そのキバで僕を噛んでくれ!   作:松田ゐふ

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僕たちが来た!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……起きろ

 

 声が聞こえる。

 

……起きろ

 

 ……僕は死んだのか?

 

……起きろ

 

 ……ダメだ……頭がぼーっとして……分からないや。

 

……起きろ

 

 ……うるさいなぁ……君の声……あんまり聞きたくないんだ……。

 

 

 

 

 

「起きろ!!」

 

「ッ!!?」

 

 突然の大声に驚き目を覚ました。

 僕はなにかに背負われているみたいだ。

 

「目覚めたか……ハル!」

 

「……さ、いは……ら?」

 

「あぁ……そうだ!」

 

「なん……で、ここに……?」

 

「ここにいるヤクザ共が、幼気な少女に乱暴していると聞いてな……“解放の園”の一員として無視はできないだろう」

 

「……他の……奴ら、は……?」

 

「マスター達は来ていない……今回は俺の独断だ」

 

「そっか……」

 

「……かなり無茶をしたようだな……俺からは何も言わん、後でリューキュウやイレイザーヘッド、頼りになる大人からしっかりと怒られろ」

 

「うん……」

 

 犀原は僕を背負いながら地下通路を走る。

 入中の“個性”で操っていた地下のコンクリは、いつの間にか止まっていて、僕らはスムーズにエリちゃんの元に向かうことができる。

 

「……犀原……あの部屋、にいた……脳無は……?」

 

「……一匹残らず俺が殺した」

 

「ッ!?……すま、ない……僕がもっと……ちゃんとしてれ、ば……犀原が手を…………汚す必要はな、かった……のに」

 

「気にするな……憐れな存在を眠らせたにすぎん……お前が気にすることでは無い」

 

「でも……ッ!」

 

「今、そんな事を考える時間か?……違うだろう!」

 

「…………そう、だよね……早く……エリちゃ、んを……救けないと……」

 

「そうだな……“個性”は使えるか?」

 

「な、んとかね…………でも、壁の向こう側とか……は、索敵できない……よ……」

 

「ならば……最短距離で最も戦闘が激しいところに向かう!!しっかり掴まっておけ!」

 

 犀原はそう言うと、“個性”を使い全身を分厚い皮膚で覆い一回りほど大きくなる。

 僕は振り落とされないように右腕に力を入れ、犀原にしがみついた。

 

「行くぞ!!」

 

犀角(サイホーン)

 

 犀原は勢いよく壁に向かって突進し、コンクリをぶち壊した。

 暴走列車の如く、犀原はコンクリの壁を破壊しながら、この地下空間で最も戦闘が激しい方へ向かった。

 


 

「犀原……そこを右……!」

 

「む?」

 

「……今、索敵に緑谷くんと……イレイザーヘッド……サー・ナイトアイが引っかかった……」

 

「わかった!」

 

 犀原に背負われながら地下空間を強引に進んでいると、オーラが緑谷くん達の居場所を知らせる。

 その先に、小さな子供と通形先輩がいることがわかった。

 

 犀原に居場所を案内していると、急に壁がいきなり閉じて、緑谷くん達の居場所が分からなくなった。

 しかし、すぐに壁が壊れて緑谷くん達の状況を把握した。

 

「犀原……!……急いでくれッ!」

 

「任せろ!!」

 

 緑谷くんが壊してくれた壁からオーラを流し、治崎に殺されそうになっていたサー・ナイトアイを救ける。

 

「もう大丈夫……僕たち、が……来た……!」

 

 壊された壁から侵入した僕らは、治崎と対峙する。

 

「ハルくん!大丈夫だっ……た……」

 

「……緑谷くん……気になると思うけど……話はあとだ、今はエリちゃんを救けよう」

 

「……うん」

 

「サー・ナイトアイ……無事ですか?」

 

「あぁ……だが君、その怪我……下がれ、ここにいては足手まといだ」

 

「ナイトアイよ……今しがたハルに救けられたではないか……足手まといはないだろう」

 

「貴様は……犀原!何故ここにいる!」

 

「幼子を救けるためだ……貴様たちと目的は一緒だ」

 

「信用できるか!」

 

「それはこちらの台詞だ!性癖を晒すことも出来ん軟弱者が!」

 

 サー・ナイトアイが深手を負った僕に治崎と戦うなと言う、それに犀原が反応して言い合いになってしまった。

 

「二人とも!……エリちゃんを救けましょう……少なくとも目的は一致してます……!」

 

「ッ!…………仕方ないか」

 

「…………まさか弟子に諭されるとはな」

 

「……緑谷!貴様はそのままルミリオンとエリちゃんを!犀原……裏切るなよ」

 

「裏切るつもりはない……貴様こそ、後ろから刺してくるなよ」

 

「……」

 

「……」

 

「いつまで茶番を続けるつもりだ!!」

 

 治崎が痺れを切らして、地面を棘に変え襲ってきた。

 

「「話の邪魔をするな!!」」

 

 二人の息のあった攻撃で棘は壊され、治崎の顔面に印鑑が突き刺さる。

 

「……ナイトアイ……行くぞ!」

 

「……貴様が仕切るな……!」

 

 二人が治崎の方を向き、戦闘が始まる。

 

 犀原がフィジカルで強引に攻め続け、僕がバリアでサポートし、サー・ナイトアイが的確な一撃を与えていく。

 

「ヤクザよ……一つきかせろ!お前の性癖はなんだ!」

 

 僕のバリアを腕にまとった犀原が、治崎を殴りながらいつものように聞く。

 

「そんな……もの、あるわけが無いだろう!!」

 

「そうか……なら遠慮はいらんな!!」

 

 勢いを増す連打に、治崎は“個性”を使う暇なくボロボロになっていく。

 犀原の攻撃からなんとか“個性”を使おうとしても、サー・ナイトアイが『超質量印』を投擲して腕を潰す。

 先程まで優位に立っていた治崎が為す術なくやられていく。

 

「クソッ……病人共が!俺の邪魔をするなッ!!」

 

「YES!ロリータNO!タッチも知らん異常者相手に容赦するとでも思ったか?」

 

「このゴリラが!!」

 

「俺は犀だ!!」

 

「グハッ!?」

 

 犀原の拳が深々と突き刺さり、数メートル後ろに吹き飛ばされる。

 痛みで震えながらも、起き上がる治崎は僕たちから離れたことで、自身を『分解』してダメージをリセットしようとするが、僕が治崎の腕にバリアを纏わせて事前に防ぐ。

 

「……ッ!?……なんでこうなる……なんでだ!!

 

 治崎が怒りで叫び、冷静さを捨て乱暴に腕を振るいバリアで覆われた腕を地面に叩きつける。

 

「お前……お前だ!!」

 

 治崎は僕を血走った目で睨みつける。

 

「お前がいなければナイトアイは死んでいた!!お前がいなければ犀原はここに来なかった!!お前がいなければ……お前がッ!!」

 

 怒りのまま叫ぶ治崎に変化が現れる。

 腕を覆っていたバリアがボロボロと崩れ始めた。

 

「なッ!?」

 

「む!?」

 

「ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “個性”は“覚醒”する。

 ある程度以上に鍛え上げられた“個性”は、それ以前の限界やルールを逸脱して、その性質を大きく変異させることがある。

 

 昔、僕の“個性”について調べていたと思う母さんが、読んでいた論文が頭をよぎった。

 

 “覚醒”のきっかけは様々だ。

 臨死体験、極限状態での戦闘、精神的な成長、擦り傷を負った等の些細な出来事……治崎にとってそれは今だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ははッ……これでそっちの優位性は崩れたな……!!」

 

 突然の“覚醒”によってハイになった治崎は、焦点の合わない目でこちらを見ると、バリアを棘に変え僕らに向かって放った。

 

《バリアブルスマッシュ》

 

 僕は犀原の背中から飛び出すと、棘に向かって拳を放った。

 棘と腕に纏ったバリアがぶつかり合い砕け散った、解放されたオーラによって僕らは吹き飛んだ。

 凄まじい衝撃によって地面が砕け、治崎が作り替えた棘が壊れていく。

 僕らは地面を転がりながら壁に激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ……!」

 

「これほど……とは、な……」

 

「……ッ!」

 

 衝撃に吹き飛ばされた僕らは、あまりの威力に地面にうずくまる。

 

「悲しいな……お前らは怪我を負うのに俺はピンピンしてるぞ?」

 

 治崎も衝撃によって吹き飛ばされていたのに、“個性”を使ってダメージをリセットしてしまう。

 

『お前のせいでまた人が死ぬぞ!これが望みなのか……壊理!!』

 

 僕らが動けないことをいいことに、治崎は緑谷くん達と一緒にこの部屋から脱出したエリちゃんに“個性”を使って語りかける。

 エリちゃんの心を傷つける言葉に僕は立ち上がり、治崎の前に立つ。

 

「や……めろ……!」

 

「まだ立つのか?」

 

「女の子を泣かせたお前をぶん殴らなきゃ気が済まないんでね!!」

 

 サー・ナイトアイは吹き飛ばされた時に、足に棘が突き刺さりこれ以上戦闘は難しい。

 犀原も肩や背中に棘が刺さり、しばらくは動けないみたいだ。

 なら、僕がやるしかない……オートバリアでダメージがある程度軽減されたことでまだ動ける僕が!

 

「行くぞ……!……治崎ィ……!!」

 

「まずはお前からだ!」

 

「やめて……!」

 

 僕が治崎に近づいた瞬間、後ろから声が聞こえた。

 

「……望んでない」

 

 緑谷くん達と一緒にいたはずのエリちゃんが、部屋に戻ってきた。

 

「エリちゃんッ!!」

 

 遅れて緑谷くんが部屋に戻ってくる。

 部屋の状況を見て顔を青くする。

 

『壊理……コイツらこの状況をなんとかできると思うか?』

 

「……思わない」

 

「ッ!?」

 

『ならお前はどうするべきだ?』

 

「戻る……そのかわり……!!皆を元通りにして……!」

 

 エリちゃんは縋るように治崎に近づいていく。

 

「そうだよな……自分のせいで傷つくより、自分が傷つく方が楽だもんな」

 

《バリアスマッシュ》

 

《セントルイススマッシュ》

 

「邪魔だ」

 

「ッ!?」

 

「ぐッ!?」

 

 エリちゃんを守るために僕らは飛び出した。

 治崎の一振で地面が棘に変わり僕らの攻撃を防いだ。

 

「……これが現実だ。……まだルミリオン一人の方が望みがあった、奴で芽生えかけた淡い期待が砕かれた。気づいてるか?壊理にとって最も残酷な仕打ちをして事に……」

 

「お前らは求められていない」

 

 僕らは悔しさで顔を歪める。

 それでも……それでも……それでも!

 

「そうだとしても……!余計なお世話だとしても……!!君は泣いてるじゃないか!!」

 

「そうだよね……僕らがここで折れちゃダメなんだ!!」

 

「「()()死なせない!君を救ける!!」」

 

 僕らはもう一度立ち上がり叫ぶ。

 治崎は忌々しく僕らを睨みつける。

 

 その時だった。

 

 轟音と共に、リューキュウと八斎會の幹部が落ちてきた。

 

「ドンピシャ!!」

 

「ッ!?」

 

「リューキュウ!?」

 

「次から次へと……!」

 


 

暫し前

 

 

「よしっ!ちょっと出遅れたけど私たちも行くよ!」

 

 私たちリューキュウ事務所の面々は、作戦開始と同時に攻めてきた八斎會の幹部を相手にしていた。

 

「インパクトのわりにあっけなかったわ」

 

「活瓶力也……人に“触れて”“吸息”する事で“活力”を吸い取り、巨大化します。気を失っている内に隔離させて下さい」

 

 拘束された活瓶を警察に引渡し、私たちも八斎會邸に乗り込もうとした時だった。

 

 力が抜けるような感覚に襲われた。

 

「いてっ……」

 

 活瓶がここにいる人たちの活力を奪っている。

 

「気絶させたハズ!」

 

「入中から貰ったブースト薬がやっと効いてきた……呼吸してるだけで……“吸ってるぞ”」

 

「すごく元気が湧いてきた!!」

 


 

約20分後

 

 

「やっと出れたな」

 

「お前がいてくれて良かった!いなくてもいいぜ!」

 

 入中のおっさんを怒らせて、敵も味方も巻き込んで“更に混沌(プルスケイオス)”を起こした俺たちは、“個性”を使って地下空間を移動して、オーバーホールの居場所をつきとめた後、地上に出た。

 

「それにしてもまだヒーロー来てたとはな」

 

 活瓶と戦ってるリューキュウ達を見ながら、次の策をどうするか考える。

 

「こっからどうするかな……俺たちじゃ正面切ってオーバーホールに勝てねえし」

 

「Mr.ならいけるだろ!死んじまうよ!」

 

「いや……流石に無傷じゃすまねぇよ……」

 

 俺はどうやればオーバーホールから“核”の子供を回収するか考えていると、一つ案が浮かんだ。

 

「……トゥワイス……今から俺がやること……誰にも言うなよ」

 

「え?……わかったぜ!言いふらしてやるよ!」

 

「ホント頼むぜ」

 

 俺は仮面と目出し帽を取ると、圧縮で持ってきていた変装道具で姿を変えていく。

 

「あぁ……あぁ……ううん……こんな感じかな?」

 

「Mr.お前、その姿……」

 

「絶対言うなよ」

 

 俺は活瓶と戦ってるリューキュウ達の前に飛び出した。

 

「リューキュウ!」

 

「ハルくん!?」

 

「ッ!?」

 

「応援を呼びに来ました!あっちの十字路の真下にオーバーホールとエリちゃんがいます!プロが戦って足止めしています!加勢を!」

 

「……皆!!指示通りに!」

 

 リューキュウは俺が状況を説明すると、活瓶を雄英の女子生徒と一緒に目的の場所まで運んで、叩き落とした。

 

「わーお……」

 

「女ってやべぇな……!普通だろ!」

 

 穴から地下を見ながら、ヒーローの底力ってやつを感じて俺たちは少し驚いた。

 

「……トゥワイス……ここを離れるぞ」

 

「え!?ガキは!?」

 

「もしかしたらって思ったが……あの状況じゃ無理だな……俺の分身でも送り込んでやろうかと思ったが……多分、ハルにやられる」

 

「……骨折り損かよ!」

 

「仕方ねぇよ……捕まるよかましだ」

 

 さっき俺の分身が消えたから、ハルを道連れにして小型脳無に食われたと思っていたら……生きてやがった。

 それにあの異常者集団のゴリラもいやがる。

 

 ここで参戦しても捕まるのがオチだ。

 なら、アイツらが油断した隙をついて“核”を奪った方がまだチャンスがある。

 

 俺はトゥワイスを連れてここを離れた。

 


 

「リューキュウ!?それに皆!?」

 

「あれ!?ハルく、ん……ッ!?」

 

「その怪我……」

 

「大丈夫だから!!今はエリちゃんを!!」

 

 僕と緑谷くんはエリちゃんに向かって走り出した。

 皆も状況を理解したようで、エリちゃんを保護するために走り出した。

 

「させるか!」

 

 エリちゃんの足下が急に盛り上がり、彼女を高く飛ばした。

 盛り上がった地面には棘が生えており、僕らを傷つける。

 

「お前ェ!!」

 

「治崎!!」

 

 “個性”があるから、エリちゃんがどれだけ傷つけてもいいと考えている治崎に激昂する。

 

「メチャクチャだ……ゴミ共が!」

 

 盛り上がる地面に乗り地上へと向かう治崎は、上空に打ち上げられたエリちゃんを捕まえる。

 

「緑谷くん!僕が踏み台になる!!」

 

「ッ!?……わかった!」

 

《バリアブルブースト》

 

 緑谷くんをバリアに乗せ思いっきり蹴りあげる。

 足に纏ったバリアと緑谷くんが乗っているバリアがぶつかり合い、凄まじい衝撃が生じる。

 

「治崎ィ!待てェ!!」

 

「しつこい」

 

 盛り上がった地面に持ち上げられたのか、治崎の視界にソレが映った。

 

 ミリオ先輩のマントだ。

 

「巻き上げられたのか……気色悪い」

 

 自分を追い詰めたミリオ先輩が、まだ自分を追いかけて来たと思ったのだろう、気色悪いと吐き捨てた。

 

「あれは……」

 

 エリちゃんがミリオ先輩のマントを掴んだ。

 その瞬間、治崎の体に変化が起きた。

 部下と融合していた体が元に戻ったのだ。

 

「もういいのに……死んで欲しくないのに……!」

 

 治崎の腕から抜け出したエリちゃんを緑谷くんが掴んだ。

 

「もう……離さないよ」

 

 緑谷くんはエリちゃんを優しく抱きしめた。

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