしている姉御的なブラコン。
そして、ネネ姉さんはツンデレで、ドがつくタイプのブラコンだ。
なんで知ってるかって?
ネネ姉さんの部屋に、僕だけのアルバムがあったり、僕とお揃いのピアスをつけていたり、夜な夜な僕に対するキツい言い方を後悔して泣いているところを、見てるからね。
多分、今日の夜も一人反省会して泣くだろうね。
ちなみに、僕の耳にピアスを開けたのは、ネネ姉さんだ。
……良い子の皆は、ちゃんとお医者さんに開けてもらおうね!
さて、そんな感じで姉弟全員がリビングに揃ったわけだけど……
「姉さん達、着替えとかメイクとかしなくていいの?」
「は?アンタに関係ないでしょ」
「アタシは休みだし、外にも出ないからいいよ」
「うぅ……今日は皆しかいないし私もいいや……」
「今日、僕の担任が家庭訪問に来るんだけど?」
僕の言葉に、リビングが静かになる。
数秒後。
「それを先に言いなさいよ!」
「ホウ・レン・ソウ習ってねぇのか!!」
「二人は大変だね」
「「アンタもやるんだよ!!」」
「うわぁー!!」
……嵐が去った。
まぁ……あんな姉さん達だけど、僕の大切な家族だ。
え?なんでトラウマになってんのかって?
それはね……姉さん達が高校生の時、小学生の僕をパシリにして、散々こき使われたからね!
さてと、僕もそろそろ準備しようかな。
「えっと……ハルくんのお母様でしょうか?」
「ハルの父です」
「失礼いたしました」
「いえ、こんな見た目ですからよく間違えられるので、気にしてませんよ」
数十分後、相澤先生と包帯を巻いたオールマイトが家庭訪問に来た。
相澤先生が、父さんを母さんと間違えて、驚いてる……写真撮ったら怒られるかな?
まぁ……間違えてもしょうがないよね。
だって僕の父さん、美人系男の娘……男姉さんって感じだもんね!
とりあえず、先生達をリビングに通して、座ってもらう。
僕らも、向かいのソファーに座る。
「……貴方はハルくんのお兄さんでしょうか?」
「ハルの母です」
「……すみません」
「いえ、気にしないでください。好きでこんな格好をしてますから」
今度はオールマイトが母さんを、僕の兄と間違えたみたいだ。
まぁ……母さん、昔からメロい系美人だったんだけど、長い髪をバッサリ切ったからか……僕と似た雰囲気になったんだよね!
それに、ユニセックスな服を好んで着てるから、服装で性別が判断できなくなって、並んで歩くと兄弟に間違われるようになったよね!
天丼しつつも、三者面談は始まっていく。
「私は反対です」