仄かな月明かりが照らす廃校舎の中、4人の生徒たちが集まっていた。
ヒヨリ「つ、ついに始まるんですね…!」
ミサキ「うん」
ヒヨリ「でも、苦しいんですよね…?辛いんですよね…?」
ミサキ「大丈夫、苦しいのは生きてる証拠」
アツコ「………」
ミサキ「…どうでもいいでしょ、裏切り者のことなんて」
そんな3人のやり取りを横目に、ショットガンを装備した少女…『才羽モモイ』はぽつりと呟く。
モモイ「…この感じ…明日は雨になるね」
彼方には黒い雲。微かに感じるじめりとした空気。それが雨の予兆であることは明らかだった。
モモイ「…作戦決行に支障なし。それに、思い知らせてあげないとね。裏切り者の先輩に…この世界の真実を。」
Vanitas Vanitatum, et omnia Vanitas.(全ては虚しい。 どこまで行っても、全てはただ虚しいものだ)
崩れ去る日常
サオリ「んん〜…っ…んんん〜…!」
ミレニアムサイエンススクール。その中にあるゲーム開発部の部室にて、シナリオライターの『錠前サオリ』はPCの画面を前に唸り声を上げていた。
ミドリ「…お姉ちゃん、もう少し静かにできない?」
サオリに対して不満をぶつけるのは『才羽ミドリ』ゲーム開発部のグラフィック担当で、サオリの義理の妹だ。
サオリ「…あぁ…ごめん、ミドリ」
ミドリ「…締切まで近いんだよ?折角ユウカに土下座してまで期限を伸ばしてもらったんだから…」
サオリ「それはそうなんだが…どうにもいいネタがない…」
アリス「アリス知ってます!これはスランプですね!」
ミドリ「スランプというか、いつもの事というか」
サオリ「…辛辣だな…」
部室で行われるいつも通りの会話といつも通りの日々。少なくともこの時の二人は、特に大きな波のない日常を過ごしていた。
サオリ「インスピレーションが、ほしい」
ミドリ「キメ顔で言うことじゃないよそれ」
ミレニアムの休憩室にて、サオリとミドリは他愛もない会話を交えていた。
『─トリニティ総合学園では、ゲヘナ学園との平和条約、通称『エデン条約』の調印式が行われており─』
そんなテレビから流れる音を聞き、2人は昔を思い返す。
サオリとミドリ。二人は姉妹ではあるものの、血の繋がりのない義理の姉妹であることは、ミレニアムの生徒なら誰もが知っていることだ。(そもそも苗字が違う)
しかし、彼女らの生まれやミレニアム学区に来るまでどこで育ってきたのかについて知っている人間というのはほぼいない。
二人があまり語りたがらないというのもあって、彼女らの出自を知っている人は殆どいない。
二人は元々、アリウス自治区と呼ばれる場所の生まれだった。
トリニティ総合学園の設立に深い因縁のあるアリウス分校を中心とした自治区であるが、アリウス自体が歴史の闇に葬られたような形で表舞台から消えたこともあり、その存在を知る人は少ない。
そんな環境な上に、内戦も勃発してのたのだから、子供にとっては生き地獄といっても過言ではなかった。そんな内戦に巻き込まれる形でサオリは友と、ミドリは双子の姉と離れ離れになった。
お互い独りぼっちになった二人は、アリウスには戻れないということもあって姉妹のように支え合って生きていくことを決めた。
放浪を続けミレニアム学区に辿り着き、そこで優しい大人に拾われ、ミレニアムサイエンススクールへ入学することになった。
ミドリはサオリのことを姉と呼び慕っているが、サオリはミドリのことを大切にこそ思えど、自分のことをミドリの姉とは思っていない。ミドリには双子の姉がいる。彼女が今も生きているかはわからないが、そんな彼女を押し退けてまで、ミドリの姉になろうとは思えなかった。
それもあってか当初の関係性は相当ギクシャクとしており、傍目から見るとあまり仲の良くない姉妹といった感じだった。
そんな二人が今のようになったきっかけは、ゲームだった。
ミドリ「お姉ちゃん、これ…一緒にやろ?」
サオリ「…?『テイルズ・サガ・クロニクル』…?」
ミドリが見つけてきたそのゲームを、二人で遊んだ。独特な世界観と風変わりなシステム、そして何よりそのレトロな雰囲気に、二人はハマっていった。
それからゲーム開発部に入部してから色々あった。
ミドリの書いた絵をバカにした古代史研究会を襲撃したこと。廃墟に行ってアリスを見つけ、結果的にセミナーを襲撃したこと。そして、リオ会長に破壊されそうになったアリスをみんなで助けに行ったこと─
今ではこうしてミドリとの距離感も掴めてきた。しかし、サオリの中にはしこりが残っていた。
ミドリの実の姉を差し置いて、私が彼女の姉を名乗る資格はあるのか…。答えの出ないその問いを、サオリはコーラを飲みながら考えていた。
その時─
『ドガァァァァァン!!!!』
響く爆発音。
それが発せられたのは、テレビの向こう側からだった。
思わず顔をテレビの方に向けると、そこには燃え上がるトリニティの大聖堂が映っていた。
そこにいた全員がその映像に釘付けになる。しかしながら、その光景は少なくとも今の段階では、ミレニアムの生徒にとっては対岸の火事だった。
…とある少女を除いて。
一瞬。本当にほんの一瞬。映像の向こう側。炎が上がる古聖堂に向けて、不敵な笑みを浮かべる─
ミドリ「………お姉………ちゃん…?」
─才羽ミドリに瓜二つの顔が、映っていた。