「待ってって!本当に戦わなきゃいけないの!? 間違ってるわけないじゃないか!君の憧れが間違ってるなんて誰も……!!」
BOOM
「待ってってば……」
「逃げんな!!!戦え!!!」
やぁみんな、僕は張理有ハル。
今、緑谷くんと爆豪くんが喧嘩してるから、邪魔しないように少し離れたところで見守っているんだ。
……え?止めないのかって?
止めたいよ。絶対……相澤先生に怒られるから、止めないといけないんだけどね。
……爆豪くんの、溜まり溜まったフラストレーションを、発散させないと、後々面倒なことになりそうだったから、一緒に怒られることにしたんだ。
「……」
「はぁ……はぁ……張理有少年!」
「……オールマイト……来ると思いました」
バリア内で争ってる二人を、邪魔しないように見守っていると、オールマイトが来た。
「二人は……」
「今、喧嘩中です……すみません、どうしても止めたくなかったんです……だから、オールマイト最後までやらせてあげてください!」
「……張理有少年、顔を上げてくれ……君が謝ることじゃない……」
「……はい」
「すまないね、君にこんな役回りをさせてしまって……」
「構いませんよ……それより、緑谷くんの“個性”……オールマイトが渡したって本当ですか?」
「……緑谷くんから聞いたのかい……?」
「いえ、爆豪くんが自力で導き出したのを聞いただけです……」
「そうか……」
オールマイトは何も言わない。
僕も今、答えを聞くつもりはないから、オールマイトに対して問い詰めるようなことはしない。
「……二人の喧嘩ここからじゃ見にくいでしょ?……こっちに来てください、二人の喧嘩ちゃんと見届けましょう」
「……」
沈黙を破るように、僕はオールマイトに聞く。
オールマイトの沈黙を肯定と受け取り、僕はバリアの一部を解除して中に入る。
ドーム状のバリア内に入ると、緑谷くんの蹴りが腕に当たり、爆破を逸らされた反動で、爆豪くんは体勢を崩していた。
「だ……丈夫……」
「俺の心配すんじゃねえ!!」
緑谷くんの差し伸べた手を跳ね除け、爆豪くんは叫ぶ。
「戦えよ!!何なんだよ!何で!!」
「何で!!ずっと後ろにいた奴の、背中を追うようになっちまった!!」
「クソザコのてめェが、力をつけて……!オールマイトに認められて……強くなってんのに!なのに何で俺はっ」
「俺は……オールマイトを終わらせちまってんだ」
爆豪くんの悲痛な叫びに、緑谷くんの顔が曇る。
少し離れた場所で見ている僕たちも、爆豪くんの叫びに胸がチクリと痛む。
「俺が強くて敵に捕まらなきゃ……変態野郎が攫われることもなかった!!自分のケツ拭く為に神野に行ったのに……なンも出来なかった!!」
「オールマイトが秘密にしようとしてた……誰にも言えなかった!考えねぇようにしてても……フとした瞬間、湧いて来やがる!」
「どうすりゃいいか!わかんねんだよ!!」
爆豪くんは、ずっと悩んでたんだ。
緑谷くんもそれを知って、覚悟を決めた。
再度、爆破で接近する爆豪くんの顔面に、緑谷くんはフルカウルで強化された蹴りを放つ。
「……丁度いい……シュートスタイルが君に通用するかどうか……」
「やるなら……全力だ」
緑谷くんは構えを取り、爆豪くんに向き合う。
殴る、蹴る、爆破……緑谷くんと爆豪くんの喧嘩は、苛烈を極めていた。
今まで、言えなかったモヤモヤをぶつけるように全力でぶつかっていく。
この喧嘩を見て、僕も二人のこれまでの因縁の深さを少しだけ理解する。
「当たり前だけど……強くなってる……」
「何、笑ってんだ!?どうせまた何か、企んでんな!」
《
「そういうのが気色悪かったんだ!!」
「何考えてるか分からねえ!どんだけぶっ叩いても、張りついて来やがって!何もねぇ野郎だったくせに!俯瞰したような目で!!見てきやがって!」
BOOOM!!
BOOOM!!
BOOOM!!
「まるで全部、見下ろしてるような……本気で俺を追い抜いて行くつもりのその態度が、目障りなんだよ!!!」
爆豪くんの叫びに、緑谷くんはハッとする。
今でろくな会話がなかったんだろう、だから……爆豪くんの本音を聞いて、緑谷くんはなにかに気づいたんだろう。
「そんな風に思ってたのか……そりゃ普通は……バカにされ続けたら、関わりたくなくなると思うよ……」
「でも……今、言ってたように何もなかったからこそ……」
「嫌なところと同じくらい、君の凄さが鮮烈だったんだよ」
……緑谷くん……そんなこと思ってたんだ。
正直、僕は緑谷くんの言った言葉を理解できない……それは、爆豪くんも同じで怖かったんだろうね。
「僕にはないものを、沢山持ってた君は……オールマイトより身近な“凄い人”だったんだ!!」
緑谷くんの体が、さっきより速く動いた。
多分、感情の昂りで“個性”のコントロールがブレたんだと思う。
爆豪くんは、いきなり速度が変わったことで対応が遅れる。
「だから……ずっと……」
「君を追いかけていたんだ!」
蹴りが炸裂する。
爆豪くんは咄嗟に腕で防御した。
……笑ってる。
ほんの一瞬だけ、爆豪くんが笑っているような気がした。
「あああああ!!!」
BOOM
「んぬううううう!!こんなもんかよ!!」
「はああああ!!?」
ギアが上がった緑谷くんは、連続で蹴りを放とうとするけど、爆豪くんの爆破に阻まれる。
それでも果敢に攻める緑谷くんに、爆豪くんは叫ぶ。
緑谷くんと爆豪くんは飛んで、空中で激突する。
その時、緑谷くんの腕が動いた。
「腕が使えないとは言ってない!」
緑谷くんが、爆豪くんの顔面を殴る。
「敗けるかああああ」
爆豪くんは止まらなかった。
緑谷くんの袖を掴んで、爆破をくらわせた。
落下する二人。
最後は、爆豪くんが緑谷くんの背を地面につけて、顔面に掌を突きつける。
「ハァ……ハッ」
「ガハッ……ゲホッ」
「ハァ……ゴホッ……ハァ」
「俺の勝ちだ」
二人の喧嘩は、爆豪くんの勝利で終わった。
僕はオールマイトと共に二人に近づく。
「そこまでにしよう二人共」
「「ッ!?」」
「悪いが……聞かせてもらったよ」
「オール……」
「マイト……」
「気づいてやれなくて、ごめん」
オールマイトは、爆豪くんに軽く頭を下げる。
「…………今……更」
「……何でデクだ。ヘドロんの時から何だろ……?何でこいつだった」
「非力で……誰よりもヒーローだった。君は強い男だと思った、既に土俵に立つ君じゃなく彼を土俵に立たせるべきだと判断した」
「俺だって弱ェよ……あんたみてえな強ェ奴になろうって思ってきたのに!弱ェから……!!あんたをそんな姿に!!」
「
「君は強い……ただね、その強さに私がかまけた……抱え込ませてしまった……すまない、君も少年なのに」
爆豪くんは、オールマイトを問い詰めた。
オールマイトは爆豪くんの頭を抱え、謝意を伝えた。
「……長い事ヒーローをやってきて思うんだよ。爆豪少年のように勝利に拘るのも、緑谷少年のように困ってる人間を助けたいと思うのも……どっちが欠けていても、ヒーローとして自分の正義を貫くことは出来ないと」
「緑谷少年が爆豪少年に憧れたように、爆豪少年が緑谷少年の心を畏れたように……気持ちをさらけ出した今ならもう……わかってるんじゃないかな」
「互いに認め合い、まっとうに高め合うことができれば……“救けて勝つ、勝って救ける”最高のヒーローになれるんだ」
「そして……張理有少年……二人を見届けてくれてありがとう」
オールマイトは視線を移し、僕を見る。
「いえ、僕は何もしてませんよ……ただそこにいただけです」
「……誰かのそばにいてあげる……それも新しいヒーローの形かもしれないね……私は君のその優しさを肯定するよ」
「……ありがとうございます」
爆豪くんは、地べたに座りこむ。
「そんなん……聞きてぇワケじゃねンだよ」
「おまえ……一番強ぇ人にレール敷いてもらって……敗けんなよ」
「……強くなるよ君に勝てるよう」
爆豪くんは、腕に顔を埋めて緑谷くんに言う。
緑谷くんも、強くなると宣言する。
「……デクとあんたの関係知ってんのは?」
「リカバリーガールと校長……生徒では君たち二人だけだ」
「バレたくねェんだろ……オールマイト」
「あんたが隠そうとしてたから、どいつにも言ってねぇよ……そこの変態野郎はコソコソと嗅ぎつけて来やがったがな」
「……ごめんちゃい」
「ケッ……とにかく、ここだけの秘密だ」
「試験を終えたその晩にケンカとは元気があって大変よろしい」
僕たちは、相澤先生の捕縛布でギッチギチに縛られてます。
……緊縛プレイはやったことあるけど*1あれは愛があったから、痛くなかったんだね。
相澤先生……めっちゃくちゃ痛いです。
あの後、オールマイトから“個性”……“ワン・フォー・オール”の説明と巨悪AFOについて聞いた。
なぜ、後継が必要だったのかも……。
そして話が終わると、オールマイトに連れられて相澤先生の前に来た。
結果、めちゃくちゃ縛られてます。
「相澤先生くん待って!捕縛布待って!……原因は私にあるんだよ」
「はい?」
オールマイトが相澤先生に何か耳打ちしている。
「爆豪少年は私の引退に負い目を感じていたんだ……そのモヤモヤを抱えたまま試験に臨ませ……結果、彼の劣等感が爆発した。気付けず、メンタルケアを怠った……大人の失敗が招いたケンカだったんだ」
「……んん」
オールマイトの言葉に、少し考える相澤先生。
少しすると、口を開いた。
「……だから、ルールを犯しても仕方ない……で済ますことは出来ません。然るべき処罰は下します……先に手ェ出したのは?」
「俺」
「僕もけっこう……ガンガンと……」
「僕は二人が寮を出たので呼び戻そうかなって……でも、二人の話聞いて見届けることにしました」
僕らの話を聞き、相澤先生は最終的な処罰を言い渡す。
「爆豪は四日間!!緑谷は三日間!!張理有は二日間の寮内謹慎!!その間の寮内共有スペース清掃を朝と晩!!さらに反省文の提出!!」
「せ、先生!ハルくんは見てただけで……なにも!」
「緑谷くんいいんだよ……二人の邪魔しないように“個性”使って、発見を遅らせたわけだし」
「だそうだ……当然、文句はないな」
「もちろん……甘んじて受け入れますよ」
一緒に怒られるって決めたからね。
当然、こうなることも予想できていたよ。
それに、僕初めて謹慎処分受けたよ!なかなかできるもんじゃないから、ちょっとだけワクワクしてるね!
あ、ちゃんと反省はしてるから変な勘違いはしないでよね!
「怪我については、痛みが増したりひかないようなら保健室へ行け!ただしよほどの事でなければ婆さんの“個性”は頼るな!勝手な傷は勝手に治せ!!以上!寝ろ!」
やっと捕縛布から開放された。
僕は寮に戻り、緑谷くんと爆豪くんに救急箱を貸してすぐに就寝した。
「ケンカして」
「謹慎~~~!?」
翌朝、A組の皆は驚いていた。
僕は黙々と、掃除機をかけている。
「馬鹿じゃん」
「ナンセンス!」
「馬鹿かよ!」
「骨頂」
「ぐぬぬ……」
皆、緑谷くんと爆豪くんに好き勝手言ってる。
多分、皆なりの気遣いかもね……ほら、みんな優しいからさ。
「……ハルは何したんだよ」
「ん?二人のケンカを止めなかったから」
「……おめェならそうするわな……」
峰田くんや、瀬呂くんがこっちに来て、僕にも話を聞いてくる。
「青春だもん……止める方が無粋じゃない?」
「それで謹慎になってたら世話ねぇな」
「そうだね……とりあえず、共同スペースはピッカピカにしとくから楽しみにしといて」
「おう!」
僕らは皆を見送り、掃除を続ける。
丁度いい機会だから、めちゃくちゃ綺麗にして、皆が汚すのを躊躇うくらいにしてやろっと。
僕ってば料理もそうだけど、凝り性なとこあるからさ。この状況も楽しまなきゃ……そうと決まれば二人にも手伝ってもらう、二人が僕を巻き込んだ責任を感じてるなら、嫌とは言わないだろうしね!
こうして、僕の二学期は謹慎から始まった。