張理有エネ……エネルギーヒーロー“エナジークィーン”
去年デビューしたばかりの、新人ヒーローにも関わらず、今回の仮免試験で敵役として、受験生の壁として立ち塞がる。
新人ではあるが、“個性”を用いた近接戦闘はあのミルコに匹敵する実力の持ち主。
それが僕の姉……張理有エネだ。
「……本気で彼氏作るつもりあんの?」
「あ"ぁ"」
救護所近くから、エネ姉さんに吹っ飛ばされて、市街地エリアを転がる。
僕は、エネ姉さんが他のところに行かないように、あえて挑発して一対一に持ち込む。
正直、勝率は5割無いくらい……でもそれは、真っ向から勝負した場合だ。
「はッ!そんな怖い顔してると、男が怖がって逃げちゃうよ?」
「〇す!!」
「ッ!?」
エネ姉さんの姿がブレる。
僕は、直感で顔を逸らして蹴りを回避する。
続けて拳による攻撃も、これまでの
僕が殴り合いの喧嘩を、一番したのはエネ姉さんだ。
怒りで冷静さを失ったエネ姉さんなら、癖を知っていれば何とか対応出来る。
「はぁッ!」
「ッ!?……よッ!ほッ!とうッ!!」
エネ姉さんの攻撃を、受け流して体勢を崩させる。
体勢が崩れた、エネ姉さんから距離を取ってストレスを与え続ける。
深追いする必要は無い……このまま試験終了まで、救助が済んだエリアにエネ姉さんを留めておけばいい。
冷静じゃないエネ姉さんの攻撃は単調だから、対応出来る……万が一の時はバリアで防御もできる。
「それに……距離さえ取れれば!」
《バリアブルスマッシュ・改》
「ッ!」
隙ができるから、エネ姉さんみたいな俊敏な人には使えないけど、今みたいに充分な距離さえ取れれば、安全に撃てる。
エネ姉さんは、アクロバティックに衝撃を回避すると、大きく息を吸った。
「……すぅー……はぁ……」
「……ッ!」
エネ姉さんが深呼吸をした。
……冷静さを取り戻そうとしているんだ。
「させないよ!」
「遅せぇよ」
「……ぐッ!」
冷静になったエネ姉さんの相手は、正直したくないからまたストレスを与えようと接近するけど、姉さんは僕を殴り怒りを抑えた。
「アタシとしたことが……弟の可愛い軽口にマジになってたな」
「……そのままでいいのに」
「そんなこと言うなよ……じゃあ行くぞ!」
さっきよりも、速くなったエネ姉さんが接近する。
蹴りを何とか回避するけど、次の拳に対応出来ない。
「んぐッ!?……ガハッ!」
加速したエネ姉さんの拳は、僕がバリアが展開されるよりも、速く僕の鳩尾を正確に打ち抜く。
地面を転がり、重い一撃に吐きそうになる。
……あれ?気持ち良くならない?
「どうした?今までならすぐに起き上がってたろ?」
「……メ、スゴリ……ラが……よォ!」
痛む体を気合いで起こして、エネ姉さんを怒らせるように挑発する。
「……残念だけど……その程度じゃ怒らねぇよ!」
「ぐッ!……おごッ!?」
エネ姉さんの“個性”は“エネルギーストック”
体力を消費して、エネルギーを生成し保管できる“個性”だ。
生成したエネルギーは、自身の身体能力や再生力等の強化に使うことができる。
シンプルな“個性”だからこそ、エネ姉さんは鍛え上げた。
ミルコに継ぐ、近接戦闘の実力は本物だ。
「はぁ……はぁ……」
「大丈夫か?いつもなら喜んでたのによ」
「さぁね……教えてあげないよ」
「……そうか、それじゃあ終わらせてやるよ」
“個性”を使い、急接近するエネ姉さん。
僕は、奥の手を使う。
「フッ……」
「あ?」
《バリアギフト》
僕は懐に忍ばせていたビー玉を、エネ姉さんに向かって投げる。
ビー玉の中は、二次試験で救助の際に圧縮していた瓦礫だ。
僕のフィンガースナップに合わせて、圧縮が解除されて瓦礫がエネ姉さんを襲う。
「お前!?それ!」
「母さんには内緒だよ」
僕の“個性”が“圧縮”だったことは、家族には伝えてない。
母さんと父さんは僕の本当の“個性”を知ってるけど、僕がそれを知ってることは知らないはずだ……相澤先生にも秘密にしておいて欲しいとお願いしたからね。
エネ姉さんは、僕の“
「こんなもん!」
エネ姉さんは、瓦礫を殴り壊していく。
やっと隙ができたね。
「イリュージョン……なんてね♪」
圧縮していたセメント弾を、エネ姉さんにぶつける。
瓦礫の対処をしていたエネ姉さんは、反応が遅れてセメント弾に当たり、地面に固定される。
「試験が終わったら……出してあげるね」
動けないエネ姉さんに触れて、ビー玉サイズに圧縮する。
痛む体に鞭を打って、ギャングオルカと戦っている緑谷くん達の元へ向かう。
ビィーーーーー!!!
会場にサイレンが響き、アナウンスが流れる。
『えー只今をもちまして、配置された全てのHCUが危険区域より救助されました。まことに勝手ではございますが、これにて仮免試験全工程……終了となります!!!』
『集計の後、この場で合否の発表を行います。怪我をされた方は医務室へ……他の方々は着替えてしばし待機でお願いします』
アナウンスが終わると、僕はその場に座り込む。
長かった二次試験が終わる。
僕はエネ姉さんを解放して、コンクリートをバリアを纏った拳で壊す。
「エネ姉さん大丈夫?」
「あの程度で怪我するかよ」
「なら良かった」
「……いつか皆にちゃんと話せよ」
コンクリから開放されたエネ姉さんは、肩や首を回していたけど、僕の方に振り返ると本当の“個性”について、ちゃんと説明しろと言われる。
「……うん。時間はかかるかもだけど……ちゃんと言うよ」
「ならいい……ほら、アナウンスに言われたろさっさと着替えに行け」
「じゃあね」
僕の返事に満足したのか、エネ姉さんはそれ以上何も言わず、アナウンスに従えと言うとギャングオルカ達と合流しに向かった。
「……エネ姉さん!」
「ん?」
「ありがとう!」
「……おう」
試験とはいえ、お世話になったエネ姉さんにお礼を言うと、僕はアナウンスの指示通りコスチュームを着替えにロッカールームに向かう。
ヒーロー仮免許取得試験……終了。