そのキバで僕を噛んでくれ!   作:松田ゐふ

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巨大化は負けフラグ!100%でぶっ飛ばせ!!

「もう……離さないよ」

 

緑谷くんが治崎からエリちゃんを奪い返し、優しく抱きしめる。

 

「返せ!!」

 

治崎が緑谷くんからエリちゃんを取り返そうと、地面を槍のようにして突き刺そうと迫る。

 

「緑谷くん!」

 

《バリアブルスマッ!?

 

全身に激痛が走り、バリアが崩れる。

 

空中で身動きが取れない緑谷くんを守るために、《バリアブルスマッシュ》で迫る地面を破壊しようとしたが、不発に終わる。

 

……ガス欠……いや違う……限界が来たんだッ……!

 

左腕を失い、貧血で倒れた。

目が覚めてからすぐに、“個性”で地下空間を索敵して、治崎との戦闘。

我ながら無茶のしすぎである。

多分、林間合宿の時の緑谷くんみたいな状態だったんだろう。

いつ倒れてもおかしくなかったんだ。

むしろ、ここまでもったのがおかしいくらいだ。

 

体から力が抜けていく、踏ん張れまだ治崎は倒れていない、緑谷くんを助けないと……。

 

霞んだ視界の中……緑谷くんが空高くまで飛んだような気がした。

 


 

……やばい!空中じゃ身動きが取れない!

 

治崎の腕から抜け出したエリちゃんを受け止めた僕は、治崎が“個性”で変形させた地面をどうするか必死で考えていた。

 

エリちゃんを抱きしめる腕に力が入った。

 

離さない!もう絶対に離さない!

あんなこともう絶対させない!!

 

 

 

……君は、どういうヒーローになりたい?……

 

 

 

通形先輩にナイトアイ事務所を紹介してもらおうとした時に、聞かれた言葉が頭をよぎった。

 

 

 

誰にも心配させることのないくらい、必ず勝って、必ず助ける。

 

 

 

「ああああ!!」

 

僕はエリちゃんを離さないようにしっかりと抱きしめると、迫ってくる地面に向けて全力で蹴りを放った。

 

 

 

ドッ

 

 

 

凄まじい衝撃とともに浮遊感が僕を襲う。

 

「え」

 

僕は目を開き、目の前の光景に驚いた。

僕らはリューキュウ達が開けた大穴から飛び出し、空を舞っていた。

 

蹴りをしようとして……吹っ飛んだのか……!?

オールマイトのニューハンプシャースマッシュみたく、風圧で空中を高速移動したのか……!?

 

「待て待て待て」

 

かっちゃんと戦った時みたく、コントロールがブレたのか!?

 

じゃあつまり

 

足が!?

 

「折れて……ない!?」

 

僕は自分の足を見て驚いた。

 

……体が……熱い……いや冷たい。

僕は今、100%を出していた……なのに!

骨折してない!どころか……

 

「怪我も治ってる」

 

自分の体に起きた異常を分析していると、エリちゃんは無事かと視線を向ける。

 

「……もしかして……君の……力なの?」

 

角から、エネルギーのようなものが漏れ出ているエリちゃんを見て、僕は優しく語りかける。

 

「!」

 

次の瞬間、体が内側から引っ張られるような感覚に襲われる。

 

「なんだこれ!?……体がッ!?」

 

「力を制御出来ていないんだ」

 

大穴の方から声が聞こえる。

 

「突拍子で発動できたものの……止め方がわからないんだろう……壊理!」

 

地面が揺れる。

大穴がさらに盛り上がり、僕らを突き刺そうと迫ってくる。

僕はフルカウルでエリちゃんを抱きかかえると、それを回避していく。

 

「人間を巻き戻すそれが壊理だ」

 

治崎が音本と融合したように、今度は活瓶と融合し巨大な体を手に入れて僕らの前に姿を現した。

 

「使いようによっては、人を猿にまで戻すことだって可能だ。そのまま抱えていては消滅するぞ」

 

「触れる者全てが、『無』へと巻き戻される。呪われてるんだよそいつの“個性”は……俺に渡せ、分解するしか止める術はない!」

 

巨大化した治崎がエリちゃんを渡せと迫ってくる。

 

「絶対やだ」

 

僕はエリちゃんをおぶると、通形先輩のマントを体に巻いて、落とさないように固く結んだ。

 

「足が折れた瞬間に……痛みよりも早く……折れる前に“戻して”くれたんだね……とっても優しい“個性”じゃないか」

 

僕はフルカウルの出力を上げていく。

 

「体感した感じで……わかった……!体が()()続ける……スピード……!!」

 

「じゃあ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

OFA(ワン・フォー・オール)フルカウル100%》

 

「エリちゃん……力を貸してくれるかい」

 

僕は治崎に向かって一気に飛び出した。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれは?」

 

目の前の真っ白な扉が見える。

周りを見渡しても目の前の扉以外、何も存在せず黒い空間が続いている。

 

ここにいても、なにか起きるわけでもなく、どうしようもないから、僕はゆっくりとドアノブに手をかけた。

 

ドアノブを捻ろうとしたその時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハル!」

 

「ハルくん!」

 

「ハルちゃん!」

 

目を開くと、リューキュウと麗日さんと梅雨ちゃんが僕の顔を見下ろしていた。

 

体は重くて怠い、頭痛がひどい、失った左手がズキズキと痛む。

コンディションは最悪だけど、リューキュウのギザ歯がこんな近くで見れるなんて……眼福だね。

 

「……ぅ……ここは?どれ……くらい、意識無くなってた……?」

 

「目を覚ましたわ……!ハル、貴方が倒れてからまだ数分も経ってないの」

 

「エリちゃんは……?」

 

「それは……」

 

「緑谷と一緒に治崎と戦っている」

 

「ちょっと!」

 

「事実であろう」

 

リューキュウが言葉を濁した瞬間、僕の頭の上から犀原の声が聞こえた。

 

「そっか……まだ戦ってるんだ…………って犀原!?」

 

僕は状況を理解すると同時に、犀原の胸筋に頭を乗せていることに気づき飛び起きた。

 

あれだけ激しい戦闘してたのに……いい匂いしてて鳥肌が立ったよ。……無駄に寝心地良かったのもなんか嫌だ。

 

「……そうじゃなくて……犀原、僕と地上に来てくれ……緑谷くんを援護する」

 

「わかった」

 

「待ちなさい!ハル、その状態でまだ動くつもり!?」

 

「……はい……まだエリちゃんは保護できてませんから」

 

「ダメよ!……これ以上、戦闘を続けたら……あなたは死ぬかもしれないのよ!」

 

「……僕は人を殺しました」

 

コンプレスとの戦いで、僕のせいで殺されたヤクザが頭に思い浮かぶ。

直接手を下したのはコンプレスだ……でも、僕がもっと上手くやれば殺されなかった。

 

「……だから、まだ手が届く人は……救けないと」

 

「ッ!?……ハル」

 

「……わかった」

 

「犀原!あなたッ!!」

 

「ハルは覚悟を決めている、それに……死ぬつもりはないのだろ」

 

「あぁ」

 

「……信じるぞ」

 

リューキュウは僕を止めようとするが、犀原がそれを止める。

犀原は僕の覚悟を知ると、それ以上何も言わず僕を背負い地上に繋がる穴に向かって運んでくれた。

 

上を見ると、エリちゃんを背負った緑谷くんが、部下と融合したのか巨大化した治崎と戦っていた。

 

治崎は僕たちとの戦闘で“個性”を“覚醒”させた……時間をかければ手がつけられないほどヤバくなるかも……。

 

「犀原!僕を支えてくれ!」

 

「何をするつもりだ?」

 

「ここから治崎をぶん殴る」

 

「……わかった!」

 

“個性”を使い一回り大きくなった犀原に背中を支えてもらい、僕は腕にバリアを纏った。

 

緑谷くんは、地上で戦った時の被害を考えて空中で戦っている。

今のところ治崎の“個性”は僕のバリアにしか適応できていないけど、このまま追い詰められれば空気も“個性”の対象になるかもしれない。

だから……その前に倒す。

 

「バリア……ブルッ」

 

“個性”を使おうとすると体が悲鳴を上げ、バリアがボロボロと崩れていく。

 

「……動け……動いてくれッ!」

 

もう一度、バリアを腕に纏わせる。

上空にいる治崎に狙いを定めて、空中にバリアを展開する。

 

「まだ……まだだ!」

 

一枚目のバリアよりも、一回り大きいバリアを展開する。

体がもうやめろと訴えかけてくる。

 

「それでも……ッ!!僕はッ!!」

 

二枚目よりも一回り大きいバリアを展開する。

 

等間隔でバリアを展開していき、治崎が射線に重なる瞬間を待つ。

 

 

 

「どいつもこいつも大局を見ようとしない!!」

 

「俺が崩すのはこの“世界”!!その構造そのものだ!!」

 

「目の前の小さな正義だけの……感情論だけのヒーロー気取りが……」

 

「俺の邪魔をするな!!」

 

今だ!

 

《Plus・Ultra バリアブルスマッシュ》!!!

 

目の前のバリアを思い切りぶん殴り、オーラを上空に解放する。等間隔に展開した五つのバリアが勢いよく放出されたオーラによって砕かれその威力を上昇させていく。

 

「壊理を返せェ!!」

 

緑谷くんの速度に追いつき始めた治崎が手を伸ばすその瞬間、凄まじい衝撃が治崎を襲う。

 

「ッ!!?……な、んだ!?」

 

 

 

「……緑谷くん!今だ!」

 

 

 

「目の前の……小さな女の子一人救えないで!!」

 

「皆を救けるヒーローになれるかよ!!!」

 

 

 

緑谷くんの拳が、治崎に突き刺さる。

……治崎は倒れた。

落下する治崎が地上に被害を与えないように、緑谷くんは大穴付近に叩きつけた。

 

「……ナイスファイト、二人ともお疲れ様」

 

ドクン……ドクン

 

「ハルくん……助けてくれてありがとう」

 

ドクン……

 

「いいってことさ」

 

僕は、緑谷くんに近づき拳を突き出す。

緑谷くんも僕の意図に気づいて拳を合わせてくれた。

 

良かった……これでめでたしめでたしだ。

 

ドクン…………

 

僕はホッとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界から音が消えた。

 


 

体が支えを失い、ゆっくりと倒れていく。

頭の中で、これまでの思い出が蘇ってくる。

 

……あぁ……これが、走馬灯ってやつかな……?

 

地面に倒れる。

指一本動かせない。

肺に残った空気がゆっくりと外へ出ていく。

多分、今……喋らないともう何も遺せなくなる。

 

顔面蒼白な緑谷くんやサー・ナイトアイを連れて穴から出てきた麗日さん達が近づいてくる。

 

「…………いい……人生……だっ…………た……」

 

さっきまで苦しくて痛くて辛かったけど……もう何も感じない。

僕は最後の力を振り絞って笑顔を作る。

これまでで一番出来がいいやつを……皆が最後に見る僕の顔は、笑顔であって欲しいから……。

 

 

 

AM9:00

 

張理有ハル…………

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